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NECパーソナルコンピュータ、法人向けPCの商品作りを「攻め」へ転換 販売機能の統合で変革を実現

 NECパーソナルコンピュータ株式会社(以下、NEC PC)が、法人向けPC事業を加速している。

 2025年4月、NECブランドの法人向けPCの販売機能が、NECからレノボ傘下のNEC PCに移管された。従来はNECの要望を基にモノづくりを行っていたが、NEC PCが販売機能を持ったことで、NEC PCが主導権を持つ形で、調達から開発、生産、マーケティング、サービスまでを担当する体制へと移行した。

製造と販売の一体化

 販売機能の移管は、モノづくりそのものにも変化を及ぼすことになり、事業戦略そのものも変化する。NEC PC 商品企画本部長の森部浩至氏は、「個人向けPCは、市場を開拓するような『攻め』の商品づくりをしていたのに対して、ビジネス向けPCはシステムの安定性や信頼性を重視し、『守り』の商品づくりとなっていた。これからは、『攻め』の商品づくりに変わる」と宣言する。

NEC PC 商品企画本部長の森部浩至氏

 2025年7月に発表したVersaPro UltraLite タイプVYは、1kg以下の軽量ノートPCで、世界最長となる40.2時間(JEITA3.0準拠、アイドル時)のバッテリー駆動時間を達成。これを「攻めの商品第1弾」(NEC PCの森部本部長)と位置づけている。

 「お客さまからは、『NEC、ようやくやってくれた』、『待ってました』といった評価の声が上がっている。今後もお客さまの声を聞き、さらに改善を加えていきたい」と手応えを示す。

世界最長となる40.2時間のバッテリー駆動時間を達成したVersaPro UltraLite タイプVY

 NEC PCでは、2025年8月と11月にも新製品を発表。現在、ノートPCとデスクトップPCで7機種を発売しており、「NECブランドの法人向けPC史上、最強のラインアップが整った」(NEC PCの森部本部長)と自信を見せる。

 2025年7月に発表したVersaPro UltraLite タイプVYは、長時間バッテリー駆動を実現するため、バッテリー容量の最大化とともに省電力設計を採用し、従来モデルに比べてバッテリー駆動時間を約2倍に増やしている。

 具体的には、バッテリーの大容量化で6.77時間、電源設計で3.15時間、新たなファンの採用で2.52時間、高輝度/低電力の新開発LCDの採用で5.38時間の改善を果たしたという。

前機種(タイプVN)からのバッテリーライフ改善

 NEC PC HW Development Group エキスパートの前田大地氏は、「従来は、要件を達成するために必要なバッテリー容量を算出して仕様を決定しており、軽量化やコストを最優先にしていた。だが、タイプVYでは、新たな武器を持った製品にしたいと考え、可能な限り大容量バッテリーを採用し、世界最長のバッテリー駆動時間を目指した。当初は、モバイルノートPCにここまで大きなバッテリーは不要ではないかといった議論が社内でもあった。だが、実際に市場投入したところ、長時間駆動に対する反響が大きい」と語る。

NEC PC HW Development Group エキスパートの前田大地氏

 同社によると、VersaPro UltraLite タイプVYに対する見積もり台数は、当初の3カ月間だけで50万台近くに到達。通常モデルの4倍の水準だという。

 VersaPro UltraLite タイプVYで採用した新開発のバッテリーは、縦サイズが23%も増加しているため、基板の面積を25%削減。サーマルモジュールの設計や配置を工夫する一方、空いたスペースにSSDを配置することで、大容量バッテリーを搭載できたという。また、電源生成の効率を改善する部品の採用や、ファンのコイル設計調整による省電力化、LEDの構成材料や導光板、拡散板の改善による省電力化も図った。

 軽量化にもこだわった。当初は、バッテリー(S)において1kg以下の重量を想定していたが、技術者の努力によってバッテリー(L)でも1kg以下の軽量化を実現。「軽量モデルでは、底面にマグネシウム合金を使用。バッテリーパックカバーをカーボンにするといった作り分けを行った。小さな工夫や改善の積み重ねも軽量化につながっている」という。

