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大和ハウス、フルクラウド化に向けたネットワーク更改の軌跡

NTT Communications Forum 2014

加藤恭滋氏

 大和ハウス工業は、今年12月には社内にある最後のサーバーをクラウドに移行し、社内システムのフルクラウド化を実現する。このフルクラウド化実現にあたって更改しなければならなくなったのがネットワーク網だ。フルクラウドとなれば、ネットワーク利用は不可欠となるが、その際、ネットワーク網がネックとなってビジネスのスピードを遅くすることは許されない。同社はいかにして、ネットワーク更改を進めていったのか。それを実現するために、情報システム部門はどう変化していったのか。

 NTTコミュニケーションズのイベントの特別講演で、大和ハウス工業 執行役員 情報システム部長の加藤恭滋氏が説明した、同社の取り組みを紹介する。

フルクラウド化に伴い、顕在化したネットワークの課題

 「プログラムの中にあるタイトルの内容からは、ちょっと内容が変わるかもしれないが、せっかくの機会なので、ネットワークという観点から我々がICT基盤となるネットワーク改革にどう取り組んだのかをお話ししたい」――大和ハウス工業の執行役員 情報システム部長である加藤恭滋氏はこの言葉から講演をスタートした。

 同社は社内サーバーの全面クラウド移行を進め、「今年12月に社内に残ったサーバーのクラウド化が完了する予定で、これでフルクラウド化が完了することになる」と早期段階からクラウド活用を進めてきた。

 クラウド化はコスト削減、社内リソースの有効活用、人材配置を自由化しやすくするなどのメリットを生んでいるが、「その一方で、新たな課題も生まれた」。その課題となったのがネットワークだった。

 大和ハウス工業はグループ企業が130社を超える他業種展開を進めている企業だが、メインとなるのは戸建て住宅、集合住宅、商業施設など住宅・施設の提供だ。そのため事業展開に必須となるのがCADである。

 「住宅事業を展開している以上、CADは不可欠になる。しかも、建設の際に必要になるだけでなく図面から部品、調達と展開されていくため、国内外問わずネットワークを通じてCADデータがやり取りされる。プレハブを生産する工場では、生産ライン、施工ラインにもCADデータが使われ、容量が大きいだけにトラフィック量は年々増加する傾向にあった」。

 特に海外での施設や住宅施工となると、大容量データをやり取りするネットワーク環境整備が事業をスムーズに進める課題となる。クラウド化によって、海外でもシステムが利用しやすい環境は整えたものの、それを支えるネットワーク網が不十分なままでは意味がない。

 また、実は同社のネットワークは基幹系、情報系、コミュニケーション系が全て同一ネットワーク上に載っていた。そのため、どこかでトラフィックが大きくなれば、レスポンス悪化の影響は全社に及ぶことになっていた。「そこでネットワークを更改することとした」。

2006年からフルクラウド化に着手。成果とともに新たな課題も
CADデータのやり取りが国内外で増え、ボトルネックが膨大に

同社のネットワーク変遷

 同社のネットワーク環境の歴史を振り返ると、システムの変遷に合わせこれまでにも様々な取り組みを行ってきたことがわかる。

 1999年以前はデータ系ネットワーク(FR網)、音声網、オフコン用ISDNを利用。1999年には新会計システムと東京/大阪ビル移転にともない、専用線によるデータ系+音声系のネットワーク網を構築。2002年には旧会計システムのさらなる活用にあわせ、地区の母店経由で本社に送っていた通信網を、フルメッシュ型ネットワークのIP-VPNに更改している。

 また、2003年から2005年までは中国の大連でオフショア事業を開始したことにともない、グローバルIP-VPNを開始。2004年には個人情報を保管するデータ共有サーバー導入にともなって、バックアップNWの有効活用を実施した。パソコンも一人一台でモバイル対応し、音声通話についてもVo-FRからVo-IPへと変更している。

 2008年にはクラウド化がスタートし、社内サーバーをIDCに移設するとともに、ネットワークもセンターに集中させた。NW帯域不足が予想されたことから、IP-VPN回線を1Mから3Mへと広帯域化し、バケットシェーバ導入による帯域のコントロールも実施している。
 こうしてシステム変更にあわせネットワーク網の見直しを進めてきたわけだが、2013年、ネットワーク更改を実施する。更改にあたっては、「日々変わる状況に即応できるICT基盤として、柔軟・迅速・シームレスという3つのキーワードを実現する新しいネットワーク網を実現した。従来からNTTコミュニケーションズのネットワーク網を利用してきたが、今回はこの3つのキーワードを実現できるネットワーク網として『Arcstar Universal One』を選択した」という。

