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【IBM Pulse 2014】オープンで柔軟性のあるDynamic Cloudを開発者PaaS「BlueMix」で実現

 2014年2月24日、米国ラスベガスでIBMのカンファレンス・イベント「IBM Pulse 2014」が開幕した。これまではシステム管理用ソフトウェア製品などがイベントの主役だったが、今年はそれが交代しクラウドに。テーマは「The Premier Cloud Conference」となった。

クラウドが自動車の未来を変革する

Continental Automotiveのバイスプレジデント、Brian Dressler氏

 テクノロジーの進化で、ジェネレーションギャップが生まれている。いまや若い世代は、ボイスメールを残すこともない。Eメールすら使わない。コミュニケーションは、いますぐオンデマンドで何でもできないとだめなのだ。人々の意識や行動も変わった。無料で面白いサービスを利用するためなら、自分の情報もどんどん提供してしまう。

 また、例えば大学生の就職申込用紙のEメールや自宅電話番号欄が、空白なことがたびたびある。学生が情報を隠しているのではなく、それらを持っていないのだ。固定はだめワンウェイもだめ。モバイルでツーウェイでないとというのが若い世代だ。

 そんなテクノロジー変化の先端事例として紹介されたのが、自動車の自動運転。Continental AutomotiveのバイスプレジデントであるBrian Dressler氏が登壇し、クルマがつながることで自動運転を実現するコネクティブ・カーにIBMと協力していることが報告された。コネクティブ・カーの実現には、もちろんクラウドが使われる。

 「自動運転はSFでしたが、いまはそうではありません。自動車の必然的な進化の、次なるステップとして自動運転を目指しています」(Dressler氏)。

 自動運転には一部だけ自動、運転者がオーバーライドできるもの、そして完全な自動運転と3つのステップがある。2020年ころまでには2ステップ目を、2025年には3ステップの目を実現するというチャレンジングな目標を立てている。これは、未来には大きな可能性が秘められているとであり「われわれが未来をどう見ているかの提言です」とDressler氏は言う。

 自動運転を可能にしているのが、クラウドのテクノロジー。自動車がリアルタイムに通信してクルマ同士がコミュニケーションし、さまざまなデータを分析して運転の安全性を高める。

 また、クラウドで自動車の開発環境も一変する。素早く開発しそれをすぐにクルマに展開する。自動車がAPIを持っていて、開発者が作ったアプリケーションがクラウドから配信されるのだ。

 「クラウドが自動車に対するアプリストアになります。これは、クルマがDevOpsの対象になるとことでもあります。将来それをどう実現するかで、クルマに対する顧客満足度が変わります。例えば、週末にディーラーに行く必要はなくなるでしょう。クルマが直接クラウドを通じ会話をして、クルマのソフトウェアをアップデートして燃費を向上するなども可能となります。自動車の新しい時代がやって来るのです」(Dressler氏)。

これからのクラウドはオープンでなければならない

IBM グローバルテクノロジーサービス シニア・バイスプレジデントのErich Clementi氏

 IBMでクラウドの技術を担当するグローバルテクノロジーサービス シニア・バイスプレジデントのErich Clementi氏は、クラウドはコストを安くしデリバリーを早くするだけのものではない。新しい成長のエンジンだと言う。クラウドを活用しないと、ビジネスに革新は訪れない。IBMはクラウド関連にさまざまな投資を続けており、例えば最近ではクラウドデータセンターに12億ドルもの投資を行っている。今後もクラウドに関する「大胆な動きを発表することになる」とClementi氏。

 いつでもどこでも使え、パーソナル化していてさらにリアルタイム。それがいま消費者が望みだ。企業はそれに対応できなければならない。そのためにITやビジネスが変わる必要がある。その変化はITマネージャー、ビジネスリーダー、開発者といった、かつて企業の中ではばらばらだった人たちの仕事の境界をあいまいにする。

 結果的には、従来の役割の範囲を超え協力しながら業務を進めなければならない。そうすることが、ビジネスが直面する問題をいち早く解決する方法となる。そしてそれを実現するのが、Composable(部品化されて、それを状況に応じ自由に組み替えることができる)ビジネスだと言う。

 古い会社でも新しい会社でも、アプリケーションを変更しビジネスプロセスを変え、常により良いものにし続けなければならない。そのためには、仕組みは劇的にシンプルで俊敏性があるべき。さらに、これからは顧客と社員のエンゲージメントも必要となる。それも、できるだけ素早くやる。当然ながら、その仕組みはセキュリティリスクも回避できなければならないのだ。

 これは、従来のITの仕組みでは実現できない。とはいえ、パブリッククラウドだけでもだめ。プライベートクラウドだけでもだめ。ハイブリッドでなければならず、それをIBMではDynamic Cloudと呼ぶ。

 「Dynamic Cloudは、特定ベンダーのクラウドではなく、オープンでなければなりません。オンプレミス、オフプレミスも含めクラウドのミックス状態を考慮し、それでビジネスの結果を出すことを考えるのです」(Clementi氏)。

