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ヤマハが挑む新カテゴリーの無線LANルーター「NWR100」開発秘話
培ってきた信頼性と導入前後も支援する万全の体制で小規模オフィスの安心を守る
2026年1月13日 09:00
ヤマハが9月に発売した「NWR100」は、小規模オフィスや店舗などに向けた無線LANルーターだ。約20名/30端末以下という、RT/RTXシリーズやNVRシリーズといった従来のルーター製品よりも小規模の環境をターゲットに開発されている。
無線LAN機能とルーター機能を一体化して提供する無線LANルーターで、オフィスにもなじみやすい外見を採用。その一方で、ヤマハの法人向けルーターや無線LANアクセスポイントと同等の評価基準をクリアした高品質なソフトウェア・ハードウェアを実現し、長期運用にも耐えることを狙っているという。
設定・管理面では、従来よりも小規模な環境を対象としていることから、直感的に操作できるシンプルなGUIを搭載。さらに、ネットワークに不慣れなIT担当者でも適切に管理を行えるように、トラブルの可視化と対処を支援する新機能「ウェルネスモニター」を搭載したことも特徴だ。
この、ヤマハネットワーク機器の実績を新カテゴリー製品に生かしたNWR100の開発について、開発の狙いや、開発におけるこだわり、苦労した点などについて、ヤマハ株式会社の担当者にインタビューした。
商品企画を担当した秦佑輔氏(音響事業本部 プロフェッショナルソリューション事業部 ネットワーク事業推進室 主事)、ハードウェア設計を担当した坪井聡汰氏(音響事業本部 プロフェッショナルソリューション事業部 商品開発部 電気グループ 主任)、ソフトウェア全般を担当した木村誠氏(音響事業本部 プロフェッショナルソリューション事業部 商品開発部 NWソフトグループ 主事)、ソフトウェアの中でも主にウェルネスモニターを担当した鈴木俊太朗氏(音響事業本部 プロフェッショナルソリューション事業部 商品開発部 NWソフトグループ 主任)の各氏に話を聞いた。
小規模なオフィスや店舗にもヤマハの信頼性と安心を
――NWR100は、ヤマハネットワーク製品の中では従来と少し違ったカテゴリーの製品だと思います。その企画意図を教えてください。
秦氏: 市場の変化がきっかけです。これまでヤマハは、当社の既存のお客さまよりも小規模な層には十分な提案ができていませんでした。イメージとしては、従業員が20名以下ぐらいの企業や店舗です。現在では、そうした小規模なところでも、ネットワークがとても重要になっており、安定して動き続けることが求められています。そうした層にもヤマハがお役に立てると考えて、NWR100を企画しました。
――小規模なケースでは、コンシューマー向けの無線LANルーターを入れることも多いのではないでしょうか。
秦氏: はい。ただし企業や店舗で使うとなると、安定してつながらなかったり(定期的な)再起動が必要だったりと、業務レベルの信頼性には不安が残ります。運用管理やセキュリティの機能が家庭向けの機能しかないという点もありますね。
かといって、法人向けのルーターとアクセスポイントを入れるのは、コストが一気にアップしますし、専門知識も必要です。
こうした市場に、古くからルーターを提供しており、アクセスポイントでも10年以上の実績を持つヤマハが、低価格で使いやすい製品を出すことで、トータルで安心できる価値を提案していけると思っています。
――他社でも低価格な法人向けの無線ルーターを出しているところもあります。それらの製品との差別化ポイントはどのようなことがあるでしょうか。
秦氏: 開発担当から、後ほどウェルネスモニターの話があると思いますが、特に無線LANでトラブルが起こった時に、慣れていない人だと、何をどう調べてどう対応したらいいかわからないといった課題があります。NWR100では、そこにある程度対応できたと思います。
それから、ヤマハのネットワーク機器の安定性については、既存のユーザーから高い評価や認知度をいただいており、とあるメディアが実施しているネットワーク機器の利用実態調査でも、中小規模向けルーターで長年1位を獲得しています。そうしたところもお客さまの安心感につながると思います。
ネットワーク管理経験の少ない人のために、GUIを完備し、デフォルト設定も工夫
