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Coltテクノロジーサービス・星野社長と考える、企業向けネットワークの「これから」

閉域網、クラウド、インターネットなど多様化する回線ニーズ。コストも意識したインフラ選択を

 通信回線は、企業にとっての最重要インフラだ。本店-支店といった拠点間通信はもちろん、各種クラウドサービスの利用、そして日常的なインターネットブラウジング、そして音声通話等、あらゆるサービスが回線上でやりとりされている。回線の速度や品質は、いまや仕事の生産性をも左右する。

 そして2023年。人々の働き方はますます多様化している。リモートワークが淘汰されることはなく、しかしオフィス回帰も着実に進行。デジタルトランスフォーメーション(DX)の機運も高まっている。こうした状況で、企業はどうコミュニケーション手段を確立すべきなのか。そして通信インフラをどう整備すればいいのだろうか。

 Coltテクノロジーサービス株式会社は、実に20年以上に渡って日本国内で通信回線サービスを提供。刻々と変化するニーズにも対応してきた。そこで今回は、同社の代表取締役社長兼アジア代表の星野真人氏にインタビューを実施。市場の最新動向、そして今後の事業戦略を聞いた。

Coltテクノロジーサービス株式会社 代表取締役社長兼アジア代表の星野真人氏

スタートは日本国内密着型、そしてグローバルへ

 Coltテクノロジーサービスの歴史は1999年4月にまでさかのぼる(当初の社名はKVH株式会社)。設立したのは、米国を本拠とする金融投資グループのフィデリティ。おりしもその時期は、一般消費者によるインターネット接続が増加していたが、企業にとってもネットワーク接続の重要性が加速。そんな中、東京都内および大阪市内に自前の光ファイバー網を着々と整備していたのがColtテクノロジーサービスだった。

 親会社が金融サービス事業者であることからもわかるように、金融機関はColtテクノロジーサービスにとって重要な顧客。つまり、金融機関が求める信頼性、安定性を担保できるネットワーク構築力──それが強みである事は言うまでもない。ちなみにColtとは「City of London Telecommunications」の略である。

 ここ10年ほどでは、エリアカバレッジも拡大させた。それまでの東京・大阪が中心だったネットワークは、名古屋、京都、神戸へ、そして国際的には香港、シンガポール、米国などに広がっている。

 そして2015年には現社名のColtテクノロジーサービスとなった。これは同じくフィデリティグループでロンドンが本拠のColt Group S.AがKVHを買収したことに伴うもの。両社ともITインフラサービスの提供に軸足を置く企業だけに、経営一体化によってスケールメリットを発揮しやすくなったと星野氏は説明する。

 「Coltの日本におけるサービスは、我々のビジネスと資産の性質により、非常に現地化されてきました。しかしColtという大きなグループになった以上、もっとグローバルの資産を活用し、よりグローバルなサービスを提供していこうと(考え方が変わってきています)」(星野氏)

変わるユーザーニーズ、「SD-WAN」の提供を本格化

 Coltテクノロジーサービスにとって、企業向け通信回線サービスの提供は主力事業。基本的にはレイヤー1(物理層)ないしレイヤー2(データリンク層)までのインフラ・サービスを提供することに注力するというのが、これまでのスタンスだった。

 ただコロナ禍などを経て、そうした状況が変化しているという。ネットワークに対するユーザーの期待がより高まっており、それを受けとめるColtテクノロジーサービス側としても、対応を変化させた。その注力分野の1つが「SD-WAN」だ。

 企業内のLANネットワークの構成や帯域を変更する場合、従来であればルーターやスイッチなどの各機器に対して個別に設定変更をかけていたが、専用コントローラーなどを用いて一括管理しようというのが「SDN(Software Defined Network)」。SD-WANではこの技術をさらに広げ、WANをも一体的に管理する。これにより拠点間接続、クラウド接続にもより柔軟性をもたせることができる。

 SD-WANはレイヤー3で展開されるため、これまでのアジア市場におけるColtテクノロジーサービスであれば、主力事業として扱われなかったかもしれない。だが、そうした見方に反してヨーロッパ方面ではSD-WANのサービスが着実に成長。日本市場への浸透速度をはるかに上回るペースという。

 「法人のお客様は、(各個のサービスやツールよりも)ソリューションを求めています。そのためにもサービスのスタックを上げると言いますか、例えばインターネットやクラウドへの接続以外に、セキュリティも提供を始めています。われわれもプロバイダーとして、スキルを磨き、ポートフォリオ(製品ラインアップ)を強化していきます」(星野氏)

日本企業のITインフラ投資、その実態

 一般論として、日本企業は自社ITインフラのクラウド化などには慎重で、欧米と比べて先進テクノロジーの導入は遅いとされる。保守的であることは必ずしも悪ではないが、しかし現実問題として、日本企業は欧米企業とも市場で戦っていかなければならない。である以上、遅さはそれだけで不利とならないか。

