2019年10月18日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年9月30日
定価:本体2000円+税
エクイニクス・ジャパンは、オリンピック関連施設に隣接する江東区の有明地区に、都内で11拠点目となるデータセンター「TY11」を2019年7月22日に開設した。同社の日本のデータセンターとしては最大規模という。これによりエクイニクスの国内IBX(International Business Exchange)データセンターは東京11拠点、大阪2拠点の合計13拠点。グローバルに標準化された設計および運用思想に基づいて、さまざまなサービスが利用可能になる。 text:柏木惠子
エクイニクスが東京で11拠点目のIBXデータセンター
データセンターといえば、「場所と電気とネットワーク」を提供する建物のことだ。しかし、エクイニクスが提供するのは「場所と電気と相互接続(インターコネクション)」と言わなければならない。なぜなら、エクイニクスがいくつかのキャリアと契約してネットワークを引き込み、利用者に提供しているというより、世界各国のネットワーク事業者(全部で950社という)がエクイニクスのデータセンターを利用しており、その事業者同士を相互接続することでさまざまなネットワークサービスを利用できる状態になっているのが、エクイニクスのIBXデータセンターだからだ。その相互接続をするための設備が「ミートミールーム」である。エクイニクスのデータセンターを利用したいという企業の多くが、そのような多様なネットワークサービスと構内配線で接続できることに魅力を感じている。
さらにいえば、ネットワーク事業者が集まっているデータセンターには、ハイパースケーラーと呼ばれるような企業も含めてクラウド事業者が集まってくる。一般の企業にとっては、多様なネットワークと多様なクラウドサービスが入っているデータセンターに入れば、それらを構内配線で利用できる(安くて速い)のがメリットとなる。これがエクイニクスの言うキャリアニュートラルであり、インターコネクションの価値だ。
その価値をさらに拡大するために、エクイニクスは複数のロケーションにあるIBXデータセンターを物理・仮想のネットワークで接続している。つまり、「グローバルに展開されたプラットフォーム」というわけだ。ひとつのプラットフォームであるためには、それぞれが異なる設計や運用ではまずい。このため、エクイニクスのデータセンターは標準化されているのである。
というわけで、新しくできた東京で11拠点目のTY11も、エクイニクス標準の設計・運用思想で作られている。このページでよく紹介するような、突出した特徴のあるデータセンターではなく、「普通の、きちんとしたデータセンター」であることが重要という考え方に基づいているのである。
場所は東京有明の埋め立て地。オリンピック関連施設に近接した場所で、これまでもよくあった既存倉庫の改修である。ただし、これまでの同社データセンターに比べると、サイズ感は大きめで、フェーズ1では950ラック相当、3,700㎡のコロケーションスペース、最終的には3,500ラック以上、約14,300㎡になるという。
エクイニクス標準に準拠 データホールの概要
倉庫としての躯体は鉄筋コンクリート耐震構造で、内部を5フロアに分割している。既存建物を改修する場合は階高の高い物件を選んでいるとのことで、データホールと呼ぶマシンルームの階高は5.7m、フリーアクセス80cmを確保している。廊下も広めな印象だ。
1階は受付(写真1)、ラウンジ(写真2)、会議室(写真3)、フィールドエンジニアのオペレーションルーム、非常用発電機、消火用窒素ガスボンベなどのエリアで、2階以上がデータホールと呼ばれるマシンルームのエリア。フェーズ1では、2階と3階をオープンする。各フロア、コロ1/コロ2に区画され、入室管理はカードリーダーと指の静脈認証で行う。これがエクイニクス標準として、今後世界中のデータセンターでも適用される。
ラック貸しというより純粋にスペース貸しのコロケーションがメインのため、内部はミートミールームなどの設備を除けばがらんとした状態で、利用企業がラックやケージを立てて個別にデザインする。照明を点灯する前は、世界的に統一された青色LED照明がついている(写真4)。
ケーブルは、電気・ネットワークともに架上トレーに敷設する。電気とネットワークの色分けなども、グローバルに統一されている。また、UPSは2階に集約され、N+1の冗長構成(写真5)。共通予備方式のため、プライマリーに障害が発生した場合は、スタティックスイッチにより数ミリ秒で予備機に切り替わる。
空調は、日立製作所製の高効率パッケージ空調機で、床下吹き出し、コールドアイルキャッピングを施す。また、空調機やデータホール内各所に温度センサーを配置し、空調最適化の自動制御を行う。PUEは、最終的には1.43になる予定という。
国内データセンターで初採用 非常用発電機はディーゼル
エクイニクス標準のデータセンターを作っているため、他と違うところは少ないが、最も違っているのが非常用発電機だ。国内のデータセンターでは初めて、キャタピラ製のディーゼル発電機を採用した(写真6)。国内のデータセンターではガスタービンの発電機を設置することが多いが、ガスタービンとディーゼルのメリットを簡単にまとめると、以下のような違いがある。
ガスタービンのメリット
- 省スペース
- 騒音や振動が比較的小さい
ディーゼルのメリット
- 本体価格、燃料費ともに安い
国内データセンターでガスタービンが採用されるのは、主に以下のような理由だ。
- 狭い敷地で売り物のスペースを増やすには、バックヤードの設備はできるだけ小さい方がいい
- テナントとしてビルに入る場合などは、規制があってガスタービン以外は置けない
しかし、データセンター以外の工場などでは圧倒的にディーゼル発電機の採用率が高い。流通している数が多いということは、メンテナンスが容易というメリットもあるようだ。エクイニクスの場合も、海外のデータセンターではほとんどがディーゼル発電機だという。
