クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

デジタルトランスフォーメーションのためのITインフラ マルチクラウド環境を促進する「ECX Fabric」

エクイニクス・ジャパン インターコネクション・フォーラム 2019

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年9月30日
定価:本体2000円+税

エクイニクス・ジャパンは7月23日、「エクイニクス・ジャパン インターコネクション・フォーラム 2019」を都内で開催した。同社は毎年「インターコネクション・フォーラム」を開催しているが、今年はユーザー企業向けとパートナー企業向けのセッションを同時に開催。その中から、主にエクイニクスの技術・サービスについてのアップデート内容を紹介する。 text:柏木恵子

マルチクラウドで実現するデジタルトランスフォーメーション

写真1:エクイニクス・ジャパン株式会社代表取締役の古田敬氏

 イベント冒頭では、エクイニクス自体とイベントの概要について、エクイニクス・ジャパン株式会社代表取締役の古田敬氏(写真1)が紹介した。

 エクイニクスは、グローバルで毎年数千億円単位の投資を行い、新規データセンターの開設や既存データセンターの拡張を行っている。これによって同社が「Global Platform」と呼ぶ相互接続されたデータセンターのネットワークが地球上を覆う状況ができている。これについて古田氏は「データセンターは箱物なので疑問に思うかもしれないが、エクイニクスのお客さんの70%以上はグローバルに2カ所以上のリージョンでデータセンターを使っている。特にGAFAのような会社はグローバルのフットプリントの上でビジネスをしていて、世界中シームレスにデジタルプラットフォームが動かざるを得ない。我々も、それに沿った形で展開している」と言う。

 また、現在さまざまな場面で必要とされるのが、マルチクラウドの環境だ。それに対してエクイニクスが提供しているのが、「Equinix Cloud Exchange Fabric(以下、ECX Fabric)」である。

 AWSやMicrosoft Azure、Google Cloud、IBM Cloudなど、多数のクラウド事業者がエクイニクスのデータセンターを使っているが、「2014年からサンドボックス的に始まった」(古田氏)というのが、データセンター内の複数のクラウド事業者をお得意の「インターコネクション」で繋ぐ「ECX」で、ECX Fabricはその後継サービスに当たる(図1)。ECX Fabricは、東京と大阪を接続するなどリージョン内での接続、さらにアジアの他の国へのグローバル接続へと相互接続の範囲を拡張している。

 例えば、企業が新しいデジタルサービスを顧客に提供するためには、既存のデータ資産を活用する必要がある。その時、既存のアプリケーションや既存のデータセンター、各種SaaSのサービスと、マルチクラウドの環境を連携させる必要がある(図2)。古田氏は「そのためのお膳立てをするのがエクイニクスの仕事」と言い、イベントのプログラムもそれに沿った構成になっていると紹介された。

図1:日本でのクラウドエコシステムとエクイニクス
図2:既存のデータ資産+クラウドと連携は必須課題

少子高齢化課題を克服するAIテクノロジー

写真2:アセントロボティクス株式会社 代表取締役CEO 石崎雅之氏

 基調講演には、アセントロボティクス株式会社 代表取締役CEO 石崎雅之氏(写真2)が登壇。日本は現在、少子高齢化による人手不足が問題になっているが、そこにAIがどのように役立つのか、どのような使われ方をされつつあるかを紹介した。

 アセントロボティクスは、2016年9月に創業したスタートアップで、従業員の80%が技術者、その技術者の多くが海外出身者という。取り組んでいるのは、産業用ロボットと自動運転用車両の2つの領域で、これらのハードウェアメーカーにAIソフトウェアを提供している。

①産業用ロボット分野

 日本は積極的にオートメーションを進めているため、産業用ロボットの導入率は比較的高い。ただし、「ロボットの使われている領域は限定的、もしくは使われ方が限定的というのが現実」だと石崎氏は言う。というのは、ロボットにひとつの作業をさせるには、ハードウェアを購入するコスト以上に、設置して作業内容をプログラムとして開発し、実装するコストが大きいからだという。

 大きなコストがかかるということは、一度導入したらその作業を長期間、あるいは大量に行わなければ投資を回収できない。このため、大きな工場を持つ大企業や、同じ作業が長期間繰り返される領域でしか、産業用ロボットが活用されないのである。これでは、人手不足を解消するという意味では、効果が限定的になる。

