大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
拡大するショッピングセンターの課題を解決するOCRソリューションとは?
富士通マーケティングが「GLOVIA smart きらら OCR」の機能を強化
(2013/3/4 06:00)
日本におけるショッピングセンターは、依然として増加の一途をたどっているのを知っているだろうか。
一般社団法人日本ショッピングセンター協会の調べによると、2012年に新規オープンしたショッピングセンターは35軒にのぼり、2012年12月時点でのショッピングセンターの総数は3096軒。2013年3月末には、3101軒に拡大することが見込まれている。
ショッピングセンターとは、同協会の定義によると、「ひとつの単位として、計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備えるもの」となる。店舗面積で1500平方メートル以上であること、キーテナントを除くテナントが10店舗以上含まれること、テナント会があり、広告宣伝や共同催事などの活動を行っていることが要件となっており、商店街や市場とは形態が異なるものだと位置づけている。
米国では、10万軒のショッピングセンターがあるといわれ、人口比からみても、日本のショッピングセンターの数は今後も拡大する可能性が高いという指摘もある。
中心部などへの進出が加速するショッピングセンター
従来の進出形態は、大規模な駐車場を完備した郊外型ショッピングセンターが中心であったが、ここにきて中心地域や周辺地域への進出も相次いでいるのが特徴だ。
例えば、大規模交通機関のターミナル駅に隣接した駅ビルや、駅構内の駅ナカといった鉄道系ショッピングセンター、成田空港や羽田空港などの空港利用者を対象にした空港系ショッピングセンター、話題を呼んだ新東名高速道路のサービスエリアや、幹線道路沿いにある「道の駅」などの道路系ショッピングセンターが増加。こうした動きが注目を集めている。
実際、同協会の調査によると、従来は圧倒的に郊外地域への進出が多かったが、2010年以降は中心地域および周辺地域の合計が、郊外地域への進出を上回る結果となっている。
こうしたなか、ショッピングセンター間の競争も激化している。
昨今では、ショッピングセンター専業のデベロッパーが数多く進出。サービス重視型のビジネスが差別化策となっている点が見逃せない。
ショッピングセンター全体の運営やサービス向上に対して、積極的に投資するデベロッパーの動きが注目されているのだという。
テナントとの契約は預かり金精算方式が主流に
デベロッパーとテナントとの契約において、家賃徴収方法には大きく2つの方式がある。
ひとつは、一般的な不動産契約と同じ、家賃を請求するという仕組みだ。
毎月、締め日にあわせてテナントに対して家賃の請求を行い、家賃を徴収するものである。
しかし、この方式は一般不動産では一般的でも、ショッピングセンターでは一般的ではない。この契約形態は1割以下にすぎないとみられている。
現在、デベロッパーの多くが採用しているのが、「預かり金精算方式」というものだ。
これは、1日の全テナントの売り上げをデベロッパーが一度徴収。そこから月2回に分けて、テナント本社に家賃を差し引いた分が支払われるという仕組みだ。売上歩合賃料ともいわれ、中心部のショッピングセンターではテナントの売上高の10%程度の家賃になる場合もあるという。
だが、この時にテベロッパーで行われる日報チェック、それに伴う修正作業が煩雑になるという課題があった。
ショッピングセンターの売上管理業務では、テナントが毎日の売上報告を売上報告用端末(CAT)から手入力した後、精算レシートを出力し、デベロッパーへ送信。デベロッパーは受け取った精算レシートと売上管理システムのデータを、全件目視で突き合わせ、売上金額が不一致の場合はその都度テナントへ再確認し、売上データを手作業で修正する、という煩雑な作業を行っていたのだ。
全テナントごとに売上金額の突き合わせと売上データの修正を行う作業に、デベロッパーは膨大な時間を費やしていたのである。さらには、チェック対象の件数が多いため、精算レシートの入力ミスやチェック漏れといった人的ミス発生の可能性が高いという問題も発生していた。
6件の特許出願技術で柔軟な読み取りに対応
富士通マーケティング(FJM)が、2009年に、あるショッピングセンターの協力を得て、一連の事務作業を精査したところ、日報チェック作業および日報修正作業が全体の61%を占め、それに伴う売り上げ修正作業が発生すると、全体の74%もの作業時間を取られていることが明らかになった。
「全体作業の7割にあたる部分の作業時間削減が、多くのショッピングセンターが共通的に抱える大きな課題であった」(FJM ソリューション事業本部GLOVIA smart事業部流通ソリューション部プロジェクト部長の野崎一成氏)というわけだ。
FJMは、預かり金精算方式が持つこうした課題解決に向けて、2011年にショッピングセンター向け売上自動収集・照合ソリューション「GLOVIA smart きらら OCR」を開発した。
GLOVIA smart きらら OCRは、店舗ごとの識別コードを表示した専用キャリアシートに、各店舗が発行した精算レシートや商品券、各種伝票類を挟み、スキャナーで読み取ることで、デジタルデータ化する「店舗別レシートデータ収集装置」と、読み取ったデータと売上管理システム上のデータとの自動照合を支援する「レシートデータ照合支援機能」によって構成される。
店舗別レシートデータ収集装置では、富士通コンピュータテクノロジーズが開発した画像認識技術を採用。スキャナーにセットすれば、複数の精算レシートの両面を自動的に読み取ることができる。読み取りは1分間に最大60枚まで可能だ。キャリアシートに挟むことで、これまで難しいとされていたレシート用紙のような薄い紙でもスキャンを可能にし、また精算レシートが多少傾いた状態でも自動補正して読み取ることができるようになっている。
そして最大の特徴は、自由度の高いフォーマットにも対応して読み取りが可能になるという点だ。
