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ウェアラブル、AI、無人配達航空機――革新的技術の裏に「データサイエンス」あり

NTT Communications Forum 2014

日本経済新聞社 論説委員兼編集委員の関口和一氏

 NTTコミュニケーションズが開催した「NTT Communications Forum 2014」において、日本経済新聞社(以下、日経新聞) 論説委員兼編集委員の関口和一氏によるグローバルセミナー「データサイエンス時代の世界ICT新潮流」が10月10日に行われた。セミナーでは、データサイエンスに対する期待が国内外で高まるなか、経営者はモバイルやクラウドなどの新技術を経営にどう生かしていくべきか、海外の先進事例などを紹介しながら将来を展望した。

 関口氏はまず、新たな情報通信技術(ICT)を活用した海外のトピックスとして、「IBMやグーグル、マイクロソフト、Amazonなど米IT大手企業による人工知能分野の動向」や「米テスラモーターズの最新電気自動車」、「IBMの人工知能コンピュータ『ワトソン』」、「GEが提唱するインダストリアルインターネット」、「ドイツで盛り上がっているインダストリ4.0」、「アマゾンの無人配達航空機『プライム・エアー』」といった最先端の動きについて紹介。これらの取り組みを支えているのが、データサイエンスであると強調した。

 また、データサイエンスが急速に進展した要因として、新たなデータ解析ツールや分析ツールが登場してきたことを指摘。「発端となったのは、グーグルのファイル技術『MapReduce』の論文公開だ。この論文をベースに、ヤフーが大規模分散ソフトウェア『Hadoop』を開発。そして、これをFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが積極的に活用し、データサイエンスの動きが広がっていった。さらに、分析ツールでは、米タブロー・ソフトウエアがデータベース技術とコンピュータグラフィックス技術を融合した新たなBIツールを開発。グーグルも『BigQuery』、アマゾンも『Redshift』でこの分野に参入してきている」という。

 「海外のこうした動きに対して、日本では、従来から一つの企業内で培われる暗黙知によって技術開発が行われてきた歴史がある。しかし、これからは暗黙知ではなく、ビッグデータ活用へシフトしないと、最先端のデータサイエンスには追いついていけないだろう。今後、携帯端末は2020年に73億台、IoT装置は300億台へと拡大し、ビッグデータの経済効果は2020年までに1.9兆ドルとも見込まれている。そして、スマートフォンやタブレットをはじめ、ソーシャルメディア、ウエアラブル端末、スマートテレビ、スマート家電、スマートカー、スマートペイント、スマートロボットなど、IoT/IoEの流れはさらに加速していくことが予測される」との考えを述べた。

 IoT/IoEの先進事例としては、「ドイツテレコムによる航空機の荷物へのインターネット活用」、「フィリップスのアンドロイドTV」、「次々登場する最新のウエアラブル端末」、「自動車業界におけるウエアラブル活用の動き」、「来年発売される『Apple Watch』」などを紹介していた。

 データサイエンス分野を巡る動きでは、米国が世界に先駆けて、その取り組みを強化している。「例えば、米国では、関連研究開発の投資に2億ドルを支出したほか、データサイエンティストの育成に向けた大学院教育の強化、ビッグデータに関する懸賞事業の開催、非構造データの分析ツールの開発、ゲノム計画データをクラウドで無償提供といった取り組みを進めている」という。

この流れに日本はどう追随すべきか

 「日本でも、来年以降のマイナンバー制度の施行にともない、医療や交通、産業などさまざまな分野でビッグデータの活用が本格的に進んでいくことが期待される」と関口氏。日本における代表的なビッグデータ活用例として、NTTドコモ「モバイル空間統計」、コマツ「コムトラックス」、ウェザーニューズ「ゲリラ雷雨予測」、ホンダ「インターナビ」、アマゾン「電子書籍ハイライト情報」、ショッパーセプション「陳列棚最適化」、エリクソン「ダイナミックディスカウント」を紹介した。

 一方で、これから迎えるデータサイエンス時代において、日本が直面する課題にも言及。関口氏は、「日本は、未だに自前主義や縦割り構造が強く、ガラパゴス現象から脱しきれていない。また、個人情報保護へのアレルギーが強すぎるのも課題だ。これが、国民ID制度導入の遅れやパソコンの持ち出し禁止、公共分野における電子化の遅れを招いている。さらに、著作権の過保護体質も改善していく必要がある」と述べた。

 そして、日本の新たなIT戦略の実現に向けて、関口氏は、「ビッグデータやオープンデータの推進」、「政府CIOによる縦割り行政の打破」、「マイナンバーによる電子行政の推進」、「クラウドコンピューティング基盤の整備」が重要になると指摘。あわせて、データサイエンス時代に求められる法制度として、「著作権法・放送法などの規制緩和を行い、『通信と放送の融合』を推進する必要がある。また、個人情報保護法の運用を見直し、再整備することが望まれる。さらに、公的部門におけるIT利用を促進するために、行政・医療・教育分野の規制も見直してほしい。このほか、クラウド基盤の国内整備を後押しする法制度も必要になる」と訴えた。

 最後に関口氏は、データサイエンス時代への備えとして、「情報は隠すものではなく広く使うよう、経営トップが意識改革を行うこと」、「安全神話を見直し、過保護政策による高コスト構造と決別すること」、「クラウド環境と社内環境を使い分け、ハイブリッド型システムを構築すること」、「ソーシャル技術の活用によって、ネットワーク型意思決定システムを確立すること」を提言し、講演を締めくくった。

唐沢 正和