グリーン・グリッドの省エネアワード、最優秀賞はJTB情報に

ユーザー系データセンターの取り組みを評価


 グリーン・グリッドは17日、日本国内の既存データセンターを対象にエネルギー効率の向上に取り組む団体・企業を表彰する「グリーン・グリッド データセンター・アワード」の受賞企業を発表した。

 最優秀賞は、「データセンター革新 ユーザ系データセンターのあるべき姿と今後の未来予想」プロジェクトを推進したJTB情報システム(以下、JTB情報)が受賞した。ほか、優秀賞に伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)、特別賞に日立電線が輝いた。


エネルギー効率化への活動を評価するアワード

評価基準

 グリーン・グリッド データセンター・アワードは、日本国内でデータセンターを運用する団体・企業間で、データセンターのエネルギー効率の計測と改善を推進することを目的としたもの。

 PUEやDCiEの絶対値ではなく、これらの指標を用いた上でエネルギー効率化に対する取り組み、指標改善の継続性、改善活動などで評価するのが特徴。英DatacenterDynamicsの特別協力の下、今回で2回目の開催となる。

 今回の選考は、グリーン・グリッドのほか、ASP・SaaSクラウドコンソーシアム、グリーンIT推進協議会、日本データセンター協会、ITmediaエンタープライズ、ITPro、ならびにDatacenterDynamicsによって構成されるアワード実行委員会が行った。


特別賞:独自の冷却システムを構築した日立電線

日立電線 産業インフラ事業本部 産業システム事業部 主幹技師の田代完二氏

 特別賞は「水冷媒循環式 超省エネルギー型 免震データセンターの実用化」というプロジェクトを進めた日立電線が受賞した。同プロジェクトでは、建築・空調・制御・ITが総合的に連携し、エネルギー効率を最大化する自動運用技術を開発。特に産業空調の構築経験をIT施設に応用した独自の空調冷却システムが評価された。

 同システムでは、コールドアイルとホットアイルを形成したデータセンター内で、暖気は自然上昇、冷気は降下させる導線とすることで、循環風量を従来比の半分に削減。加えて、別室の空調機に取り込んだ暖気を温水化し他施設へ転用するとともに、ぬるい冷水を少なく流して冷却する仕組みを構築。

 「“低級の熱で足りる設計”“その熱を効率的に作る”“作った熱を効率的に運ぶ”という基本的な冷却設計に基づき、フリークーリング(外気による冷水生成)の稼働時間を少しでも延長できるよう心がけた」(日立電線 産業インフラ事業本部 産業システム事業部 主幹技師の田代完二氏)という。

 これらの取り組みを継続し、大きな成果を挙げた点が受賞理由。また、古いデータセンターを移設して効率化するアイデアを示した点も評価点となった。

“低級の熱で足りる設計”“その熱を効率的に作る”“作った熱を効率的に運ぶ”という基本的な冷却設計産業空調の構築経験をIT施設に応用した独自の空調冷却システム



優秀賞:蓄電や氷蓄熱でピークシフトを成功させたCTC

CTC クラウドプラットフォーム事業グループ サービス開発部長の唐木眞氏

 優秀賞は、昼間の電力使用量を夜間にピークシフトする取り組みを進めたCTCが受賞した。同社では、PUE指標による省エネ化に加え、ナトリウム硫黄電池システムを利用した夜間電力による充電と、氷蓄熱式空調システムによるピークシフトを実現。氷蓄熱空調システムは、冷凍機を夜間電力で運転することで氷を生成し、日中の冷房冷熱源として利用するもの。

 同社はこれらの取り組みを2000年代初頭から始めており、氷蓄熱空調システムは2000年、ナトリウム硫黄電池システムも2006年より稼働している。これらにより、3月11日の震災以降の計画停電でもピークシフトを問題なく実践できたという。

 CTC クラウドプラットフォーム事業グループ サービス開発部長の唐木眞氏は「日本のデータセンターの大多数は10年以上前に建設されたもの。当社もそうで、最新のデータセンターのような画期的な取り組みができたわけでは決してない。しかし、古いデータセンターだからムリだとあきらめずにできることをコツコツやってきた、その姿勢を今回評価していただけた。稼働中のデータセンターでは設備更新も原則無停止で行わなければならず、改善するのも容易ではないのだが、旧世代のデータセンターを運営する事業者を代表して受賞できて大変うれしい」と述べた。

古いデータセンターだからムリだとあきらめずにできることをコツコツやる、その姿勢が評価された今までの主な取り組み例



最優秀賞:ユーザー企業として地道に改善活動を進めたJTB情報

JTB情報 基幹システム運用本部 基盤システム部 マネージャの程田悦由氏

 最優秀賞は事業者ではなくユーザー系データセンターを運営するJTB情報が受賞した。同社では、築20年のデータセンターを“誇れるデータセンターにしたい”という思いの下、地道な改善活動を行ってきた。

 JTB情報 基幹システム運用本部 基盤システム部 マネージャの程田悦由氏は「従来、単なるサーバー置き場だったデータセンターを改善し、エネルギー効率を向上するため、まずは意識改革に取り組んだ。当初はインフラもばらばらで、ゴミもたくさんあるような状況だったが、1つ1つルールを作り、PUEやASHRAE2008など業界指標を数量化し、それを基に独自のベストプラクティスを構築していった」と語る。

 こうした全社的な活動を継続的に行った点が評価された。また、ユーザー企業として表彰されたアイデアやビジョンを、今後はほかのユーザー企業にも広め、ユーザー系データセンターで相互補完する構想も評価のポイントとなった。

 同氏によると、「ユーザー系データセンターはサーバー仮想化で空きスペースが今後増えてくる。その空いたスペースをリソース共有できないか、ということでいくつかの企業と話を進めている。実現すれば、ディザスタリカバリサイトとしてより効率的に相互のリソースを利用できるのではないか。日本は今、電力不足で大変なことになっているが、こうした取り組みを基に日本を元気にすべく、データセンターの仮想化を進めていきたい」という。

「誇れるデータセンターにしたい」をビジョンに将来的にはユーザー系データセンターの相互補完構想も



ユーザー企業の応募が増えた今年のアワード

グリーン・グリッド日本技術委員会代表の田口栄治氏

 第2回となる今回は、計8社のエントリーがあった。うち4社はユーザー企業だった。グリーン・グリッド日本技術委員会代表の田口栄治氏は「震災の影響で国内のデータセンターはその対策に追われたにもかかわらず、さまざまな業種から応募があったことをうれしく思う。特にユーザー企業の応募が増えたことが印象的で、これはデータセンターの効率化はITサービス事業者だけに内在する課題ではなく、一般企業の間でも戦略的な意味を持つ課題として認識された表れだととらえている。このような認識があったからこそ、今夏の電力不足に際しても、データセンターが安定稼働できたと言っても過言ではないと考えている。今後もグリーン・グリッドでは同アワードを通じて、エネルギー効率の改善活動の普及拡大を推進する」と述べた。

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