大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
会計・税務分野での利用が広がるクラウドサービス
TKCのクラウドサービスはなぜ受け入れられているのか?
(2012/12/26 06:00)
TKCが、クラウドサービス事業を拡大している。
同社では、法人向け会計ソリューション事業の中で、統合型会計情報システム「FX4クラウド」、連結会計システム「eCA-DRIVER」などをクラウドサービスとして提供。会計分野におけるクラウド利活用を提案する企業のリーダー的存在となっている。
また基幹業務という、特に信頼性とセキュリティが求められる分野でクラウドサービスを提供するにあたって、そうした点に配慮し、高い評価を受けている自前のデータセンターを運営していることも、同社クラウドサービスの強みのひとつといえる。
今回は、このようなTKCのクラウドサービス事業への取り組みについて、TKC 企業情報システム営業本部長の飯塚真規取締役常務執行役員に聞いた。
創業以来、今のクラウドサービスにつながる形で事業を展開
TKCがクラウドサービスに取り組んだのは、ASP型のサービス提供を起点とすれば、1998年の「公開企業用会計情報システム(FX4NT)」までさかのぼる。
それ以前にも、情報処理計算センターの業務を母体としている同社では、自治体からの税務計算業務や、会計事務所の財務計算業務を受託で運用してきた経緯があり、ネットワークを介して財務情報を同社センターに吸い上げ処理を行うという、現在のクラウドサービスにつながる仕組みは、まさに創業以来のものだといっていい。
現在、法人向け会計ソリューションとしてクラウドで提供しているのは、FX4NTの流れを持ち、2011年6月にクラウド版の提供を開始した統合型会計情報システム「FX4クラウド」、2005年にクラウド版を投入し、オンプレミスとの選択を可能にしている上場企業向けの連結会計システム「eCA-DRIVER」、2012年7月からクラウド版を投入した、年商50億円以上の中堅・大企業を対象にした統合型会計情報システム「FX5」。そして2012年3月には「FX4クラウド(社会福祉法人会計用)」、同年9月には「FX4クラウド(公益法人会計用)」を追加している。
年商5~50億円の中堅企業を対象にしたFX4クラウドでは、2012年11月末時点で900近い企業グループ、1300社弱がこれを利用。eCA-DRIVERでは130弱の企業グループが利用し、そのうち100に近い数が上場企業グループだという。
「FX4は、クラウドサービスに特化した会計システムでは唯一のものになる。また、TKC連結グループソリューションとして、連結会計と連結納税に対応したサービスを提供しているのも当社だけ。当社顧客のうち、会計システムでは半分以上がクラウドサービスで利用し、税務システムでは99%がクラウド環境で利用している」と、TKCの企業情報システム営業本部長の飯塚真規取締役常務執行役員は語る。
さらに同社では、「税理士事務所オフィス・マネジメント・システム(OMS)」のクラウド版として、「OMSクラウド」を2012年10月から提供している。
同システムのオンプレミス版は、8500社のTKC会員事務所のうち、5500を超える事務所で利用されている同社の主力サービスのひとつ。OMSクラウドの導入により、約25%の情報コストの削減が可能になるなどのメリットを打ちだすことで、関与先数が少数で比較的データ量の少ない小規模事務所での利用促進にも乗り出す考えだ。
だが、わずか数年前までは、クラウド版に対する反応は厳しかったという。
「情報系システムでは、クラウドサービスを利用したいという声が早い段階から挙がってはいたが、会計システムや税務システムといった基幹システムを外に出すことには慎重な姿勢をみせる企業が少なくなかった」と、飯塚取締役常務執行役員は当時を振り返る。
しかしその当時から、多くの企業がクラウドには関心を示していたのは事実で、基幹システム領域においてクラウドサービスを導入した企業で、成果が上がっていることを事例紹介することで、前向きに検討を始める企業が徐々に増加していったという。
