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「ハイブリッドクラウドは1つのシステムとして動かなければならない」~IBM Pulseレポート

オンプレミスとクラウドの“両方があるだけ”ではダメ

 「IBM Pulse 2014」2日目のゼネラルセッションは、クラウドのインフラストラクチャの話題から始まった。ソフトウェアとシステムを統括する米IBM シニア・バイスプレジデントのSteve Mills氏によれば、IBMではソフトウェアとハードウェアの両面に、年間67億ドルもの研究開発投資をしているという。

 「クラウドの世界は極めて成長している分野であり、新たなテクノロジーがどんどん入ってきています。それにより、空いていたピースが埋まり完成に向かっています」とMills氏。ここ最近は、Federation(連携、連合)できるものに特に投資している。こういったことを率先してやるので、IBMは顧客から頼りにされる存在になるのだと。そして、頼ってくれる顧客があるからこそ、IBMは存在できるとも言う。

アナリティクスとクラウドが組み合わさればITシステムは最適化する

IBM クラウド/スマーター・インフラストラクチャ担当ゼネラルマネージャーのDeepak Advani氏

 IBM クラウド/スマーター・インフラストラクチャ担当ゼネラルマネージャーのDeepak Advani氏は、ビッグデータとアナリティクスから話を始めた。Advani氏は、もともとはシステム運用管理製品のTivoliなどを担当していた。その彼が、ある意味専門外のビッグデータとアナリティクスの話をする。彼のもともとの専門領域であるシステムの運用管理と、ビッグデータ、アナリティクスの世界は、いまや密接に関連するのだ。

 どのような業界であっても、洞察があれば意思決定の質は上がる。さまざまなデータがあり、マーケティング、人事など企業のあらゆる部門で集められたビッグデータを用いよりよい意思決定をしようとしている。

 とはいえアナリティクスは、IT面から見ればまだまだ活用し切れているとは言えない。例えば、大手企業であれば毎日平均して1.3TBものデータが生まれる。金融サービスも日に1.2TB、サービスプロバイダーでは1000万件を超えるネットワークイベントが発生するという調査結果がある。それだけたくさんのデータが発生しているが、既存のシステムにはさまざまな制限もありそれらすべてを利用できるわけではない。

 IBMは、ここ5、6年でアナリティクス分野に170億ドルもの投資をしている。それによりビッグデータを扱えるようにし、さらに予測をして先手を打つことを目指している。予測を行うための製品買収もしたし、自社内開発のテクノロジーとしてはなんと言っても「Watson」がある。これら予測する技術を使うことで、ITシステムの異常を事前に検知し、トラブルが起こる前に対策を取ることができる。「これを実施し、コスト削減を実現している例もすでにたくさんある」とAdvani氏は言う。

 あるオンラインバンクでは、顧客の処理が集中するとレスポンスが下がる課題を抱えていた。この現象にかかわるシステムのパラメーターはあまりにも数が多く、どれがどう関係しているかを人間が把握し対策することは難しかった。これに対してアナリティクスの仕組みを適用することで、顧客の需要を自動的に予測し、適切なリソース配置が可能になったのだ。これでコストの削減と同時に、顧客満足度の向上へとつながる。

 単に予測するだけでなく、そこから何をしたらいいのかが分かることが重要だ。

 「そのためには非構造化データも分析し、本当にそこで何が起こっていて、それにどう対処すればいいかが分からなければなりません。Barclays Bankでは、アナリティクスの仕組みを導入してログ解析時間が大幅に改善しました。これは、解析時間が短くなっただけでなく、分析結果から何をすればいいのかが分かるようになったことがポイントです」(Advani氏)。

 アナリティクスはこれまで、ビジネスの意思決定に利用するものだった。しかし、ログデータのような非構造化のビッグデータも解析できるようになり、いまやITシステムも最適化できるのだ。仮想化の環境では、自由にデータの保管場所を動かせる。アナリティクスと組み合わせれば、データを使用するパターンに応じ最適にデータを動かすことができる。

 例えば月末などの給与計算をするタイミングだけ、そのデータを速いストレージに移動する。IBMでは自社内でこれを実施し、ストレージコストの大幅削減を行っている。つまりはビッグデータやアナリティクスがクラウドテクノロジーと結びつくことで、ITシステムの最適化が実現できさまざまなメリットが生まれるのだ。

IBMはストレージに載せるデータを最適化してコスト削減と効率化を実現

Dynamic Cloudを実現するために必要な3つの要素

 今回のイベントでたびたび登場するのが、「ハイブリッドクラウド」という言葉。オンプレミスとオフプレミスの両方があればハイブリッドと呼ばれるのがこれまでだったが、それらはせいぜい、データ連係が行える程度。IBMは、さらにこのハイブリッド・クラウドを賢く運用しようとしている。それが「Dynamic Cloud」ということでもあるのだ。

 このDynamic Cloud実現のためには、3つの重要な要素があるとAdvani氏は言う。その1つめが、ポリシーベースのオーケストレーションだ。これをオンプレミス、オフプレミスを含めたITシステムのライフサイクル全体に適用する。何らかのシステム負荷のスパイク現象が発生するなど、それまでならマニュアルに沿って手作業で管理していたようなことが、自動化し効率化している例がすでに出ている。

 この時に重要なのは、リソース面から最適化するのではなく、クラウドの上で動いているアプリケーションの面からワークロードを最適化するようにリソースを動的に構成することだ。

 2つ目のポイントが、オープンであること。これは、オープンスタンダードが必要だというだけでなく、オープンクラウドのアーキテクチャになっていることが重要だ。そのためにIBMは、オープンアーキテクチャを推進するコミュニティにも参加し、そこで実際にオーオウンスタンダードを作り普及するための活動に貢献している。このように多くの企業と共に実際に活動することで、より速く容易にクラウドを統合できるようにもなる。

 3つ目は、継続的なデリバリーだ。クラウドはいったん構築したらそれで終わりではない。新たなアイデアがあれば、それをすぐに実現する場でもある。あるいは、アナリティクスの結果でより最適な形に変化させる必要もある。これらをいちいち手作業で行うのではなく、ツールを用い自動化できることが重要となる。

 IBMの主張するDynamic Cloudのようなハイブリッド・クラウドを構築できるベンダーは、MicrosoftかOracleくらいしかいないだろう。オンプレミスのソリューションを持たないAmazon Web ServicesやGoogleは、ハイブリッドを実現できない。Oracleはハイブリッドを構成する要素はそろっているが、まだまだ肝心のクラウド部分については出遅れ感がある。Oracleも標準はうたっているが、IBMの言うところの「オープンスタンダードのインターフェイスを提供しているだけ」であり、クラウド環境自体がオープンアーキテクチャと言うまでは至っていないことになる。

 Microsoftもオープンというところは、弱い。環境をMicrosoft色に染め上げることができれば、Active Directoryなどを活用し、オンプレミスとオフプレミスを一体化したハイブリッドクラウドを構築できるだろう。当然、Microsoftはそういう方向で製品やサービスを進化させている。

 しかし最終的にはオープンであるところが勝利する、とIBMは言う。IBMが先導するクラウドのオープンスタンダードの世界に、どれだけのベンダーが賛同するのか。IT業界全体として、クラウドでのオープン化の動きがどう発展するかが成功のための鍵となりそうだ。

谷川 耕一