事例紹介

「生徒が授業を楽しめること」が学校タブレットの効果の証――墨田区教委に聞く学校ICT化

Windows 8タブレット導入事例

宮﨑隆氏

 東京都墨田区教育委員会は、2013年4月に12.5型タッチパネル搭載のWindows 8タブレット「NEC VersaPro タイプVZ」を300台導入し、区内の小中学校に配布した。学校教育へのタブレット端末の導入はまだ途上であり、さらにビジネスのイメージもあるWindowsタブレットが導入される事例は多くない。

 その背景や狙い、学校教育へのタブレット端末導入の課題などについて、墨田区教育委員会事務局 庶務課 教育情報担当 宮﨑隆氏に話を聞いた。また、NECの学校教育市場への戦略について、日本電気株式会社 スマートデバイスビジネス本部 販売促進グループ マネージャーの迫芳和氏に話を聞いた。

ノートPCからWindowsタブレットに機種変更

―― タブレット導入のいきさつ、特にWindowsタブレットを導入した経緯を教えてください。

宮﨑氏:墨田区には小学校と中学校とで、あわせて36校があります。この36校のPCルームに入っているマシンを、6年周期で更新していまして、今年は7校のPCが入れかえになります。この7校で、今回はPCのかわりにタブレットを入れることにしました。ノートPCと同じ使い方をするので、Windowsタブレットを選びました。形としては、タブレットを新しく入れたというより、PCの機種変更としてタブレットを入れました。

 PCルームのマシンの入れかえなので、キーボードを付けてノートPCのように使うことも想定しています。ちょうどPCでもタブレットでも使えるWindows 8が、タブレットに搭載されてきたこともあって、Windows 8のタブレットを導入しました。

キーボードを付けてノートPCのように使うことも想定
PCルームの導入風景

―― そこでNECのタブレットを選んだ理由は?

NEC VersaPro タイプVZ

宮﨑氏:ほかのメーカーの機種もあわせて検討しました。まずは、12.5インチで画面が大きいこと。生徒たちがグループ学習で使うときに、1台の画面をみんなで見るのにある程度画面が大きいほうがいいので。また、キーボードの操作も学習対象ですので、しっかりと押した感のあるキーボードを使いたい。ただし、生徒がPCルームから普通教室に持ち出して使うことも視野に入れており、そのためには軽いほうがいいので、キーボード着脱式ではなくピュアタブレットが望ましい。そうしたことを検討して、NECのVersaPro タイプVZとキーボードの組み合わせを選びました。

―― 導入の時期は?

宮﨑氏:4月に導入しました。タブレットであると同時に、新しいユーザーインターフェイスのWindows 8ということもあって、まず各校で先生に対して操作の研修を行いました。最近になって使い慣れて、PCルームの外で使うなど、活用が進んできたようです。

生徒が前を向いて授業に参加するのが効果の証

―― 実際にタブレットはどのように使われているでしょうか。

宮﨑氏:いちばん基本的な使い方としては、先生が授業に使うケースがあります。資料を電子黒板に映して説明するものです。墨田区の小中学校では、各フロアに1台の電子黒板が置かれています。

 また、グループ学習で1台をグループみんなで使うこともあります。生徒が作ったものをタブレットのカメラで撮って発表し、先生がコメントするようなケースもあります。タブレットのよさを活かして、校舎を探検して最後に発表、といったことも小学校で行っています。

 英語のヒヤリングで、聞きとったノートをタブレットで写して先生に送り、電子黒板に写しながら先生が解説、という例もあります。文法的に正しいか、スペルは正しいか、といったことをチェックしてみせて、みんなで比較して学習するわけですね。ノートを見せるのは恥ずかしいという生徒もいますが、お互いに見せあうことで学習できる。

 グループ学習が活発になると、リーダー役ができて場をまとめていく。そうした小さな社会ができて、うまくいっているようです。こうして、学習のスタイルそのものが変わってくる。

資料を電子黒板に映して説明
先生が校務にも使用

―― 生徒たちは、楽しんでいるようでしょうか?

宮﨑氏:はい。動きのある学習ですので、興味を持ってくれているようです。なにより、子供が下を向かないで、前を向いて授業に参加している姿は、効果が大きいと感じます。

―― そのような新しい授業スタイルは、指導する形でしょうか? それとも先生が現場で考えているのでしょうか?

