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東芝「Human Smart Community」への取り組み、M2M/IoTで何を実現する?

NTT Communications Forum 2014

香川弘一氏

 東芝は「エネルギー」「ヘルスケア」「ストレージ」の3分野を軸に安心・安全・快適な社会「ヒューマン・スマート・コミュニティ」をめざしている。そのために重視するのがクラウドやM2MなどのICT技術で、同社クラウド&ソリューション社がICT技術で各事業を束ねる旗艦の役割を果たしている。

 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のイベントでは、その取り組みを紹介する「ヒューマン・スマート・コミュニティを支えるグローバルクラウド戦略」と題した講演が行われた。東芝がめざす社会とはどのようなもので、どのように取り組んでいるのか――東芝 クラウド&ソリューション社 クラウドプラットフォーム&サービス推進部長の香川弘一氏の説明からひも解いていく。

東芝が目指す安心・安全・快適な社会

 ヒューマン・スマート・コミュニティは、東芝の「エネルギー」「ヘルスケア」「ストレージ」の技術を駆使して、さらには「テクノロジーを超えて、ビジネスを超えて、暮らしや生命に喜びをもたらす」という構想だ。「technoloty」だけでなく「life」の視点を加えた「lifenology」を提案している。

東芝の目指す「ヒューマン・スマート・コミュニティ」

 例えば「エネルギーの効率を世界各地で上げていく」「ストレージでスマート化を加速させていく」「ヘルスケアで、健康で生き生きとした毎日を実現していく」(香川氏)。そうして世界の都市が抱える課題を解決しようというのが、この構想の狙いである。

 そのために「エネルギー」「ヘルスケア」「ストレージ」分野の製品(モノ)開発を加速させ、IoT/M2M/ビッグデータ技術を駆使し、モノを連携させることで新たな価値の創造を進めている。

 「東芝はさまざまな製品を開発している。それらは現場に置くモノがほとんど。これらを相互につなぐと、例えば、災害予測、交通管制、インフラ・機器保守、スマートグリッド、在宅医療など新たな価値が生まれる。その“創造的成長”に向けて、M2M/IoTが非常に重要。また、その基盤としてクラウドも欠かせないものとなっている」(同氏)。

各業界の現場に東芝の製品を展開
M2M・IoT技術でつなぐことで新たな価値を創造

組織横断でICTを推進するクラウド&ソリューション社

 そこで香川氏の所属するクラウド&ソリューション社が重要な役割を果たす。同社公式サイトには「ビッグデータ時代の多様なニーズに応えるストレージシステムとクラウド基盤を提供。幅広い事業領域に向けてICTソリューションを提供し、スマートコミュニティの実現を支える」ことがミッションとして紹介されているが、より実務的には東芝の各事業体における横断的なICT促進という役割も担う。

 東芝には現在、「パーソナル&クライアントソリューション社」「電力システム社・社会インフラシステム社」「コミュニティ・ソリューション社」「ヘルスケア社」「セミコンダクター&ストレージ社」の事業体が存在するが、この各事業体のICTをクラウド&ソリューション社が組織横断的に支えているのだ。

各事業体のICTをクラウド&ソリューション社が組織横断的に支えている

 ただし、これがなかなか簡単なことではないという。各事業体のICT環境の現状、ニーズがそれぞれだいぶ異なるからだ。「パーソナル&クライアントソリューション社などは以前よりAWSの活用が進んでいる。一方、電力システム社はまだまだクラウド化ができてないし、ヘルスケア社では他よりも飛び抜けてビッグデータの重要性が高い」。こうした各事業体のニーズを踏まえながら、組織横断でICT環境を整えていくのは、技術的にも人の意識的にも課題は多いのだという。

コミュニケーション活性化に挑む川崎新拠点

 それを克服するための取り組みが、2013年4月11日に竣工した川崎スマートコミュニティセンター(以下、川崎SCC)で進められている。「省エネと快適性を両立した最先端の環境配慮型オフィスビルで、スマートコミュニティ事業のグローバル展開に向けた中核拠点」とする同センターでは、社会インフラ社をはじめ、スマートコミュニティ事業に関連する部門の従業員7800名を順次集結させ、いかにシナジー効果を生み出すか、実証実験ともいえる試みがなされているのだ。

 「部門・事業・会社間を横断した技術の融合、価値の創造をめざし、センター内に集結する部門のコミュニケーション活性化に取り組んでいる。全館に無線LAN、ユニファイドコミュニケーションを整備するほか、執務フロア内に開けたスペースの内階段を配置し、コラボレーションスペースを各所に多数配置。空間そのものがコミュニケーションを活性化するようなデザインとなっている」。