 Dynamic Cloudで開発者は堅牢なツールが手に入る。ITマネージャーは自動的に最適化される環境が手に入り、ビジネスのイノベーションに集中できる。それらにより新しい収益源が手に入り、新しい仕事のやり方が見えてくる。

 この一連のサービスをIBMでは「IBM as a Service」と呼ぶ。つまり、単にクラウド化するのではなく、IBMが提供しているすべてをサービス化してしまう。サービスの対象はオンプレミスでもオフプレミスでも、それらが混在していてもいい。実現する仕組みの主要プラットフォームがクラウドになる。

 このためにも今後IBMでは、Websphereなど既存ソフトウェアのクラウド化に10億ドルを投資する。そういった動きでDynamic Cloudを、IBM as a Serviceを、推進していく。

Dynamic Cloud実現で鍵を握るのは開発者、それを支援するPaaSがIBM BlueMixだ

 さらに、Dynamic Cloudの世界で鍵を握るのが開発者だ。迅速に顧客が望むアプリケーションにするには、開発者が直接顧客とエンゲージメントするほうがいいと、IBMのソフトウェア担当でシニア・バイスプレジデントのRobert LeBlanc氏は言う。

 開発者が考えているものを、いかに速く実現するか。そのためにどのような環境が必要か。当然ながら、モバイルアプリケーションも必要になる。アプリケーションは、Eコマースなどのシステムともつなげたくなる。それを従来の開発しテストしてという手順で構築していたら18週間はかかる。「いまはそれを18日でやる時代だ」とLeBlanc氏。

 そのための開発環境には、3つの柱がいる。オープンであること、独自クラウドではだめだ。2つ目が統合化できること。3つ目は柔軟性を持っていること。

 「クラウドでの開発には連続性が必要です。そして、スピードがすべてです。パターンを使って効率化する方法もあります」(LeBlanc氏)

 これらすべての要素を持っているのが、開発者のためのPaaSであるIBM BlueMixだ。今回はこれが、クローズドからオープンベータのステータスになったと発表された。Composableな環境であり、どんな言語のアプリケーションもBlueMixには載せられる。構築したサービスはベンダーに縛られることはない。インテグレーションサービスもあり、モバイルアプリケーションの構築も容易。セキュアにバックエンドサービスともつなげられる。包括的なサービスの開発者のためのプラットフォームだと、LeBlanc氏は自信を見せる。

米TwilioのCEO、Jeff Lawson氏

 24日朝にはもう1つの発表があった。エンタープライズ向けNoSQLデータベースのマーケットリーダー、米Cloudantの買収だ。これによりクラウドの開発者は、SQLからNoSQLまでを容易に利用できるようになる。Cloudantは、すでにSoftlayerの上でも動いている。

 BlueMixの部品として、テキストやボイスでのリアルタイムのクラウドコミュニケーション機能を提供する米Twilio。同社のCEO Jeff Lawson氏が登壇し、実際にBlueMix上で既存アプリケーションに機能追加する様子をデモンストレーションで示した。Lawson氏は、いまは商品なりをより早く出荷したものが勝利する時代だと言う。そのためにはクラウドベースのコミュニケーションが重要になると。

 BlueMixとTwilioを使えば、5分以下、コストも2ドル以下で機能追加できる。以前ならこのような機能の実装に十数カ月かかったかもしれない。BlueMixでTwilioを使うには、BlueMixにログインにして新しいサービスの追加でTwilioを選択。続いてセキュリティなどの設定をし、使いたい電話番号を選び登録する。あとは、十数行のAPIを使ったコードを書くだけで、既存アプリケーションにコミュニケーション機能が追加できる。

 「これがまさにクラウドのパワー、たった5分でなおかつコストも2ドル以下でできます」(Lawson氏)。

 インテグレーションサービスを使えば、バックエンドのシステムともBlueMixを使って簡単につなげられる。クラウドは、どんどんオープンな方向に向かっているとLeBlanc氏。IBMでは、開発者のエコシステムにも注力する。開発者みんなを助けるメンターの立場にあるのが、IBMだとも言う。

 既存のIBMのソフトウェアは、すべてをいまSoftlayerの上に載せようとしている。それが実現すれば、いままで使っていたものをそのままクラウドで使えるようになる。そうなれば、開発者はすぐに既存アプリケーションをクラウドで動かせる。

 「BlueMixはベータがオープンしているので、みなさんぜひ試してください。BlueMixはみなさんに使っていただくために開発したものです」とLeBlanc氏は言い、クラウドの中にあるチャンスを生かしてほしい、大きなチャンスがみなさんを待っていると参加者に呼びかけた。

 オープンなクラウドで、出遅れた感のあるIBMは一気に巻き返しを図ろうとしている。その際の鍵は、開発者からの支持ということにもなりそうだ。

谷川 耕一