インタビュー

オープンソースを心から重視する――、CTOやLinuxカーネル責任者に聞く“SUSEの今とこれから”

 SUSEはドイツに本拠地を置く老舗の商用Linuxベンダーであり、特にヨーロッパで大きなシェアを持つ。Linux開発者カンファレンス「LinuxCon Japan 2016」に来日した、2016年4月にCTOに就任したThomas Di Giacomo氏と、SUSE LabsのDirectorを務め、SUSEのLinuxカーネル責任者であるVojtech Pavlik氏に、ノベル株式会社 代表取締役社長の河合哲也氏とともに話を聞いた。

SUSE Linux GmbH社CTOのThomas Di Giacomo氏
SUSE Linux GmbH社Director of SUSE LabsのVojtech Pavlik氏
ノベル株式会社 代表取締役社長の河合哲也氏

基幹システムに強い老舗Linux企業

――まずは、あらためてSUSEについてご紹介ください。

Giacomo氏
 SUSEは1992年に創設された、Linux企業の草分けです。1999年に最初SUSE Linux Enterprise Server(SLES)をリリースし、初めてLinuxディストリビューションをエンタープライズ市場に持ち込みました。OpenStack向けのエンタープライズLinuxも最初です。

 利用されている領域としては、メインフレームでは特にSUSEが多い。HPCでも大きなシェアがあります。SAPのアプリケーションでもSUSEが多く使われます。

 SUSEは独立企業からNovell傘下、Attachmate傘下と代わって、現在はMicro Focus傘下の独立した部門で活動しています。

河合氏
 日本は少し事情が違い、ノベル株式会社として、ほかのノベル製品と並んでSUSEの製品があります。マイクロフォーカス株式会社は、それとは別に存在します。

Giacomo氏
 製品ポートフォリオとしては、まず中核製品のSLESや、そのExtension(拡張機能)があります。また、管理ツールのSUSE Managerや、Cephベースの分散ストレージのSUSE Enterprise Storageなどもあります。そのほか、SLES for SAPや、SUSE OpenStack Cloudなどもあります。

 OpenHPCプロジェクトや、OPNFVプロジェクト、Ceph、OpenStack、Cloud Foundryなど、さまざまなオープンソースプロジェクトで活発に活動しています。

SUSEが参加して取り組むプロジェクトの代表例

――現在、特に日本で、エンタープライズ向けLinuxディストリビューションとしてRed Hat Enterprise Linux(RHEL)が大きなシェアを持っています。またクラウドではUbuntuも大きなシェアを持っています。それに対するSUSEの優位性や差別化ポイントはどのあたりでしょうか。日本市場や日本以外、技術面など教えてください。

河合氏
 まずLinux市場からいうと、強い分野の色分けができています。IBMのSystem z(メインフレーム)でのLinuxは多くがSUSEです。また、SAPの製品、特にHANAはLinux専用で、ここはほとんどがSUSEです。HPCでも高いシェアがあります。Linux以外では、Software Defined Storageの市場は各社まだスタートラインにあるので、ここに力を注ぎたいと思います。

Giacomo氏
 エンタープライズ向けの機能に焦点を当てており、HPC向けの最適化もしています。同じことを、ストレージ、クラウド、XaaS(何か as a Service)の分野でも展開します。ソフトウェアの差別化だけではなく、サポートの品質やパートナーシップも力を入れます。

Pavlik氏
 SUSEはオープンソースを心から重視しています。そのため、変更もまずコミュニティにコミットしてから製品化します。差別化要因としては、選択肢、安定性、サポート力の3つを重視しています。

 独自性の技術要素としては、1年半前のものですが、SLES 12リリース時の資料でご説明します。まず、動いているLinuxカーネルに再起動なしでパッチを当てるライブカーネルパッチによって、稼働時間を伸ばすとともに脆弱性からの保護にもしています。

 また、Btrfsファイルシステムによって、スナップショットやロールバックが可能になっています。拡張機能として販売しているReal Time Extensionは、制御関係はもちろん、株式の高速取引でも使われています。同じく拡張機能のHigh Availability Extensionや、さらに大陸間HAクラスタにも対応したGeo ScaleのHigh Availability Extensionもあります。

 これからSLESに入る技術としては、まずARM 64ビットの対応があります。現在検証中で、年内に正式対応する予定です。もう一つ、DAX(Direct Access)を含む永続メモリのサポートがあります。

SLES 12のライブカーネルパッチ技術

――基調講演では、Jonathan Corbet氏が、永続メモリをどう扱うかをこれから考えなくてはならないと話していました。そのあたりはどうでしょうか。

Pavlik氏
 彼の言ったことは正しい。が、われわれは一部の分野で永続メモリの利用を研究しています。たとえば、永続メモリ用にファイルシステムを効率化したり、DAXでアプリケーションを高速化したりを研究しています。

 また、永続メモリによるジャーナルの高速化や、ソフトウェアRAIDのパフォーマンス向上なども試しています。永続メモリをハードウェアRAIDのバッテリ駆動のキャッシュのように使うことで、ソフトウェアRAIDで整合性を保つための書き込みバリアが不要になり、パフォーマンスが数倍上がります。

――最後に、これからの方針や、言っておきたいことなどを。

Giacomo氏
 Linuxカーネルは会社としてコアの技術として今後も注力していきます。その一方で、クラウドやSoftware Defined Datacenterへの対応も強化します。

 日本は豊かな歴史や伝統と、最新技術が両立しています。SUSEも同じく伝統と最新技術が両立していて、似ていると思います。

河合氏
 SUSEはいい技術を持っています。それをビジネスにするのが私の仕事です。そのために、いいパートナーを増やしていきたいと思います。