精算レシートは、各テナントで使用されているPOSシステムがさまざまであるため、使用されているフォントが異なったり、レシートの長さや、書かれている項目などが異なり、必ずしも同じ位置に、特定の項目や数値があるとは限らない。
さらに、「客数」のように同一名称の項目があっても、それが「売り上げ」なのか、「返品」なのかというように、内容を識別しなくてはならない。こうした自由度の高いフォーマットの読み取りは、従来型のOCRでは難しいものであった。
店舗別レシートデータ収集装置ではこの点も解決。キャリアシートの採用と、精算レシートから必要な項目定義情報を自動的に判別する技術を開発し、精算レシートごとに位置が異なっていても、必要とする内容を的確に読み取ることができるようになっている。これらの仕組みや技術は、6件の特許として出願済みだ。
一方、レシートデータ照合支援機能は、自動照合の結果、アンマッチがあるテナントおよび項目だけを抽出して、画面に表示。数値などが符合していない場合はアラートを出して、その部分だけを確認して、修正することができる。修正した作業者の名前も表示されるため、誰が修正作業を行ったかも確認できる。
これまで机上で行っていた「精算レシート」、「売上日報」、「項目対比表」の複数の確認および照合作業を、ひとつの画面に集約して表示するため、作業効率の大幅な向上が実現できるという。
「従来、デベロッパーが手作業で行っていた、各テナントの売上管理業務にかかる作業負荷を大幅に軽減できる」のだ。
新たにクレジット伝票にも対応
GLOVIA smart きらら OCRは、ショッピングセンターにおける、さらなる課題解決に向けて、3つの新たな機能を追加した。
ひとつは、A4レポートへの対応だ。
外資系のテナントでは、PCを活用したPOSシステムを使用している場合もあり、「A4レポート」と呼ばれる大きなA4サイズの精算レシートを使用している場合がある。今回の機能強化では、このA4レポートもキャリアシートに挟み込んで読み取りことができるようにし、さらに精算レシートと一緒に読み取り作業を行うこともできる。
A4レポートを使用しているテナントはまだ少数だが、外資系テナントの増加や、PCを活用したPOSの増加などにより、今後、重視されることになろう。
2つめが、読み取り対象をクレジット伝票に拡大した点だ。
クレジット伝票の各項目をOCR処理し、クレジットデータと照合。テナントから提出されるクレジット伝票の不足を検出したり、クレジット伝票の署名欄にサインが行われていたりしないかを、画面上に一覧表示して確認できる。
照合されるクレジット伝票が不足していたり、サインがなかったりする場合にはアラートを出して、作業者に確認を促すことになる。
「150テナントを抱えるような大規模なショッピングセンターでは、1日に1万件を超えるクレジット伝票を処理する場合もある。すべて手作業で行い、目視による作業を行っていたものを自動化できるという点で、業務の大幅な効率化と人的作業によるミスの削減を図ることができる」(FJMの野崎氏)という。
クレジット伝票のカード会社控え(サイン伝票)は、7年間の保管義務が生じているが、今回の機能強化により、クレジット伝票の画像を、300dpi、1677万色、TIFF形式という、e文書法の画像要件を満たす形で保存できる。そのため、原本の破棄が可能になり、サイン伝票の保存場所の確保でもメリットを生み、コスト削減につなげることができるという。
カメレオンコードを利用した新たな提案も
そして3つめが、カメレオンコードを利用した商品券やクーポン券の管理である。
カメレオンコードは、株式会社シフトが開発したカラーコードで、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色を組み合わせることで、無限大ともいえる数の情報を管理ができるというもの。4行×9けたの組み合わせを用いた場合でも、約15京94兆パターンを用意でき、行を増やすことで、さらに組み合わせ数を拡大できる。さらに認識する場所が良好な環境では8色までに色数を増やすことができるという。
また、読み取りには専用装置が必要なく、Webカメラやスマートフォンのカメラなどでも読み取りが可能。コード自体も市販のプリンタで打ち出すことができるという容易さもあり、低コストで導入できる点も特徴だ。
QRコードのように接写する必要がなく、RFIDのように一度に複数のカメレオンコードを同時に認識するといった使い方も可能になる。
FJMでは、商品券やクーポン券、割引券、地域振興券や株主優待券などに付与したカメレオンコードを読み取り、情報を管理するといったことができるようにする予定だ。
「商品券やクーポン券は形状がさまざまで、管理作業が煩雑になりがちである。また、偽造されやすいという問題もある。カメレオンカードの使用によって、こうした課題を解決できる」(FJM ソリューション事業本部 新規ビジネス開発室 プロジェクト課長の津田浩徳氏)という。
GLOVIA smart きらら OCRとの連動によって、ショッピングセンター向けのソリューションとして提供していく考えだ。
Symfowareを標準採用した独自のソリューション
GLOVIA smart きらら OCRには、富士通のデータベースであるSymfowareを標準採用。また、将来的にはクラウド対応も図っていくという。
「技術、ビジネスモデルの観点からも先行特許を持つものであり、FJMにしかできないユニークなソリューションである。今後はショッピングセンターだけでなく、百貨店やGMSなどにも展開をしていきたい。また、1年前から取り組んでいるカメレオンコードについても、流通業だけでなく、製造業や公共機関といったさまざまな領域に対して、低コストで適用できるもの技術として、提案活動を加速させていきたいと考えている」(FJM ソリューション事業本部の大澤尚本部長代理)とする。
GLOVIA smart きらら OCRの価格は、150万円から。50テナントを対象にした形態を1セットと呼び、2014年度までに300セットの販売を予定しているという。
なおこの製品は、3月5日から、東京・有明の東京ビッグサイトで開催されるリテールテックJAPANの同社ブースに展示される予定だ。