2013年にリリースされる、Intelの新しいサーバー向けプロセッサ
今回は、9月に開催されたIntelの開発者セミナー「IDF(Intel Developer Forum) 2012」の資料をもとに、2013年のサーバープロセッサのロードマップを解説していく。
■2013年にはIvy Bridge世代に移行するXeon
2012年にリリースされたSandy Bridge世代のXeon E5シリーズは、ミッドレンジの2ソケット(E5-2600シリーズ)、ローエンドの2ソケット(E5-2400シリーズ)、ローエンドの4ソケット(E5-4600シリーズ)といった3種類がリリースされている。
Xeon E5シリーズを採用したサーバーは、各サーバーベンダーともに順調に売れている。プロセッサのベースアーキテクチャが、第2世代のCore iシリーズ(Sandy Bridge世代)から第3世代のCore iシリーズ(Ivy Bridge世代)に移行することで、性能が大幅に向上したことが理由だろう。
一方、クライアントPC向けには、2012年に第3世代のCore iプロセッサが一足先にリリースされている。一年遅れで、サーバープロセッサもIvy Bridge世代に移行することになる。
その時期についてIntelでは明言はしていないが、メインストリームサーバー向けのXeon E5シリーズでは、クライアントプロセッサの1年後のリリースをめどにしているようだ。
クライアントプロセッサはGPU部を内蔵しているが、サーバーではGPU部を削除し、CPUコア数を増やしたり、より大容量のキャッシュメモリを搭載したりするなどの再設計を行っている。Intelでは、初代のCore iシリーズ(Nehalem世代)からモジュール設計を採用しているが、サーバー向けへの設計変更、テスト(バリデーション)などを考えると、1年ほどのタイムラグが出てきてしまうのだろう。
なおこうしたタイムラグが生じる理由としては、無理をしてクライアント向けプロセッサと同じタイミングでリリースするよりも、クライアント向けでまずテストを行い、アーキテクチャとして安定してきた段階でサーバー向けプロセッサをリリースしたほうが、導入企業にとっても安心できるという判断もあると思われる。
■省電力化や仮想化対応が強化されるIvy Bridge世代のXeon
第3世代のCore iプロセッサであるIvy Bridge世代は、それまでの32nmから22nmへ製造プロセスが移行している。サーバー向けプロセッサでも、Ivy Bridge世代に移行することで、さらに省電力化されるだろう。ピーク時の電力消費もSandy Bridge世代よりも低くなり、CPU負荷が中程度から、アイドル状態では、相当省電力化が図られるだろう。
またIvy Bridge世代のXeonでは、APICvという仮想化の性能をアップする機能が搭載される。APICvは、割り込みを管理するAPICを仮想化に対応させたものだろう。現状では、APICからの割り込みをハイパーバイザーが処理をしているが、この一部をAPICvがハードウェアで肩代わりする。これにより、仮想化のパフォーマンスがアップする。
ただ、ハイパーバイザーがAPICvをサポートする必要があるため、プロセッサがリリースされたとしても、APICvに対応したハイパーバイザーがリリースされないとメリットを享受できないため、Ivy Bridge世代のXeonがリリースされれば、各社のハイパーバイザーも対応することになるだろう(サポートのタイミングに早い遅いはあるとしても)。
なお、APICvによって、どの程度仮想化のパフォーマンスがアップするかは明らかにされていない。このあたりは、実際に製品がリリースされるころには明らかにされると期待したい。
IDFでは、Ivy Bridge世代のXeonのCPUコア数、キャッシュ容量、サポートメモリなどの詳細に関しては発表はなかったが、Ivy Bridge世代のXeonは製造プロセスが微細化されるため、微細化された分CPUコア数とキャッシュメモリ容量が増え、CPUコア数は10(20スレッド)、L3キャッシュが最大25MBほどになると予想されている。
サポートされるメインメモリのスピードに関しては明確になっていない部分もあるが、DDR3-1866がサポートされる可能もある。容量に関しては、より大容量のメモリモジュールがサポートされるだろう。
シリーズは、Ivy Bridge世代のXeonでも、Sandy Bridge世代と同じく3種類のシリーズがリリースされるだろう。これは、Ivy Bridge世代のXeonがSandy Bridge世代のXeonと同じピン数/ピン配置を採用しているためだ。
サーバーベンダーにとっては、サーバー自体を新規設計しなくても、Ivy Bridge世代のXeonを搭載してテストするだけでいいため、メリットが大きい。熱設計に関してはSandy Bridge世代よりも低くなるので、Sandy Bridge世代のサーバーがそのままIvy Bridge世代でも使用可能と見られている。これなら、新しいプロセッサを搭載したサーバーを素早くリリースできるだろう。リリース時期に関しては、Intelは明言していないが、2013年の春から夏ごろと予想されている。
Intelでは、Ivy Bridge世代のXeon E5/E7を2013年にリリースする予定だ |
■マルチソケット向けのXeon E7シリーズもIvy Bridge世代へ