ネットワーク更改を行った際のポイント
Arcstar Universal OneでグローバルシームレスなICT基盤を実現

「Arcstar Universal One」でネットワーク混雑を解消

 混雑していたネットワーク環境を整理するために、基幹系、情報系、コミュニケーション系と用途別にネットワークを分け、グローバルな拠点間をワンストップで、シームレスに、ワンストップオペレーションとなるICT基盤となるネットワーク網とすることが目標であった。

 導入後の成果としては、「従来と同じコストでありながら、2倍以上の帯域を利用できるようになり、それまであった現場からのクレームがなくなった。国内外を問わず、必要な時に、必要な場所にネットワーク環境を揃えることができるようになり、仕事の効率が大幅に向上した。

 加藤氏はこうした成果をふまえて次のように提言した。「フルクラウド化によって、社員のワークスタイルが大きく変わっている。それを支える、我々IT部門も変わっていかなければならない」。

ICT基盤確立の効果

業績加速のため、生まれ変わるIT部門

 大和ハウスの業績はきわめて好調だ。2014年3月期の売り上げは2.7兆円だが、2055年に100兆円企業になることを目指すという大目標に向け、全社がビジネスを加速させている。この好調な業績を加速させていくために、IT部門自身も変化していかなければならないというのが加藤氏の見方である。

業績はきわめて好調

 大和ハウスのIT部門では、ベストセラー小説「ザ・ゴール」の著者で物理学者のエリヤフ・ゴールドラット博士が提唱する、「Theory of Constraints(TOC)=制約理論」に基づいた大改革を進めている。

 「現代は速いスピードで経営が変わっていく時代。ICTがそこに追従できないといけない」と、経営改革のスピードを加速するような情報システム部門となるべく、変革を進めている。

 従来、情報システム部門は、事業ごとに情報システム構築を行い、人員を配置していた。これを全体最適が実現できるように、流動性がある人材配置を変更した。これは限られた人員で、グループ全体のIT活用を支援、推進するための体制である。

 「情報システム部門の改革は、戦略・ガバナンス、業務系では組織改革、インフラ系ではインフラ改革は一応完了したものの、プロセス改革についてはまだまだブラッシュアップしていきたい。インフラ系のワークスタイル改革についても、タブレット、スマートフォンの現場でのかつようについてもっと進行させていきたい」。

 こうした変革を支えるために絶対に欠かせないのがネットワーク網であり、「ネットワーク基盤の改革なしには、情報システム部門の大変革は成り立たない」と加藤氏は話す。

情報システム部の役割
情報システム部の改革の全体像

フルクラウド化はビジネスを加速させる

 今後の計画としては。「世の中が相当なスピードで変化している。このスピードに対応していくためには、中で作るよりも、外にある良いものを積極的に取り入れる方がよい」という。日本の情報システム部門はカスタムメイドが定番で、すでにあるものを使うことを嫌う傾向があった。しかし、その姿勢では世の中のスピードについていけなくなるというのだ。

 加藤氏は、「そこに気が付いたのは、2011年7月にiPadを導入した時だった」と振り返る。すでにあるものを活用することで、余分なコストを使わず、新規開発にともなうリスク削減とプラス効果があると話す。

 ネットワークについても、「イントラネットではなく、インターネットを活用する方が、メリットが大きい。守らなければならないのは、データだけではないか」とデータに関するセキュリティさえ保持できればよいと大胆な見方を示す。

 こうしたインターネット、既存の製品を利用するメリットを痛感している好例として、マイクロソフトの「Office 365」をあげる。「社内に取り込んで利用すれば、バージョンアップといった作業に手間がかかる。クラウドで提供されているものをクラウドで利用することで、余分な手間を省くことができるというメリットが生まれる」。

 フルクラウド化を実現したものの、「単なるプライベートクラウドにとどめるだけではもったいない」とフルクラウド化がゴールではないという。むしろ、「インターネット上で動くビジネスをどう実現するのか、そのためのフルクラウド化だ」とあくまでもビジネスを加速させるためのフルクラウド化であると講演の最後に加藤氏は強調した。

今後の展開。イントラ中心からインターネット中心のネットワークへシフトし、最新のICT技術を柔軟に導入できる環境へ

三浦 優子