大河原克行のキーマンウォッチ

「これからのニーズ『SMART』に応えられる企業だ」~米Dell Wyseターカン・マナーCEO

 「これからますます重視されるキーワードはSMART。WyseはSMARTの込められたニーズに応えることができる企業だ」――。

 米Dell WyseのTarkan Maner(ターカン・マナー)社長兼CEOはこう切り出す。SMARTは、「セキュリティ」、「マネージビリティ」、「アベイラビリティ」、「リライアビリティ」、「TCO」の頭文字で構成され、そこにWyseの強みが発揮できるというわけだ。

 同社は仮想デスクトップソリューションにおける世界ナンバーワンのシンクライアントベンダーであり、ゼロクライアントをはじめとする製品群を提供。フォーチュン500社のほぼすべての企業が、Wyseのソリューションを活用しているという。

 2012年5月に米Dellに買収された以降も、Dell Wyseとして独立性を維持した形で事業を継続。2013年7月には、超小型端末「Wyse Project Ophelia」を発売することを明らかにしており、これを「ゲームチェンジができる製品」とマナーCEOは位置づけ、新たな事業創出に意気込みをみせる。マナーCEOにDell Wyseの事業戦略について聞いた。

Wyseの強みはソフトウェア?

――シンクライアントが注目を集めるなか、Wyseを取り巻く環境はどう変化しているのでしょうか。

米Dell Wyseのターカン・マナー社長兼CEO

 エンタープライズ市場においては、ここ数年、6つのキーワードに対するニーズが高まっています。それは、「セキュリティ」、「マネージビリティ(管理性)」、「アベイラビリティ(可用性)」、「リライアビリティ(信頼性)」、「スケーラビリティ(拡張性)」、そして、CAPEX(設備投資コスト)やOPEX(運用コスト)を含む「TCO」です。こうしたニーズの高まりとともに、当社の成長も大きなものとなっています。4年前の当社の売上高は約100万ドルでしたが、これが、現在では10億ドルにまで急成長しています。

――Wyseがこれだけの成長を遂げている理由はなんでしょうか。

 クラウドコンピューティングを享受してもらうには、顧客に対して、ソーシャル、モバイル、バーチャル、そして、ビデオやデータを垣根なく活用できるコンバージェンス、バックエンドとなるサーバー、ストレージ、ネットワークを統合するコンテクスチュアルという5つの要素を、顧客ニーズにあわせて提供する必要があります。こうしたものを、きちんと提供できている点がWyseの成長要因のひとつです。いま、多くのIT企業が、Wyseと同じ方向に向かおうとしているのではないでしょうか。

――Wyseの強みはどこにありますか?

 ひとつめは、Wyseはソフトウェアに強い会社であるという点です。ソフトウェアに関する特許を300以上有しています。

 例えば、iPhoneやiPad、Android端末から、仮想デスクトップや個人PCのデスクトップにアクセスできる「Wyse PocketCloud」は、当社のソフトウェアの強みを表現するのには最もわかりやすい製品だといえるでしょう。

 また、「Project Freezer」では、HTML5が利用できるブラウザであれば、それを利用してどこからでもデスクトップにリモートにアクセスできる環境を提供できます。また、Wyseでは、CCM(クラウド・クライアント・マネージャー)と呼ばれる、デバイスをクラウドベースでセキュアに管理するソリューションも提供しています。

 CCMでは、例えば、米国でAT&Tのネットワークにつながっているこのデバイスを、日本でローミングによって接続していたとします。日本での深夜の時間帯は使わないので、ローミングを行わないようにして、通信料金を抑えるといったことが、インテリジェントに実行できるようになる。こうしたソフトウェア群を提供していることが、Wyseの強みです。

 2つめは、カスタマー/パートナー・インティマシーへの取り組みです。パートナーやエンドユーザーを頻繁に訪問し、クラウド・クライアント・コンピューティングのメリットや、シンクライアントの良さを理解していただくための活動に力を注いでいます。

 そして3つめは、ソフトウェア、ハードウェアのデリバリーにおける強みです。サーバー、ストレージ、ネットワークを統合し、Dellのサプライチェーンを活用しながら、Wyseのソリューションをエンド・トゥ・エンドで提供することができます。

――Wyseのエンジニアのうち、95%がソフトウェアエンジニアだといいます。中身をみると、むしろ、ソフトウェアカンパニーといった方が適切ですか(笑)。

 シンクライアントベンダーというくくり方をすれば、ハードウェアカンパニーというようにみえます。またご指摘のようにソフトウェアカンパニーという表現ができるかもしれません。しかし、私は、そのどちらにも当てはまらないと考えています。あえていうのであれば、ソリューションカンパニーであり、サービスカンパニーということになります。しかし、そうしたくくり方も適切ではないように感じます。DellやIBM、ヒューレット・パッカードやオラクル、アップル、グーグルといった企業は、ソフトウェアもハードウェアも持っており、それを提供するためのサービス事業もある。Wyseも同じで、ひとつのカテゴリーにくくることができないのではないでしょうか。