Ivy Bridge世代のXeonでは、x86プロセッサのハイエンドとなるXeon E7シリーズがリリースされる。現在のXeon E7シリーズは、Sandy Bridge世代の1つ前となるWestmere世代で提供されている。さすがに2012年現在では、アーキテクチャも一世代古くなり、性能や省電力機能面で見劣りがする。
そこで早ければ2013年の末には、Sandy Bridge世代ではスキップされたE7シリーズが、Ivy Bridge世代で提供される。
Ivy Bridge世代のXeon E7シリーズでは、専用のチップセットを使って4ソケット以上のサーバーが構成できる。また、メインメモリに専用チップを使うことで、大容量のメインメモリを搭載可能になる。
CPUコア数に関してIntelは明らかにしていないが、16コア(32スレッド)になると予想される。
Ivy Bridge世代のE7シリーズは、メインフレームやUNIXサーバーなどと比較されるほどの性能を持つ、エンタープライズ向けのサーバーに利用されるだろう。また、高い性能、高い可用性、大容量のメインメモリを持つため、1台で中小規模企業のプライベートクラウドを構築できるのではないか。
■シングルソケット向けはHaswell世代に
2013年にリリースされるHaswellは、Ivy Bridgeと同じ22nmの製造プロセスで作られる。Tock世代に当たるため、プロセッサのマイクロアーキテクチャ変更が行われている |
一方、シングルソケットのサーバープロセッサは、2013年には第4世代Core iアーキテクチャのHaswell世代に移行する。これは、クライアントプロセッサがHaswell世代に移行するのに伴ってのこと。
Haswell世代は、製造プロセスはIvy Bridge世代と同じく22nmだが、回路設計をチューニングしてより省電力化を図っている。プロセッサのアーキテクチャとしては、すべてを新たにするのではなく、Ivy Bridge世代のボトルネックを改良したものになる。
また、Sandy Bridge世代が搭載された256ビット演算のAVX(Advanced Vector Extension)にいくつかの命令が追加され、AVX2に変更されている。さらに、インデックス&ハッシング、暗号化、エンディアン コンバージョンなどの命令が追加される予定だ。
CPUコアあたりのパフォーマンスを高めながら、消費電力を下げるという方針をとっている | AVX命令セットがAVX2にバージョンアップしている | 暗号化機能の性能アップも図られている |
もう1つ特筆すべき点は、Haswell世代のプロセッサに、Intel TSX(Transactional Synchronization Extensions)という機能が追加されていることだろう。
Intel TSXは、データベースなどで使われているトランザクションメモリ機能をプロセッサ上の命令としてサポートしたものだ。つまり、特定のメモリデータだけをスレッドがロックして、データ全体をロックしないようにするトランザクションメモリ機能が、ハードウェアでインプリメントされる。
Intel TSXを利用すれば、データベースだけでなく多くの企業向けのアプリケーションで相当パフォーマンスがアップするだろう。ただし、Intel TSXに対応したアプリケーションがリリースされないと、Intel TSXのメリットは享受できない。
加えて、Haswell世代のプロセッサで注目されるのは、仮想化機能の強化だ。Haswell世代では、仮想化のベースともいうべき、Guest/Hostの遷移時間が短くなっている。仮想マシンとハイパーバイザーを頻繁に行き来する仮想化においては、Guest/Hostの遷移時間が短くなるだけで大幅に性能がアップする。
さらに、EPT(Extended Page Table)の改良により、キャッシュを無効化するvmexitが起こりにくくなっている。また、vmexitなしにハイパーコールを可能にするVMFUNC命令が追加されている。
これらの命令を完全にサポートしたハイパーバイザーがリリースされれば、仮想マシンのパフォーマンスはさらにアップし、物理マシンと仮想マシンの性能が非常に小さくなるだろう(Guest/Hostの遷移時間の改善は、現状のハイパーバイザーでもメリットが享受できる)。
Haswell世代のプロセッサは、仮想化を前提としたプライベートクラウドやパブリッククラウドにおける仮想マシンのパフォーマンスを大幅に引き上げるだろう。ここまでくれば、仮想化がサーバーの基盤となるといえる。
ただ、Haswell世代の2ソケットプロセッサ(Xeon E5のライン)は、2014年のリリース
が予想されるので、登場はもう少し後になる。それでも、2013年に登場するシングルソケットのHaswell世代Xeonをベースにして各社がハイパーバイザーを開発するため、ユーザー企業はHaswell世代のプロセッサをテスト環境にして、2014年の新サーバーへ備えることになるだろう。
Intel TSXによりトランザクションメモリ処理が高速化する | Haswellでは、仮想化のVT-x機能を改良して高速化を図っている | Haswellでは、仮想化機能としてVMFUNCという新しい命令を追加している。ハイパーバイザーがVMFUNCをサポートすることで性能がアップする |
■2013年はMicro Serverの時代になるか?
