サイボウズ Office 10が目指すもの

「目指したのは原点回帰」~サイボウズ Office 10の新たなチャレンジ

 2013年10月、サイボウズ Office 10が発売される。今回のバージョンアップが目指したのはずばり「原点回帰」だ。今回のバージョンアップでは新しい機能を付加することではなく、コードの修正を含めて使いやすさを実現するために、基本的な機能の強化を行った。

 バージョンを重ねた製品があえて基本機能向上を実施したのはなぜなのか。そして基本機能を強化することによって、サイボウズ Office 10はどう進化しようとしているのだろうか。

サイボウズ Office 10の画面イメージ

顧客の声、利用状況を反映した機能強化

サイボウズ グローバル開発本部 プロダクトマーケティング部 プロダクトマネージャーの河合真知子氏

 「記念すべき、バージョン10で目指したのはずばり原点回帰です」。サイボウズ株式会社 グローバル開発本部 プロダクトマーケティング部 プロダクトマネージャーの河合真知子氏はこう話す。

 一般に、バージョンアップでは、派手なアピールができる新しい機能を増やすことが多い。それに対しバージョン10では、「むしろ、今あるモノをシンプルにすること、将来の開発にも生かすことができる基盤を強化することの2点が大きな注力ポイントとなりました」と河合氏は説明する。

 バージョン10という記念製品だけに、新しい機能を増やすなど、派手な機能向上をすることも十分に可能だった。しかし、サイボウズでは、基本となる機能を強化することを選択した。

 この方針は、ユーザーの要望に添ったものだ。

 「われわれには大きなメリットがあります。クラウド版はどの機能がどれくらい利用されているのか、利用状況のログを取ることができるからです。利用ログを分析し、最も利用されている機能がスケジュールであることが定量的に証明されました。90%以上のお客さまがスケジュール機能を利用しているのです」。

 サイボウズ Officeには「スケジュール」をはじめ、「掲示板」、「施設予約」、「メッセージ」、「ワークフロー」などたくさんの機能が用意されている。すべての機能を利用せず、必要な機能だけを利用することも可能だが、クラウドの利用ログでは、利用者の90%以上がスケジュールを利用していることが見て取れた。

 さらにアンケート調査によって明らかになったのは、「スケジュール」、「Webメール」、「カスタムアプリ」の3つの機能の強化を要望するユーザーの声だった。

 「この結果を受けて、社内でも新しい機能を追加するよりもこの3つの機能を強化するべきだと意見がまとまりました。通常、すでにある機能を強化する際にもコードまで直すことはほぼありませんが、今回はコードに手を入れました」。

 機能を強化する際、根幹のコードまで修正するケースはほとんどない。今回はあえてコードの修正を含めて機能強化を行った。

 「コードを直すことで、これまでお客さまから挙がっていた不満を解消することを狙いました。サイボウズ Officeは10がゴールではありません。今後さらに成長していくソフトです。このタイミングでコード修正を含む基本機能を強化することで、今後さらにバージョンを重ねていくベースができたのではないかと考えます」。

 このことばからもわかる通り、今後の成長に向けて今回の基本機能強化が実施されたのである。

サイボウズ Office 10では、スケジュール機能(左)、Webメール機能(中)、カスタムアプリ機能(右)の強化を中心に、さまざまな改善が行われている

クラウドで増え続ける新規顧客

サイボウズ Officeを含めたクラウドサービスは、30日の無償利用が可能なため、環境を用意しなくても導入の検討が可能だ
例えばタイムカード機能も、規模の小さい企業にとっては便利だろう

 原点に戻って基本機能を強化したことにはもう1つ理由がある。クラウド版の製品を提供し始めて以降、新規顧客が増え続けているのだ。

 「月間200件ペースで新規導入が続いています。グループウェア市場は飽和状態にあるといわれてきました。ところが、クラウド版のお客さまの7割が新規、もしくは乗り換えのお客さまです。クラウド版を提供して以来、ユーザー数の増加は続いています。新しいお客さまを増やしていくためには、新しい機能を付け加えるよりも、基本機能を強化し、使いやすい製品にすることが必要だと判断したのです」。

 バージョン10となる、長い歴史を持つ製品でありながら、現在でも新規ユーザーが増え続けているソフトは珍しい。

 その要因となっているクラウド版は、パッケージ版と異なり、初期導入コストを必要としない。これまでグループウェアに興味を持ちながら、実際に見積もりを取ってみると、「導入コストが高すぎる」という理由で導入を見送ったユーザーも多かったという。こうした層に対して、初期費用が発生しないクラウド版を提供することで、新しいユーザーの獲得につながった。