軽量化のこだわり

 バッテリーパックの取り外しの際には、素材による剛性の違いがあるため、プラスチックを採用した通常モデルでは爪があり、カーボンを採用した軽量モデルでは爪がないといった細かい変更も行っている。

 一方、2025年8月に発表したVersaPro タイプVMは、価格と機能のバランスを追求したモデルで、従来製品に比べてバッテリー容量を13%も減らしながら、省電力設計により58%の省電力化を実現。結果として、バッテリー駆動時間を22.6時間(JEITA3.0準拠、アイドル時)と大幅に改善している。また、キーボードおよびパームレスト面にマグネシウム合金を採用することで、153gの軽量化を実現したという。

 さらに、簡単にバッテリー交換ができるようにしたほか、キーボードについては、社内のキーボードマイスターによる調整を行い、日本人が使いやすい環境を実現するといった工夫を施しているとした。

 2025年11月に発表したVersaPro タイプVXは、15.6型のビジネスノートPCで、インテルCore Ultraプロセッサー(200Uシリーズ)を搭載。AI PCにカテゴライズされる製品だ。インターフェイスも充実しており、USB-Aポートを4基、USB-Cポートを1基搭載し、本体の左右および背面に配置。VGAやHDMI、有線LAN、SDスロットも搭載し、光学ドライブの選択も可能にしている。

2025年11月に発表したVersaPro タイプVX
USBポートを含め、さまざまなインターフェイスを搭載
背面にもUSBポートを搭載している

 また、同時に発表したVersaPro タイプVE/VFも、15.6型のビジネスノートPCで、インテル 第13世代Coreプロセッサーを搭載するとともに、DDR5メモリーを搭載。Webミーティング機能や、ロングバッテリーモードおよびスマート充電といったAIバッテリー管理機能(PC設定ツール)など、NECオリジナルの機能も搭載した。

バランスを追求したVersaPro タイプVE/VF

 例えば、AIバッテリー管理機能では、ロングバッテリーモードの強化を実施。ユーザーの行動をネットIDなどから予測して、フル充電するだけでなく、バッテリーの劣化を防ぐことができる8割充電に自動で切り替えたり、PCを使わない夜間は、自動的に休止状態に移行し、消費電力を抑制したりといった機能を搭載。バッテリー残量に応じて、ディスプレイの輝度を自動制御したり、会議前や会議中、動画再生を認識して、バッテリー節約機能を自動でONにしたりといった機能も搭載している。

 NEC PCが提供するソフトウェアとしてユニークなのが、AIサポートボットアプリ「AI Plus Biz」である。

 ユーザーがPCに関する困りごとを入力すると、PCの状態を自動的に取得し解決をサポートする。20年以上にわたってサポートセンターが蓄積したナレッジや、ハードウェアおよびソフトウェアのマニュアル情報、機種ごとに最適化されたデータベースを活用することで、ユーザーが使用している機種に合わせた解決策を提示する。

AIサポートボットアプリ「AI Plus Biz」

 NEC PC Solution Development Group シニアマネージャーの丸山亮氏は、「PCメーカーだからこそ提供できる独自のAI機能を提供することができた。困りごとを解決するために、NEC PCが蓄積した多岐にわたる情報源から、必要な情報を絞り込んで抽出し、AIによって、精度の高い解決策を提示することができる。汎用的なAIに比べて、お客さまそれぞれに合った信頼できる情報のみを提示するため、困りごとを素早く解決することが可能になる」という。

 NEC PC社内でのテストによると、ユーザーから問い合わせが多い困りごとの55%において、汎用的なAIよりも優れた解決策を提示したとのこと。

NEC PC Solution Development Group シニアマネージャーの丸山亮氏
「お客さまの困りごと」を解決するための独自技術

 また、開発の経緯について「当初は、サポートチャットボットの開発を目的にしたものではなく、生成AIの活用を模索するという取り組みからスタートしたが、途中から開発コンセプトをサポートに絞り込み、製品化を目指した」と紹介した。

