仮想化道場

サーバー向けのAtomプロセッサが登場、2013年はマイクロサーバー元年となるか?

 今年も押し迫った12月11日(米国時間)に、サーバー向けのAtomプロセッサである「Atom S1200シリーズ」(開発コード名:Centerton)が発表された。以前から話が出ていたサーバー向けのAtomプロセッサだが、実際にリリースされたことで、今後はマイクロサーバーへの応用など、今までとは違う新しいサーバー分野が成立する可能性が高い。

 そこで今回は、マイクロサーバーや低消費電力サーバーに関して、解説していく。

周辺インターフェイスをプロセッサコアに統合したSoCで提供

 Atom S1200シリーズは、Windows 8タブレットなどで採用されているAtom Z2760シリーズ(開発コード名:Clover Trail)をベースにしている。このため、32nmプロセスで製造されている。

 発表されているラインアップはすべてデュアルコアで、1コアあたり、1次命令キャッシュメモリが32KB、1次データキャッシュメモリが24KB、2次キャッシュメモリが512KB搭載されている。また、Hyper-Threading(HT)に対応しているため、HT利用時には、4スレッドを同時実行できる。

 64ビットのx64アーキテクチャに対応し、仮想化支援機能のIntel VT-x、メモリ保護機能のExecute Disable Bit、プロセッサの負荷に応じて動作クロックと駆動電圧をダイナミックに変化させるEnhanced Intel SpeedStep、Streaming SIMD Extension(SSE) 3.0がサポートされている。

 メモリは、800/1067/1333MHzのDDR3メモリを最大8GBまでサポート。サーバー向けということで、ECCメモリもサポートしている(Unbuffered DIMMやSO-DIMMもサポート)。

 Atom S1200シリーズの最大の特徴は、Atom Z2760シリーズと同じように、周辺インターフェイスをプロセッサコアに統合したSoC(System on Chip)になっていることだろう。DDR3メモリコントローラ、PCI Express Gen2 x8レーン、USB 2.0、高速シリアルインターフェイス(HSUART)などがサポートされている。ちなみに、Atom Z2760に搭載されていたGPUは、今回発表された製品には搭載されていない。

Atom S1200シリーズは、SoC化されているため、1チップに周辺インターフェイスなども統合されている
Atom S1200シリーズのブロックダイヤグラム。2個のCPUコア、各種インターフェイスが搭載されたUnCoreが1つのプロセッサに統合されている

TDPが6W台のサーバープロセッサ

 今回発表されたAtom S1200シリーズは、3モデル。Atom S1220が動作クロック1.6GHzでTDPが8.1W、Atom S1240が動作クロック1.6GHzでTDPが6.1W、Atom S1260が動作クロック2.0GHzでTDPが8.5Wとなっている。

 IntelのWebサイトにアップされたデータシートによれば、さらにAtom S1269、Atom S1279、Atom S1289などの3モデルが2013年にリリースされる予定だ。これらのモデルは、今回発表された3モデルに比べると同じ動作クロック数でもTDPが2倍ほどの値になっているため、追加の周辺インターフェイスが搭載されている可能性が高い。

 Intelでは、今後もサーバー向けのAtomプロセッサを進化させる予定にしている。2013年には、22nmプロセスで製造するAvoton(開発コード名)がリリースされる。

 Avotonの詳細に関しては明らかにされていないが、プロセッサのアーキテクチャも一新され、S1200シリーズよりも高い性能を実現しつつも、TDPはS1200シリーズで最も低い製品の6Wあたりをターゲットにしているようだ。

 製造プロセスが微細化するため、4コア/8スレッドと、コア/スレッド数はAtom S1200シリーズの倍が搭載されるようだ。また、キャッシュメモリの容量も増やされるだろう。

 リリース時期に関しては、デスクトップ向けのHaswell(開発コード名)が同じく22nmプロセスで製造されるため、Avotonの製造はHaswellの製造が落ち着いてからの、2013年後半(あるいは年末)になると予想している。

 さらに2014年には、14nmプロセスを利用したサーバー向けAtomプロセッサの製品化も予定されているようだ。

TDPが6W台と、サーバー向けプロセッサとしては、非常に低い消費電力となっている
Intelではサーバー向けのAtomプロセッサとして、22nmプロセスのAvotonを2013年にはリリースする予定だ。その後も、Atomベースのサーバープロセッサの開発は進んでいく

HPが先行するマイクロサーバー

 マイクロサーバーとしては、昨年から米HPがMoonshotというプロジェクト名で、サーバーの開発を進めている。実際、2012年の夏ごろに、省電力型サーバープラットフォームのGeminiとして、一部の顧客にテスト用に提供されている。

 Geminiでは、2Uシャーシに2つのユニットが搭載できるようになっている。1つのユニットにはプロセッサやメモリを搭載したボードが多数搭載され、1枚のプロセッサボードには、複数のAtom S1200シリーズが搭載される。

 1ユニットにはAtom S1200シリーズがおおよそ100個搭載されることになるので、2Uシャーシで200個のプロセッサを搭載したサーバーができあがる。

Atom S1200シリーズは、マイクロサーバーだけでなく、ネットワーク、ストレージ分野でも利用されていくとIntelでは考えている。HP、Dellなど20社がAtom S1200シリーズを利用した製品を提供する予定だ
Intelでは、XeonはWebトランザクションを中心にしたサーバー、Atom S1200シリーズはWebサーバーを中心としたサーバーになると考えている
HPでは、Geminiというコード名でAtom1200シリーズを使ったスケールアウトサーバーの開発を進めている

