特別企画

Windows 10初のアップグレード版「Threshold 2」、その変更点を見る

 2015年7月末にWindows 10がリリースされ、3カ月が経過したが、先般、初めてのアップグレード版となるThreshold 2(以下、Th2)のリリース直前版となるビルド 10586が、テストを行っているInsider Preview Programの参加ユーザーに配布された。製品版としては、「Windows 10 November Update」という名称で、11月のWindows Updateで一般提供が開始されている。

11月10日にビルド10586がInsider PreviewのSlowリングで配布が始まった

 Microsoftは、Windows 10において年2~3回ほどのアップグレードを計画している。つまり、今までのWindows OSとは異なり、3カ月~4カ月ごとに新たな機能を提供していくことになり、Windows 10は常に最新の機能を取り込んでいく。今までのWindows OSのように、3~4年ごとに新しいWindows OSがリリースされてアップグレードしていくのではなく、常に最新機能が使えるOSになる。

 Th2は、7月末にリリースされたWindows 10(Threshold 1:Th1)から、ユーザーからのリクエスト(Insider Hubからのフィードバック)のあった一部のUI変更などを行っているが、見た目としては細かな改良にとどまっている。

GUIの改良

 まず、地味ではあるものの、日本のユーザーにとって非常に評価したいのが、「スタートボタン」→「すべてのアプリ」でのリスト表示だ。Windows 10 Th1では、漢字名のアプリは、すべて「漢字」というカテゴリに表示されていた。

 これがTh2では、アプリ名の読みを50音順に表示するように変更された。この機能によりアプリが探しやすくなった。できれば、Windows 7などと同じように、ユーザーが自由にフォルダーを作成して、特定のアプリをまとめられるようになると、さらに便利になるのだが。

インストールした「秀丸」も「ひ」のカテゴリにリスト表示されている

 スタートメニューで表示されるアプリのタイルは、Windows 10 Th1では中サイズで3列までしか表示できなかった。しかし、Th2では、中サイズのタイルを4列まで表示できる様になった。

 ただ、3列と4列の切り替えは、「設定」→「パーソナル設定」→「スタート」→「タイル数を増やす」で行うため、3列と4列のタイル表示をカテゴリごとに混在させることはできない。「タイル数を増やす」を選択するとすべてのタイル表示が4列になる。

パーソナル設定でタイル数を増やすをオンにする
スタートメニューのタイルの数が3列から4列に変更される

 スタートメニューのタイルなどの右クリックメニューや、スタートボタンの右クリックメニューも、Windows 10のUIスタイルにマッチしたモノに変更されている。特に、タイルの右クリックメニューは、タイルのサイズ変更を選択した時にグラフィカルなサイズが表示されるようになった。

スターメニューのタイルを右クリックすると、サイズの指定がわかりやすくなっている
スタートボタンを右クリックすると表示される項目が、Windows 10のスタイルになっている

 「パーソナル設定」→「スタート」にプレビュー画面が表示されるようになった。これにより変更が簡単に確認できるようになった。

パーソナル設定のスタートにプレビューが追加された。これで変更もわかりやすくなっている

 このほか、「パーソナル設定」→「色」→「スタート、タスク バー、アクション センター、タイトル バーに色を付ける」では、ウィンドウのタイトルバーに色を付けることが可能になった。

ウィンドウのタイトルバーに色を付けることができるようになった

 「設定」→「システム」→「マルチタスク」のスナップの項目が増えている。新しく追加されたのは、スナップされたウィンドウのサイズを変更する時に、隣接するウィンドウのサイズも自動的に変更するという機能だ。この機能は、タブレットモードなどでアプリを複数表示している場合、あるアプリのサイズを変更すると、自動的に隣のアプリのサイズも変更されるようになる。

システムのマルチタスクにスナップの新しい項目が追加された。
サイズ変更したアプリに追従するように隣のアプリのサイズも変更する。

 アクションセンターには、「表示」という項目が追加された。

 Windows 10 Th1でもWindowsキー+Pや「Windowsモビリティセンター」での外付けディスプレイなどで、外部ディスプレイの表示切り替えが行えた。

 しかし、前者ではコマンドキーを知っている必要があり、また後者ではメニューのアクセスが複数段階にわたっていたため、アクションセンターに項目を追加して、簡単に利用できるように変更された。