 そこでアセントロボティクスでは、「AIを使って、プログラミングの作業自体を置き換える」というアプローチをとっている。その結果、ロボットに汎用性ができ、導入にかかるコストが下がるというわけだ。これが、人手不足の解消やコスト削減につながる。AIには学習データが必要だが、そのデータ自体をシミュレーション環境で作るのだという。

②自動運転車両分野

 自動運転は、産業用ロボットよりも「もっと難しくてややこしい」と石崎氏は言う。しかし、その難しいことにチャレンジし、解決することに面白さを感じて、世界各国から優秀な技術者が集まってくる。「人材を集めるという観点で非常に重要」(石崎氏)とのことだ。

 現在、自動運転が実現している領域もあるにはあるが、それは「整備された環境で」という但し書きがつく。例えば、自治体などで自動運転のバスがモビリティサービスを提供しているような事例はあるが、「Geoフェンスという特定の領域、環境で、ある一定の条件を満たした時しか自動運転できないのが今の課題」だと石崎氏は言う。しかし、少子高齢化に対しての解決策であれば、自宅の玄関の前、行きたい病院の入り口まで送り届けてくれなければ役に立たない。アセントロボティクスは、そのラストワンマイルに対応することに取り組んでいる。

ネットワークサービスアップデート

 続いて、エクイニクスセッションの内容を紹介する。まず、エクイニクス・ジャパン ネットワークサービスエンジニア兼子浩氏のセッションを元に、エクスニクスのインターコネクションプロダクトの全容を整理する。

Equinix Internet Exchange(EIE)

 2016年6月時点で国内で200ポート以上利用されているIXサービス。

ECX Fabric

 エクイニクスのプラットフォームを介して、パブリッククラウド各社を初めとした他社のネットワーク、メトロを超えた自社のネットワークをプライベート接続するサービス。従来は各都市ごとのECXプラットフォームを構築していたが、現在は全世界のプラットフォームを接続し、相互通信可能な環境が整っている。

Equinix Connect(EC)

 エクイニクスのデータセンター内でインターネット接続を利用するサービス。現時点での対外接続は185Gbps以上。要望があれば、フルルートでの提供も可能。

Equinix Metro Connect(MC)

 エクイニクスのデータセンター間を専用線で接続するサービス。帯域メニューは1G/10G/100Gの3つで、月額35000円から。

Campus Cross Connect(CCC)

 エクイニクスのデータセンター間を光ファイバーで接続するサービス。TY2からTY6/7/8、TY3からTY5、新たにTY4からTY9/10で利用可能。

Cross Connect(CC)

 データセンター内の構内回線サービス。

 7月にオープンしたTY11では、MC/EIE/ECX Fabric/ECが提供されている。

 MCは、新しいアーキテクチャを採用したインフラを導入した。兼子氏によれば「拡張性や可用性において従来のものと比べて優れている」とのこと。1Gから100Gの帯域に対応している。

 MCのバックボーン回線はTY2および4に対して、ビル構内を含み完全に冗長な回線で接続している。TY2/4はインターコネクション先として非常に要望が高く、そこにダイレクトに接続したいという要望に応えるため、まずはこの構成でスタートしたという。2019年末までに、その他のデータセンターへの接続も完了する予定。

 IXは、TY11に新たにノードを開設して接続できるようになっている。ポートは1Gから100Gまで選択可能。バックボーン回線は100G回線を複数本用意して、他データセンターのノードに接続している。

 その他、セッションではトラフィックの傾向や接続ポート数などについての動向も紹介された。アジアパシフィックでは、トラフィックもポート数もシンガポールが大きく伸びているとのこと。また、ポート速度は10Gポートの伸びが大きく、100Gの追加もここ数年で増えていて、「ポート速度の世代交代が進んでいる」という。

新サービス「Network Edge」とECX Fabricアップデート

 グローバルソリューションズアーキテクト矢萩陽一氏のセッションでは、6月にスタートした新しい仮想化ネットワークサービスであるNetwork Edgeの紹介と、ECX Fabricのアップデートが紹介された。

①Network Edge

 Network Edgeは、エクイニクスのプラットフォーム上でNetwork Functions Virtualization(NFV)のバーチャルアプライアンスを稼働させるサービスである。物理的なネットワーク機器を用意して接続するより、迅速にネットワークを構築できる点が大きなメリットとなる(図3)。

図3:Network Edgeとは

 ECX Fabricポータルと統合されており、ECX Fabricを使っているなら、アカウント申請すると仮想デバイスを購入できるメニューが追加される。現状でリリースされているのは、Cisco vRouter/Cisco SDWAN(旧Viptela)、Juniper Firewall、Palo Alto Firewallだが、利用企業側が自社の仮想アプライアンスを、審査のうえで持ち込むことも可能。

