クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

「自律データベース」はサイバーセキュリティ脅威への本質的解決策となるか

Oracle OpenWorld 2017

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年12月21日
定価:本体2000円+税

米オラクル(Oracle)は2017年10月1日(米国現地時間)、RDBMS「Oracle Database」の次期バージョン「Oracle Database 18c」と、新開発のデータベース運用管理自律化・自動化クラウドサービス「Oracle Autonomous Database Cloud」を発表した。最初のリリースとしてOLTPワークロード向けのエディションが2017年内、他は2018年6月以降に提供開始の予定。米サンフランシスコで開催されたOracle OpenWorld 2017の基調講演に登壇した、経営執行役会長兼CTOのラリー・エリソン氏みずからが「自律データベース」の投入背景や優位性を説いた。 text&photo:河原 潤(クラウド&データセンター完全ガイド編集長)

自律・自動化にフォーカスした次期Oracle Database

写真1:Oracle OpenWorld 2017の初日の基調講演に立った米オラクル経営執行役会長兼CTOのラリー・エリソン氏

 Oracle Databaseの現行バージョンは、2013年にリリースされたOracle Database 12cだ。次期バージョン18cの発表にあたり、オラクルは“13~17の番号飛ばし”の理由を説明していないが、全版が出荷される2018年を製品名にしたものと思われる(ちなみに小文字のアルファベットcはcloudのcで、その前はgridのgであると言われている)。

 Oracle Database 18cの最大の特徴は、マシンラーニング(機械学習)を採用したデータベース運用管理の自律・自動化だ。オラクルはこれを、Oracle Autonomous Database Cloudクラウドサービスに実装し、18cを「世界初の自律データベース」(エリソン氏、写真1、表1)として提供する。

 マシンラーニングやディープラーニング(深層学習)、AI(人工知能)を駆使した製品の提供は、今日、多くのITベンダーが注力する取り組みとなっている。人間の思考や作業では不可能なこと、ないしは膨大な時間や手間を要することをテクノロジーに任せる動きは、アナリティクスをはじめ、セキュリティ、ネットワークなどの分野で特に盛んだ。

表1:Oracle Database 18c の価格体系の一部も発表された。この表にあるのはBYOL(Bring Your Own Licensing)型でユーザーが製品ライセンスをPaaSに持ってきて稼働する場合の価格(出典:米オラクル)

 Autonomous Database Cloudは、中核の18c RDBMSに自律・自動化機能を付加するクラウドサービスの形態で提供される。同サービスにより、これまでスキルと経験を持つDBA/DBプロフェッショナルの手に委ねられてきた、データベースのチューニング、パッチ適用、アップデート、メンテナンスといった一連の作業を自動化できるという。オラクルは以下の3つを自動化の内容として挙げている。

  • 自動稼働:機械学習により、アダプティブなパフォーマンスチューニングを継続して実行する。機能アップグレードとセキュリティパッチ適用が、稼働中のデータベースに対して自動実行される。
  • 自動スケーリング:コンピュートとストレージのスケーリング(拡張・縮小)を、ダウンタイムを発生させることなく実行する。これにより、両リソースの使用量が抑制され、手動管理に要する手間やコストを大幅に削減する。
  • 自動修復:エラーなどの自動修復を行い、ダウンタイムを最小化する。99.995%の信頼性・可用性を保証し、コストのかさむ計画停止/計画外停止の発生を年間30分未満に抑えることが可能になる。

自律データベースでダウンタイムを最小化しデータ窃取を防ぐ

 オラクルが自律データベースの開発に至った背景に、被害件数・規模とも増大する一方のサイバーセキュリティ事案への対策がある。データベースのような24時間・365日連続稼働するアプリケーションでは、セキュリティアップデートパッチが発行される度にインスタンスの稼働を止めてパッチを適用しなくてはならないが、「攻撃を仕掛けられたり、データを盗まれたりするのはまさにその時だ」とエリソン氏。そのうえ、昨今のセキュリティパッチの更新頻度から、パッチを当てる作業に相当な人手がかかっている。