 なお、AI Plus Bizでは、困りごとのカテゴリを判別して、関連する状態情報に絞り込む技術を開発するとともに、困りごとをPCの状態を基に補完することにしたが、「精度が高まらないという課題が発生した。例えば、人から見た場合に、画像が併用されていると情報についての判断がしやすいが、AIでは、その情報のテキスト量が少ないため、有用ではないと判断してしまうという状況が生まれ、その結果、とらえ方の違いで、質問に対して強いデータと弱いデータが発生してしまった。そこで、データの特性に合わせて、回答時にデータの内容から自動でデータ強度を調整する仕組みを独自に開発することで解決を図った」と、開発にあたっての工夫を説明している。

 今後は、未然にトラブルを回避するための提案も視野に入れた進化に取り組むとのこと。

 一方、法人向けPCにおけるソリューションやサービスを強化していることにも触れた。従来は、法人向けPCの販売機能がNECにあったことから、法人向けPCのサポートも、NECグループのNECフィールディングが中心となって担当してきた経緯があったが、NEC PCが主体となり、サービスのラインアップをPCライフサイクル全体にわたって提供できる体制を構築したと強調した。

 具体的には、導入時における「キッティング・分割配送」、保守サポートにおける「延長保守・バッテリー交換」、運用・管理における「作業効率、セキュリティ強化」、リサイクルにおける「PC買取・データ消去」に関する各種ソリューションを提供している。

 導入時に提供する「PCカスタマイズサービス」では、PCの生産拠点である山形県米沢市のNEC PC米沢事業場を活用して行うため、あらかじめキッティングしたPCを工場から直送。販売店などを通じて2次配送に伴う配送コストを削減できる。また、キッティングにかける工数を大幅に削減できるため、IT部門における人員不足という課題にも対応可能だ。

PCカスタマイズサービス

 保守サポート時に用意している「プレミア延長保証サービス」では、最長で7年までのサービスを設定。さらに月単位での契約も可能になっている。また、アクシデントダメージプロテクションにより、水こぼしや天災、ペットの尿がかかったり、クルマに轢かれたりした場合でも修理対応が可能であり、修理金額には上限がないという特徴も持つ。保険会社を活用した制度(動産保険付き)ではないため、申請や許可、上限金額などがなく、迅速な修理が可能になるというメリットもある。

プレミア延長保証サービス

 NEC PC サービスセールス事業本部営業本部長の星野敬正氏は、「一般的な法人向けPCでは、部品の保有期限が5年間となっている。だが、プレミア延長保証サービスを契約した企業ユーザーに対しては、NEC PC 群馬事業場において、部品を最大7年間保有し、着荷後、最短1営業日での修理を実施する。実際、98%の修理が1日で完了している。代替機管理や修理後キッティングと組み合わせることで、正午までに連絡をもらえば、翌日午前中には代替機を手元に届けることができるため、業務停止期間をより短縮することが可能になる。企業ユーザーのわがままに対応できる仕組みであり、世界最強の延長サービスだといえる」と自信を見せた。

NEC PC サービスセールス事業本部営業本部長の星野敬正氏

 さらに、「遠隔データ消去サービス prime」では、PCが盗難にあったり、紛失したりといった場合に、遠隔操作によってデータ消去を行い、情報漏えいを防止。データの自動バックアップにより、業務復旧もスムーズに行えるようにしているという。

 NEC PCの森部本部長は、「今後も、多くの人がワクワクする『攻め』の商品づくりに邁進する。ぜひ期待してほしい」と語る。

 これまでは、NEC PCの開発部門が法人ユーザーやビジネスパートナーの声を直接聞くことはなかったというが、いまはNEC PCの営業部門および開発部門が、ビジネスパートナーと直接会話をしながら仕様を決定できるようになっているという。例えば、VersaPro タイプVXに搭載した合計5基のUSBポートも、ビジネスパートナーの意見を基に搭載したとのことだ。

 NEC PCによると、2025年9月からの約2カ月間で十数社のビジネスパートナーを訪問。今後は、NECブランドのPCを取り扱っていなかったビジネスパートナーとの接点も強化する考えだ。

 NEC PCの法人向けPCは、販売機能をNEC PCに一本化したことによって、調達、開発、生産、販売、マーケティング、サービスまでのすべての取り組みが変化することになる。「攻め」をどこまで加速するのか。NEC PCのこれからの挑戦が楽しみだ。