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NEC、垂直統合型製品を今年春にも投入へ~庄司執行役員にNECのプラットフォーム事業を聞く

 日本電気株式会社(以下、NEC)は、垂直統合型プラットフォーム製品を2013年春にも投入する計画を明らかにした。NEC プラットフォームビジネスユニット担当の庄司信一執行役員は、「単に、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークを垂直統合するだけでなく、NECならでのアーキテクチャを特徴として訴求したい。さらに、業務アプリケーションを組み合わせた形で提供していく」と語る。

 2012年5月からスタートした「Project SIGMA」によって生み出される垂直統合型プラットフォーム製品とは、どんなものなのか。庄司執行役員に話を聞いた。

Project SIGMAとは何か?

NEC プラットフォームビジネスユニット担当の庄司信一執行役員

 NECの垂直統合型プラットフォーム製品は、2012年5月にスタートした「Project SIGMA」によって生み出されることになる。

 同プロジェクトは、2010年から投入しているITネットワーク統合パッケージ「Cloud Platform Suite」で蓄積した経験をもとに、同社が持つオリジナル製品やオリジナル技術、パートナーが持つ汎用製品とを組み合わせ、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークを垂直統合した新たなプラットフォーム製品、および、それに関連するプラットフォームサービスを提供することを目的としたものだ。

 「既存のITハードウェア事業、ITソフトウェア事業、企業ネットワーク事業の3本柱は、資産継承、機能強化という点で、今後も継続的に提供していくことには変わりがない。一方で、Project SIGMAは、ハードウェアの共通化、ソフトウェアの共通化、OpenFlowに対応したP-FLOW(プログラマブルフロー)を中核に、業務アプリケーションも視野に入れたものになる。プラットフォームソリューションへの進化を図りながら、コストメリットを追求し、当社が世界的に先行した技術へのこだわりを持ち、さらには事業構造や社員の意識改革などを進めながら、実現するのがProject SIGMA。ソリューション提案を加速し、NECがこれから攻めていく領域の製品になる」と、庄司執行役員は位置づける。

 Express5800/HR120a-1をはじめとする、NECの高性能サーバーによるハードウェア技術や、Express 5800/ECO CENTERによる省電力サーバー技術を、Project SIGMAを通じて進化。さらに、ビッグデータ時代の新たなデータベースとする「InfoFrame Relational Store」、遠隔バックアップを行う「HYDRAstor(iStorage HSシリーズ)」、ネットワークの仮想化・統合化を行うクラウド基盤ネットワーク「プログラマブル・フロー」、PCI Expressを一般的なEthernet上に拡張できる「ExpEther」、社内コラボレーション基盤となる「UNIVERGE 3C」といったNECのオリジナル製品技術も活用する。

 また、NECがビッグデータ時代の重点技術と位置づける分析エンジン「WebSAM Invariant Analyzer」も、Project SIGMAにおいては重要な役割を担うことになりそうだ。

 「ソリューションに最適なシステム構築を、最小化できるソリューションプラットフオームであること、基幹データベースシステムやビッグデータ処理に特化した垂直統合型システムを提供できること。さらに、従来のハードウェア部品の共通化だけでなく、アーキテクチャ、設計、サプライチェーンマネジメントなどを含めた領域へと共通化を拡大。ソリューションプラットフォームの品ぞろえ拡充や、新たなプラットフォームマネジメントサービスを提供するための仕組みも、同時に提供することになる」という。

HPC向けのコプロセッサXeon Phiを搭載したExpress5800/HR120a-1
最新の「プログラマブル・フロー」製品であるUNIVERGE PF5248

NECの垂直統合型製品の3つの特徴

 垂直統合型プラットフォーム製品としては、すでに、日本オラクルがエンジニアド・システムとして「Oracle Exadata」を、日本IBMも「PureSystems」を、富士通も「FUJITSU Integrated System HA Database Ready SX1」を投入する、といったように動きが活発化している。

 庄司執行役員は、「発表時期のターゲットとしているのは、2013年春。プロジェクトは予定通り進んでいるが、もっと早く出したいという気持ちはあった」と語る。

 そして、「競合他社と同じ考え方で、垂直統合型プラットフォーム製品を投入するつもりはない」とも言い切る。

 NECの垂直統合型プラットフォーム製品と他社との差別化ポイントは、大きく3つあるという。

 ひとつは、アプリケーションまでを含んだ垂直統合を視野に入れているという点だ。

 庄司執行役員は、「総花的なプラットフォームとして提供することは考えていない。業種向けや業務向けアプリケーションを組み込み、業種、業態に踏み込んだものとして準備している。あるモデルは、具体的なアプリケーションに特化したものとなり、別のモデルは中堅・中小企業向けにパートナーと連携した提案も行える、といった形で提供することも検討している。個別SIでやっているパターンを、1対Nに展開できないかといったことも進めたい。お客さまにすぐに使っていただけるイメージがわくような製品づくりをしていく」とする。

