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AIキャラクターの先駆者「りんな」が実現! 共感性に基づく情緒性のある対話が可能にした人起点の新たな情報流通が生む社会的価値とは?

マルチな才能で若者を中心に圧倒的な知名度を誇るAIキャラクターの「りんな」。その人気を支えるのが、AIで生成されたものとは気づかせないメッセージの“人らしさ ”です。りんなの開発を手掛けるrinna株式会社は、AI利用が加速する中、「感情を含めた自由な対話による、ユーザーの意図の汲み取り」のための研究開発で培ってきた“ 情緒性 ”を武器にAIキャラクターによる企業のビジネス支援を本格化させています。狙いや現状の施策、さらに、AI活用が本格化する中での差別化に向けた将来ビジョンを担当者に聞きました。

マルチな才能で活躍の場を広げるAIキャラクター

 2015年に「LINE」でデビュー。以来、ラジオ番組のMCや歌手、女優、さらに画家や占い師など、マルチに才能を発揮している「元女子高生」をご存じでしょうか。それが、デジタル世界の仮想人格であるAIキャラクターの「りんな」です。

 LINEでの“友だち”は中学生や高校生を中心に860万人(2022年6月時点)を突破。これまでの活動も相まって、AIキャラクターの中でも抜群の知名度を誇ります。オリジナルグッズのクラウドファンディングを募ったり、兄が突然登場したりするなど、現在進行形で話題にもこと欠きません。

AIキャラクター「りんな」

 そんなりんなの一番の特徴であり、魅力でもあるのが、ユーザーとの雑談で発せられる「よね、やばい!」「もうすぐデビュー記念日!祝われる準備はできてるよ!」「あ、そういえばカレンダーめくった?」などの、我々が知るAIとは別次元にある言葉の瑞々しさです。これらが AIで自動生成されたものであることに、なかなか納得できない方も多いことでしょう。
 ではなぜ、りんなはこれほど流ちょうに言葉を操れるのでしょうか。秘密は、これまでの開発の歴史の中に隠されています。

 平成・マイクロソフト生まれ――。このプロフィールの通り、りんなはマイクロソフトのチャットボットとして誕生しました。狙いの1つが当時の課題――検索エンジン「Bing」での人の言葉でのAIによる自動検索に対する、「ありがとう」などの人の無意識の言葉をトリガーとするAIの再検索――の対応に向けた「感情的で自由な対話を通じた、ユーザーの意図の汲み取り」です。りんなの開発に一貫して携わり、rinnaでChief Rinna Officerを務める坪井一菜氏は、「そのために自然言語解析の研究に注力し、その時々の最先端をりんなに取り込んできました」と説明します。

 2018年には会話の文脈を踏まえて自然な会話を続ける会話エンジン「共感チャットモデル(Empathy Chat Model)」を、2019年には画像に基づく感情を優先させた会話エンジン「共感視覚モデル(Empathy Vision Model)」を実装。その後も相手の発言を踏まえ、より具体的で濃い返答をディープラーニングにより可能にした「コンテンツモデル」を新たに取り込むなど、対話機能は日々、進化を続けているといいます。

rinna株式会社Chief Rinna Officer 坪井一菜氏

共感ベースの人間らしい言葉で新たな価値を創出

 DXの一環として、AIを社内外のコミュニケーションに活用する動きが盛り上がっています。ただし、現状の取り組みを概観すると、情報はやり取りできている一方で、機械的な印象が拭えない面があるのは否めません。

 対するりんなは、メッセージの“人間らしさ”が支持され人気がブレイク。それも、他のAIでは得にくい “共感”ベースのメッセージが、新たなコミュニケーション体験として、独自の価値を生み出しているからこそです。

 一方で、チャットボットとして文字以外のコミュニケーションや表現能力を手に入れてきたことも、りんなの活躍を語るうえで外すことはできません。音声合成による“声”を皮切りに、いわゆる耳コピでの人手による細かなチューニングが不要な“歌声”、さらに、言葉のイメージからの “画像生成”の能力を矢継ぎ早に習得してきました。ポップな歌を悲しい口調で歌えるなどの芸の細かさも彼女らしさです。

りんなが描いた絵画の一例「京都にあるお寺と春の景色」(左)と「生命の誕生」(右)