 HPではGeminiを、FacebookやYahoo!などの多くのユーザーがアクセスするWebサイトのフロントサーバーとして利用することを計画している。Webのフロントサーバーは、小さなデータを大量に処理することになる。このため、1つ1つのサーバーの性能が低くても、数多くのプロセッサを用意して処理をする方が、システム全体では高い性能を示す。

 GeminiでWebサーバーを動かし、ユーザーのデータリクエストを処理するとともに、実際のデータはバックエンドの高性能なサーバーでデータベースを動かし、ネットワークでGeminiにデータを送信する。Geminiでは、WebサーバーとしてHTMLページの生成やユーザーとのトラフィック管理などを行うことになる。

 もう一つ期待されるのが、ビッグデータ処理のHadoop、ビッグデータを扱うNoSQLのCassandraなどの動作プラットフォームとしてだろう。HadoopやCassandraといった分散システムは、データを多数のサーバーに分割して、処理を高速に行うようにしている。このため、個々のプロセッサの性能は低くとも、プロセッサの数が増えれば増えるほどシステム全体の処理は高速化する。この場合、最大の問題となるのが、プロセッサボードの消費電力だ。

HPでは、軽いスケールアウトアプリケーションを利用する上では、Atom S1200シリーズの方が、Xeonよりも1Wあたりの性能が高いとしている
サーバー向けのAtomプロセッサは、単体のCPU性能やI/O性能がそれほど必要ない分野で利用される

 Xeon E3-1265 Lv2などのサーバープロセッサだと、TDPは45Wになる。このプロセッサを1000個使ったシステムは、プロセッサだけで4万5000Wになる。メモリなど、さまざま周辺チップを搭載することを考えれば、データセンターで動かすのは難しくなるだろう。また発熱量が高いため、高密度実装を行ってコンパクトなサーバーシステムを構築する、といったアプローチにも限界がある。

 一方、Atom S1240を使ったサーバーシステムでは、プロセッサの消費電力が6.1Wと、Xeon E3-1265Lv2に比べて1けた少ない。このため、2000個のサーバーシステムを構築しても、プロセッサだけなら1万2000Wで済む。これなら、データセンターに格納しやすいだろうし、発熱も少ないため、高密度型のサーバーにすることも容易い。

 このように、Atomサーバーは、消費電力、コンパクトさなどに優れたサーバーとなる。

Xeon E3-1265 Lv2とAtom S1260では、ノードあたりの消費電力は1/3になっている。性能的には、ノードあたりのSPEC WebではAtom S1260が1/10、ラックあたりのSPEC WEBでは1/2ほどの性能になっている。高密度で、低消費電力なAtom S1260を使えば、1ラックあたりXeonの5倍のプロセッサが搭載できる
HPのGeminiは、このようなシャーシのサーバーに多数のプロセッサが搭載される

ARMベースのサーバープロセッサとの関係は?

 一方、ARMではCortex-A57/A53という低消費電力の64ビットプロセッサの開発を進めている。すでにARMからは、Cortex-A57/A53のコアが提供されているが、実際にプロセッサとしてライセンス各社が提供するのはまだ先とみられる。

 このことを考えれば、低消費電力で高密度実装が可能なサーバー向けのAtomプロセッサを2012年末に提供できるのだから、マイクロサーバーの分野ではIntelがARMよりも一歩先んじている、といえるのかもしれない。

 実際、Cortex-A57/A53を使ったサーバー向けのARMプロセッサを計画しているAMDでは、2014年ごろのリリースを計画している。多くのプロセッサベンダーでは、Cortex-A57/A53ベースのプロセッサは早くても2013年、各社から多くのプロセッサがリリースされてくるのは2014年ごろになるだろう。

 また、Cortex-A57/A53は、低消費電力で高性能なプロセッサとして注目されているが、命令セットがARMベースとなっているため、OSやミドルウェアなどのソフトウェアすべてをARMベースで作り替える必要がある。

 ARMは、米Red Hatなどと協力してソフトウェアの開発を進めているが、データベースなどさまざまなソフトウェアがそろうにはまだまだ時間がかかる。このようなことを考えれば、既存のx86命令セットが利用でき、今までのOSやアプリケーションが動作するAtom S1200シリーズには、大きなメリットがある。

 サーバーシステムを導入するユーザー側にとっても、異なるアーキテクチャのプロセッサを使ったサーバーがデータセンターに入ってくるのと比べて、単一のアーキテクチャでそろえた方が管理面では安心できる。またソフトウェアに関しても、既存のライセンスが利用できるため、システム全体のコストとしても押さえられる。

 まだ、実際にAtom S1200シリーズを利用したサーバーが発売されていないため、どのくらいの性能、消費電力を示すモノかわからないが、ARMベースのマイクロサーバーよりも先に、多くの製品が登場するのは間違いない。

 後発になるARM陣営が、ソフトウェア面のデメリットをはね返すようなメリット(Atomよりも低い消費電力、高い性能)が出せないと、Cortex-A57/A53ベースのプロセッサがリリースされる前に、マイクロサーバー分野ではAtomプロセッサがメインストリームとなってしまうだろう。

 そういった意味で、Atom側がARM陣営に対するリードをどのくらい付けられるかが、2013年の注目ポイントになりそうだ。

(山本 雅史)