 さらに、デプロイ後、ECX Fabricで提供されている各種クラウドサービスとの接続もできる点が特長だ。もちろん、エクイニクスの別のデータセンターに接続するなどのコネクトサービスも利用できる。

 現在、このサービスが提供されているのはシリコンバレー、ワシントンDC、アムステルダムロンドン、シンガポールの5拠点で、今年中にシドニー、フランクフルト、シカゴ、ダラスが追加されるという。国内では、2020年以降の早い時期に東京で提供されるとのことだ。Network Edgeの技術リソースは、既にECX Fabricドキュメンテーションセンターに「Network Edge Introduction」として公開されているので、興味があれば確認していただきたい。

②ECX Fabricアップデート

 ECX Fabricは、今年に入って2つの大きなアップデートがあった。Network Edgeとの連携がリリースされたのは2019年6月だが、2月にはバックボーンをグローバル接続している。

 グローバルWANとなったことで、日本企業が海外のクラウドを使う事例も増えているという。例えば、AWSの東京リージョンを使っているが、シンガポールリージョンにバックアップしてBCP対策をしたいという場合、閉域網を使ってセキュアなリモートバックアップが可能になる。現在、ECX Fabricのロケーションは図4のとおり、37拠点にのぼる。アジア圏では、さらに拡張計画があるという。

図4:ECX Fabricのロケーション

 また、ECX Fabricの接続事業者も増えている。例えば、5月にOracle Cloudの東京リージョンが開設されたと同時にFastConnectのサービスを提供している。その他、Cisco Webex Edge ConnectやZOOMとの接続が、ECX経由で可能となっている。また、IBM Cloudは大阪にもノードを置いた。8月にはセールスフォースのL3接続が完了する予定だ。

 そして、2019年8月リリース予定のECX Fabric 6.4では、待望のポータル日本語化がリリースされるという。

マルチクラウド環境の構築と運用をサポート

 テクノロジー・サービス事業本部長の有本一氏は、「企業ワークロードのうち22%がクラウドを利用している」(モルガンスタンレーのグローバルの調査)、「既にパブリッククラウドを利用している企業のうち、クラウド上で動くワークロードが40%未満という企業が過半数」(ITRの国内調査)などのデータを挙げ、「これからクラウドに移行される企業内のシステムはまだ多く残っている。さらに、その領域ではマルチクラウドやハイブリッドクラウドに進むだろう。そこでは、コスト・セキュリティ・運用管理が課題になる」と述べた。

 ユーザー企業がクラウドに期待することは主に3つだ。しかし、それぞれ課題もある。

①クラウド適用でインフラをシンプルに

 しかし、オンプレミスがなくなるわけではない。さらに、多様なクラウドを利用するマルチクラウドであれば複雑性は増す。また、パブリッククラウド自体が多機能化していること、そもそもエンタープライズアプリケーションは複雑であることなど、現実には簡単にシンプル化できない。

②クラウド移行のメリットを早急に実現したい

 最もメリットを得られるのは、クラウドに最適化するためシステムを書き直すリライトだが、現実には課題が多種多様で一足飛びにはいかない。多くのケースで、オンプレミスにあるシステムをそのままIaaS環境に移設するリフト&シフトのアプローチを取り、その後リライトしたりSaaSに移行するなどのルートをとっている。

③クラウド化により各種のリスクを低減したい

 リスクには、技術リスク、投資リスク、セキュリティリスクがある。すべてを自社内で解決するのは難しい。

 これらの課題を解決するために必要なことは、一言で言えば「シンプル化」だ。エクイニクスのコロケーションにしろインターコネクションにしろ、企業のデジタル環境をセキュアかつシンプル化するための機能として提供されている。その上に、移設・構築・運用・監視といったサービスを提供するのが、マネージド&テクノロジーサービスだ(図5)。

図5:エクイニクスが提供するサービス概要

 セッションでは、社内システムのAWS移行でネットワーク部分の運用・監視を提供している事例や、プライベートクラウド運用のフルアウトソースの事例、大量の商用サービスをリフト&シフトでクラウド移行した際の、運用アウトソースの事例が紹介された。

 最後に有本氏は、「マルチクラウド、ハイブリッドクラウド化はこれからが本番。クラウド適用に関わるITシステムの課題は、実は『複雑化』。マネージドサービスは、IT基盤の構築運用をシンプル化するためのビルディングブロックを提供する」とまとめた。