できる会社のIT活用術~迷える社長をお助けします

情報共有で業務改善しちゃいなよ! テレビ会議やグループウェアによる情報共有体制の改善

 社内の情報を適切に共有する――。企業の大小を問わず、情報を共有する方法に悩む企業は多い。規模の小さい会社でも、異なる部署の情報がきちんと伝わらなかったことが原因で、仕事上でトラブルが起こってしまったことも多いだろう。

 以前は、主に大企業が情報共有のために導入してきたグループウェア、テレビ会議システムだが、ネットワークの整備やクラウドの普及により、規模の小さな会社でも導入しやすい環境が整ってきた。こうしたツールを導入することで、会社はどう変わるのか?!

テレビ電話で顔を見ながら話してみると?

 「シャチョー!ひどいやないですかぁ!!!」

 株式会社インプレレの社長である市ヶ谷一郎が電話に出ると、耳をつんざくような大声が響き渡った。

・市ヶ谷一郎=従業員40人の文具メーカー「株式会社インプレレ」の代表取締役社長。年齢51歳。パソコンおよびITが苦手。

「そんなに大声を出さなくても聞こえるから…(面倒なのから電話がかかってきたなぁ…)」

 電話の相手はインプレレの大阪支社の支社長、大阪やすしである。

・大阪やすし=インプレレの大阪支社長にして専務。社長である市ヶ谷一郎と同じ年の51歳で、とにかく押しが強く営業能力が高い。

「いったい、どうしました?」

「こないだ、発注しておいた明石家商店のノベルティ、材料の遅れとかいろいろあって、納品が遅れるそうやないですか! なんでそんな大事なことが納期ギリギリまで連絡ないんでしょうなぁ!」

「あーーー、その件ね。ごめん、ごめん。私も今日聞いたんだよ。商品を発注したデザイン部の出産くんが、営業部の戸留来くんにメールで知らせたらしいんだけど、ほら戸留来くんは先週忌引でお休みだったから、ちゃんと伝わってなくってさぁ…」

「どうも信じられませんなぁ、なんや言い訳くさいし!」

「信じられないって、私はウソなんてついてないよ!」

「ほんまですか?!」

「本当です!単なる連絡ミスです。申し訳ない」

 もともと文具の卸業をやっていたインプレレが、企業のノベルティなどを作成する事業に進出し、じり貧となっていた事業を立て直したきっかけを作ったのが大阪やすしであり、社長である一郎も、やすしには頭が上がらないところがある。

 そんな二人の電話でのやり取りを聞いていた飯田橋花子。

・飯田橋花子=インプレレの総務部社員。面倒見がよいこともあって、社内の困りごとを引き受け、社長である一郎の秘書的な業務も請け負う。

「社長、大阪支社長との連絡ですが、テレビ電話を使ってみたらどうですか?」

「テレビ電話?そんなの未来のSFに出てくるもので、できるわけが…(IT音痴なおれをばかにしてるのか?!)」

「それができるんですよ!私も新宿くんに教えてもらったんですけど…」

「新宿くんが?(え?からかわれているんじゃないのか?)」

「はい、新宿くん、最近、すっかりパソコンで仕事をするのが得意になってきたみたいで。Facebookっていうんですか? あれで、パソコンで簡単にテレビ電話ができるのを友達から教えてもらったんですって。私も実家の母とテレビ電話でやり取りするようになったんですが、お互いに顔を見ながらだと、普通の電話で話していた時よりも心穏やかに話せるんです(ウフ)」

「つまり、お母さんとつまらない口げんかをすることが減ったってわけか」

「ま、有り体に言えば(笑)」

「でも、テレビ電話って高いんだろ?」

「それがパソコンを使えば、あとはカメラを買ってくるくらいで、数千円で実現できちゃったんですよ!」

「え?そんな価格でできちゃうの?」

「はい。インターネットにつながっていることが前提ですけど、Skypeっていうのを使えば、国内ならほぼ無料で通話できるんですよ」

テレビ電話/テレビ会議

Skypeは現在マイクロソフトの製品で、無料アプリをダウンロードして、カメラ、マイクなどを用意すれば容易に利用できる。また、大規模な会議でも利用できるようなシステムを提供する専業メーカーのシステムも存在し、カメラを通して相手の顔を見て対話することや、パソコンの画面を共有しての対話、異なる拠点に存在する複数人数での対話などさまざまな情報共有が実現できる。

導入する企業側では、日々のコミュニケーションの円滑化とともに、移動がないことがリスクを減らすことにつながることから、リスクヘッジとして導入する場合もある。

 飯田橋花子の助言を聞いて、取りあえずSkypeを使ったテレビ電話で大阪支社との打ち合わせを週に1、2回定期的に行うようになる。

 すると…。

それならグループウェアはどうですか?