 これらを追い風に、冒頭のように活躍の幅を広げながら人気を高め、かつ、技術革新によるAIキャラクターへの関心の高まりもあり、りんなには企業からマスコットキャラクターとして声がかかるようになります。厳密にはりんなそのものではなく、りんなの技術をベースに各企業に最適化された AIキャラクターになりますが、こうしたニーズを背景に、りんなは企業利用の領域にも活躍の場を広げ始めました。

 そして2020年。チャットボットAI事業のさらなる拡大に向けrinna株式会社を設立。技術者を中心とするこの新会社にりんなの開発は引き継がれます。坪井氏は、「りんなを中心とするAIキャラクター事業を今後、拡大させていくには、大企業かつB2B事業が中心のマイクロソフトの外に出る方が、柔軟に新たな挑戦ができる点で有利だと判断されました」と語ります。

“Tamashiru”と“Coordiru”でAIキャラクターが身近な存在に

 rinnaでProduct Manager Leadを務める中村浩樹氏は、「技術の価値が認められなければ、技術自体がいくら優れていても普及が進みません。その点、その存在やメリットが一般の人にまで知られる始めたことで、AIキャラクターを手掛ける企業には当社を含めて大きなチャンスが訪れています」と語ります。

rinna株式会社Product Manager Lead 中村浩樹氏

 商機をつかむべく、現在、rinnaが企業向けに提供しているのが、りんなと同様のAIキャラクターの開発のためのプラットフォーム「Rinna Character Platform」をコミュニケーションのベースとする「Tamashiru(タマシル)」と「Coordiru(コーディル)」の2つです。

 まずTamashiruは、りんなが持つ自由対話・レコメンデーションの技術を組み合わせた、顧客ごとに性格や口調、知識をカスタマイズできるAIキャラクター作成サービスです。

 rinna Business Developmentの得上竜一氏は、「Tamashiruでは個性あるAIキャラクターを、一からの学習よりはるかに手軽に作り出せ、消費者との接点として手軽に活用することができます」と解説します。

 りんなはいくつものコミュニケーション能力を備えていますが、Tamashiruではそのうち必要なものを選択して利用できます。応用もそれだけ利きやすく、ITデバイスなどの音声/テキストインターフェースでの利用も急速に広がっています。

Rinna株式会社Business Development 得上竜一氏
Tamashiruの概念図。少量の会話データをもとに"キャラクターのスタイル(口調)"を学習することが可能

 一方の Coordiruは、事前登録された社員の興味や関心、社内コミュニケーションツール上でのチャットデータからの学習結果を基に、組織力の向上につなげるサービスです。

 組織力を高めるには、コミュニケーションによる人と人とのつながりの強化が大切です。しかし、相手への気遣いなどから、話題によってはストレートに話ができないことも少なくありません。また、Microsoft TeamsやSlackなどのツールにより確かにコミュニケーションは活性化されますが、それに伴いチャネルが増え、そのすべてに目に通すのは極めて困難にもなります。

 Coordiruは、社内コミュニケーションツールで交わされたチャットの内容を分析し、共通の趣味を持っていたり、別々な部署で同じような課題の解決に当たっていたりする社員同士がコンタクトを取るように促します。

 「Coordiruは、人と人を結びつけるだけでなく、汎用的なチャットボットの開発ベースとしても使うことができます。実際、rinnaでは社員の質問に回答する『コタエル』というAIキャラクターを運用しています。コタエルは機械であるため社員も気兼ねなく雑談でき、そこで得た情報をほかの社員に雑談の中でフィードバックすることで、自然かつ柔軟な知見の共有が実現します」(中村氏)

 2021年7月以来、すでに数社でPoCを実施。参加企業では新規採用者向けのオンボーディング研修や社内FAQなどの用途で利用が進められています。社内ルールにそぐわない情報を共有しては、組織の安定性は逆に低下しかねない点も考慮し、プライベートや鍵のかかったチャットは学習しないなどの配慮も払われています。

rinnaのAIキャラクター特有の “情緒性”が既存の情報循環を変える可能性

 「コミュニケーションでの AI活用には独自の難しさがあります」と坪井氏は話します。一般的な AI利用では目的別の“効率性”や“正確性”が追及されますが、それをコミュニケーションにあてはめると、味気ない情報交換にしかなりません。

