特別企画
さくらインターネット石狩データセンターは独自の工夫が山盛り
2011年11月21日 14:34
打ちっぱなしのコンクリートの壁で囲まれた中に、所狭しとサーバーラックが並び、巨大な電力設備が安定した電力を供給し、最新の空調設備や警備設備で守る。データセンターは、そんな機能美とロマンを感じさせる施設だ。最近はコンテナ型のブームやPUE(総電力使用量をIT機器の電力使用量で割った値)競争も起こり、データセンターも着々と進化している。
11月15日に、さくらインターネット株式会社が北海道の石狩にデータセンターをオープンした。北海道という立地や、外気冷却による電力削減、HVDC(高電圧直流)給電の実証実験など、今でにない要素が山盛りだ。
石狩データセンターの開所式と見学会に参加すべく、飛行機に乗って石狩に駆けつけた。そのときの現地の様子を、写真とともにレポートしたい。
どこまでも限りなく拡大できるデータセンター
北海道は広大だ。聞くところによると、道東では道路端に「スーパーまで直進110km」という看板が立っているという。
さくらインターネットの田中社長も、石狩にデータセンターを建てた理由のひとつとして、「広大な土地が低コストで手に入ること」を挙げていた。このデータセンターがあるのは、石狩湾新港地域と呼ばれる地域だ。ここは、大都市である札幌の中心部から車で30分程度と比較的近く、それでいて広い土地があり、しかも海底ケーブルの陸上げ施設もあるという、恵まれた条件のエリアなのだ。
敷地面積は、東京ドームの約1.1倍の5万1448平方メートルだ。このデータセンターを8棟まで建てられる土地に、まず2棟だけ建て、あとは空き地にしている。北海道ならではの、とても贅沢な土地の使い方である。
その2棟も、今のところ1棟だけしか使っていない。さらに、1棟の中は5つのサーバールームに分かれているのだが、今のところ2つだけ利用していて、残りの3つは空けてある。
記者発表会での説明によると、これは、あえてスケーラブルにしているのだという。都市型データセンターの場合は、確保したフロアに最初からラックを詰め込む。それに対して石狩データセンターでは、必要なだけの設備を用意して順次拡張していくことで、初期コストを抑えて無駄なく小刻みに拡張できるようにするのが狙いなのだそうだ。さらに、周囲にも空いた土地が広がっているので、必要であれば土地を買い増すという手もあるわけだ。
また、建て増しを前提にすることで、そのときどきの最新のデータセンター建築手法、たとえばコンテナ型などを選んで、柔軟に拡張していけるという話だった。
石狩データセンターでは、クラウドサービスを中心に展開する。そのための入れ物も、建築物と設備なのにクラウドっぽい発想でスケーラビリティを追求しているというのが面白い。
ここまでの工程としては、2年弱前の2009年12月に初視察し、2010年10月に造成完了。建物も、2011年3月の着工から10月の引き渡しまで、7か月で完成したというスピードだ。ちなみに、着工は東日本大震災前日の3月10日で、資材や設備が入ってこなくなって心配した、という苦労話も披露されていた。
余談だが、さくらインターネットが創業したのが、京都で日本海に面した舞鶴市で、今回の石狩も日本海に面した土地。つくづく日本海岸に縁があるようだ。
寒い外気でサーバーを冷やして空調コスト4割削減
見学会では、さくらインターネット石狩データセンター所長の宮下さんがセンター内を案内してくれた。
現在の1号棟と2号棟は、2階建てになっている。1階に電力や空調などの設備部分が、2階にサーバールームが置かれている構成だ。サーバールーム1室あたり100ラックで、5室あるので、1棟あたり500ラックを収納する計算になる。
これらのサーバーの冷却方法として新しく採用されたのが、外気冷却だ。今までのデータセンターでは建物を密閉し、空調をがんがん効かせて温度や湿度をコントロールする。それに対して石狩データセンターでは、北海道の低い気温の外気を取り込んで冷却する。