 同時にエネルギー関連の実証も進めており、空調システムをエネルギーモデル化して執務者の快適性を維持しながら、もっとも省エネとなるように温湿度を制御する「モデルベース最適空調制御」と、画像センサーにより執務者の在/不在を検知して照明1灯ごとに調光を制御する「画像センサー応用照明制御」で、それぞれ7%と11%の省エネ率向上を達成している。これらはいずれも国内初の技術という。

川崎SCCでのコミュニケーション活性化の取り組み
エネルギー分野でも実証実験的な取り組み

NTT Comとの協業でグローバルクラウド基盤を

 一方、クラウドに関しては、グローバルに事業を展開する準備が着々と進んでいる。その代表例が2014年2月25日に発表されたNTT Comとの協業だ。

 「スマートコミュニティは世界的な取り組み。当社もグローバルに事業を展開するにあたって、その地域に対応するクラウド環境が必要となる」(同氏)。その環境を、世界150拠点以上のデータセンターと、196カ国・地域をカバーする、ネットワークに直結したクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」で整えようというのが協業の狙いだ。

Bizホスティング Enterprise Cloudのグローバルクラウド拠点を活用

 「Bizホスティング Enterprise Cloudは、世界中で利用できながら、共通サービスとして日本で一元管理できる点が優れている。さらにコロケーションとクラウドも直接接続できる点も大きかった。これができるパブリッククラウドは実はそんなに多くない」(同氏)というのが、NTT Comをパートナーとした最大の理由だったという。

 これにより東芝は、世界中の拠点からアクセスできるクラウド基盤を実現した。ここに「エネルギー」「ヘルスケア」「ストレージ」の各種コア技術とM2M/IoT/ビッグデータ技術を連携させて、「ヒューマン・スマート・コミュニティを支えるグローバルクラウド戦略」を推進していく。

ストレージ技術で「常識を変える」

 さらにNTT Comとは、東芝ストレージの強みを生かしたクラウドサービスの共同開発も進めているという。

 「東芝グループのストレージ技術は、最先端のデバイス(HDD・SSD・フラッシュメモリ)を開発しているだけでなく、RAIDや圧縮、故障検知といったシステム技術、さらにバックアップ・アーカイブやストレージ統合といったソリューション技術を一貫して提供できるのが強み」(同氏)。

 こうしたストレージ技術で「クラウドの常識を変える」取り組みが進められている。「今までのクラウドは特定のアプリケーションのみに最適化され、TCO削減が主な目的だった。しかし、今後はTCO削減と価値提供を両立し、社会インフラシミュレーションのような新たなアプリケーションを生み出す環境が求められる。そこでまだアイデアレベルだが当社が考えているのが、ファシリティ層、ストレージプール層、ストレージサービス層をそれぞれ最適化し、世界中に点在するデータを仮想統合する『Data Lake』を実現するというもの」(同氏)。

 「ストレージプール層」はオールフラッシュアレイで高速処理し、「ストレージサービス層」ではオブジェクトストレージや構造化/非構造化データベースをはじめ、さまざまなインターフェイスとエンジンで高い拡張性を実現する。そうして作り出す「Data Lake」により、IoT時代のアプリケーション要求に応える新アーキテクチャを創り出す考えだ。

東芝グループのストレージ技術
IoT時代のアプリケーション要求に応える新アーキテクチャへ

 現在、我々には環境問題、エネルギー問題、人口問題などさまざな課題が、世界レベルで突きつけられている。そこで進められているのが都市そのものを進化させる「スマートシティ/スマートコミュニティ」といった取り組みだ。そのキー要素として、M2M/IoT/ビッグデータなどの技術に期待がかかっている。

 そこで扱うデータは膨大なものとなり、2020年には40ZBに上ると推測される。これらをいかに、世界規模で活用していくか。ビッグデータを活用した事例はすでにさまざま生まれているが、「スマートコミュニティを実現するためには、ICTもこれからまだ『多様性』『広域性』『協創性』という3つの課題を解決していかなければならない」(同氏)。

データ量40ZBの世界
ビッグデータ活用への期待

 ICTはこれまで業務を効率化してきた。また、コンシューマ技術により日常生活を便利にした。今後は「テクノロジーを超えて、ビジネスを超えて」いかに世界規模で社会を改善していけるか。「エネルギー」「ヘルスケア」「ストレージ」を軸に進める東芝の取り組みもまだ始まったばかり。「Human Smart Community」で実現されるは、どのような未来だろうか――。

川島 弘之