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AWSジャパン、半導体業界への取り組みを解説 自社チップ開発の知見と生成AIで業界の課題解決を支援

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は、「第2回 製造業界(半導体)におけるAWSの取り組みに関する記者勉強会」を、12月12日にオンライン形式で開催した。今回の勉強会では、半導体業界を取り巻く最新動向を踏まえつつ、AI分野向け専用チップの自社開発を行うAmazon Web Services(AWS)が、生成AIなどの最先端技術を通じて同業界の進化と新たな価値創出を伴走支援する取り組みについて、国内外の最新事例などを交えながら解説した。

 説明会の冒頭であいさつした、AWSジャパン エンタープライズ技術本部 自動車・製造グループ 本部長の岡本京氏は、AWSの特徴について「マネージドサービスによりコア領域への集中が可能」、「最新技術を継続的に活用できる」、「スモールスタートに適した従量課金制のコストモデル」の3点を挙げ、「AWSのグローバルインフラストラクチャは、世界の38地域にデータセンターを構え、120のアベイラビリティゾーンにまたがっており、海底ケーブルなどの専用ネットワークで可用性の高いサービスを提供している。また、2023年には、Amazonの事業運営全体で消費する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うという目標を達成。AWSを利用することで、オンプレミスと比較して最大4.1倍のエネルギー効率を実現できる」と説明した。

AWSジャパン エンタープライズ技術本部 自動車・製造グループ 本部長の岡本京氏

 続いて、AWSジャパン エンタープライズ技術本部 ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部長の益子直樹氏が、半導体業界におけるAWSの取り組みを紹介した。

 「Amazonは、ファブレス半導体企業としての一面も持っており、独自の半導体デバイスを設計し、グローバルなサプライチェーンから調達している。その中で、イスラエルのAnnapurna Labsを2015年に買収し、AWSシリコン最適化チームとワンチームで半導体開発に取り組んできた。従来のオンプレミス上での設計・開発からクラウドへのシフトを進め、現在では複数拠点においてクラウド上での完全なSoC(System-on-a-chip)開発を実現。オンプレミスのデータセンターはエミュレーターのみ使用している」という。

AWSジャパン エンタープライズ技術本部 ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部長の益子直樹氏

 AWSが設計・開発している独自半導体としては、「AWS Nitro」「AWS Graviton」「AWS Inferentia」「AWS Trainium」などがあり、ハイパーバイザーからネットワーク、ストレージ、セキュリティ、モダンアプリケーション、機械学習、ハードウェアとソフトウェアの大規模展開まで幅広い用途で活用されている。

 AWSが半導体を独自開発する狙いについて、益子氏は、「半導体を自社開発することで、巨大なデータセンターのハードウェアを最適化し、高い電力効率と優れた価格性能比を実現できる。運用面では、動作監視や自己回復機能をチップレベルで実装することで、信頼性・可用性を高めている。また、製品の仕様化から導入までエンドツーエンドの開発プロセスによって、開発スピードを向上し、より多くのイノベーションを提供できるようになった」としている。

AWSが設計・開発する独自半導体

 一方で、半導体業界全体が抱える課題として、「チップレット・3D-IC・微細化による設計・検証の複雑化とコスト増」、「AIチップ市場の急成長によるTime To Marketの短縮圧力」、「先端プロセスの技術的難易度上昇に伴う製造歩留まりの維持」、「製造拠点や技術が特定地域に集中することによる、地政学リスク下での拠点分散や最新のセキュリティ対応」の4点を挙げる。

 これらの課題に対するAWSの解決策について、AWSジャパン エンタープライズ技術本部 ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部 シニアソリューションアーキテクトの野間愛一郎氏が説明した。

 まず、「設計・検証の複雑化とコスト増」と「Time To Marketの短縮圧力」の課題に対しては、「計算需要は設計の状況により変動し、アプリケーションによって求める計算環境も異なるため、オンプレミス上の計算資源を柔軟にフィットさせるのは困難。また、固定的な計算資源は、運用の複雑化と暗黙的なボトルネックを伴う。AWSでは、クラウド上で計算資源を提供することで、必要な時に数千から数万コアのHPCリソースを数分で調達・解放でき、Time To Marketの短縮およびエンジニアの生産性向上にも寄与する。また、リソース量と利用時間に応じた従量課金制のため、長期間の少量利用と短期間の大量利用のリソース総量が同等の場合、コストも同じになる」とした。

 具体的な事例として、Arm社がAWS Gravitonインスタンスを使用し、EDAワークロードの特性評価のターンアラウンドタイムを数か月から数週間に短縮した事例を紹介した。

AWSジャパン エンタープライズ技術本部 ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部 シニアソリューションアーキテクトの野間愛一郎氏

 「製造歩留まりの維持」の課題に対しては、ソニーセミコンダクタソリューションズグループの導入事例を挙げながら、「膨大なファブデータをクラウドに統合し、AIや機械学習で不良原因を特定・予測。歩留まりを予測的に改善することで、新製品立ち上げの期間短縮および製造コストの削減を実現する。また、AIを活用し、複雑なPPA(電力・性能・面積)設計を自動化・最適化できる。ソニーセミコンダクタソリューションズグループでは、AWSを本格活用し、さまざまな用途に向けたクラウド上での解析環境を半年で現場エンジニアに提供開始している」と説明した。

 「地政学リスク下での拠点分散や最新のセキュリティ対応」の課題については、AWSの厳格なセキュリティとコンプライアンスに基づき、設計IPや機密データをセキュアに管理し、地政学リスクに対応する。この事例としては、TSMCとシーメンスEDAとの共同プロジェクトで、世界中のどこからでも安全にアクセス可能な統一環境を構築した取り組みを紹介。「AWS上にTSMCのセキュリティ要件を満たすセキュアコラボレーションチャンバーを構築し、シーメンスEDAツールをTSMCのN2/N3プロセスで認証することで、組織やロケーションをまたぐ、グローバルな協働環境を実現した」という。

組織やロケーションをまたいだグローバルな協働環境

 また、最新のセキュリティ対応として、「ポスト量子暗号(PQC)にも取り組み、将来の量子コンピューティングの脅威に対する保護を強化し、顧客との責任共有モデルをさらに拡大していく」との考えを述べた。

顧客との責任共有モデル

 最後に、生成AIがもたらす半導体業界への影響について触れ、「生成AIの需要増加が半導体業界の成長に大きく寄与している。一つは、生成AIチップ需要の高まりに伴う売上の拡大。もう一つが、生成AI活用による半導体設計の運用コスト削減と業務効率化の実現である」と指摘。半導体の設計と検証における生成AIのユースケースと自律型AIエージェントの活用例について解説した。

半導体の設計と検証における生成AIのユースケース