2012年末には、Intelがサーバー向けのAtomプロセッサ(開発コード名:Centerton)をリリースする。すでに、HPがProject MoonshotのプロセッサとしてCentertonの採用を表明しており、省電力型サーバー・プラットフォームの「Gemini」としてリリースされる予定だ。
このGeminiは、今年の夏ごろには、一部の顧客にテスト用に提供されているようだ。ただ、正式なリリースとしては、IntelがCentertonプロセッサをリリース後に発表される。このため、Geminiは年内に発表はされるが、実際に一般ユーザーに販売されるのは2013年になってからだろう。
Centertonプロセッサは、2CPUコア/4スレッドをサポートし、命令セットとしてx64(64ビット環境)、VT-xのサポート(仮想化)、SSE3/SSSE3、ECC付きメモリのサポートなどが行われていると予想される。また、メモリチャンネルとしては、シングルチャンネルで、最大2枚のDIMMが接続できるようだ。動作クロックに関しては、2GHzと1.6GHzが用意される。プロセスは32nmで製造され、6Wで動作する製品が用意されている(2GHz動作の製品は8Wほど)。メインメモリとしては、最大8GBがサポートされる見込みだ。
HPのGeminiは、CentertonをMicro Serverの小型シャーシに納め、数百台、数千台を運用できるようにしている。
さすがに低消費電力でも、Centertonを1000台運用すれば、CPUだけで6000Wになる。しかし、Xeon E3の低消費電力版でもCPU単体で17W必要になるため、同じ6000Wを使ってもプロセッサの数としては350個しか搭載できない。
Xeon E3とAtomではパフォーマンス面で差があるが、CentertonはWebサーバーのフロントサーバーなどとしては、十分なパフォーマンスがあるだろう。
Intelでは、2013年には22nm製造プロセスのサーバー向けのAtomプロセッサ「Avoton」をリリースする予定にしている。Avotonは、22nmプロセスになることで、CPUコア数も増えていく。Avotonに関しての詳細は明らかにされていないが、トータルの消費電力は6Wぐらいで押さえ、CPUコア数を増やしたり、キャッシュメモリの容量を増やす方向に進むと思われる。
CPUコアのアーキテクチャも、Silvermontという次世代アーキテクチャに変更される。これにより、現世代のAtomよりもパフォーマンスが向上する。
■HPC向けのコプロセッサXeon Phi
Intelでは、MIC(Many Integrated Core)アーキテクチャの並列コンピューティング用の演算ボードとなるXeon Phiを正式に提供する。以前から、Knights Cornerというコード名で、HPCを活用している大学や研究所などにサンプルが提供されていたが、Xeon Phi 5110Pと3100シリーズとして2013年1月28日より順次発売されることが、11月13日に発表された。性能としては、Knights Cornerでは、1TFLOPSものパフォーマンスを実現する。
Xeon Phiは、x86CPUコアを60個内蔵したプロセッサとメモリが8GB搭載されている。Xeonとは、PCI Expressインターフェイスで接続されるため、IntelではXeonのコプロセッサとしてXeon Phiを位置づけている。
Xeon Phiは、当面はHPCなどで利用されるコプロセッサとして利用されるが、将来的には企業においてビッグデータの解析などに導入されるようになるだろう。企業で本格的にXeon Phiが利用されるためには、Xeon Phiに対応したアプリケーションが数多く発売されてからになるだろうが。
2013年におけるIntelのサーバープロセッサのロードマップを見ていると、低消費電力が大きなキーワードになる。Xeon E5/E7などでは、高いパフォーマンスを出しながらも、消費電力を抑えていく方向に進むだろう。また、仮想化がサーバーの基盤となるため、プロセッサ側でもさらに仮想化環境における性能向上が図られる。
もう一つ、サーバー分野において新しいマーケットになるのがMicro Serverだ。いくつかのサーバーメーカーが、現状のAtomや低消費電力版Xeonを利用して、Micro Serverを提供しているが、サーバー向けのAtomプロセッサがリリースされることで、本格的にMicro Serverというマーケットが立ち上がるだろう。
ただ、Micro Serverは、どのような用途にも向くというのではなく、当初は特定用途に向けたサーバーになると見られる。例えば、数千台のWebサーバーをフロントサーバーとして運用しているFacebookやTwitterなどにはぴったりなソリューションといえる。
Micro Server分野は、Atomプロセッサの独壇場とはいかないだろう。AMDがARMの64ビットプロセッサ「Cortex-A57」のライセンスを受け、Opteronシリーズでリリースすることを発表しているように、今後はARM陣営との競争にさらされると予想されている。