 星野氏は米国で生まれの米国育ち、そして今はColtテクノロジーサービスの社長でありアジア代表という、2つの文化圏を知る立場だ。そんな星野氏からみると、日本企業の意思決定プロセスは、やはり欧米のそれとは大きく違うという。

 「一般的に言って、欧米企業のディシジョンメイキング(意志決定)が速いのは確かですし、リスクを取っても決断する傾向です。対して日本は、(現場担当者レベルでは)新テクノロジーを使いたくても、社内稟議を通さなければならない。それともう1つ、AIとかクラウドとか新しいテクノロジーを使って効率が上がれば、それだけコストが下がるとはいえ、今あるリソース──それは人材も含めてですが──を無くす、整理するのが(文化的・法的に)難しいという影響もあると思います。直近ではハイパースケーラーの雇用削減がよくニュースになっていますが、日本でなかなかそれはできません」(星野氏)

 コロナ禍は人々の生活を変え、それは働き方の変化にもつながった。ただ、それだけで稟議のプロセスが省略されるはずもない。コロナ問題発生直後の2020年春~夏頃にかけては、リモートワーク環境の整備のための依頼こそ急増したものの、各企業が中長期的に進めていたクラウドマイグレーション計画などが相次いで中断する事態になったという。

 星野氏によれば、コロナウイルス問題がやや緩和された2021年になると、コロナ禍で変わった働き方への対応、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)という意味での動きが各社で活発化。それが2023年の今も継続している状況にある。

 「そこでよく選択されているのがクラウド化であり、企業ネットワークのIP化であり、そして企業ネットワークを柔軟にするためのSD-WANなどですね」(星野氏)

回線に求められるのは「柔軟性」と「コスト」

 2023年3月現在、日本国内のコロナ問題は落ち着きを見せている。経済状況のさらなる回復に向けて、各所で動きが活発化するだろう。オフィスへ通勤する人々も増えたが、しかしリモートワークが一定の定着をみるなど、コロナ発生前とは状況が微妙に異なる。そうした中で、日本企業はどのようにITインフラを整備していくべきなのだろうか。

 まず星野氏が指摘したのが、回線の増強だ。今や従業員は、自宅でも社内でもテレビ会議を頻繁に行うようになっている。それを支えるため、回線帯域に余裕があったほうがいいのは間違いない。

 とはいえ、いたずらに帯域を広げるとそれはコストに跳ね返ってくる。必要に応じて帯域を柔軟に、細かくコントロールできて、“利便性とコストの両立”を図れる回線を整備すべきだと星野氏は説く。

 その上で、やるべきことは多い。回線の冗長化によって障害耐性を強くしたり、オフィスなどの拠点からクラウドへの直接接続があれば、業務の効率化にもつながっていく。

 「本社があって、支店があって、それらがデータセンターにつながっているというのが日本では一般的でした。そこへクラウドが入ってきたら実際のところどうすればいいのか。そういった部分を真剣に考える時期が来ています」(星野氏)

 ただ、企業の担当者レベルでは、自社ネットワークの構造などを正確に把握しきれていない場合も多いという。これは、いわゆる「ジョブローテーション」などで担当者が数年で入れ替わってしまうことなどが一因とされる。そこでColtテクノロジーサービスでは、各社のネットワークを調査・分析し、改善提案を出す取り組みも行っている。

 「データが全て1カ所のデータセンターに集まってしまっていて、しかもそこへのつなぎ方があまり考えられていないというケースは比較的多く見受けられました。その時、データセンターを分散させるのか、VPNの認証をどうするのか。Coltテクノロジーサービス単体では提供できないサービスについても、外部のパートナーと協力して提供するなどして、お客様の課題解決に取り組んでいます」(星野氏)

日本国内ではSIerとの連携を強化。それはなぜ?

 Coltテクノロジーサービスが2月に開催した企業戦略説明会では、SIerとの連携を強化するとの方針を表明している。これは日本国内企業がIT戦略を推進するにあたって、SIerの関与が大きいという実情を踏まえたものである。

 欧米企業は通常、ITシステム開発部門に多くの人員を割いている。これは2000年代以前から続く長期的な傾向といい、例えば仕様策定などは外注せずインハウスで行い、コンペを行うにしても通信回線会社を直接指名し、価格や機能を比べる。

 これに対して日本企業のシステム開発は、SIerを軸に行われ、コンペもSIerからの提案を比較するケースが大半だ。SIerから担当者が派遣されてオンサイトに詰めているケースも多く、社内のシステム部門社員よりもむしろ社内ネットワークについて詳しい……という事態も珍しくない。

 ただ、こうした状況を静観してよいかは議論の余地があるだろう。欧米でSD-WANの導入ペースが速いのは、そうした体制の差もあると星野氏はみている。例えば、企業がSD-WANを導入しようとする。その拠点には必要な機器が直接配送され、ネットワークに接続すれば設定データなどは全て「ゼロタッチプロビジョニング」で自動ダウンロードされる。あとは現場担当者がポータル画面を開いて、微調整を行うのが普通だ。