――続いてソフトウェアの面について、木村さんにお伺いします。まず、新しいカテゴリーの製品ということで、開発で苦心した点を教えてください。
木村氏: 秦もお話したように、これまでのヤマハネットワーク製品と同様の高品質を小規模向けの製品でも保つという点に力を入れましたし、苦労しました。
――開発にあたって、特にこだわった部分を教えてください。
木村氏: 今回は新規の、ネットワーク管理経験の少ないユーザーを対象にしています。そのため、GUIだけで必要な設定がすべてできることにこだわり、GUIを刷新して作り直しました。ただし、すでにルーター製品を使っているユーザーが迷わず使えるようにも意識しています。
設定項目も、なるべく設定が必要な項目を減らして、できるだけ初期設定で使えるように、デフォルト値を工夫しました。どの設定が必要かについては、入念に議論を重ねて決めた、というのも苦労した点です。
――そうした、これまでのユーザー層と異なる方々を対象とした部分については、かつて提供されていたコンシューマー向け製品(Netvolanteシリーズ)のノウハウの継承もあるのでしょうか。
木村氏: はい。Netvolanteを使っている方や、かつて使っていた方が困惑しないよう、大幅に変わってしまうことは避けています。同時に、新しくヤマハのルーターに触れる方が困らないことも意識しています。
――そのほかに工夫した点があれば教えてください。
木村氏: Wi-FiのWPA2-EnterpriseやWPA3-EnterpriseでEAP-PEAP認証を使うので、そのアカウントをVPN接続と共通にできるようにしました。同じユーザーが利用するため、1つのアカウントで管理できるように設計したわけです。管理者が設定画面で、どちらを使うか、あるいは両方とも使うかを選択すれば、一括で管理できて手間を減らせます。
また、コンシューマー製品でWi-Fiを使っていた方だと、ユーザーごとにWi-Fi接続アカウントを分けられることを知らない方も多いと思います。VPNについては個人に対してアカウントを割り当てる認識はあると思いますので、共通化することで、一歩先のセキュリティを目指してもらえればと考えました。
――そのほかにポイントはありますか。
木村氏: トラブルシューティングの機能に力を入れて、ウェルネスモニターを搭載したことは、押し出したいポイントです。
ネットワークのトラブルに対処する“専門家要らず”の新機能を搭載
――では、ウェルネスモニターについて、鈴木さんにご紹介をお願いします。
鈴木氏: ウェルネスモニターは、トラブルシューティングのための新機能です。
ネットワークの問題は、回線や、機器、電波、PCやスマートフォンなど、さまざまな要因があって、それらが複雑に絡み合ってトラブルが発生することがよくあります。そうした原因や対策のための情報を、新規ユーザーにも既存ユーザーにもわかりやすく表示して、次のアクションを取れるように支援してくれます。
――ヤマハのネットワーク機器では、これまでも「LANマップ」や「無線LAN見える化ツール」など、トラブルを把握するための機能を組み込んでいます。そうしたノウハウが生かされているのでしょうか。
鈴木氏: はい。ウェルネスモニターは、本体情報ボード、無線LAN情報ボード、接続切断フロー、端末一覧ビューの4つのサブ機能からなります。このうち、本体情報ボードはルーターのRTXシリーズのダッシュボードを、無線LAN情報ボードはアクセスポイントの無線LAN見える化ツールを継承した形になっています。
サブ機能の切り分けは、ネットワークのトラブルが大きく5種類に分けられるということに基づいています。1つ目は、ルーターより上位のWANやプロバイダーの問題。2つ目は無線LANルーター自身の問題。3つ目は、無線LANルーターと端末の間の無線通信の問題。4つ目は、無線LANルーターと端末の間の接続切断の問題。5つ目は、端末自身の問題です。
このうち、1つ目と2つ目を本体情報ボードに、3つ目を無線LAN情報ボードに、4つ目を接続切断フローに、5つ目を端末一覧ビューに割り当てています。そして、ウェルネスモニターのトップページを一目で見て、問題がありそうな箇所がわかるように、工夫して設計しました。
――ネットワークは、どこでトラブルが起こっているかわからないのが苦労するところです。それを確認しやすくなっているのが、特にネットワーク管理に慣れていない人にいいですね。