DellによるWyse買収は“完璧な結婚”

――2012年5月に米Dellに買収されてから1年を経過します。Dellによる買収効果はどんなところに出ていますか。

 これは「パーフェクト・マレッジ(完璧な結婚)」です。寿司に例えるならば、おいしいご飯とサーモンがマッチしたようなものですよ(笑)。

――どちらがしゃりで、どちらがネタですか(笑)。

 Dellはインフラストラクチャーを担いますから、しゃりです(笑)。単品で食べるよりも、合わさった方が価値が出る(笑)。1+1が3になる好例です。

 Dellは、この組み合わせによって、エンド・トゥ・エンドソリューションにおいてキーとなる製品がすべてそろったといえます。Dellには、データセンター側のサーバー、ストレージ、ネットワーク、システム管理製品がそろっている。

 一方のWyseでは、エンドポイント側のソフトウェア、ハードウェアを有している。また、Wyseは従来、エンタープライズフォーカスでのビジネスを行ってきましたが、Dellは世界中に2万人以上のセールス担当者がおり、世界中の顧客にリーチできる仕組みを持っている。この点でも効果を出せます。

 日本においても、われわれのパートナーによるリーチに加えて、デルによるリーチを生かすことができる。これを掛け合わせることで何倍もの成果を出すことができます。Dellは、Wyseの60倍もの売り上げ規模を誇る企業であり、こうした人的パワーや、サプライチェーンを利用できる効果は絶大なものがあります。

 当然のことながら、Dellとのシナジーによって、製造コスト削減にも大きく寄与しています。Wyse自らのマーケットシェアを拡大することで、さらにその効果を高めることができると考えています。

――Dellによる買収後、Wyseの独立性はどう担保されていますか。NECや日本IBMといった日本における戦略的パートナーとの関係にも影響するのではないでしょうか。

 私は、Dellの買収戦略は非常に優れたものだと判断しています。Wyseは、Dellによる買収後も、Dell Wyseという単独のビジネスユニットとして動いており、独立性を保っています。

 また、Dellは、Wyseのパートナー戦略を重視しており、NECやIBM、Ciscoとの関係もこれまでどおりです。また、Dellの対抗というようにいわれるHewlett-Packard(HP)とも、Wyseはビジネスをしています。実際、HPがデータセンターを担当し、Wyseがエンドポイントを担当するといった商談もあります。

 基本となるのは、顧客のベネフィットを重視するという点です。顧客が求めるものが、NECやIBM、シスコシステムズのソリューションであれば、そこにあわせてWyseを提案していくという仕組みであり、ここにDellのソリューションを押し込むといったことは一切しません。

 例えば、三菱東京UFJ銀行の場合は、Wyseと日本IBM、ソフトバンクの場合は、WyseとVMware、NTTコミュニケーションの場合はWyseとシトリックスでの組み合わせによる提案です。海外でも、バークレイズでは、Wyseとレノボ、Dellによる提案、ドイツ銀行の場合はWyseとIBM、ヒューレット・パッカードによる提案です。こうした競合会社同士が、協業しながらWyseを扱っているというのが現状です。

――Dellが株式の非公開化を決定しましたが、これはどんな影響がありますか。

 その影響はまったくないと考えています。

セキュリティを高めながらコストを下げられるシンクライアント

――あらためてお伺いしますが、なぜ、これだけシンクライアントに注目が集まっているのでしょうか。

 エンタープライズユーザーの多くには、コストを下げながら、セキュリティを高めたいといったニーズがあります。こうした動きに代表されるように、最もニーズが高いのが、セキュリティであり、管理性、そしてTCOといった要件です。

 ただ、これまではセキュリティを強化するといっても、ストレージやサーバー、PC、ネットワーク、管理ソフトウェア、バックアップソフトなどといった個別のソリューションを別々に調達しなくてはならず、結果として、セキュリティを高めることはできるが、むしろ、管理が煩雑になり、コストがかかるという状況にありました。

 Wyseは、Dellのなかに入ったことで、個別のソリューションをすべて統合し、エンド・トゥ・エンドのソリューションとして提供できる。その結果、セキュリティを高めながら、コストを下げることができるのです。

日本はもっとも成長率の高い市場の1つ

――日本におけるシンクライアント市場の動向をどうみていますか。

 セキュリティに対する注目度が高まっているのに加え、管理性にも高い関心が集まっています。そして、TCOという点では、厳しい経済環境が続いたことで、やはり関心がある。また、東日本大震災以降、日本においては、これまで以上に、リライアビリティやスケーラビリティに注目が集まっている状況にあります。