宮﨑氏:先生方が考えて実践しています。また、各校にICTリーダーの先生がいて、定期的に集まって取り組みを発表しあっているので、そこで学校間の情報共有もなされています。

子供が下を向かないで、前を向いて授業に参加

―― タブレットを導入して、先生方の反応は?

宮﨑氏:幅がありますね。タブレットに興味を持つ先生から、単純に5~6年前の重くなったPCが入れかわって新しくなったのを喜ぶ先生、PCに不慣れでなかなか馴染めない先生まで、いろいろな反応がありました。

 ただ、PCに不慣れな先生はあまり多くありません。というのも、墨田区では平成22年から校務システムが稼働していて、先生にも1人1台のPCが割り当てられて使っているからです。校務システムの導入当初は、新しいシステムに反対の声もありましたが、今ではなくてはならないシステムになっています。

―― いまだと、PCよりスマートフォンやタブレットに慣れている先生もいるかもしれませんね。

宮﨑氏:そういう先生もいますね。(少し前の)ノートPCだと、「画面をタッチしても反応しないんだけど」と冗談を言ったり(笑)。ただ、先生より生徒のほうが、新しい操作を覚えるのは早いですね(笑)。

教室でICTが日常的に使われるようにするために

―― 来年以降も機種変更でタブレットに入れかえていく考えでしょうか?

宮﨑氏:いまのところ、そう考えていく方向です。目指すのは、教室でICTが日常に使われる姿です。ただ、いきなり大きくは変えられないので、まずはPCルームの機種変更から一歩ずつ、と。

 まずは、先生のICT化からです。墨田区の小中学校では、電子黒板がフロアに1台しかないのが、改善したい点です。1台を授業前の休み時間に移動して使う形だと、使う先生が限られてしまう。もっと教育へのICTの日常的な活用を目指したい。ICTを使ってわかりやすい授業ができた、という事例ができてくれば、導入を進めやすくなるのではないかと考えています。

 タブレットを1校に40台入れたわけですが、小学校などでは1クラスの人数がそれより少ないところもある。そこで余ったタブレットを、先生が活用してほしい。日常的な道具として使ってほしいと考えています。

―― 文科省では、2020年には生徒に1人1台の情報端末を、という方針を掲げていますね。

宮﨑氏:われわれも、文科省の方針に従って取り組んでいく考えです。ただ、墨田区で約15,000人の生徒がいて、タブレットとソフトを合わせて1台あたり10万円としても、合計15億円かかる。学校ではICTの予算よりも、たとえばいじめ問題の対策や校舎の補修などが優先になりますので、どうしても予算は厳しくなります。今回の例については、機種変更なので、これまでと同じ予算でタブレットを導入できました。

 そのほか、タブレットを使うには無線LANの整備が必要ですが、それもまだ徐々に進めているところで、整備できていません。いまは、PCルームでは有線LANで接続し、普通教室では有線LANにアクセスポイントをつないでいます。ただし、1人1台を使うとなると、家庭用の無線LANアクセスポイントは同時接続数が10台程度なので、1クラスでも足りない。同時接続数の多いアクセスポイントを導入するとなると、それなりにコストがかかるのも悩みどころです。

 いずれにしても、予算を確保するには、やはり効果を説明する必要があります。まずは、一歩ずつ実践を進めて、実例を積み重ねていく必要があると考えています。

学校教育向け市場へのNECのアプローチ

―― 学校教育向けのタブレット市場でのNECの戦略は?

迫芳和氏

迫氏:私も子供の親ですが、子供たちが将来、社会でちゃんとやっていけるようにしたい。ICTの教育もそのひとつです。親だけでずっと教えられるわけではありませんので、子供の使いやすいタブレットを継続的に提供して支援していきたいと考えています。

 そのためにも、教育の現場の声を製品に反映していくのが重要です。たとえば、「教育にはペンが必要」という声から、タブレット用にちゃんとしたタッチペンを用意しました。これを使って、写真を撮ってタブレット上で書き加える、といったことなどがされているようです。

―― 今後そうした改良の予定は?

迫氏:より軽く、という声は、常にいただきます。また、これから生徒1人に1台となると、机のサイズには12.5インチより10インチのほうがいいかもしれない。そうした声を集めて、製品を強化していきたいと考えています。

 今後、PCやタブレットのテクノロジーも、性能や電力消費、軽さなどで進化していきます。それに沿って教育向けの製品も強化して、より扱いやすいものにしていきたいと思います。

高橋 正和