ただし、温度が低すぎるのも問題になる。そのため、サーバールームなどから出る暖気と混ぜてから送り込むことで、温度をコントロールするのだそうだ。また、北海道とはいえ夏には暑い日だってある。そのようなときには、スポットで冷却設備を稼働させる。
外気冷却を全面的に採用したことで、PUEの値は外気冷房のときで1.11、空調を併用したときで1.21を実現しているという。もっとわかりやすい数字でいうと、空調コストが4割削減されるのだそうだ。
実は、2室だけ動いているサーバールームでは、冷却用の混合気の取り入れ方式をそれぞれ変えている。サーバールームAは壁吹き出し方式を、サーバールームBは天井吹き出し方式を採用しているのだ。これは、実運用の中でどちらが効率がよいか実験して、今後投入するサーバールームに応用するのだそうだ。
リリース直前のさくらのクラウドのサーバーに肉薄
見学会は15時まで行われた。そして、この15時から新サービス「さくらのクラウド」が正式スタートした。われわれは、サービスイン直前のさくらのクラウドのサーバーを目の当たりにしたわけだ。監視センターでは、スタッフの皆さんが粛々とサーバーやネットワークの監視作業をしていた。
データセンターでは、サーバー類に蓄積されたデータが漏れたり、機器が物理的に破壊されたりするのは、なんとしても避けなくてはならない。そのため、サーバールームのあるエリアの入り口に、セキュリティのためのゲートが設けられている。このゲートは、生体認証とカードキーの2つをパスしないと入れず、また、構造的に1人ずつしか入れないようになっている。館内のさまざまな場所には、監視カメラも設置されていた。
サーバーまわりの工夫として宮下さんが紹介してくれたのが、サーバーラックの上に設けられたコンセントボックスだ。今までのデータセンターでは、ラックの供給電力を増やすには工事が必要で、資格を持った人が作業する必要があったのだそうだ。コンセントボックスを設けることで、データセンターのスタッフが対応できるようになり、需要にスケーラブルに応えられるようになるという。
その電力は、北海道電力から2系統で66000Vを受電。特高電気室で電圧を下げて高圧電気室に送り、そこで400Vに変圧してサーバールームに送る。この高圧電気室以降の設備も、データセンターの拡張に合わせて順次増やしていけるように設計していると、発表会で田中社長が説明していた。
通信回線は、NTTとKDDIの通信回線を、東北道沿いと日本海海底のまったく別の経路で引き込んでいる。なお、石狩データセンター開所にあわせて、バックボーンネットワークを232Gbpsから244Gbpsに増強したことも発表された。
シンプルさが際立つHVDC給電
データセンターの前庭には、ぽつんとコンテナが置かれている。これが、HVDC(高電圧直流)給電の実証実験の設備だ。実証実験は、さくらインターネット、NTTデータ先端技術株式会社、河村電器産業株式会社、日商エレクトロニクス株式会社の4社で行っている。この見学では、NTTデータ先端技術の方が説明してくれた。
今までのデータセンターでは、AC(交流)で受電し、UPS(無停電電源)でDC(直流)に変換して蓄電しつつ、サーバーにはACに変換して供給し、サーバー内部でまたDC12Vに変換している。HVDC給電では、一度DCに変換したら、サーバーラックまでDC340Vで給電し、ラックごとに設けられた1U程度の集中電源でDC12Vに変圧してサーバーに供給する。
メリットは、まず変換の無駄が減って電力のロスが削減できること。説明によると約2割の電力が削減できるのだそうだ。
また、DCで給電するのでUPSが不要になり、UPSよりだいぶ小さなバッテリーをサーバーラックに隣接して置ける。停電時にも切り換えなしでバッテリーからそのまま電力を供給できるというのも、シンプルでいい。サーバーも、DC12Vが直接供給されるので、今までのAC電源ユニットの分簡略化される。
さくらインターネットでは、来年以降にHVDCを実運用に投入したい考えだという。そのほか、風力発電などの自然エネルギーなども導入していきたいという話だった。