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「今までと同じセキュリティをパブリッククラウドにも」――。バラクーダがクラウド対応製品を拡充するワケ

 「当社はアプライアンスのベンダーだが、その簡単さと安定性を維持しつつ、世の中の動きに合わせてクラウド対応を進めている」――。バラクーダネットワークスジャパン株式会社(以下、バラクーダ)の執行役員社長、林田直樹氏は、最近の取り組みをこう話す。

 Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといったパブリッククラウドのビジネスに積極に取り組んでいるバラクーダの狙いはどこにあるのか。また、強みとしていることは何か。クラウド戦略を林田社長に話を聞いた。

パブリッククラウドでは今までのセキュリティ製品が使えない

林田直樹社長

 バラクーダは、主に中堅・中小企業(SMB)向けにセキュリティアプライアンスやバックアップアプライアンスを提供している。林田氏が話すように、アプライアンスは導入・利用の簡単さや安定性を売りで、同社が主戦場としてきたSMB市場でも導入が進んできた。

 こうした導入のほとんどはオンプレミス環境を対象としているが、ITシステムにおいてクラウドサービスの利用が一般化した現在では、コスト削減などを目的として、インフラの一部をパブリッククラウド化することが当たり前になっており、パブリッククラウドでもオンプレミスと同様のセキュリティを維持したい、というニーズが高くなっているという。

 「しかし、AWSやMicrosoft Azureといったパブリッククラウドの導入は進んでいるが、実は、製品側の対応が進んでおらず、パブリッククラウドでは今までのセキュリティ製品が使えないことが多い」のが現状。ユーザーがオンプレミスと同じ製品を使いたい、と思ったとしても、それがパブリッククラウドに対応していなければ導入することはできない。大手ベンダーの製品でも、それほどクラウド対応製品は多くないのだという。

 一方でバラクーダでは、そうしたミスマッチが起きているところに商機があるととらえ、積極的に既存のセキュリティ製品のクラウド対応を進めてきた。以前から、ハードウェアのアプライアンス製品と並行して仮想アプライアンス製品を充実させていたが、それらのクラウド対応を積極的に進めてきたのだ。

 2013年4月、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)がMicrosoft Azure(当時はWindows Azure)に対応したのを皮切りに、2014年4月にはWAFがAWSに対応。現在では、次世代ファイアウォール、メールセキュリティ(スパム/ウイルス対策)、メールアーカイブ、ロードバランサーADCといった4製品がAWSとMicrosoft Azureに対応している。

 「クラウド対応は様子見のベンダーが多い中で、当社のAWSやMicrosoft Azureへの対応スピードは非常に速く、近日中の対応予定を含めれば、いずれも5製品が対応している(図1・図2を参照)。1つ2つが対応しているベンダーは珍しくないが、これだけのラインアップをそろえているところは、他にはないのではないか」(林田社長)。

図1:パブリッククラウド対応の履歴。現在までに、各4製品が対応している
図2:近日対応のものを含めると、5製品が対応する予定

 また、バラクーダでは、IT部門が充実していないことが多いSMBを主戦場としてきただけに、各製品に共通した使いやすいGUIを売りにしてきた。これはクラウド対応版でも引き継がれており、異なる製品を導入したとしても、同じような使用感でそれぞれの製品を利用できるのだという。もちろん、オンプレミス版とクラウド対応版での利用感も統一されているので、双方を利用するユーザーにとっても、メリットは大きい。

 加えて林田社長は、「アプライアンスで実績があり、信頼性が高い製品をクラウドで提供している」ことも強みとする。あくまでも、アプライアンスで培った技術をベースにクラウドに対応しているので、オンプレミスと同等のセキュリティレベルを維持できる、というのだ。

クラウド市場自体の伸びにも期待

 また、クラウド対応を進めることで、新しい顧客との付き合いが生まれているという。SMB領域でのビジネスを主眼としていたバラクーダだが、「パブリッククラウドを積極的に導入しているのは、当社がもともとお付き合いがなかったような大企業が多い」(林田社長)そうで、そうした企業での採用が増えれば、ハードウェアのアプライアンスでもビジネスが生まれる可能性がある。

 加えて、市場としてのクラウドの伸びは、やはり無視できない。バラクーダでは、既存のアプライアンス製品の売り上げが伸びていることもあって、同社の売り上げ全体に占めるクラウド対応製品の割合は、グローバル、日本ともにまだ5%程度という。が、IDC Japanの予測では、国内パブリッククラウド市場は、2018年には2013年の3倍に成長するとされており、それに付随して製品の売り上げも大きくなってくることが見込まれている。

 製品面でも、現在中心となっているWAFに加えて、バラクーダが多くの顧客を抱えるスパム対策製品が2014年後半にAWSとWindows Azureに対応したため、その面からもクラウド対応製品はこれまで以上の成長が期待されているとのこと。

 そこでバラクーダでは、現在提供しているBYOL(ライセンスの持ち込み)方式に加えて、セキュリティ製品をAmazon EC2とパッケージ化する方式での提供も計画し、そのためにアイレット(cloudpack)との提携を進めているとした。

 「お客さまに選んでいただく理由としては、機能は当然として、結局は値段と使いやすさだと思う。セキュリティレベルを維持しつつ、いかに簡単に使えるかがポイント、ということ。また当社では、考え得るセキュリティ製品は投入していこうという、トータル・スレッド・プロテクションの考え方で製品をそろえてきたし、今後も拡充することになる。何度も言うが、ここまで包括的にやっているベンダーはほとんどなく、その面でも他社との差別化を図っていくことになるだろう」(林田社長)。

石井 一志