 これに対して日本では、機器の配送、ネットワーク接続、ポータル画面での調整まで、すべてを外部の専任担当者に任せるケースが多い。社内の負荷は低いが、しかし現地に担当者を呼ぶとなれば、その分時間もコストもかかる。

 『ある程度は客自身が作業する』という考えの欧米に対し、日本では『すべて専門家に任せる』のが主流。星野氏も「この差にはわれわれも正直苦労しています」と明かすが、その対応策がまさにSIerとの連携強化だと言えよう。

SD-WANの本当のメリットとは

 星野氏がSD-WANのメリットとして強調するのは、ネットワークを柔軟に構築できるという機能性だけではない。経済性、つまりコスト低廉化の面でも有利という。

 「SD-WANなら柔軟にネットワークを構築できる。ただ、それだけでは正確ではなく『コストを抑えながら柔軟にネットワークを構築できる』というのが正しい理解だと思います。SD-WANは、簡単に言えば1台のサーバー機器なのですが、そこにソフトウェアを追加していろいろ運用できます。数年前ですと、ファイアウォールを買って、ロードバランサーを買って、IDSも買って、となると電源もコロケーションスペースも使います。それがSD-WANなら1台で全て完結する。この意義は大きいです」(星野氏)

 その上で回線は、閉域でもインターネットでもWi-Fiでも、何にでも使っていい。閉域網接続とインターネット接続の割合をポータル画面からすぐさま変更したり、Webブラウジングはインターネット網、CRMツールを利用する時だけ閉域網というようなアプリケーション別の帯域管理も可能だ。星野氏はこうした機能性からSD-WANを「帯域をスマートに使うためのツール」と評する。

 ColtテクノロジーサービスのSD-WANサービスが実際に使われるケースとしては、郊外工場と都内オフィスの拠点間接続などが代表的だ。また商業施設内でテナントに光ファイバー回線を直接引けない場合などには、帯域保証型のモバイルインターネット接続サービス「4G/5G Wireless Access」でネットワークを構築。その上でPOSレジ用の帯域をSD-WANで確保するなどの対応がとられた例もある。

世界52都市で展開するメトロネットワークを今後も強化

 Coltテクノロジーサービスでは、最新テクノロジーの導入、機能強化も着実に進めている。3月14日にはネットワーク・システム、サービス、及びソフトウェアのグローバル・リーダーである米Cienaの協力のもと、500km超の長距離大容量通信サービスを開始。Cienaの6500 Reconfigurable Line System(RLS)や、WaveLogic 5 Extreme(WL5e)コヒーレント光伝送技術を活用したWaveserver 5コンパクト相互接続プラットフォーム、Manage, Control and Plan(MCP)ドメイン・コントローラーにより、Coltのネットワーク容量は2倍以上に拡大されるという。また、国内では広島、岡山、福岡(北九州)の3カ所に新拠点を設置する方針も示している。

 「400Gのサービスもすでにローンチしています。技術が成熟し市場に受け入れられるまで通常一年以上かかりますが、その頃に価格も市場において受け入れられやすく、顧客にとっても恩恵のあるものになるでしょう。とはいえ帯域が上がればそれだけ回線の重要性が上がりますから、リライアビリティ(信頼性)向上のための努力も、その分だけ必要になってきます」(星野氏)

 また星野氏がColtグループの強みとして挙げたのが、世界52都市で自前のメトロネットワークを構築している点だ。結果として課金の自由度が高く、より多様な価格体系でサービスを提供できる。ここ5年にわたってメトロネットワーク構築のための投資を続けてきたが、今後も継続していく計画という。


 星野氏がインタビューで終始強調していたのが「ネットワークの柔軟性とコスト」だった。どれだけ便利なサービスであっても、高価過ぎては使われない。また固定料金・従量料金どちらにしても、通信料に対する課金額がユーザーにとって納得できるものであるべきだ。そうした主張が星野氏の発言からは伝わってくる。コストもまた、柔軟性の要素の1つという訳だ。

 また、SD-WANを使うことだけが柔軟性という意味ではない。必要な時に必要な分だけネットワークを利用できる、「オンデマンドサービス」も用意されている。繁忙期、閑散期で極端にネットワーク使用量が異なる場合などに利用を検討してほしいという。

 日本においても、いよいよアフターコロナの光が見えてきた。2020年のコロナ発生直後、いわば緊急避難的に回線帯域を増強したり、リモートワークのための設備を導入した企業が、その方針を再検討する機会も増えるだろう。どれだけの帯域を確保すればいいのか、コストを抑えつつ上手に回線を利用するにはどうすればいいのか。そのヒントを、ぜひColtテクノロジーサービスと共に探してみてほしい。