 日本市場は、世界のなかで、最も成長率が高い市場になっています。かつては、ハードウェアが安ければいいというコスト中心的な考え方でしたが、導入してみると、うまく動かないとか、管理にコストがかかるといった課題が出ていた。三菱東京UFJ銀行への7万台のシンクライアント導入実績に代表されるように、高いセキュリティ水準を維持しながら、パフォーマンスを最大限に引き出すことができる端末として、Wyseが高い評価を得ています。

 これが他社にまねができないWyseの強みであり、Wyseに対するニーズが高いのは、こうした強みが日本のユーザーに伝わってきているからだと考えています。

――日本でのビジネスについては、どう評価していますか。

 10点満点中8点ですね。もっと日本市場に対してWyseの強みを訴求する余地があると考えていますし、新たなソリューションに対する可用性の高さを広く認知してもらいたい。10点にしてしまうとそれで終わってしまいますからね(笑)。まだまだ日本でのビジネスをドライブさせていきたいですね。

もっともっとWyseを知ってもらいたい

――2013年のWyseのビジネスは、なにがポイントになりますか。

「Wyseの良さをもっと知ってもらいたい」、と語るマナーCEO

 Dell Wyseにとって、2013年のフォーカスポイントは3つあります。ひとつは、コンバージェンス。ボイス、データ、ビデオのようなフロントと、サーバー、ストレージ、ネットワークといったバックエンドを統合して、しっかりとソリューションを提供していくことです。

 2つめは、ビッグデータ。クラウド上に格納された大量のデータを、使いたいときにいつでも利用できるようにするために、Wyseとして、いかにソリューションを提供していくかという点です。

 そして、最後に、セキュリティ、マネージビリティ、アベイラビリティ、リライアビリティといった4つの観点を持ちながら、TCOを削減していく提案。クラウドを通じた統合環境のなかで、Wyseの良さを提案していくことになります。

――いま、Wyseにとっての課題はなんですか。

 課題があるとすれば、もっとWyseの良さを多くの人に知ってもらうということでしょうか。いま、新たな潮流がはじまっています。ソーシャル、モバイル、クラウドといった新たな潮流において、なにが最適なソリューションであるのかということを、エンドユーザーが知らなくてはならない。それを伝えることがわれわれにとって重要な課題です。

 世界の約70億人の人口のうち、PCやモバイルを持っているのは約20億人。残りの50億人は通信手段も、製品も持たない状況にある。当社では、Wyse Project Opheliaという製品を今年7月1日に米国で発売します。

 これは、クラウドにアクセス可能なメモリースティックサイズの超小型無線端末で、テレビ画面やディスプレイに接続するだけで、クラウド上のコンテンツにアクセスできる製品です。こうしたローコストで、省電力なツールを活用することで、もっと多くの人に、クラウドを通じて、価値を享受してもらえるようになる。こうしたことに、Wyseは取り組んでいきたいと考えています。

“ゲームを変える”製品、Wyse Project Opheliaを提供

――Wyse Project Opheliaは、今年1月、米ラスベガスで開催されたInternational CESで発表しましたね。手応えはどうですか。

Wyse Project Ophelia

 非常にポジティブです。通常のPCは消費電力が300W程度であり、シンクライアントでも10W程度です。しかし、これであれば1Wで済みます。つまり、グリーンコンピューティングとしても評価されています。そして、128ビットの暗号化技術などによって、セキュアな環境で、ボイス、データ、ビデオを利用できる。しかも、製品の価格は、100ドル以下を目指しています。

 つまり、コンピューティングの利用環境を、いままではとまったく違う次元のところへと持っていくことができる製品であり、ゲームそのものが変わる要素を持っているといえます。

――Wyse Project Opheliaの成功は、なにを基準に判断しますか。

 もちろん、どれたけ売れたかというのはひとつの基準となります。ただ、それよりも、多くの人がクラウドを自由に使えるようになり、クラウドから価値をどけだけ享受できるのかといったことの方が重要です。デバイスの広がりそのものよりも、どんな環境からでもクラウドに接続できるようにし、ボイス、データ、ビデオといったものがきちんと利用できることで価値を得られる、といった世界を作り上げたい。これは、これまでのPCには実現できなかった世界だといえます。

――2013年における日本での事業成長のポイントはなにになりますか。

 Wyseはここ数年で大きな成長を遂げており、そのなかでも日本は重要な市場になります。さらに投資を進めていきたいですし、私自身も日本には積極的に訪れようと思っています。これまで以上に、日本の成長には大きく期待しています。

【お詫びと訂正】
初出時、編集部の作業ミスにより、ターカンCEOの写真を誤って別人の写真を掲載しておりました。大変ご迷惑をおかけしましたこと、お詫びして訂正いたします。

(大河原 克行)