特別企画

「クラウドがネットワークの価値を再定義する」、あらためて問われる通信網の品質

NTT Communications Forum 2014

 NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、独自イベント「NTT Communications Forum 2014」を10月9日・10日に開催。「進化したクラウド」をテーマに、同社が提供する製品、サービスがそろった。

 これらの展示は、ネットワークを提供するキャリアがクラウドを提供することで、他社にはないどんな差別化ができ、価値を創造することが可能なのかを示すものとなった。

 今回の展示会から明らかになった、クラウド時代に必要なネットワークのあり方とはどんなものかを紹介する。

クラウドがキャリアにもたらす新ビジネス

 NTT Comでは、2015年度にクラウド関連事業で売上高2000億円という目標を掲げ、サービスや製品の拡充を進めている。NTT Communications Forum 2014へまさにその目標を達成するために必要な製品、サービスが一堂に紹介された。まずは、展示内容の一部を紹介しよう。

 展示会場の最初の展示物は、普段は目にすることがない海底ケーブル。展示されている海底ケーブルのサンプルは、日常的に目にしているケーブルからは規格外。消防自動車に搭載されている消防ホースと同じくらいの大きさがあり、クラウドを支えるインフラとしてのネットワーク網は強力なケーブルに支えられていることがわかる。

 海底ケーブルについては、2012年8月に開通した東京-シンガポール間を結ぶASE(アジアサブマリンケーブルエクスプレス)、2013年7月に完了した東京-シカゴ間のPC-1 100G化に続き、2015年第一四半期には新欧州ルート、同年第2四半期にはAPG(アジアパシフィックゲートウェイ)、2016年第一四半期にはASEカンボジアルートが開通予定となっている。グローバルでクラウドを活用したビジネスを行う企業に向け、強力なネットワーク網が整備されていくことになる。

国際海底ケーブルの展示

 次のコーナーは大企業から規模の小さな企業まで、幅広い企業群に合わせたクラウドサービスが展示されていた。「Bizホスティング Enterprise Cloud」は規模の大きな企業をターゲットとした、ネットワーク、データセンター、アプリケーション、セキュリティまで、ICTリソースを自由に組み立てることができる、グローバルなクラウドサービス。「Bizホスティング Cloudn」は低価格で利用できるパブリッククラウドサービス。利用環境によって、選択することができることが特徴となっている。

Bizホスティング Enterprise Cloud
Bizホスティング Cloudn

 パートナーソリューションプログラムは、セールスパートナーとの協業によってビジネスを拡大するためのプログラムだ。

 Nexcenterは世界規模で、ビジネスのためのICT環境を提供する。世界130拠点にある高品質のデータセンターによって、顧客のビジネス環境を支えていくことをアピールした。

データセンターの模型を展示

 ネットワークサービスの紹介コーナーでは、法人向けモバイルサービスとして「Arcstar Universal Oneモバイルサービス」「OCN モバイル One for ビジネス」を展示し、法人に必要となるモバイル環境を紹介。さらに法人でクラウドを最大限に活用するためのグローバルネットワーク「Arcstar Universal One」が紹介された。

Arcstar Universal One
法人向けモバイルサービス

あらためて問われる通信網の品質

 さまざまなサービスや製品が展示されていたが、実はこの中に、NTT Comにしか実現できない世界がある。それはクラウド時代になり、さらに不可欠な存在になった「ネットワーク」で大きな強みを持っている、という点だ。

 インターネットの台頭で、ネットワークに接続して仕事をすることが当たり前になった。だが、コンテンツやサービスを支えるネットワークの質が言及されることは、それほど多くなかったように思う。

 しかし、企業が当たり前のようにクラウドを利用するようになった今では、「ネットワークの質」が重要なキーワードとなる。

 会場で行われた特別講演の中で、大和ハウス工業の執行役員 情報システム部長の加藤恭滋氏が行った講演が大変興味深いものだった。当初予定では、「グローバルレベルでのICT基盤確立によるスピード経営の実現」という内容で講演が行われるはずだった。しかし、加藤氏は「せっかく、NTT Comさんの展示会の会場なので、ネットワークの話をしたい」と、同社がクラウド化によってネットワーク強化を進めなければならなくなった経緯を紹介したのだ。