 「サイバーワールドを全面的に自動化することが重要だ。パッチ作業やシャットダウン、チューニング。DBAの作業は果てしなく、ダウンタイムの計画・周知にも時間を取られている。しかも、そうした人手作業やダウンタイムがまさにセキュリティリスクとなる。組織がデータ窃取を防ぐために本質的になすべきは自動化である」(エリソン氏)

 オラクルによると、Autonomous Database Cloudが対応する用途・ワークロードは、オンライントランザクション処理(OLTP)、データウェアハウス(DWH)、グラフ分析、部門アプリケーション、ドキュメントストア、IoT、混合ワークロードなどとなっている。冒頭に記したように、最初のサービスはDWHワークロード向けにチューニングされた「Autonomous Data Warehouse Cloud」が2017年12月に提供開始され、2018年6月にはOLTPワークロード向けの「Autonomous OLTP Database Cloud」、エントリー向けの「Autonomous Express Database Cloud」、NoSQL版の「Autonomous NoSQL Database Cloud」が順次提供される予定という。

写真2:Oracle OpenWorld 2017の会場は例年同様、米サンフランシスコのモスコーニ(Moscone)センター

「処理性能とコストの両面で凌駕する」打倒AWSを隠さないエリソン氏

 第1弾となるAutonomous Data Warehouse Cloudは、特定の競合クラウドサービスを明確にターゲットにしている。米AWS(Amazon Web Services)が2013年にリリースしたDHWクラウドサービス「Amazon RedShift」だ。高価格なオンプレミス製品が主流のDHW市場において、オンデマンド型のサービスと価格体系で登場したRedShiftは大きなインパクトを与えた。

 エリソン氏は壇上で、機能や可用性においてRedShiftの欠点を子細にわたって指摘した(写真3)。そのうえで、「Oracle Cloud」とAWSの両IaaS上で、Autonomous Data Warehouse CloudとRedShiftを稼働した場合のベンチマークをデモンストレーションしてみせた。

写真3:「Autonomous Data Warehouse Cloud は、AWSとのコスト比較で半分だ」。エリソン氏はたくさんのスライドを使ってAWS に対するアドバンテージを示した

 写真4のスライドは、金融業のワークロードを同時に走らせたベンチマークテストの結果だ。12のクエリを処理するのにAutonomous Data Warehouse Cloudは23秒かかり、RedShiftは247秒かかった。時間課金は前者が0.03ドル、後者が0.27ドルで9倍の差になっている。

写真4:金融業のワークロードを用いた、Autonomous Data Warehouse Cloud とRedShift の性能・コストのベンチマーク結果(出典:米オラクル)

 エリソン氏は、複数の稼働条件とワークロードで6、7種類のベンチマーク結果を示し、AWSへの対抗意識をむき出しにした。「ご覧いただいたようにパフォーマンスの差は一目瞭然で、コストが圧倒的に安い。しかも、自動化による運用効率性から人件費でも差が付くことになる。だから、本当の差はもっと大きくなる」(エリソン氏)

 もちろん、これは第3者機関が行う正式なベンチマークではなく、オラクル自身が揃えた一定の環境・条件下における比較結果ではある。オラクルはこの一定条件下でのファクトを示しながら、DWHの価格破壊を起こしたRedShiftをはじめ、既存の主要クラウドサービスとの激しい顧客獲得競争に臨む構えだ。

 むき出しの対抗意識が最終的に、ユーザーにメリットを多くもたらすのなら歓迎すべきだろう(オラクルが競合と名指しするAWSは、ある種のユーザー至上主義で支持を集めているベンダーである)。それよりも、エリソン氏がセキュリティひいてはサイバーワールドの本質であると強調した、Oracle 18cでの自律・自動化のアプローチが、12月以降にリリースされる実際の製品・サービスで、どのレベルまで実現できていて、サイバーセキュリティ問題やDBA/DBプロフェッショナルの作業忙殺問題を解消できるのか(写真5)には注目せざるをえない。

写真5:「自律・自動化がDBA/DBプロフェッショナルを煩雑な作業から解放し、設計や分析など戦略的な業務にリソースを振り向けられるようになる」とエリソン氏は強調した