イベント

ITのシンプリフィケーションはグローバル化を迫られる日本企業にとって急務~SAPジャパン・堀田氏

NTT Communications Forum 2014

 グローバル化や少子高齢化など経営を取り巻く外的環境が大きく変わろうとしている現在、日本企業が成長を続けていくにはITのシンプリフィケーション(Simplification)が大きなカギになる。

 本稿では10月9日~10日にかけて開催されている「NTT Communications Forum 2014」の特別講演の中から、10日に行われたSAPジャパン バイスプレジデント ソリューション&イノベーション統括本部長 堀田徹哉氏による、「The Power of Simplification - SAPが拓くエンタープライズシステムの未来」の概要を紹介する。

SAPジャパン バイスプレジデント ソリューション&イノベーション統括本部長 堀田徹哉氏

グローバル化で多様性と複雑性が増している

 堀田氏はまず日本企業を取り巻く外的環境の変化について「多様性と複雑性を増している」と指摘、その変化の要因とそこから派生する影響について以下のように説明する。

・日本の経済的地位の低下 → 販売/生産/原材料調達などあらゆる企業活動のさらなるグローバル化
・世界的中間層の拡大 → 新興国マーケットの成熟化に対応した製品/サービスの多様化および高度化
・国内労働力の減少 → 国籍/性別/価値観を異にする多様な人材のマネジメントおよびパフォーマンスの最大化
・「第4次産業革命」 → 人やモノが相互につながり、情報交換しあう世界、ものづくりや顧客とのかかわり方の革新

 この4つに共通するポイントはやはりグローバル化だ。内需だけで高度成長を果たしてきた時代はとうに終わり、いまや日本企業はサプライチェーンを世界中に張り巡らせ、世界のあらゆる地域から従業員を採用し、人やモノがいつでもどこでもつながっている世界を相手にビジネスをしていく必要に迫られている。

 経営環境のグローバル化が進めば当然、多様化と複雑化が進む。だがオペレーションの現場ではあらゆる領域での高度でリアルタイムな最適化が求められる。「すべての個への最適化に本気で取り組むと、業務が限りなく複雑化し、それに伴ってITも複雑化する」と堀田氏。そして複雑化したITはさらにオペレーションを複雑化させ、企業経営のリスクを高める要因になってしまう。

SAPのシンプリフィケーション推進を支える「SAP HANA」

 こうした日本企業が抱える課題に対して「SAPはITのシンプリフィケーションでもって解決を図っていきたい」と堀田氏は強調する。そしてSAPのシンプリフィケーション推進を支えるソリューションがインメモリテクノロジの「SAP HANA」だ。2011年に最初のリリースを行ってからすでに3年が経過するHANAだが、いまや単なるインメモリデータベースの枠を超え、SAPの全製品を支えるプラットフォームとなっている。

 2013年にはSAPのフラグシップ製品である「SAP ERP」もHANA上で構築できるようになり、「インメモリプラットフォームで基幹業務が動く時代」(堀田氏)に入ったということができる。

 なぜHANAがシンプリフィケーションを支えるプラットフォームとなりうるのか。堀田氏はHANAの特徴として「SAP ERPはもちろんのこと、OLTP/OLAPを問わずあらゆるアプリケーションを載せられるのがHANAの強み。SAPアプリケーションだけではなくサードパーティ製品やカスタムビルドの環境もサポートできる。またインメモリ上でデータを処理するので、中間処理用のテーブルを必要としない」という点を挙げている。

HANAはあらゆるアプリケーションを載せられるインメモリテクノロジである点を強調

 この強みは、大量のデータをリアルタイムに処理することがそのまま勝ちにつながる世界、例えばプロスポーツの現場などで生かされることが多い。堀田氏は、今年のFIFAワールドカップで優勝したドイツチームやF1のボーダフォン・マクラーレン・メルセデスがHANAによるリアルタイム分析で勝利を重ねている例を挙げ、現場のプレーヤーとバックエンドのITが同時にパフォーマンスを最適化することで、大きなインパクトが生まれる点を強調する。

 もっともエンタープライズ企業のオペレーションはプロスポーツの現場と同じようにはいかないことも多い。堀田氏は「SAPはプロスポーツの世界もサポートしているが、企業情報システムを支えることは創業以来のコアビジネス。だからHANAによるシンプリフィケーションの体験を、日本企業の皆さまにも知っていただきたい」として、最新のSAP ERPの画面をデモで紹介している。

シンプルなITを実現するHANAはすでに多くの業界での実績をもつ。最近ではプロスポーツの世界での事例が知られている

 「昔のSAP ERPの画面とは異なり、現在はHTML5ベースの“Fiori”というユーザーインターフェイスを採用している。データはすべてインメモリ上に置かれているので、リアルタイムにビジネスの現状を把握することが可能。月末の締めが終わってからしか会計情報を見られなかった時代と違い、いまは例えば日本にいながらにして、ブラジルで生じているトラブルをリアルタイムにチェックすることができる」(堀田氏)。

 現在、SAPはインメモリビジネスに大きく舵を切っている。堀田氏は「インメモリこそがエンタープライズを再設計し、シンプリフィケーションへと導くカギだと信じている」とインメモリの可能性をあらためて強調する。

SAP ERPは現在、タイル状のユーザーインタフェイス「Fiori」を採用している
グローバル時代らしく、日本にいながらにしてリアルタイムにブラジルの現状を把握することも可能

*****

 全世界に25万社、日本にも2000社を超えるユーザー企業を抱えるSAPは、ある意味、日本の業務システムの代名詞と言っても過言ではない。

 堀田氏は講演の最後、「われわれの変化は日本の業務を変えると思っている。また、SAPのユーザーはNTTコミュニケーションズのユーザーとも大きく重なっている。インフラレイヤは日本企業にとって最もシンプル化が難しい部分でもあるが、それもクラウドが解決する目が見えている。SAPのアプリケーションとNTTコミュニケーションズのインフラは親和性が高い。両者でもってITのシンプリフィケーションを推進し、日本企業の成長に貢献していきた」と結んでいる。

 “Run Simple”を掲げるSAPの方向性が日本企業の業務をいかに変えていくのか、今後の展開に注目したい。

SAPとNTT Comのユーザーは重なっていると堀田氏。両者でシナジーを出すことで新たなクラウドランドスケープも見えてくる

五味 明子