TY11の場合は、比較的広い敷地を確保したことから、国内で初めてディーゼル発電機を採用した。ディーゼル燃料は安価なため、初期投資だけでなくランニングコストも低く抑えることができる。ただし、写真を見て分かる通り、消音器のついたパッケージに納めてあるガスタービン発電機と違ってむき出しのため、「ものすごくウルサイ」とのことだ。とはいえ、毎日稼働させるものではないので、気にしすぎることもないだろう。また、始動がすごく早いのもいい点だという。
TY11におけるインターコネクションの恩恵
エクイニクスの東京のデータセンターの中には、ネットワーク事業者やクラウド事業者が集積している拠点、金融系の事業者が集中している拠点などがある。TY11はMetro ConnectというサービスでTY2とTY4にダイレクト接続されているが、TY2は80以上のネットワークサービスプロバイダーが高密度なネットワークエコシステムを形成し、TY4はハイパースケーラーと呼ばれるクラウド事業者など285以上のクラウドおよびITサービスプロバイダーが入っている。この2カ所は利用者にとってメリットの大きい拠点だが、規模が小さいこともあり、新しく契約するのが難しい状況にあるという。その2カ所にダイレクト接続され、広いスペースが用意できるTY11は、次善の選択肢となってくるだろう。
また、都内の11拠点はすべてネットワークで接続されているため、東京金融取引所(TFX)や東京商品取引所(TOCOM)といった、主要な金融取引所などの、金融取引の中心にアクセスすることができる。もちろん、JPNAP(Japan Network Access Point)、JPIX(日本インターネットエクスチェンジ)、BBIXなど、地域の主要インターネットエクスチェンジへのダイレクトアクセスも提供する。
さらに、グローバルに拠点間を接続するCloud Exchange Fabricというサービスもあり、世界24カ国52都市の1500社以上のユーザー企業と、オンデマンドで安全なインターコネクションが可能。それぞれの接続サービスについては、アップデートを「エクイニクス・ジャパン インターコネクション・フォーラム 2019」のレポート記事で紹介する。
都心部における環境配慮をさらに進化させた設計
エクイニクスは、グローバルプラットフォームに使用するエネルギーを100%クリーンで再生可能なものにするという、長期的目標を持っている。TY11も、エクイニクスのサステナビリティへの取り組みを実施する施設として、環境への配慮を進化された、さまざまな設計を取り入れているという。
まず、既存の倉庫をリノベーションすること自体が、壊して新しいものを建築し直すのに比べてカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)が小さい。また、エネルギー効率に優れた照明システム、動的な気流管理により冷却能力を向上させた消費電力を削減する空調最適化制御システムの採用、壁面緑化などの取り組みを行っている。
壁面緑化については、見た目のデザインという意味でも、環境に配慮しているという。有明地区は大規模なマンション・商業地開発が進んでおり、住宅地が近づいてきている状況だ。これまで、データセンターはあまり人目に触れない場所に建設されることが多かったが、じきに街中にあるデータセンターという状態になるということだ。これまでのような無骨なデザインでは周りに威圧感を与えるため、壁面緑化によって印象を和らげる効果も期待されている(写真7)。このデザインは、有名な建築家である藤本壮介氏によるものということだ。
アジア太平洋地域で複数の新規開設
2019年度は、東京のTY11の他、上海、ソウル、メルボルン、シドニー、シンガポールでも新規のIBXデータセンターが開設される。グローバルでも新規開設の計画はあり、プラットフォームとしてますます拡張されるようだ。
ビジネスにおける技術革新とクラウド導入の加速により、東京はニューヨークやロンドンなどの都市を上回る世界最大のリテール向けコロケーション市場になっているという。また、日本において、国内外の多くのクラウドサービスプロバイダーが事業を拡大しており、2019年には日本のパブリッククラウド市場規模は74億ドル(約8000億円以上)に達し、世界最大規模になると予測されている。2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けて、人工知能などの先端技術や堅牢なネットワークの導入が進んでおり、政府による「Society 5.0」の取り組みや5Gサービスの導入も伴って、膨大なデータが生成されると予測されている。TY11の新規開設は、日本市場におけるクラウド導入やデジタル変革を加速するものという。
国内のIBXデータセンターでは、80以上のネットワーク、260社以上の企業、85以上の金融サービス、285以上のクラウドおよびITサービスプロバイダー、130以上のコンテンツおよびデジタルメディアが稼働している。TY11は、特定の用途向けというよりは、いつも通りのものを作ったわけで、ターゲット顧客も今まで通り。これまでスペースが足りなくて拡張できなかった既存顧客が、拡張先として利用することも考えられる。
所在地 | 東京都江東区 |
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開設 | 2019年7月(既存倉庫改修 建物竣工1989年) |
建物仕様 構造 | 躯体:鉄骨造ラーメン構造/鉄骨鉄筋コンクリート構造 |
階数 | 地上5階 |
延床面積 | フェーズ1:約3700㎡/最終フェーズ:約14300㎡ |
床荷重 | 14.71kN/㎡ |
サーバルーム仕様 | 階高5.7m/フリーアクセス80cm |
地震対策 | 耐震構造 |
受電設備 | 22kV 本線 - 予備線受電 |
非常用電源設備 | ディーゼル発電機 |
空調設備 | 高効率DX CRAC ユニット N + 20% |
火災対策設備 | VESDA、煙感知器、熱感知器、窒素ガス消火設備 |
認証方法 | 有人受付、生体認証、PIN リーダー、カードリーダー |
その他セキュリティ | CCTVおよび録画システム |
ラック供給電力 | 3.9kW/ラック |
ネットワーク | 複数キャリア、2系統 |
グリーンIT設備 | 省エネ照明システム、空調最適化制御システム |
準拠規格 | Tier 3+ |
PUE | 最終的な設計値で1.43 |