できる会社のIT活用術~迷える社長をお助けします

新人がやってきた! eラーニングで研修だ!

 社内にIT管理者が存在しない。特別ITに詳しいスタッフも存在しない。しかし、パソコンは日常的に使っている。もっと会社の業績を上げるために、ITを上手に活用できないか?と考えるものの、その方法がわからず、予算も潤沢にあるとはいえない――。そんな企業は案外多いのではないだろうか。

 そこで今回から6回にわたり、ITには詳しくない企業がどうITに取り組んでいくべきか、架空企業の日常の中から紹介する。ITに詳しくない社員ばかりの企業で、経営者は、ITを自分たちの業績を上げていく武器として活用することができるのか?果たしてその行方は?

「ITなんて大嫌いだ!」

「ITをうまく使えばいいのかな?…」

株式会社インプレレの社長である市ヶ谷一郎は悩んでいた。

株式会社インプレレ:会社概要

創業=昭和22年。従業員数40人。主業務は文房具製品の企画立案。久しぶりに1名新人を採用した。

「売り上げも増やしたい…でも本当に増やしたいのは収益だし…ただし、社員のみんなに頑張ってもらうためには、できるだけ経費は少なく、でもかけるところには費用もかける…そのバランスが難しいなぁ…」

「2013年版 中小企業白書」(中小企業庁)

・新事業展開の課題(複数回答)……新事業を担う人材の確保が困難=小規模事業所:32.2%、中規模事業所:42.1%、販売先の開拓・確保が困難=小規模事業所:36.5%、中規模事業所:34.5%、新事業経営に関する知識・ノウハウの不足=小規模事業所:19.1%、中堅事業所:34.8%

トントン。社長室のドアがノックされ、総務担当の飯田橋花子が入ってくる。

「社長、頼まれていた新入社員用のパソコン、セッティングできました」

「ありがとう。パソコンが得意じゃない飯田橋さんにパソコンのセッティングしてもらってしまって悪いねぇ。でも、今日入社する新宿大介君は25歳のヤングだから、きっとパソコンは得意だよ。もう本来は総務事務の飯田橋さんにパソコンのセッティングをしてもらう必要はなくなるんじゃないかな!」

「(ヤングって…死語ですよ…)新しく入社する方、取引先の紹介でしたっけ?」

「そうそう。25歳だけど、大学を中退していて、アルバイトをした程度だから、正社員として働くのはうちの会社が初めてなんだって」

「えーー?!25歳で初社会人?」

「ん?それがどうかした?」

「…社長、初社会人ってことは、ちゃんと仕事の常識を教えた方がいいってことですよ」

「あ!そうか…じゃ、飯田橋さん」

「無理ですよ…私には社会人としての常識を教えるなんてできません…大体、私の仕事は総務部で事務をすることなんですから…」

「ハハハハ…確かにそうだよね…ハハハハハ(社員研修か…これもちゃんと考えないと)」

「僕、パソコン使えません…」

新入社員、新宿大介は気の弱そうな若者で、社長である一郎は「いかにも、パソコンをバリバリ使って、IT得意そう!」と期待した。

ところが…。

「新宿大介君!君には営業の仕事を覚えてもらいたいと思っています。といっても、営業の仕事は経験も大事だから、僕や営業のスタッフと一緒に客先周りをしながら覚えていってください。取りあえず、当面は僕の話をWordでまとめたり、入力してほしい数字をExcelで入力してくれたりすればいいから」

「僕…パソコンあんまり使えないんスけど…」。

「ええーー?!今どきの若い子って、パソコンなんて問題なくバンバン使えるんじゃないの? (そういえば、今どきの若い子はパソコン使えるのは当たり前と思って、パソコン使えるのかなんて確かめもしなかったよ・・・)」

「パソコンは学校でちょこっと触ったことあるぐらいで…Excelとかイマイチできないですし、Wordも使い方がよくわからなくて…」

「(完全にアテが外れた…) それじゃ、とりあえず、会社の就業規則でも読んでてもらおうかな…ちょ、ちょっと飯田橋さん!」

「はい?」

「(小声で)どうしよう!パソコン、できないって言ってるよ」

「そ、そんなこと私に相談されても…」

「WordやExcelの使い方覚えてほしいんだけど、どうしよう…作業しながら覚えてもうか?それとも…」(花子をジーッと見る一郎)

「そんなに私をじっと見ても、私が教えるとか無理ですから!今、仕事がイッパイ、イッパイなんです!そもそもパソコンに詳しくない私が教えるとか無理があるでしょ!!」

「そりゃそうだよね…やっぱり実地で慣れてもらうしかないのかな…」

「社長、実はある人に勧められたんですけど、eラーニングで勉強してもらってはどうかっていうんですよ」

「いーらんにんぐ?え?ジョギングするとパソコンの勉強ができるの?」

「社長、違います!イーラーニングです!パソコンとネットワークを使って勉強するんです。パソコン教室は教室まで通わないと勉強できませんが、eラーニングは自宅やオフィスでパソコンの勉強ができるんですよ」