 そして、これらはオンプレミスおよびプライベートクラウドの両面から提案していくことになるという。

 2つ目には、汎用的なパートナー製品を組み込んでいくという点だ。先行する競合他社が、自社製品によって垂直統合プラットフォーム製品を提供した、いわば囲い込み型の製品であるのとは一線を画すものだと位置づける。

 「NECは、パートナーとのコラボレーションによって成長を遂げてきた。この経験をもとに、オリジナル技術とパートナーとの汎用製品とを組み合わせた相乗効果を、いままでよりも一歩進んだコラボレーションとして実現し、垂直統合型プラットフォーム製品において、付加価値創造を狙う」とする。

 そして、もうひとつは、「新たなアーキテクチャを採用したものになる」という点だ。

 この点については、庄司執行役員は現時点では口を濁すが、「独自の技術をベースにした、次世代サーバーへの取り組み」と表現する。

 「ここまで含めて発表することで、NECの垂直統合型プラットフォーム製品への基本スタンス、技術的な方向性、他社との違いを明確に理解してもらえるだろう」と語る。

 今年春の発表段階で、「新たなアーキテクチャ」とする部分に言及するのかどうかが注目されることになる。

Project SIGMAで取り組んだ意識改革への挑戦

 Project SIGMAのゴールは、垂直統合型製品やサービスの創出であるのは確かだが、庄司執行役員は、プロジェクト開始以来、社員の意識改革を重要なテーマのひとつに掲げてきたとする。

 「長い歴史を持つNECでは、ハードウェアはハードウェア部門、ソフトウェアはソフトウェア部門、ネットワークはネットワーク部門と分かれている。また、ハードウェア部門をとってみると、スーパーコンピュータ部門、汎用サーバー部門というようにバラバラとなっており、それぞれがそれぞれの製品にこだわりを持って事業を推進してきた。悪くいえば、隣の人が何をしているのかがわからない。お客さまは、プラットフォームを製品と認識するケースが減り、これらを部品と認識している。むしろ、これらをまとめたソリューションに対して価値を求めはじめている。作り手側は、製品にプライドを持つことは大切だが、お客さまは何を求めているのかということを考えた場合、プラットフォームをプラットフォームとして売るだけではなく、プラットフォームを、ソリューションプラットフォームとして打ち出すことが必要だ」と語る。

 元来、プラットフォームビジネスユニットは、サーバー、ストレージ、ATM、POSといったハードウェア製品、OSやミドルウェアなどのITソフトウェア製品、PBXやキーテレフォン、ユニファイドコミュニケーション(UC)などのネットワーク製品を、ITプラットフォーム製品群として提供する役割を担う。

 「NECには、プラットフォーム製品として、いいものさえ作れば、ITサービスビジネスユニット、営業ビジネスユニットが、お客さまと一緒にそれをソリューション化してくれるという、機能分担の風土がある。だが、お客さまがプラットフォームソリューションを求めるこれからの時代は、それではすまなくなってくる。『SEがやってくれる』ではなく、プラットフォームビジネスユニット自身が、お客さまにそのまま出せる形をイメージして、ソリューションを提供していかなくてはならない。そうしたところも、Project SIGMAの重要な要素である」。

 庄司執行役員が、2012年4月に、プラットフォームビジネスユニット長に就任して以来、社内に向けて訴えかけてきた言葉のひとつが、「SEがいなくても、お客さまにご提供できるソリューションはありうるのか」という、社員に自問自答を促す設問だった。

 当初の社内の反応は冷ややかだった。

 「それはSEがやっている仕事ですから、そこまで考える必要はないでしょう」、「そこまでわれわれがやっても、ニーズはありませんよ」――。

 しかし、この意識がある限り、NECからは垂直統合型プラットフォーム製品が生まれないのは自明だった。

 「他社に負けない部品を持ち、それらを、SEがお客さまの情報システム部門と一緒になって組み上げていくというのが従来の仕組み。しかし、これは1対1の個別SI型の仕組みであり、そのまま世界展開はできない。また、お客さまも、標準化した製品でありながらも、NECの先進性をすぐに活用できるものを求めているというような変化が生まれており、いまの製品群のままでは、『足りないんだ』ということを社員に理解してもらう必要があった。そうした変化に対して、プラットフォームビジネスユニットが前面に立って、取り組んでいかなくてはならない状況にあることを、浸透させるのに時間をかけた」という。

 そうした流れのなかで、競合他社からは、垂直統合型プラットフォーム製品が登場。結果として、これが社内への理解を浸透させるには追い風となった。

 庄司執行役員は、こうしたProject SIGMAで目指す社員の意識改革の方向性を、「こだわりを持ちながら、こだわりを捨て、別のところにこだわる」という言葉で表現する。

 「NECが持つオリジナル製品や、サービスにはこだわりを持つ。しかし、それだけに集中し、単体だけで提供することへのこだわりは捨てる。そして、ソリューションプラットフォームという新たな提案にこれからこだわっていく」というわけだ。

 庄司執行役員は、「Project SIGMAは、垂直統合型プラットフォーム製品という最終的な製品づくりを目指すだけでなく、それに向かって社員が腹落ちして取り組むための社内の意識改革という両輪を対象としたものである。このどちらかが欠けていても成立しない」とする。

海外展開、ネットワーク系が成長の鍵に?