アクションセンターに「表示」が追加されている
表示では、外部ディスプレイへの表示をコントロールできる。

GPSを利用してタイムゾーンを自動変更

 時計やタイムゾーン設定の機能では、ネットワーク、あるいはタブレットや2in1ノートPCに入っているGPSを利用して、自動的にタイムゾーンを変更する機能が追加された。タブレットやノートPCを持って海外出張するユーザーにとっては、いちいちタイムゾーンを変更しなくてもよくなる。この機能は、Windows 10 Mobileなどで利用するための機能だろう(Windows 10は、PCと携帯電話で同じOSが利用される)。

 また、Th2では、デバイスがGPSなどの位置情報を取得できる場合、マップを利用してデバイスの位置検索などが行えるようになった。これも、タブレットや携帯電話を紛失した時などに、簡単にデバイスの所在をチェックしたり、盗難時にデバイスをロックしたりするなどに利用される、モバイル向けの機能だ。

Th2では、デバイスにGPSなどが入っていれば、その位置情報を使って、自動的に時計や日付のタイムゾーンを変更してくれる。海外に行った時に便利だ

 Th2は、いろいろ細かな部分の改良が中心だが、携帯電話などに向けたWindows 10 Mobileなどへの対応が行われている。この意味でも、携帯電話向けのOSとパソコン、タブレット向けのOSが融合したといえるだろう。

Windows 10は、PC、Mobile、IoT、XboxなどのOSを一つにまとめたモノになっている。つまり、PC用のアプリを画面サイズだけ注意すれば、携帯電話でも動かすことができる

メモリの圧縮ストアでスワップを起こりにくくする

 OSのカーネル関連の改良としては、メモリの圧縮ストア機能とHyper-Vのネステッド機能がある。

 Windows OSでは、多数のアプリを動かすなどにより、メインメモリが足らなくなった時には、ディスクにメモリ情報を書き出して利用する。しかし、こうしてメインメモリからディスクにスワップアウトした段階で、システムのパフォーマンスが一気に低下する。メモリとディスクの性能差を考えれば、理解しやすい。

 そこで、Hyper-Vなどの仮想マシンで利用されているメインメモリの圧縮機能を、Th2の標準機能としてカーネルに搭載した。これにより、多数のアプリが動作していても、できるだけメインメモリを圧縮することで、ディスクへのスワップアウトが起こりにくくした。

 一方、Hyper-Vのネステッド機能は、ハイパーバイザーのHyper-V上にもう1つHyper-Vを重ねる、という機能だ。ただし、Hyper-Vに重ねて動かせるのは、Th2から搭載されたHyper-Vだけ。もちろん、Hyper-V上にVMwareのvSphereを搭載したり、LinuxのKVM、Xenなどを搭載して動かしたりすることは現状できない。

 Hyper-Vのネステッド機能は、2016年にリリースされるWindows Server 2016のHyper-Vコンテナなどの機能で必要となるため、今回のTh2で機能が導入され、動作テストが行われていくのだろう。

Hyper-Vのネステッド機能では、Hyper-Vの上にもう1つHyper-Vを置くことができる
入れ子になっているためわかりにくいが、Th2上でHyper-Vを動かし、さらにその中にもう1つHyper-V環境を構築して、OSを動かしている

 このほか、Skypeがメッセージングアプリとビデオ会議などのSkypeビデオ、通話アプリなどが分かれた。メッセージングアプリは、既存のSkypeのチャット機能と携帯電話などで使われるSMSを含めたモノになった。これ以外にもWi-Fiの管理、モバイルブロードバンドの管理などが使いやすくなっている。

 もう1つユーザーからのフィードバックで大きく変わったのが、ライセンス認証だ。Th1では、Windows 7/8/8.1のユーザーは、動作しているWindows 7/8.1マシンからWindows 10へのアップグレードを行う必要があった。

 Windows 10にアップグレードした後は、新たなプロダクトキーが自動的に付与されていたため、Windows 7/8/8.1マシンから初期状態(クリアインストール)でWindows 10をインストールしても、Windows 7/8/8.1のプロダクトキーが利用できないため、非常に不評だった。

 そこでTh2では、ライセンス認証の仕組みを見直し、クリアインストールでも、Windows 7/8/8.1のプロダクトキーが利用できるようになった。

日本語Cortanaは、今後に期待

 Th2では、パーソナルアシスタントのCortanaがやっと日本語化された。実際使ってみると、マイクの状況によっては誤認識するし、多くの質問がブラウザ(Edge)の検索として処理されている。

