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ダイキン工業、北米のデータセンター向け冷却市場における体制を強化
2025年12月3日 06:30
ダイキン工業株式会社は、データセンター向け冷却市場に関して、その中核となる北米市場での事業展開について説明した。
同社では、2023年にAlliance Air Products(アライアンスエアー)を買収したのに続き、2025年9月にはDynamic Data Centers Solutions(DDCソリューションズ)を、2025年11月にはChilldyne(チルダイン)をそれぞれ買収。データセンター向け冷却市場の液冷および空冷のニーズに対応できる体制を整えた。
ダイキン工業 執行役員 アプライド・ソリューション事業担当の宮武正明氏は、「ダイキン工業では、データセンター冷却事業を中長期の重要な成長ドライバーに位置づけている」と説明。2023年度には約230億円だった北米データセンター冷却事業の売上高が、2025年度には約1000億円に拡大する見通しであることや、2030年度には、2025年度の約3倍となる3000億円以上に拡大させる計画を明らかにした。2025年度には、北米での事業比率は全体の約4割だが、2030年度には6割以上に拡大することになる。また2030年には、大空間方式が7割、液冷方式が3割を占めると見ている。

さらに、2026年度にはデータセンターソリューションハブを北米に新設し、買収した企業を横断した開発体制を敷くことも発表した。買収した3社は、いずれも米国サンディエゴに本社があったため、これらの企業の連携を図るとともに、人材獲得にも活用し、グローバル拠点としての機能を持たせるという。新設するデータセンターソリューションハブは、DDCソリューションズの既設の建物を利用することになる。
「品質や省エネ性の差別化に加えて、3~5年での短期周期で行われるサーバーラックの更新、拡張の容易性を差別化できる製品群をそろえている。また、空冷式と液冷式をフルラインアップで取りそろえ、ハイブリッド方式での冷却能力を提供できる点も強みになる。さらに、それらを統合制御するシステムを開発し、パッケージとして提供することで、圧倒的な省エネソリューションを実現できる」とし、「買収企業との協業を通じて、それぞれの技術や知見を、ダイキンの開発力、生産力と組み合わせることで、差別化された冷却機器を市場投入できる」とも説明している。
北米におけるデータセンター向け冷却市場は、2025年に約1兆1000億円規模であるのに対して、2030年には約2.5倍の約2兆7000億円に拡大すると見込まれている。クラウドサービスの拡大、データ量の急増によるデータセンター新設の増加とともに、AIサーバーでの熱処理負荷が増大し、冷却に対する重要性が高まっていることが背景にある。同社の試算によると、2022年には1ラックあたりの消費電力は約15kWであったものが、2025年には約100kWに、2026年には約250kWになるとし、さらに2028年には600kW以上になると見ている。
「データセンターの24時間365日の安定稼働を実現するには、冷却設備は最も重要なインフラになる。この需要に確実に対応し、ダイキン独自のソリューションを提案していく」と意欲を見せた。
ダイキン工業では、データセンター向け冷却市場においてAmazonやGoogleなどに導入した実績があり、北米市場では12%のシェアを獲得し、第3位のポジションにある。だが、日本国内での実績は現時点では少ないのが実態だ。
「北米市場を最優先する方針であり、GAFAMのすべてに納入することを目指す。一方で、日本国内では都市型データセンターが増加すると見ており、既存データセンターを、AIデータセンターにリノベーションする動きが期待される。DDCソリューションズなどの買収した企業の製品を通じて、国内のデータセンター市場にも打って出ることができる」としている。
現時点では、DDCソリューションズなどの製品を日本国内で生産することについては「検討中」としており、当面は北米市場に注力する考えだ。
データセンター冷却事業では3つの分野で提案を実施
ダイキン工業では、データセンター冷却事業において、「大空間冷却」、「サーバー冷却」、「チップ直接冷却」の3つの提案が可能だとする。
「大空間冷却」においては、アライアンスエアーの買収によりデータセンター向け大型エアハンドリングユニット(CRAH)事業に参入。同社が持つ顧客ごとの仕様に柔軟に対応する高いエンジニアリング力と省エネ性に、ダイキンが持つモノづくり力を融合することで、買収時に比べて、事業規模が約4倍に拡大しているという。
さらに、ダイキンでは、データセンター向けチラーの新製品を投入し、大規模空間冷却領域での事業拡大に弾みをつける姿勢も強調する。
高集積地向けに容量を拡大した業界トップクラスの大容量磁気軸受チラーである「WME-C Quadチラー」のほか、従来のAWVチラーを高外気対応へ改良したり、高外気向け磁気軸受空冷チラーを新たに投入したりといった取り組みを行っている。