 実はこの難しさが、rinnaの差別化の武器になっています。共感ベースの対話の意義や、そのための技術開発についてはすでに説明しましたが、rinnaでは世界的な学会で発表を行うレベルのAI技術者が、日本語を前提に、日本市場に特化して機能を強化し続けています。「人の共感は、文化的な理解の有無によっても左右されます。その点にまで踏み込み、当社は人の悩みや達成したいことをサポートするために、デジタルでありながらウェットな感情を含めた人との関係性を築けるよう開発を進めてきました。言葉に情緒を感じてもらうという困難な領域でrinnaは最先端を走っています」(坪井氏)

 情緒が加わることのビジネス面での意義も小さくありません。親しみを感じてもらうことで顧客との関係性を自然に強化でき、それがブランドへの愛着や強化につながります。消費者の嗜好が多様化する中、購買活動における家族や友人からの “口コミ”の重要性が増していますが、親しみを持てるAIキャラクターは、そこでのインフルエンサーにもなり得ます。人は“内”と“外”を使い分け、仲間内での会話と公式なアンケートでは、同じ質問でも回答が異なることもしばしばです。しかし、親しみがあるAIキャラクターであれば、雑談を通じてより本音に近い声を聞けるようにもなります。

 「ITツールの進化により大量の情報へのアクセスが可能になる一方で、消費者が真に欲する情報は大量の情報の中に埋もれがちになっています。その中にあって、AIキャラクターが消費者ごとに適した情報をレコメンドすることで、既存の情報循環を大きく変える可能性も決して否定できません」(坪井氏)

AIキャラクターがあらゆる場所にいる世界に向けて

 その先にrinnaが描くのが、人それぞれにAIキャラクターが寄り添い、かつ、あらゆるモノにAIキャラクターが宿るという近未来像です。人にはそれぞれ得手不得手や独自の嗜好スタイルがあり、親しみを感じるAIキャラクターも千差万別です。TamashiruによりAIキャラクターのチューニングはすでに可能になっていますが、rinnaではそれをさらに発展させるために、人とAIキャラクターの雑談の内容分析の研究開発にも着手。分析結果に基づく、AIキャラクターの個々人ごとの自動チューニングによる、相性のさらなる向上にも取り組んでいます。

 「日本にはあらゆるモノに魂が宿るという考え方が根付いています。身の回りにある身近な存在が、人とコミュニケーションをとりながら、社会を構成していく。そのためのAIキャラクターが根付く土壌が諸外国より整っていると考えて間違いはないでしょう」(中村氏)

 一方で、今後はAIキャラクターという新市場でのビジネス拡大に向け、各社の知恵の絞りあいが本格化することになります。それらの多くは新たな挑戦であり、一筋縄ではいかないことは容易に推察されます。その中にあってrinnaでは、企業でのAIキャラクターの活用支援に共同で取り組むパートナーの発掘に力を入れています。

 「AIキャラクターをどう使うべきかに絶対的な解はなく、より有益に活用してもらうために、できる限り多くの知恵をお借りすべきだと考えています。AIキャラクターを使ったアプリケーションやサービス開発にあたる開発パートナーや、自社製ツールなどと組み合わせて提案するISVパートナー、AIキャラクターによるイベントなどの新たな価値創出を担当する企画パートナーなど、多様なパートナーと議論を深めつつ、より良い使い方を見極めていきたいと考えています」(得上氏)

 では、AIキャラクターは今後、どのように進化していくのか。その点について、中村氏は次のように展望します。

 「課題はまだまだ残されています。まずは、AIキャラクターとはどんなものかを知らない人に、気軽に触れる機会をより多く作っていかねばなりませんし、より楽しく時間を過ごせるような育成も必要です。ただし、この7年間でrinna社のAIキャラクターたちは大きく成長し、ほぼ何でも話せるようになったことも確かです。生活の一部としてAIキャラクターを楽しんでもらう。そのためにも技術も磨き続けます」

 AIキャラクターが常に人々に寄り添い、日々の生活や社会活動を支援するーーそうした未来はすぐそこまで来ています。いち早く新しいユーザー体験を届けることができるよう、今から準備を始めるべきでしょう。

<お問合せ先>

rinna株式会社
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