 NECのプラットフォーム事業は、2012年度見通しで、4000億円の売上高を見込んでいる。

 「第3四半期までの進ちょくは順調であり、4000億円の達成に向けてラストスパートをかけることになる」とする。

 NECは全社的に年度末に売り上げが集中する傾向がある。プラットフォームビジネスユニットもその傾向は同じだ。この第4四半期の業績が年間業績を大きく左右することになる。

 4000億円の事業規模をベースに、2013年度からの新たな中期経営計画を策定するなかで、垂直統合型プラットフォーム製品は、成長の重要な役割を担うことになる。

 中でも注目されるのが海外事業の成長においても、垂直統合型プラットフォーム製品を重要な柱のひとつに据える点だ。

 NEC全体の海外売上高比率は約16%。それに対して、海外事業比率が高い企業ネットワーク事業を擁するプラットフォームビジネスユニットは、25%強の海外売上比率を持つ。

 海外のネットワーク系ソリューションプロバイダーが、垂直統合型プラットフォーム製品に強い関心を示せば、「これが、プラットフォームビジネスユニットにおける海外売り上げ構成比3割を実現するドライバーになる」と庄司執行役員は読む。

 垂直統合型ソリューション製品は、国内外を問わず、ネットワーク系ソリューションプロバイダーをどう巻き込むのかも重要な課題となりそうだ。

異例の人事でBU長に就任した庄司執行役員

 その点で、垂直統合型プラットフォーム製品の開発を指揮する庄司執行役員が、前職としてNECインフロンティア社長を務め、ネットワーク領域に精通しているという点は大きな要素であろう。

 ビジネスユニット長(事業部長)経験者が子会社の社長に就任したのちに、再びビジネスユニット長に戻るのは、NECでは過去に例がないという。そして、子会社の社長から、本社の執行役員に就任した例も過去に数人にとどまる。

 NECの遠藤信博社長が庄司氏を呼び戻した背景には、前任の山元正人氏がソフトウェア部門での経験が長く、その経験を生かして事業を成長させたのに続き、今度は、ハードウェアの経験が長い庄司執行役員によって、事業をバランスよく成長させようという狙いがあったともみられる。

 また、本人は謙遜(けんそん)するが、庄司執行役員は「Express5800の生みの親」と称され、課長時代に、Express5800の立ち上げに携わり、企画、開発、生産、マーケティングを統括して以来、長年にわたり、Express5800シリーズに携わってきたハードウェアの専門家である。それでいて、ソフトウェア子会社であるNECシステムテクノロジー(当時の神戸日本電気ソフトウェア)に出向し、PC向けUNIXの開発に携わった経験もある。

 ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの経験を持つ庄司執行役員は、垂直統合型プラットフォーム製品の創造には、最適な人物だといえよう。

 実際、庄司執行役員は、プラットフォームビジネスユニット長に就任した翌月となる2012年5月には、Project SIGMAをスタートさせている。庄司執行役員がいなければ、NECの垂直統合型プラットフォーム製品の登場はもう少し先になっていた可能性が高いといえる。

「C&C」から「CC」への進化を遂げる

 「2013年は、NECのプラットフォームビジネスユニットにとって、変化の年になる」と庄司執行役員は語る。

 「過去3年間にも大きな変化があったが、これからの3年間は、これまで以上に大きな変化が訪れることになる。大手ITベンダーが生き残りをかけて、新たな分野に乗り出し、世の中全体が変わろうとしている。そして、Amazon.comやGoogleもいまのような企業体のままだとは考えられない。NECもそうしたなかで変化を余儀なくされている。2013年は、NECがどう変わっていくか、プラットフォームビジネスユニットをどう変えていくのかが試される1年になる。世の中の変化を真っ正面からとらえていく必要がある」とする。

 そのなかで登場するのがProject SIGMAによる垂直統合型プラットフォーム製品ということになる。

 「ネットワークとITが、それぞれに仮想化し、ソフトウェア化し、融合する世界が確実にやってきた。その象徴的なものがSDNであり、これはまさに、ITとネットワークの進化。NECが掲げてきた『C&C(コンピュータ&コミュニケーション)』から、&が抜けて、『CC』としてひとつになったものだともいえる。NECは、Project SIGMAを通じて、『CC』の製品イメージを具体化していくことになる」

 垂直統合型プラットフォーム製品は、ITとネットワーク、そして、パートナーモデルを重視するNECにとって、NECならではのビジネスモデルを構築しやすい環境にあるといえるのかもしれない。

 どんな形で具体的な製品として登場するのか。いよいよカウントダウンが始まっている。

(大河原 克行)