 実は大和ハウス工業はクラウド化に関しては先進企業で、社内に残るサーバーを2014年12月に撤去すれば、完全クラウド化が実現する。このクラウド化を進めるにあたり、社内ネットワークの混雑が顕著となり、ネットワークの見直しを行うことになったのだという。

 特に大和ハウスでは、グループ企業も含め、建設のためのCAD活用が欠かせないため、データ容量が大きいCADデータをスムーズにやり取りすることが求められる。しかし、携帯電話ネットワークで起こっている“パケつまり”のような状況が発生し、事業にマイナス影響を及ぼすようになっていたという。

 さらに、同社では日本だけでなくグローバルにビジネスを行っている。もちろん、クラウド化すれば海外でもサービスを利用しやすくなるが、そのためには海外拠点でも日本と同様に、質の高いネットワークを利用できる環境を整えなければならない。そこでこうした課題をクリアするためにネットワーク見直しが行われ、NTT ComのArcstar Universal Oneを導入したのだ。

CADデータのやり取りが国内外で増え、ボトルネックが膨大に(出典:大和ハウス工業の講演より)
Arcstar Universal OneでグローバルシームレスなICT基盤を実現(出典:大和ハウス工業の講演より)

 このように、クラウドサービスはネットワーク環境が整った中で利用することを前提としている。極端にいえば、全面クラウド移行を実現しても、ネットワーク環境が整わなければそれは絵に描いた餅でしかない。ネットワーク環境が整っていない場合は、「クラウド化する前の状態の方が使い勝手がよい」といったことが起こり得る。

 これまでクラウド化にあたっては、クラウドを実現するためのITインフラ部分や、クラウドサービスの機能といった面にばかり焦点が当たってきた。しかし、今後はビジネスを行っていくのにふさわしいネットワーク品質を持っているのか、といった点をもっと考えていかなければならないだろう。

 もちろん、SDNのような新しい技術によって、これまでとは異なるネットワーク環境を整備するための仕組みも登場してきている。展示会場には、WAN最適化ソリューション、ニュープロトコル「RevUDP」、SDN基盤「AMPP」といった新技術を紹介するコーナーもあった。

 だが、やはり基本となるネットワーク品質が、クラウドをスムーズに利用する鍵の一つであることは間違いないだろう。クラウドの本格普及によって、あらためて高い質のネットワークが必要な時代となったのである。

インフラ事業者に求められる盤石な体制

 かつて商用インターネット黎明(れいめい)期には、ネットワーク事業者がどんなネットワーク網を使っているのかが大きな話題となった。その後、インターネットの普及が進むに従って、ネットワーク網が話題にのぼることはほとんどなくなった。

 しかし、企業がクラウドを利用する中で、あらためて海外も含めてどんなネットワーク網を持っているのか、キャリアを選択する際の重要な基準となるのではないか。

 会場にはNTT Comが拠点を持っている、世界各国のサービスを紹介するコーナーも設けられていたが、ネットワーク事業者がこうした海外拠点を持っているか否かも、企業がキャリアを選択する際の重要なポイントとなるのではないだろうか。

各国の担当者が集まった、グローバルカフェというコーナーが設けられていた

 さらには、災害が起こった際にネットワークを復旧するための移動車なども展示されていた。インフラとなるネットワーク網は災害対策も含め、事業者としての体制が問われる。企業が利用するネットワークは単に安価であることだけを基準に選択してはいけない。クラウドを効果的に利用するためにも、ネットワークの品質を問い直すことが必要となることを、今回のイベントからあらためて考えさせられた。

災害時にネットワークを復旧するための移動車両

三浦 優子