「まずは、社内にIT部門を持たない企業や、ITスキルが低い企業などが、クラウドに対しても抵抗が少なく、サービスを利用しはじめた。自社でインフラを構築するよりも、信頼性の高いTKCのデータセンターを活用できること、バックアップ体制が確立できること、運用コストやメンテナンスコストでのメリットがあることがポイントとなった。さらには、大手企業では、連結会計、連結納税において、子会社を含めた部分にまでクラウドで対応できることなど、中堅・中小企業から、大手企業まで、当社のクラウドサービスならではのメリットが理解されはじめたことで、広がりにも加速がつきはじめた」と語る。
データセンターを持つ事業者も顧客として利用するTKCのデータセンター
その理解を加速させた背景には、自社運営のデータセンターの存在が見逃せない。
TKCでは、2003年に他社に先駆けて栃木県内にデータセンターを開設。TKCインターネット・サービスセンター(TISC)の名称で、地方公共団体、税理士や公認会計士およびその関与先企業、上場企業を中心とした中堅、大手企業を対象にした各種サービスを運用している。
東日本大震災でも被害を受けなかった免震構造や、外部および内部の雷保護、正社員による24時間365日の有人監視、電気設備の二重化や非常用バックアップ発電機の導入、窒素ガス消火システムなどの設備に加え、情報セキュリティに関する認証であるISO27001、18号監査と呼ばれる、公認会計士協会監査基準委員会報告書第18号の「委託業務に係る統制リスクの評価」に基づく監査も受領。LGWAN-ASPサービス事業者として、地方公共団体のネットワークを相互に結ぶ総合行政ネットワークにも対応するデータセンターであるということも、評価を裏付ける点になっている。
実際、富士通がグループ連結納税システムをTKCのデータセンターを活用して運用。「富士通自身が、自らデータセンターを構築しているのにもかかわらず、当社のデータセンターを活用しているという実績も、クラウドサービスの活用に二の足を踏んでいた企業にとって、安心感を与えることになっている」とする。
TISCでは、2011年秋に続き、2012年秋にも1億円規模の投資による設備強化に取り組んでおり、「これまでの検証結果から、仮想化技術が、当社が求める水準での運用にも確実に耐えうると判断した。仮想化環境によるクラウド共通基盤として設備を構築。ソリューション単位でクラウド化していたものを共通プラットフォームの上で展開していくことになる。今後の顧客数の増加、サービス範囲の拡大に対応できる強化を図った」とする。
同社では、顧客を直接データセンターに案内し、その堅牢性などについて説明。これも他社にない、TKCならではの信頼感を高めることにつながっている。
活用が広がるFX4クラウドとeCA-DRIVER
ここにきて高い関心が集まっているのが、年商5~50億円規模の中堅企業を対象とする「FX4クラウド」である。
FX4クラウドは、従来版のFX4を機能強化する形で、2011年6月にスタートした制度会計と管理会計を統合した、クラウドによる統合型会計情報システムだ。
以前からのオンプレミス版を含めて、2400社以上に利用されているが、そのうち、1278社がすでにクラウド版を利用。今後は、多くの既存ユーザーもクラウド環境に移行していくことになる。
FX4クラウドの利用企業のなかで目立つのが、競合他社のオンプレミス型製品からの乗り換え案件である。
また、すでに300社近くが他社製品からの切り替えであり、FX4クラウドユーザー全体の4分の1を占めている計算になる。
「会計事務所が支援する体制となっていること、他社業務システムで運用している給与データや販売データの取り込みが可能なこと、複数拠点の入力、管理が可能であるといったFX4クラウドならではの特徴が評価されている」(TKC 企業情報システム営業本部 連結会計統括営業部 連結会計システム営業部長の伊藤栄芝氏)とする。
さらに、「最先端の情報セキュリティ環境を活用できること、TKCによるデータセンター運営、BCP対策が万全であることも、TKCのクラウドサービスの強みとして理解されている。会計事務所の顧問先のシステムをFX4クラウドに置き換えるといった提案も多い」(飯塚常務執行役員)と語る。
