事例紹介

屋内でも快適なナビを! 東京駅の実証実験から見えた高精度測位の未来

技術を組み合わせて精度向上

 実証実験では、各社とも少なくとも2種類の測位技術を組み合わせた実験を行っていた。

 国際航業は複数技術によるハイブリッド測位を可能にする「シームレス測位モジュール」を用意し、BeaconとPDRで相互補完する専用アプリを開発。Beaconによる三点測位とPDRを同時に行い、精度の良い方を最終位置として採用していた。

 このアプリを持って地下を歩いた結果、Beaconのみの平均誤差が4.22mだったのに対し、PDRで補完した場合は1.97mとなり、「測位精度の向上が確認された」。

BeaconとPDRで補完した場合は平均誤差が1.97mに

 国際航業などでは将来的に「マップマッチング」の利用も検討している。カーナビではおなじみの技術で、例えば、幹線道路を走っているのに少し横にズレた民家の上を走っているような場合、「車は道路を走る」という前提で座標がヒョイっと道路上に修正されることがある。

 この仕組みを歩行者ナビにも活用しようということで、例えば、歩行者が屋内で角を曲がった際に、測位座標の軌跡は手前の壁を突き抜けて曲がっているような場合、「人は壁を突き抜かない」という前提で、正しい位置に補正することが考えられそうだ。

 DNPも同様の内容で検証。丸の内地下をメインに、Beaconの配置数を「多い(31個)」「普通(9個)」「少ない(5個)」の3パターンに調整し、歩行ルートも「易しい(直線歩行)」「普通(ジグザグ歩行)」「難しい(自由歩行)」に区別して、BeaconとPDRの相互補完による測位を試した。

DNPが用意した技術
PDRと位置補正Beaconを活用することで、Beaconの設置数を削減できると提案している
Beaconの設置数と歩行ルートの複雑さに応じた複数のパターンを検証

 まず、歩行ルートが「易しい(直線歩行)」の場合は、Beaconなしでも高い測位精度を得た。PDRは角を曲がった際にズレやすいが、初期位置さえしっかり与えれば、直線歩行で高い精度が得られることが分かった。

 歩行ルートが「難しい(自由歩行)」の場合はBeaconによる位置補正が活躍。「少ない(5個)」BeaconでもPDRと組み合わせることで平均誤差3m以下を達成した。ただ、Beaconが「多い(31個)」場合も「少ない(5個)」場合も場所によっては補正がうまくいかず、測位誤差が蓄積される結果となった。「補正BLEを確実にヒットできるチューニングが必要」としている。

直線歩行の場合はPDRのみで十分な精度が得られる
自由歩行の場合にBeaconで補正。5個のBeaconで平均誤差3m以下を達成した

 シーエスアールは、複数の測位技術のライブラリでアプリを開発できる次世代ロケーションプラットフォーム「SiRFusion」を用いて、地磁気とWi-Fiの組み合わせを検証した。

 GPSの電波が周囲の建物に反射して受信されることで誤差が生じる「マルチパス」の発生しやすいビル街にて、地磁気とWi-Fiで誤差が補正されるかというものだ。実際、ビルの谷間にある丸の内仲通りではGPS測位はズレていたが、Wi-Fiと地磁気の補正で次第に座標が修正されるのを確認。GPS測位で取り除くのが難しいとされるマルチパスによる誤差も、複数の測位技術で補正できるということが実証された。

 地下街でも同じように検証。誤差は最大6m以内となり、全体を俯瞰するとおおむね精度の高い結果が得られている。地磁気が乱れているような場合も、Wi-Fiで補正可能なことも確認された。

GPSマルチパスの誤差をWi-Fiと地磁気で補正
地下街でも検証。実際歩いた軌跡を俯瞰すると測位結果は概ね一致

 これらは実証結果の一部だが、結果を聞いていると、高精度な屋内外測位のためには複数の測位技術を組み合わせるのが現実的だと分かってくる。気になるのは、こうした技術により、歩行者ナビはどのように変わっていくかである。

 次ページでは、かいま見えた未来のイメージとプロジェクトとしての今後の方針を紹介する。

(川島 弘之)