「そんな便利なものがあるの…?」

会社にいながら勉強できるeラーニング

市ヶ谷一郎社長は、自分の席に戻り、花子と共に資料を見ながら、eラーニングについて勉強している…。

「eラーニングって、要するに要するにパソコンやインターネットを使って勉強する方法なんだね。学べる講座もたくさんあって、大介君に覚えてほしいWordの使い方や、Excel、PowerPointの使い方の講座もあるのか。お、新入社員を対象としたビジネスマナー講座なんていうものまである」

「もちろん、外の教室に通ってもらうこともできますけど、基本的なeラーニングの講座であれば、時間を選ばないですし、自分の都合で学習できるんです。外の教室に通うことに比べれば効率的だし、交通費がかからない分、費用的なメリットがあるんですって」

「これはいいかもしれないな。どうせ大介君には、最初の1カ月くらい、社内の仕事を覚えてもらう研修をしなければと思ってたんだ。パソコンの使い方、ビジネスマナーといった基本的なことは、このeラーニングというものを使って覚えてもらえば効率的だし、社会人としては望ましい知識を得られるんじゃないのかな?」

「私…もう退職された先輩社員から教えられた変な敬語を信じて、かかってきた電話でそのまま使っちゃって、相手から笑われたことありますもん」

「え?!そ、そんなことが…(汗)」

「そうですよ!!(ちょっと怒りモード)」

「ハ…ハハハ…そういうこともあるから、新宿君にはきちんとした新入社員としての知識を学んでもらおうか…(さらに冷や汗)」

「それがいいと思います!(私も自分の仕事に専念できるし!)」

「しかし、あらためて講座一覧を見ると、新人向けのものばかりでなく、専門的な内容のものも多いね。場合によっては、君たちほかの社員に、そういった講座を学習してもらうことも効果がありそうだ。やってみることにするよ」

そして2週間後…。なんだかんだと新宿大介の面倒を見ている花子のところへ、社長の一郎がやって来た。

「その後、新宿君の様子はどうかなぁ?」

「だいぶしっかりしてきましたね。会社の雰囲気に慣れたということもあるんでしょうが、自信もついてきたんじゃないですか?」

「試しに、『これをWordで清書してくれないか』と頼んでみたんだ。時間はちょっとかかったけど、なんとか作業を行えるようになったね。この調子なら大丈夫じゃないかな?やっぱりヤングはパソコンに抵抗がなくてハハハ」

<eラーニング>

 パソコンなどの情報機器とインターネットを使って行う教育の仕組みの総称。講師と受講者がオンラインでつながって授業を進めるものや、提供されているコンテンツを使って受講者が学ぶ形式のものなど、いろいろなパターンのものがある。

 提供されるコンテンツ内容も幅が広く、WordやExcelといったビジネスで必要とされるソフトウェアの使い方を学ぶものから、ITの専門的な技術の学習といったIT関連のもの、、また、ビジネスマナー、新しいビジネストレンドを学ぶ講座など、ITには全く関係のない内容まで、さまざまな内容が提供されている。

 従来の研修に比べると、受講者が自宅や社内で学習できるために、移動にかかる時間やコストを削減できる上、受講者がきちんと学習を進めているのか、どんなところで間違ったのかといったことが記録される。社員を研修に出す経営者にとっては、社員の学習成果を確認できるというメリットもある。

 多くの事業者からバリエーションに富んだサービスが提供されているので、自社にあったサービスを探してみてはいかがだろうか。

例:
たよれーる 人材育成支援サービス eラーニング(大塚商会)

パートナー企業に相談してみようか?

「それにしても飯田橋さん、よくeラーニングなんて知っていたね。すごいじゃない?」

「違うんですよ。私もeラーニングなんて全然知らなかったんです。ある人に教えてもらったと言いましたが、実はこの間、新宿さんのために新しいパソコンを注文するんでいつもお願いしている三番町システム商会の担当さんにお願いしたんですよ。そうしたら、新人さんが入って、もし社内研修が必要ならeラーニングというのがありますよと教えてくれたんです」。

「三番町システム商会にはパソコンやメール、ネットワークなどの設定を頼んでいるけど。ふーん。そうなんだ、番シスさんは親切なんだね(俺はパソコンは苦手だから…。51歳になって、若い担当者から、『ええ?こんな基本的なことも知らないんですか?』と言われることになったら、とてもいたたまれないよ)」

「ええ!この4月から新しく担当になった秋葉さんになってから本当に親切なんです。こちらが相談すると、『こんなこともできますよ』と適切にアドバイスしてくれるようになったんです。パソコンが苦手な私が何を言ってもばかにしたりされないし」

「ふーん。でも、相談すると紹介されたものを買わないといけないんじゃないの?」

「私もそう思ったんですけど、『必要がないものを購入されても、結局は使われないことになります。納得していただいたものだけを購入していただいて、長いお付き合いをする方が結局は当社にとってもプラスになるんで』って。わからないことや、相談したいことがあれば、『まず一声かけてください』って言われたんです」

「(そうなのか。では、ITを使って会社の経営を強化したい…、とアキバさんに相談してみようかな?)」

IT活用の第一歩を踏み出したインプレレ。さて、一郎社長は、三番町システム商会(通称・番シス)の秋葉さんから適切なアドバイスを引き出せるのだろうか?

三浦 優子