鈴木氏: はい。これまでコンシューマー製品を使っていた方が一段上の機能を使うにあたり、こうしたトラブルシューティング機能があることによって、安心して利用してもらえることを目指しました。
――開発にあたって、特にこだわった部分を教えてください。
鈴木氏: ネットワーク管理に慣れていないユーザーがウェルネスモニターを見た時に、難しすぎる専門用語が使われていないことを意識しました。RTXシリーズを使うネットワークエンジニアは専門知識を持っていますが、NWR100はそうでない方も使う製品です。
例えば、エンジニアはSyslogを追えば接続状況がわかると思いますが、専門知識がないとそういったことはできません。そこで接続切断フローの画面を用意して、どのような接続シーケンスで端末が接続し、どのようなエラーで切断されたかといったことが、日本語で順を追ってわかりやすく見られるようになっています。
――経験が少ないと、トラブルが起きたときに気が焦ってパニックになってしまうユーザーも多そうです。しかし、情報がわかりやすくなっていると、落ち着いて対処できそうですね。
鈴木氏: Syslogは英語でメッセージが書かれていて、慣れていない人にはわかりにくいですよね。NWR100は初めて法人向けルーターを利用する人にも簡単に使ってもらえることを目指した製品ですので、わかりやすさにも気を配りました。
――カタログや仕様表には表現しきれていない、NWR100の押し出しポイントや、知ってほしいポイントを教えてください。
鈴木氏: ウェルネスモニターはトラブルシューティングの機能なので、カタログだけではわからないことも多いと思います。そこで、ぜひ手に取って使っていただければと思います。
――そのほかにポイントはありますか。
鈴木氏: 私は無線部分のソフトウェアも担当しました。性能や接続安定性の点で安心して使っていただけるよう試験をクリアしていることも強調しておきたいと思います。
そこで苦労した点として、無線の多台数接続での接続・切断で、開発終盤になって問題が見つかって慌てました(苦笑)。ヤマハには、市販の無線LAN接続可能な端末を使って、アクセスポイントや無線LANルーターに対して無線の接続・切断を繰り返す実機評価用の機材があります。それまで、測定器による試験では問題が発生しなかったのですが、この実機評価用の機材にかけたときに、通信ができなくなる不具合が発生しました。
こうした問題が出るのは、きちんと実機での接続切断試験や負荷試験をしているからこそ、という点を強調しておきたいと思います。もちろん、この時に見つかった不具合はすでに修正されており、お客さまが製品を使う際には解決していますので、安心してお使いください(笑)
オフィスの見えるところに置きたくなるよう、デザインも意識
――デザインも、これまでのヤマハのルーターとは大きく違いますね。
坪井氏: はい。目に見えるところや身近なところに飾って使いたくなる製品を目指しました。オフィスや店舗に置く無線LANルーターでは、他社製品もデザイン性の高い製品が多いため、NWR100でもデザインを重視しています。また、無線LANですから、奥まったところではなく見通しの良い場所に置いてほしいという意味でも、デザインを意識しました。
そこで、色は明るめで周囲になじみ、目立ちにくいようにしました。一方で法人向け製品ですから、コンシューマー製品より落ち着いた色味や質感にこだわりました。
具体的には、無線LANアクセスポイントのWLXシリーズ同様に、日本のオフィスになじむよう、柔らかい白を選びました。形状としては、テーパー型(台形)と曲線を組み合わせ、単なる直方体形状よりもスリムに見せる形状にしています。さらに、製品前面も、印刷を極限まで減らして余白を設け、洗練された印象を与えるようにしています。
――デザイン面でそのほかにこだわった点はありますか。
坪井氏: 動作状態を示すLEDが、正面からはもちろん、角をまたいだ形にして、横からも見えるように工夫しました。機器や無線の状況を目で見てすぐ確認できるようになっています。
木村氏: LEDの色や光り方も工夫しました。そういうところも見ていただけると幸いです。
新規ユーザー層に向けてマニュアルやサポートも完備
――法人向け、かつ新しい対象ユーザー層ということで、サポート面はいかがでしょうか。