 また、利用できるデバイスとしてパソコンだけでなく、スマートフォン、タブレットが登場したことも追い風となった。あえて通信をWi-Fiだけに絞ったタブレットを導入すれば、法人として利用する場合の手続きが面倒なスマートフォンを導入するよりも短期間に、低コストでグループウェアを利用できる環境が整う。

 その結果、これまではグループウェア導入の必要はないのではないか?といわれていたような、従業員数50人以下の企業でサイボウズ Officeを導入する事例が増えている。

 「一番多いのは1ドメインあたり、ユーザー数25人程度。これまでグループウェアの導入の必要はないと思われていた規模のお客さまです。『この機能とこの機能だけが使いたいんだ』といった、一部機能だけを必要とするライトなニーズが多いことも特長となっています」。

 業種としても、かつての飲食店、美容院など、やはりグループウェアを導入していなかったところへの導入が増えている。

 千葉県にあるプラスワンオートも、新しいグループウェアの導入事例だ。同社は従業員数25人の中古車・事故車の買い取り、販売を行う企業だ。従来は台帳に記入していた電話での問い合わせ情報、ホームページ経由での問い合わせといった情報をサイボウズ Officeで共有することで、問い合わせを受けてからの応答スピードがあがり、商談の精度も向上したという。

 特に規模の小さい企業では、権限を持った経営者自身が外に出て営業活動を行うケースが多い。その場合、社内に戻って処理しなければならない書類がたまり、業務効率を下げてしまうことがある。グループウェアを利用することで、従来は紙だった書類を電子化し、社外でも処理が可能とすることで、業務がスムーズに進むようになる。

 サイボウズ Office 10では、こうした新しい企業が利用する場合にもより快適に利用できるよう、基本機能を強化した。初めてグループウェアを利用する企業にとってもストレスなく利用できる製品とすることを目指している。

サイボウズ Officeを利用して報告書を提出する、といった使い方も可能だ

基本強化は将来に続く製品だからこそ

 サイボウズ Officeの基本機能強化は、実は前バージョンとなるサイボウズ Office 9からスタートしているのだという。

 「バージョン9では、専門知識なしでアプリケーションを作ることができるカスタムアプリを新たに加え、データベースをオリジナルなものからSQLiteに変更しました。カスタムアプリは新しい機能ではありますが、製品としての基本を強化するというチャレンジは9から始まったものです」。

 実はサイボウズ Officeシリーズは、パッケージ版、クラウド版を同一コードで動かしている。異なるコードの製品を開発し続けることは、開発リソースを余分に使うことにつながる。そこで統一のコードとしているのだ。

 新たに登場したサイボウズ Office 10では、このコード修正を含め、使いやすさの追求がさらに進められた。グループウェアは導入したことがゴールではない。利用する人もITの専門家だけでなく、ITに詳しくない人を含め、対象となる人全員が利用していかなければ使用が中止になることも多い。サイボウズではこうした状況を理解し、誰でも使いやすくなるようソフトを強化したのだ。

 「今後、ぜひ調査してみたいと考えているのが、試用版を使われたお客さまが、どの部分がダメで利用を止めたのかです。使い続けてくださるお客さまの声だけでなく、使うことを中止したお客さまの声を聞いて、改善点を探すような試みもしていきたいと考えています」。

 ただし、サイボウズ Officeは長い間バージョンを重ね、多くのユーザーを抱える製品でもある。より使いやすい製品を目指すとともに、「使い続けていくうちに、より深く使い込める製品とすることを目指しています。基本機能の強化は使いやすさとともに、より奥が深い製品とするためのものでもあります」という。

 「バージョン10では、より深く使いこなしてもらうための仕掛けを入れ込みました。以前からサイボウズ Officeを使ってきたお客さまだからこそ、それを実感してもらえると思います」

 河合氏にサイボウズ Office 10の完成度について、あえて点数をつけてもらった。「100点満点中、80点はつけられるのではないかと思います。もちろん、現在で完成形ではなく、今後さらに機能を強化していく出発点としてということですが」。

 では、80点となったサイボウズ Office 10にどんな機能があるのか。次回では具体的な新しい機能について紹介しよう。

サイボウズ Office 5(左)からサイボウズ Office 6ではインターフェイスの劇的な変更があったが、サイボウズ Office 6以来のインターフェイスを踏襲しているサイボウズ Office 9(中)とサイボウズ Office 10(右)では、一見、あまり違いがないように見える。しかし実際には、ユーザーの声を反映した改善が多く行われているという。次回は、そうした違いを具体的に紹介する

三浦 優子