事例紹介
ICカード統合への幕開けか? 「医療」「交通」の連携に挑んだ豊田市
ICT街づくり推進事業(4)
(2015/3/30 06:00)
交通と医療を統合した「あすけあいカード」
「そもそもの狙いは、高齢者の安心・安全をいかに守るかというものでした」(剱持氏)。そのために高齢者が外出時に倒れたときに迅速な救急活動の支援に役立てられる仕組みを構築した。かぎとなるのが、医療情報と交通情報を融合したICカード「あすけあいカード」である。
あすけあいカードには、地域の拠点病院である足助病院の「電子カルテ情報」と医師が記入する「診察メモ」が書き込まれる。高齢者に日々持ち歩いてもらうことで、救急搬送するときに救急隊がカードから「名前や年齢など」と「既往歴・投薬歴」を読み取れるようにした。
元となったのは、2009年から総務省のプロジェクトとして岐阜大学で研究・開発された医療連携システム「GEMITS」と医療ICカード「medica」である。medicaにも患者の情報が書き込まれており、緊急搬送時に「もの言えぬ患者の代弁者」となる。すでに事業化されており、岐阜県内で1万7000枚を発行。カードリーダーは岐阜県内の全131救急車に配備済みで、実際の救急搬送で利用されたケースも数百例に上るという。
豊田市のあすけあいカードでは、この仕組みに足助病院の電子カルテを連携させた。また、足助病院近隣の5つの診療所でも、カード情報を参照できるようにしたほか、足助病院にはない脳外科がある豊田厚生病院でも参照できる仕組みとした。
このカードを住民に使ってもらい、高齢者の安心・安全に寄与するかを検証するのが実験の内容。モニター募集にあたっては「足助病院の待合室にカウンターを設けて説明。どういうものなのか理解していただくのに苦労しましたが、初年度に857枚のカードを配布して実証実験を行いました」。次年度は2739枚に配布数を広げた。
説明後の同意書に書いてもらったプロフィール情報と電子カルテ情報・診察メモをあすけあいカード内でひも付け、診察時にカードを提示してもらう。電子カルテ情報は常に更新し、最新の「既往歴・投薬歴」が把握できるようにした。平成25年4月~平成26年8月にあすけあいカード保持者の緊急搬送が実際に23件あったという。
重要なのは、日頃からカードを持ち歩いてもらうことだ。そこで、足助地区を巡回するコミュニティバス「あいま~るバス」の回数券として利用できるバス決済機能も搭載した。利用シーンを広げることで、持ち歩いてもらう可能性を高めようという狙いだ。初年度は決済機能に「FeliCa」を採用したが、セキュリティ処理で読み込むのに数秒かかるため、次年度は「MiFARE」を採用するなど、使い勝手にこだわった。
また、Suicaなどが準拠する「サイバネ規格」は導入・運用コストが高いため、名古屋大学監修で「HABPAS」という独自の仕組みを開発した。運用としては、バス内に設置されたタブレットをカードリーダーとして決済する。「サイバネ規格には入れないような地域のコミュニティバスや海外でも展開可能なシステム」として事業化も完了。淡路島やフィリピンなどのバスにも導入されているという。
そのほか、バスではなく自家用車を利用する人もいるため、平成25年度からは電子マネー決済にも対応した。病院の売店でのみ使用できる限定的な機能だが、そこでバス回数券も購入できる。こうして日頃から持ち歩いてもらうように工夫を凝らしたのが、あすけあいカードの特徴となる。
モニターアンケートでは「あすけあいカードを持つと安心感がある」と回答した人が、「非常に思う」「思う」を合わせて100%に上った。利便性についても、HABPAS(回数券機能)は62.5%が、電子マネー決済は83.3%が「便利」と回答。93.3%が「今後も使い続けたい」と高い評価を得た。
一方、今後の運用については体制とランニング費用が課題となっており、現在の配布枚数2739枚でひとまず新規発行はストップしている。たとえば、あすけあいカードの作成・発行を有償にできないか。アンケートでは「いくらまでなら支払いますか?」という質問で「500円まで」「1000円まで」とした回答が合わせて69.3%と、そう悪い数字でもない。これらを踏まえて、平成30年度まで事業継続が決まっており、協議会で今後の方針を検討中という。
ちょっと残念だったのは、足助病院の診察券とあすけあいカードが統合されなかったことだ。当初は検討していたそうだが、「実はプロジェクトの数カ月前に足助病院のシステム更改が行われ、再度の改修が難しくて。技術的には不可能ではなく、タイミングさえ合えば診察券との統合も実現していたかもしれません」(剱持氏)という事情があったそうだ。
住民も今後求める機能として「足助病院の診察券になる(62.6%)」「カード1枚で豊田市内の全病院の診察券として利用できる(65.2%)」を挙げている。
世間でもICカードに複数のサービスをまとめようという動きが見られる。一般的にICカード統合は実現可能なのか。最後のまとめでそのあたりにも触れてみたい。