事例紹介
屋内でも快適なナビを! 東京駅の実証実験から見えた高精度測位の未来
(2015/3/26 06:00)
将来の歩行者ナビの可能性
技術を組み合わせて利用するため、各社も複数の技術を統合的に扱える「位置情報プラットフォーム」の開発を進めており、実証実験でも一定の成果を上げていた。
では、これらの技術で将来どのような歩行者ナビの可能性があるのか――? そのイメージをかいま見れたのがインテックの実証実験だ。内容は、統合位置情報プラットフォーム「i-LOP」を用いて非可聴音とBeaconを併用し、「屋外から屋内」「屋内でのフロア移動」「屋内から屋外」に移動する際の測位精度を検証するというもの。
i-LOPは、複数の技術から得られる測位結果を統合してアプリに提供するクラウドプラットフォーム。任意のマップを登録・管理する機能も搭載し、Beaconなどの機器をマップ上でどこに配置したか管理できるほか、その故障を予兆する分析技術も実装。機器を膨大に設置する際の管理工数を削減できる。
イラストマップを扱えるのも特徴。たとえばGoogle Mapなどの正確な地図は細かすぎて逆に分かりづらい場合がある。一方、目印だけを表現した簡素なイラストマップであれば、より直感的なナビが可能となる。課題は、イラストマップは縮尺・方位が正確ではなく、距離の長い道が意図的に短く表現されていたり、相対位置が適当だったりすることだ。そうした地図でナビを行うためには、システム的に縮尺・方位のゆがみを把握しなければならない。
i-LOPにはそのための独自技術が実装されている。イラストマップ上の特徴点(四隅や中央、あるいはBeacon設置箇所など)に緯度経度情報を設定することで、自動的にゆがみを補正してくれる。
これらにより可能になるのは、建物の出入りやフロア移動における「マップの自動切り替え」である。インテックの実証実験は、丸の内仲通りから丸ビル内へ、階段を下りて地階へ、反対側の出口から外へ移動した際に、マップが実用的なレベルで切り替わるかを検証していた。
具体的には、Beaconと非可聴音による測位を利用。Beaconで現在位置を特定しながら、エリアが切り替わるポイントとなる「丸ビルの出入口」と「階段下の踊り場」に非可聴音の発信器を設置。指向性の高い音波を発し、スマホが受信したら、エリアが変わったとアプリに認識させてマップも瞬時に切り替える。
実験の結果、マップがリアルタイムに切り替わることを確認。その様子は動画が公開されているので、ぜひご覧いただきたい。
課題と今後の進め方
この動画には正直期待が膨らむ。屋内についてもこうしたナビが可能になれば、どんなに便利だろう。とはいえ、実用化・サービス化にはまださまざまな課題が横たわっている。
2015年3月11日には、課題と今後の方向性を議論する東京駅周辺高精度測位社会プロジェクト検討会が開催された。そこで「実験結果を基にモデルの妥当性を検証するとともに、中間団体モデルの具体化を行う」という今後の方向性が示された。
特に整理すべき事項となるのが「屋内マップをいかに整備するか」。実証実験では、屋内マップを事務局側で作成したのだが、公開された情報だけで全ての範囲の地図を作ることはできず、不足していたエリアについては東京メトロに使用許諾を受けたり、ゼンリンから地図の貸与を受けたという。また、ベースマップの作成には7日間がかかっており、地図整備コストをどう捻出するかも課題となる。
さらにビジネスモデルも大きなハードルだろう。Beaconなど測位のための機器を施設に設置し、たとえば複数の組織が共同利用できるのが理想形だが、その運用管理を誰が担当し、どのように収益性を見出すか。
検討会では、平成27年度の検討案にも触れており、主にB2Cを意識した「屋内地図の市場流通のための仕組みの検討(中間団体モデルの具体化に向けた検討)」と、B2B・B2Gを意識した「各施設管理者が共通して抱える課題(業務効率化・防災・バリアフリーなど)の解決に向けた、施設管理画面からの高精度な地図作成・活用・共有の仕組みの検討」を挙げている。
また、屋内外のシームレスな測位環境によりどのようなサービスが実現するのか。企業・団体の競争領域と協調領域の線引きを含め、「サービスやビジネスの範囲として想定しているのは東京を中心とした主要都市や大都市圏であり、東京駅周辺以外の広域的なサービス提供エリアを想定しなければいけない」として、プロジェクトは今後も継続される方針だ。
この取り組みで念頭に置く最初の区切りは、もちろん東京五輪が開かれる2020年。そこまでに歩行者ナビはどこまで進化できるだろうか――。