 誤認識に関しては、ユーザー側でもヘッドセットなどを利用するか、タブレットやノートPCを使用する場合は、あまりうるさくない場所で使用すべきだろう。将来的には、バックグラウンドの音をフィルタリングして、ユーザーの音声を明瞭(めいりょう)に認識できるようなプログラムやアレイマイクなどが利用されていくと思われる。

 Cortanaの最大の特徴は、パーソナルアシスタントとして、ユーザーの質問やリクエストに応えていくというものだが、現状ではクラウド側の知識ベースが十分に整備されていないようで、まだまだという印象を持つ。

 日本マイクロソフト側でも、こういった問題点は認識しているようで、多くのユーザーにCortanaを使ってもらうことで、クラウド側の知識ベースを充実させていきたいと考えている。その意味でも、日本語環境で本格的にCortanaが利用できるのは2016年に入ってからだろう。米国でも、Windows MobileでCortanaがリリースされてから、1年以上はプレビュー版という扱いだった。やはり、多くのユーザーにテストしてもらってこそ、知識ベースが鍛えられるのだろう。

 なお、日本の利用環境を考えると、Cortanaのキャラクター付けができればフレンドリーになると思われる。ボーカロイドのようにキャラクター別に音声を用意したり、キャラクター画像を用意したりすれば親しみやすくなる。今のCortanaは、あまりにも素っ気なさ過ぎるのだ。

 また現状のビルドでは、米国でサポートされているCortanaの手書き文字認識は、日本語版では対応していない。

日本語対応したCortana
ユーザーの声紋を登録しておく方が認識率が高い
不在着信通知は、携帯電話のWindows 10 Mobileで利用されるのだろう
クラウド側の知識ベースが十分に整っていないためか、ルート検索をしてもEdgeに検索文字列として引き渡される
米国では、Cortanaで手書き文字認識も可能になっている
Uberなどの予約もCortanaで行える
Cortanaの目指している目標は非常に高いが、日本語版はまだプレビューに近い状態。今後何年かにわたって、クライアント側、クラウド側の改良が続けられていくだろう

ブラウザのEdgeは進化中

 Windows 10で搭載されたブラウザのMicrosoft Edgeにも、いくつかの新しい機能が搭載されている。

 まず、タブにマウスを合わせると、Webページのサムネイルが表示されるようになったため、タブで多数のページを表示していても、簡単にページを確認することが可能になっている。また、「お気に入り」とリーディングリストが複数のマシンで同期可能になったのも便利な変更点だ。

 HTMLエンジンとしては、WebRTCのサポート、Media Source Extensions(MSE)、Encrypted Media Extensions(EME)など、W3CがHTML5で規定した機能を取り込んでいる。

 メディア関連では、Edgeで表示中の静止画や動画を、Miracastなどを使って、ほかのマシンやテレビなどに転送する機能が用意された。このほか、Cortanaとの連携機能なども入っている。

 さらに、JavaScriptのパフォーマンスを向上するasm.jsがデフォルトでオンにされており、コードによっては、JavaScriptの動作が飛躍的にアップする。このほか、次世代のJavaScriptとなるECMAScript 2015(ECMAScript6)への対応(現状ではフル対応ではない)が行われている。一部、次世代のECMAScriptで規格化されている機能を先取りして搭載しているのだ。

 ただ、Edgeに関しては、Internet Explorer(IE)に比べると使いにくくなっている機能がいくつかある。お気に入りが簡単に編集できない、ダウンロードフォルダーが変更できないなどだ。

 最も大きな問題は、アドオン(プラグイン)が利用できないことにある。これは、ユーザーよりもサードパーティにとって大きな問題だ。Microsoftでは、Edgeにアドオン機能を提供すると明言しているため、2016年にもリリースされる次期版(Th3?)では機能が追加されるだろう(もしくは、Edgeだけアップデートされる可能もある)。

 2015年4月末に開催されたBuildコンファレンスでは、Firefoxなどのアドオンをそのまま利用できるようにする方針と伝えられている。

EdgeのタブにWebページのサムネイルが表示されるようになった
Edgeの設定にCortanaを有効にするという項目が追加されている
Th1のEdgeでAsm.jsが試験的な機能に入っていたが、Th2では項目がなくなり、デフォルトでオンになっているようだ
Edgeでは、Miracastなどでほかのデバイスに動画などを配信できる

