できる会社のIT活用術~迷える社長をお助けします
第1回・信頼できるパートナーを徹底的に利用しよう
(2013/7/22 06:00)
日本には約420万社の中小企業が存在するといわれている。これは国内の総企業数の99.7%を占め、雇用のおよそ7割を担っているといわれる。
ところが、これほどの重要性を持つ中小企業がどのようにITを導入しているのかは、さほど明らかになっていない。「中小企業には、大企業のように専任のIT担当者が存在しない」という仮説も、おおむね実態をとらえているといえるだろう。それでは、中小企業ではどのようにITを導入し、管理しているのだろうか。
これだけIT技術が普及した現代では、中小企業であっても、IT導入は経営に不可欠であるし、実際に中小企業がITをうまく活用することによって生まれ変わり、再生した例もある。しかし、それらIT利用の実態はなかなかつかみにくい。その要因には、個々の企業によって状況が大きく異なることや、どんなことが起こっているのかを外部に伝える機会が少ないことなどが挙げられるだろう。
今回、多くの中小企業へのIT提案と導入に豊富な実績を持つ大塚商会の営業本部 トータルソリューショングループ TSM課 首都圏第2G シニアリーダーの山口大樹氏に、中小企業のIT導入の実態、そして中小企業がIT導入の際に気をつけるべきポイントについて聞いた。
計画的に投資する大企業、ニーズに合わせ不定期に投資する中小企業
ソリューションプロバイダーの大塚商会の中で、営業本部 トータルソリューショングループは特殊な部署だ。同社の一般的な営業マンはなんらかの製品ジャンルを担当することになっているとのことだが、トータルソリューショングループは特定の製品ジャンルを担当しない上、提案を行う顧客も大企業から中小企業まで、規模を問わない。自由な視点で顧客に接することで、最適な製品を勧められる立場にある。
そのトータルソリューショングループに所属する山口大樹氏。中小企業診断士の資格も持ち、俯瞰(ふかん)的な視点で顧客に対し業務改善となるようなIT導入を勧めている。そんな山口氏の目から見て、大企業と中小企業のITに対するスタンスの違いがもっとも顕著にあらわれているのが、投資へのスタンスだという。
「大企業のIT投資は計画的です。年次予算を組んで、計画的にIT投資を行います。それに対し中小企業のIT投資は、必要に迫られたタイミングでIT投資を行うことが多いです。その分、機動的にIT投資が行えるというメリットがありますが、はっきり導入効果を認めなければ、IT投資には及び腰のところが多いのも事実です」。
予算組みがしっかりしている大企業では、突発的に必要となっても、フレキシブルにIT導入ができない場合がある。それに比べると、中小企業では、経営者が必要性を感じれば、タイミングを選ばずに新規投資を行えるということだが、とはいっても中小企業が積極的にIT投資を行っているとはいえない、という事実もあるというのが実情のようだ。
では、どんなタイミングで中小企業は投資をしているのだろうか。実は、「得意先の要請で」というケースが多いようだ。セキュリティ、プライバシー保護といった認定が取引の条件になっているような場合、望むと望まないとにかかわらず、そうした認定を取得するための準備をしたり、ソリューションを導入したり、といったケースは少なくない。
また、サポート期間の終了、ハードウェアが壊れるなど、リプレースする必要が出てきたことで入れ替えをしなければならないケースも多い。決して前向きな理由ではなく、仕方がないのでITコストを予算化するケースが多いのだという。
その結果、面白い現象が起こる。クラウドWatchのようなIT関連のニュースを扱う媒体では、最先端のITキーワードが連日報道される。最近では「サーバー仮想化」、「ビッグデータ」、「クラウド」といったところがよく目にする旬のキーワードだろうか。
こうしたキーワードに対し、「当然、最新のITキーワードを聞いて、それを導入したいんだ!というお客さまは大企業でも中小企業でもいらっしゃいません。大企業は導入効果を検討し、価値があると認めればスケジュールを組んで導入します。ところが中小企業の場合、結果として旬のキーワード通りのものを導入していることがある、という状況ですね」(山口氏)。
中小企業の場合、例えば、コンシューマでも利用されるようなフリーミアムのオンラインサービスを利用していて、結果的に早い時期にクラウドサービスを使っていたりするケースもあるだろうし、経営者が自社の数字をさまざまな要因と組み合わせて分析するのも、大きくいえばビッグデータの活用といえるのかもしれない。これらは決して最新のITキーワードを意識して導入したわけではないだろう。
業務改善目的でIT導入せよ!