 インプレレでのテレビ電話導入から2週間…。

「社長、最近、大阪支社長との電話バトル、なくなりましたねぇ…」

「いやぁ飯田橋さんの助言通り、テレビ電話を導入したおかげだよ!顔を見て話すと確かにお互いに大声で文句が言えないもんだなぁ。言い方はキツいけど目は笑っているとかも、電話じゃあわからないし」

「(バトルを端で見ているのは結構、面白かったんだけど…)そうですか…導入効果、ありましたね!」

「うん。顔を見て、さらに書類の共有というのも試すようになって、メールでのやり取りよりも仕事の話がスムーズに進むし、万々歳だよ!!」

「(自分で勧めたけど、バトルが見られなくなったのはちと残念…)ふふ、それはよかったです」

 この話を、インプレレのIT導入を担当する三番町システム商会の秋葉原に冗談交じりに話すと、秋葉原は真剣な様子でこう提案した。

「Skypeもいいですが、せっかくですから社長、グループウェアの導入を検討されてはいかがでしょう?」

グループウェア

企業で情報を共有するためのソフトウェア。かつては大企業のホワイトカラーと呼ばれる層が導入することが多かった。最近ではクラウド版も登場し、スマートフォン、タブレットなどのさまざまなデバイスから利用できるようになったことで、中小企業やサービス業、建設業などの現場でも利用されるようになっている。

利用できるアプリケーションとしては掲示板、スケジュール、施設予約、メッセージ、ワークフロー、ファイル管理、電話メモなど多岐にわたる。

グループウェアの紹介(大塚商会)
http://www.otsuka-shokai.co.jp/products/groupware/

「グループウェア?」

「はい。今日のお話を伺うと、大阪支社との情報共有はだいぶ進んだようですが、営業部とデザイン部門の情報共有はいかがでしょう?」

「うちみたいな小さな会社、大声で叫べば話は通じるから、情報共有なんて大層なことしなくても」

「でも、先ほどの話で、デザイン部の方は営業部の方が忌引でしばらく休まれることをご存じなかった。そこがトラブルの発端になったということですよね?」

「あ!確かに!」

「そういう、『これはみんな知っているよね?』と思うことが実はきちんと伝わっていなかったことは、どこの会社にもよくあります。そこで皆が知っていると思うことでも皆に伝えるようにする。特に先ほどのように材料の入荷遅れとか、例えばお客さま側が特別急ぐ事情を持っているとか、そういうことをグループウェアを使って、社内全員が知っている!という状態を作るんです」

「なるほど。確かに、担当者だけ知っていて、社長の私はあとから知るなんてことも結構あるなぁ」

「今の忌引で営業の方がお休みという場合、『スケジュール』という機能があります。何日から何日まで忌引でお休みとしておけば、全社員の方がそれを知るところになります」

「ほほう…それはお休みだけじゃなくて、例えば今日は出先から何時に帰ってくるなんてことも記録できるの?」

「もちろんです!」

「(ふふ、社長の予定は直行直帰ばっかりになったりして…)」

「はい。もちろん、社長をはじめ経営陣の方のみが知るべきことで、皆で情報共有するべきではない情報というのもあります。しかし、現場でのみ知っていたことをほかの人が知ることで、『こんな問題回避方法があるよ』といったアドバイスが出ることもあります。また、現在の受注状況、営業状況といった業務状況をみんなで把握するということも可能です。こうすると、営業部の方がデザイン部の方の状況がわかって、これは緊急案件を頼むのは難しいかな?といった判断されることもあるでしょう」

「逆に、暇そうだから、どんどん仕事とれ!ってなる場合もあるかもね(笑)」

「はい(笑)。お互いの状況がわかると、仕事の進め方にも変化が出る可能性があるのではないでしょうか?」

「なるほど。確かにそれは効果がありそうだ。今度、グループウェアというのがどんなものか、社内で見せてくれないかな?」

「仕事がしやすくなりました!」と意外なところからの反応が

 インプレレでは、最初は社長の市ヶ谷一郎が、その後は役員、そして全社員へと何回にもわたり、グループウェアのデモを見た。これは、「グループウェアは社員全員が利用するものです。役員だけが利用するといった状況は意味がありません」という秋葉原のアドバイスに従ってのことだ。

 まずは、スケジュール、掲示板の2つを導入。スケジュールは個人の休み予定も含め、各自の予定を、掲示板には取りあえず全社員に知ってほしい情報をなんでも掲示してよいことになった。

 そして導入から2週間。

「仕事のことはなんでも書き込んでいい掲示板なんて結構、アバウトすぎる使い方だと思ったけど…」

「使ってみたら、結構便利なもんですね」

「この間の大阪支社からの書き込み、『お客さまから、最近提案する商品がマンネリじゃないか?という声が上がっていますが、何かいいアイデアありませんか?』ってヤツ。最初はばかなことを書いているなぁと思ったけど、デザイン部の出産くんからから、『うちの会社では扱ったことはありませんが、実はこんな商品がありますが?』っていう書き込み、ビックリした!彼はおとなしいから、あんなにアイデアがあることを恥ずかしながら、社長の私が知らなかったから…」

「私が助かったのはプリント用紙の件です。『客先に大量に資料を印刷して持って行きますから、紙がなくなるかもしれません』っていう書き込みがあると、紙がなくなる前に発注できますから」

「そうだね。まぁしばらく使って見直しが必要になるかもしれないけど。こんな小さな会社でも情報を共有する努力っていうのは必要なんだとわかったよ…」

「施設予約なんて機能もあるそうですよ。うちの会社、会議室が少なくて取り合いになるから、この機能を使って会議室予約なんていうのもいいかも! ホワイトボードでの予約も面倒ですし」

「なるほど…それは今後考えてみるか」

 グループウェアの導入は、インプレレをちょっと成長させたようである…。

 しかし、市ヶ谷一郎が考えるインプレレの成長はこれで終わりではない。「もっとすごい会社にしてみせる!」とさらなる強化を狙う一郎であった。

三浦 優子