企業ユーザーにとってアップグレードはやっかい

 企業にとっては、Th2はある意味やっかいだ。

 Th2は、Windows UpdateでWindows 10 November 2015モジュールとして提供される。Windows 10から、Windows Updateでは重要、オプションなどの区別がなくなり、ユーザーがインストールするモジュールを選択することもできなくなっている。

Windows 10では、3~4カ月ごとにこまめにアップグレードが提供される。今後、Windows OSではメジャーアップグレードはなくなる

 しかしこれでは企業は困ってしまうため、アップグレードに関しては、Windows Updateに「アップグレードを延期する」という項目が用意されている。この項目を選択しておけば、アップグレードを数カ月延期することができる。

 コンシューマーが使用しているProや無印Windowsの場合(Current Brunch:CB)は4カ月ほど、企業向けのProやEnterprise(Current Brunch for Business:CBB)は8カ月ほど、アップグレードを延期することができる。

アップグレードを延期するには、「アップグレードの延期する」を選択する。Insider Previewビルドの入手がスライダーバーに変更されている。これは、マルチリングを構成できるWindows Update for Businessへの対応のためだろう
Windows 10では、複数の更新モデルが用意されている

 この間、アップグレードは行われないが、セキュリティ更新プログラムなどは問題なく適応できる。ただ、アップグレードの猶予期間が過ぎれば、アップグレード自体が強制的に適応されるようになる。その後は、アップグレードされたOSのバージョンを前提にセキュリティ更新が行われることになる。

 企業ユーザーとしては、アップグレードが延期されているうちに互換性テストなどを行い、社内のPCに対して段階的にアップグレードを行うことになる。

 Microsoftでは、企業向けに社内でアップグレードを段階的に配布するWindows Update for Business(WUB)機能を用意する予定にしている。Th2のInsider Previewでは、アップグレードを配布するスケジュールを設定する項目がスライダーバーに変更されている。現状では、FastとSlowしかないが、WUBで段階配布(リング)するための基本的な機能が搭載されているようだ。

 ただ、WUBを利用するために新たにサーバーが必要になるのか、クラウドを利用するのかなど、明らかにされていない。もしかするとAzure ADなどのサービスを使って、WUBが実現されるのかもしれない。

 また、アップグレードを行わずにある一定のバージョンを使い続けるなら、Enterprise版のLTSB(Long Term Servicing Branch)を使用する必要がある。

更新モデルに応じたアップグレードが必要
ビジネス向けのCBBでは、8カ月の余裕がある。この間にアプリの互換性テストを行って、社内にアップグレードを配布する
Windows 10では、特定システム向けにLTSBというモデルがある

 Microsoftでは、互換性の問題は極力起こらないようにしているため、Windows 10で動作しているアプリはアップグレード後も動作する可能性が高い。ただ、古いアプリケーションに関しては、Windows 10 Th1で動作しても、今後のアップグレードで動作しなくなる可能性もある。企業では、このあたりにも気をつける必要があるだろう。

 Windows 10 Th1で動作できたアプリケーションが、Th2で動かなくなるとは思えないが、今後アップグレードを繰り返すことで、将来の、例えばTh7とか、Th10では動かなくなる可能性も捨てきれない。

 IT管理者にとっては、今後Windowsはこのような流れでアップグレードされていくということを熟知しておく必要がある。LTSBにおいても、2~3年に1回アップグレードされたOSがリリースされるため、LTSBであっても、セキュリティ面や新機能などを考えると2~3年に1回はアップグレードする必要が出てくる。

Windows 10がベースとなるため、アップグレードによる影響も少ない。このため、アプリの互換性は基本的には保たれるだろう
今後作成するアプリは、UWP、アプリケーション仮想化、EdgeをベースとしたWebアプリへシフトすべきだ
WUBを利用することで、社内でもリングを構成して段階的にアップグレードが可能になる

 今後、Windows 10は、年に2~3回アップグレードが行われるため、IT管理者はアップグレードがひんぱんにあるという前提で、ITシステムを考えていく必要がある。2016年にリリースされるTh3、Th4が出てくるころには、IT管理者自身もWindows 10のWindows as a Service(WaaS)というコンセプトに慣れて、アップグレード自体も大きな問題にはならなくなるだろう。

山本 雅史