こういった状況に対して山口氏は、「ITを導入する場合、『やむを得ず・しなければならない』と考えるのではなく、業務改善という視点を持つべきです」とアドバイスする。
例えば中小企業の場合、壊れた機器と同じものを導入したいというリクエストが多い。ところが、「当たり前と思っている同等品への交換が、実は非効率的なこともあるのです」と山口氏は指摘する。
最近問題になっているWindows XPサポート終了についても、「業務見直しを行うよいチャンスをもらった」と考えるべきだという。基幹システム用のPCをWindows 7などへ入れ替えようと思っても、システムがまだ対応してない、という状況であれば、システムから見直さざるを得ない。やむを得ず、という姿勢だと、すでに古くなったシステムを延命させることに注力してしまいかねない。
そうした際に、システム改修をして新しいOSに対応させるだけではなく、さらに効率的にできる仕組みはないか、もっと便利に業務を行うことはできないのか、という視点でシステムを見直す機会だととらえるべきだというのだ。
以前に比べてシステムリプレースによるトラブルは少なくなっているし、「よほど特殊なものでない限り、今ではおおよそパッケージベースで対応できますので、スクラッチ開発の前に、パッケージを試した方がいい」と山口氏が指摘するように、パッケージ製品であればコスト面での負担も軽くなる。
とはいっても、資金的な余裕がない中小企業にとってみると、「リプレースを業務改善の機会とする」と言われてもとまどうだけかもしれない。
そこで大塚商会では実験的に、「無料業務診断」を行っている。現在、十数社の業務改善をパイロットプログラムとして進行中だ。
「数年先の企業像を俯瞰(ふかん)してもらって、その際、どんなことができたらいいのか話を進めていきます。多くの中小企業の場合、社長自身が営業部門のトップであることが多い。そこで、『出先から納期情報を見ることができたら便利ではないですか?』といった情報システムの理想像、そこに近づくためのシステムとはどんなものかを提案させていただきます」。
もちろん、提案されたもののすべてを中小企業が導入できるわけではない。予算、優先順位を考慮しながら導入することになる。提案されたものの一部しか導入できないこともあるだろう。だが、目指すべき企業像を考え、そこに必要なITがどんなものか検討する機会は、企業にとって決してマイナスになる経験ではないだろう。見直しでコスト削減につながることもある。
「だから、普段は営業現場の最前線にいることが多い中小企業の社長であっても、いったん本来の経営者としての立ち位置に戻ってもらって、会社全体の効率化を俯瞰(ふかん)的に考えることが重要だといえるでしょう」。
社長自らがIT担当責任者に?
業務改善も含めてITリプレースを考える場合、「情報システム部門が存在しない中小企業で、社内のリソースを割くのが難しいのであれば、IT導入責任者は経営者自身がつとめるべきだと思います」と山口氏はアドバイスする。
情報システム部門が存在する大企業の場合でも、CIOのような責任者はITに詳しい現場の人間ではなく、経営視点に立った判断ができる役員がつとめるべきだといわれる。中小企業の経営者はITが苦手な場合が多く、IT導入といったことにはかかわりたくないという人も多いが、それでは業務改善にまで踏み込んだIT導入はできない。
また実際のIT導入にあたっては、外部の業者との連携が必須となる。ITに詳しくない場合、外部の業者とどうコミュニケーションをとればいいのか悩む人も多いようだ。
「ITはあくまでもツールでしかないので、わからないことはどんどん販売会社などに聞くべきです。こんなことを尋ねるとばかにされるんじゃないか?こんな不安を持たれる方も多いようです。でも、疑問に思っていることはどんどん聞いていただいてかまいません」。
自分が苦手だと思う事柄を、専門家に質問することは誰にとっても怖いもの。だが万が一、質問したことをばかにするような態度をとる業者だったら、その後は付き合いを止めればいい。ITを販売する企業はたくさんある。質問に誠実に答え、一緒に社内システムを作り上げていく姿勢を持った業者と付き合っていくのが一番だ。
とはいえ、外部の業者と話す前には企業側はどんなシステムを導入するべきか、簡単にでもいいので、方向性を決める必要がある。
「自分の会社にどんなシステムを入れればよいのか考える指針となるように、大塚商会では、簡単なビジネス診断チェックシートを提供する予定です。こうしたチェックシートを利用して、自分の会社に必要なものを明らかにした上で業者と面談すると、話がスムーズに進むでしょう。ITにまったく縁がない中小企業はないはずですので、ITをさらに使いこなしていくイメージで相談していただければと思います」。
必要なことを洗い出して記入していく中で、今まで見えなかった課題が明らかになる場合もある。こうした手段を利用したり、販売会社のさまざまな提案を利用したりして、総合的に自分の会社のITを見直していくべきなのではないか。もちろん、販売会社のいいなりになる必要はないが、有効に使えるものであれば、どんどん活用していくのがいいだろう。
とはいっても、具体的にどう取り組んでいけばいいのか、いまいちイメージがわかない、という企業も多いだろう。次回以降は、ある企業を例に取って、具体的なシーンを紹介していく。