一方で、連結会計システムであるeCA-DRIVERは、この分野には後発での参入となったが、クラウドでこれを提供するという点では、他社に先行するというポジションのなかで展開しているものだ。
「システムの投入そのものは最後発といえるが、その分、いま求められている顧客ニーズをとらえ、上場企業が安心して任せることができるクラウド環境の構築が強みになっている」と飯塚常務執行役員は語る。
公認会計士法の改正によって、監査法人における大企業向け業務が、税務と監査業務とに分離。税務処理に関しては、この分野で専門的な知識を持ち、税務のプロフェッショナルが、全国規模で支援するTKCの存在が注目されていた。そうしたなか、クラウドサービスを活用して、大手企業を支援する仕組みを構築したことが、eCA-DRIVERの大手企業への採用を加速させている。
また、上場企業においても、末端の子会社の会計処理までは徹底しきれていないという実態があるとの声も出ている。子会社のなかには、経理分野の専門知識を持たない社員だけで構成されているケースも少なくないため、そうした全国規模に点在する末端の子会社に対して、全国1万人を超えるTKC全国会の税理士、公認会計士がサポートする体制を活用できる点も大きな強みとなっている。
「eCA-DRIVERでは、一括処理機能により、ワンクリックで連結修正仕訳を自動生成するなど、機能面からみたわかりやすさを実現。さらに、FX5やERPシステム、決算開示システムとのスムーズなデータ連携を可能としていること、会計事務所が、システム導入および運用の支援を行えること、クラウドをインフラとして活用していることで、ハード、ソフト、サービスを信頼できる環境で運用できることが強みだといえる。また、制度改正への対応は保守料のなかで提供。1月と7月の年2回の機能強化もクラウド環境であることから容易に展開できる」と飯塚常務執行役員は語る。
2010年10月には、TKC全国会において、中堅・大企業支援研究会を発足。中堅・大企業における会計、税務などの調査研究を実施。研究会会員への研修やセミナーなどにも取り組んでいる。これにより、TKC全国会の会員がシステムの運用を支援できる体制を整えているという。
2013年以降もクラウドの拡大は止まらない
TKCは、2013年以降も、さらにクラウドサービスの拡充に取り組む姿勢をみせる。
飯塚常務執行役員は、「今後は、会計、税務の分野でのクラウド活用がさらに拡大するだろう」と前置きし、次のように語る。
「中堅・大手企業においては、連結納税制度の適用に対する動きが活発化し、さらに中長期的にはIFRSへの対応が求められている。さらに、連結子会社を含めた、グループ全体にガバナンスを利かせることが喫緊の課題となっており、子会社の不正経理問題を未然に防ぐといったことも重要な点である。グループ全体が、同じインターフェイスで利用できるシステム環境を提供するとともに、コンプライアンス順守のために、人的支援の部分からもサービスを提供していきたい」。
TKCでは、人的サービスを「企業グループのための経理マニュアル準拠状況確認サービス」(仮称)として、2013年1月以降に提供していく予定で、これにより子会社を含めたグループ全体でのガバナンス統制を図ることができるという。
またその一方で、自民党政権への移行に伴う、制度改革への対応も2013年の重要な要素のひとつだといえる。新たな制度に対して、迅速に対応できる体制を継続的に維持する姿勢を示す。
そして、「個別会計と、連結会計の両方を、1社で提供しているという強みを生かしていくことも2013年のテーマ」だとする。
日本会計基準で行う個別会計と、米国会計基準などで行う連結会計を、いかにシステムとして融合させた提案ができるかがこれからの鍵だという。
「同じデータセンターで運用していることから、相互のデータ連携なども行いやすい環境にある。グループ各社の最新業績をいつでも確認できる環境を提供し、連結経営における戦略意思決定を支援してきたい」とする。
このようにTKCでは、クラウドを活用した会計ソリューションの提供により、法人における経営戦略を支援する体制を整えた。2013年はさらにこの取り組みが加速し、企業基幹システムにおけるクラウド活用の提案において、引き続きリーダー的存在を果たすことになりそうだ。