坪井氏: ヤマハは、サポートや技術資料を充実させている点が強みだと思っています。NWR100でも、例えば小規模オフィスで使う際の無線状況について、実際に測った結果をホワイトペーパーにまとめています。思い思いの場所に設置されやすい機器なので、机の下に設置した場合に電波状況が少し悪くなってしまうこともある、などといったこともホワイトペーパーに書いてあります。
秦氏: マニュアルについても、新しいユーザー層が楽しく製品を理解して快適に使っていただけることを考えました。具体的には、まず、手早く設置や設定したい方に向けて、「はじめにお読みください」の裏面に、典型的な初期設定手順を掲載しました。また、従来製品は技術資料を読んで使い込んでもらう想定でやっていますが、今回は、典型的な使い方での設定手順を簡単に把握してもらえるよう、「活用ガイド」を新しく追加しました。
――既存のルーターにおけるサポートの実績から、事前に困りそうなことについて資料を用意して、あとはサポートデスクなどで対応していく形ですね。サポート体制はこれまでの製品と違いはあるでしょうか。
秦氏: サポートはこれまでと同様です。1つ違う点として、ヤマハのルーターは通常は1年保証ですが(編集部注:これまではセンタールーターRTX3510のみ5年保証)、業務で安心してお使いいただきたいということで、NWR100は特別に5年保証としました。
"ちょうど良いバランス"を考慮した初代製品、今後の進化にも期待
――無線LANといえば、Wi-Fi 7や6Eもありますが、今回のスペックで製品化した理由は何でしょうか?
秦氏: Wi-Fi 6がこなれていて、安定性や安心感といえばWi-Fi 6だろうと考えたからです。そのため、Wi-Fi 6E対応にはしませんでした。また、小さい拠点では、それほど大きなトラフィックは流れないだろうと考えて、有線LANポートはオール1Gbpsとしました。最初に出す製品としては、このぐらいがちょうどいいバランスだと考えています。
――なるほど。ということは、将来的には高速な規格に対応する可能性はあるのでしょうか。
秦氏: 有線の10Gbpsポートが付いていて、Wi-Fi 7に対応している機種も、ありうるかと思います。ただ、あまり高くなりすぎるのもコンセプトから外れるので、そこのバランスが肝になるでしょう。
一方で、Wi-Fiは最新の規格になるとより安定性が増していきます。速度というよりは安定性のために、最新のWi-Fi規格を採用するというのはありうると思います。
――新製品だけでなく、ヤマハのルーターはこれまでもファームウェアで機能を追加してきましたね。NWR100でも今後そのような形で機能が変わってくることはあるでしょうか。
秦氏: はい。まだ発売されたばかりですので具体的な話があるわけではありませんが、機能が追加・変更されていくこともあり得ます。使いやすさがキーポイントの製品なので、ヤマハとしてはこのように開発しましたが、実際にはこういう使い方が望まれているということがあれば、対応したいと思います。もちろん、ハードウェアなどの制約もありますが。
例えば、IPsecの拠点間トンネルが欲しいという声は、多くの方にいただいています。また、複数拠点にたくさん設置するといったような使い方を検討している方々からは、YNOに対応してほしいという期待もいただいています。
今でも完成された製品だと思いますが、これまでのヤマハネットワーク製品と同様、今後どう進化していくかも期待していただけるのではないでしょうか。
――お客さまのニーズに応えていく、ということですね。
鈴木氏: ニーズということでは、NWR100を発表してから、ヤマハとSCSKによるイベント「Yamaha Meetup」で、全国を回ってお客さまと話す機会があったのですが、そこで、NWR100のような無線LANルーターがちょうど欲しかったんだ、というお客さまにお会いしました。
工事現場の仮設小屋で使うネットワーク機器として、ヤマハのルーターとアクセスポイントを入れたかったが、これまでは価格的に難しく諦めていたそうです。しかし、NWR100が出たことで、次の現場ではヤマハ製品を置けるようになったと喜んでいらっしゃいました。お客さまのニーズに的確に応える製品になっているのがうれしいですね。



