「北米では、データセンター建設用地の確保が難しくなり、既存敷地内での高集積化や、水資源が確保しにくい地域、高温地帯などの厳しい気候条件の場所にデータセンターを建設しなくてはならないといった動きが出ている。こうした環境では、より大きな冷却能力を持つ設備や、高外気温下でも稼働する設備が求められる。新製品は厳しい建設環境にも対応できるもので、総合的な提案力を生かしながら、大空間冷却領域においても事業拡大を目指す」という。
2つめの「サーバー冷却」は、DDCソリューションズの買収によって新規参入した領域となる。
大規模データセンターでは、サーバーラックの後方から冷風を吹き付けるリアドア方式が主流となっているが、冷却能力が不足したり、熱だまりが発生したりといった課題がある。それに対して、DDCソリューションズが発売している「Sシリーズキャビネット」は、特許取得済みの技術を活用することで、ラックごとに筐体を密閉し、内部で気流の流れを最適化し、熱だまりを防止。高い熱処理能力を発揮するだけでなく、高い省エネ性を両立できるのが特徴だ。
最大100kWにまで柔軟に対応可能で、ラック単位で段階的に置換や拡張できる。
「従来のリアドア式を置き換えていくソリューションになる。この市場において、2030年までに30%のシェア獲得を狙う」とした。
ダイキンのモノづくり力を活用し、2026年春には、量産体制を確立する計画だという。
3つめの「チップ直接冷却」では、2025年11月にチルダイン買収。同社が持つ真空式液冷システムにより、AIサーバーの高発熱に対応する液冷ソリューションを展開するという。
「真空式により、配管内部を真空状態に保つことで、配管に損傷が生じても、液体が外部に漏れず、内部に引き込まれる構造となっている。液冷システムで最大の課題となる漏れリスクを大幅に低減できる」という。
また、構造がシンプルであるため、液冷システムの導入時に必要な施工などを最小化でき、建設ラッシュと人手不足が課題となっているデータセンターの建設現場にとって大きなメリットがあるという。
ダイキン工業 常務執行役員 アプライド・ソリューション事業本部 副本部長の竹内牧男氏は、「チルダインはスタートアップ企業であるため、生産できる規模が少なく、ハイパースケーラーをはじめとした旺盛な市場ニーズに応えることができていない。ダイキンの工場の中で量産することで要求に対応できる」とした。ダイキン工業では、2026年春に量産体制を構築するという。
さらに、ダイキン工業の宮武執行役員は、「大空間冷却、サーバー冷却、チップ直接冷却のすべてにおいて差別化できる製品を提供できる強みを生かし、これらを組み合わせて、全体を最適に機能させることに力点を置く」との方針を示し、「24時間365日の安定稼働を実現する信頼性、電力負荷の増加に伴う冷却設備への省エネ性を実現。自社開発の統合制御システムにより、導入時から運用時に至るまでのコストの最適化も図る。冷却の構成要素ごとに複数のサプライヤーと調整するのではなく、冷却全体の最適化を1社でカバーできる。これが他社との差別化の源泉になる」とも語った。
ダイキン工業では、生産能力の強化に向けて、段階的な投資を進めており、需要動向をとらえながらニーズの拡大に対応。重要顧客との意見交換により、必要な設備投資をタイムリーに判断し、実行していくことになるという。
ダイキン工業の子会社であるダイキンアプライドアメリカズ(DAA)が持つフェニックス工場での生産を開始するとともに、チラーの生産を行うメキシコ工場での生産拡大も計画している。
ダイキン工業 常務執行役員 アプライド・ソリューション事業本部 副本部長の竹内牧男氏は、「ダイキンは、全世界に100カ所以上のエアコン工場を持つ。DDCソリューションズの製品も、チルダインの製品も、大規模な設備投資は必要がないため、これらの生産拠点を活用し、ニーズがある市場で生産することもできるだろう。柔軟に生産拠点を拡大できるように、モノづくりの標準化や生産性向上への取り組みも進めていく」と語った。
また、開発体制の強化にも乗り出し、大阪府摂津市のテクノロジー・イノベーションセンター(TIC)をはじめとして、産業用途向けのアプライド関連エンジニアを強化するほか、米国での開発体制や試験体制の強化も図る。
「買収企業を含めた横断的な開発チームを組成し、市場動向の変化を迅速に反映することで、3つの冷却方式を一体で進化させたいと考えている。また、大学やパートナー企業との産学および産産による共創も進め、将来のデータセンターのニーズを見据えた技術開発を加速する」(ダイキン工業の宮武執行役員)という。
なお、液浸冷却については、TICにおいて研究開発を進めていることも示した。
ダイキン工業の竹内常務執行役員は、「今後、コールドプレートの要素技術や液浸関連技術が必要になるかもしれないが、現時点では、データセンター向け冷却市場への参入に必要な技術は獲得できた」としている。






