特別企画
10億台のデバイスにWindowsを、“One Windows”を実現するWindows 10
(2015/6/3 06:00)
1つになるWindows 10
Windows 10では、今までMicrosoftがプラットフォーム別に開発してきたOSを、1つにまとめている。
PC/タブレット向けのWindows 8とスマートフォン向けのWindows Phone 8が別々に用意されていたWindows 8世代でも、カーネル部分は統合されていたが、Windowsストアアプリ(以下、ストアアプリ)のプラットフォームとしては、Windows 8はWinRTを採用する一方、Windows Phone 8ではSilverlightベースになっていた。
しかし、Microsoftでは、“One Windows”に向けた取り組みをこれまで着々と進めてきた。まず2014年夏にリリースされたWindows Phone 8.1では、1つのアプリをPCでもWindows Phoneでも動作させることが可能なUniversal Windows Appを実現するために、アプリケーションプラットフォームをSilverlightからWinRTに移行させた。
もちろん、Windows 8.1ではx86/x64プロセッサが中心で、Windows Phone 8.1で使用されているARMプロセッサとは異なるので、ソースコードは同じでも、コンパイル時にx86/x64向けとARM向けの、2つのアプリを出力する必要はある。しかし、1つのソースコードが複数のプラットフォームで利用できるようになったのは、大きな進化だった。
さらにMicrosoftは、Windows 8.1向けアプリストアのWindows Storeと、Windows Phone向けアプリストアのWindows Phone Storeを1つにまとめると発表。環境面の整備も進めてきている。
そして、このコンセプトはWindows 10で完成される。
Windows 10では、デスクトップPC、スマートフォン、IoTといったデバイスによって異なるOSを作るのではなく、1つのカーネル、1つのアプリケーションプラットフォームが実現している。前述したようにWindows Phone 8.1でも一部実現されていたが、Windows 10では、デスクトップPC、スマートフォン、IoTといったデバイスを超え、同一ソースコードのストアアプリがプラットフォームで動作するようになる(IoTなどではディスプレイを持たない利用法もあるため、一部のAPIはサポートされていない可能性もある。またプラットフォームが異なればコンパイル等は必要)。
Windows 10のエディションは?
では、具体的なエディションを見てみよう。
先日の発表によると、デスクトップ/ノートPC向けには、Home、Pro、Enterpriseと、Enterpriseをベースとした教育機関向けのEducationが提供され、それぞれ、x86プロセッサ向けの32ビット版、x64プロセッサ向けの64ビット版が用意されている。ARMプロセッサなどはサポートされない。
Proは、Homeの機能にプラスして、小規模企業の幅広いニーズに対応する機能が追加されており、デバイスやアプリの管理、企業の機密データの保護、リモートやモバイル デバイスでの生産性シナリオのサポート、クラウドテクノロジの活用を効率良く効果的に行えると、Microsoftでは説明している。
Enterpriseは、Proを基盤として構成され、中規模から大規模の企業のニーズに対応するための高度な機能が追加されたエディションだ。デバイス、ID、アプリケーション、および企業の機密情報を対象とした、広範なセキュリティ上の脅威に対する保護機能を使用可能という。
Windows 10とWindows 8/8.1のエディションと比較した場合、HomeはWindows 8/8.1(通称:無印)に、ProとEnterpriseは同名称のエディションに相当すると考えればいい。
また、これらのPC向けエディションでは、Windows 7などで採用されていたスタートボタンが復活。従来のWindowsアプリケーションとストアアプリをリスト表示したり、Windows 8/8.1のスタート画面と同じようにストアアプリをライブタイルとして表示したりできるようになっている。
Windows 8/8.1では、Windowsアプリケーションとストアアプリでは画面が切り替わったため、ストアアプリは使いにくかったが、Windows 10では、デスクトップ画面のウィンドウでストアアプリが動作するようになった。これにより、1つのデスクトップ画面でWindowsアプリケーションとストアアプリを混在させることができる。
このほか、タッチが優先するタブレットなどでの使い勝手も考えて、Continuum機能が用意された。この機能では、デスクトップ画面からWindows 8/8.1のスタート画面に近いモノが表示されるが、Windowsアプリケーションを起動するとデスクトップで動作する。
名称 | プラットフォーム | 主な対象 |
Windows 10 Home | x86/x64 | コンシューマ |
Windows 10 Pro | x86/x64 | 企業 |
Windows 10 Enterprise | x86/x64 | 企業 |
Windows 10 Education | x86/x64 | 教育機関 |
モバイル機器やIoTデバイス向けのエディションも
一方、8インチ未満のモバイルデバイスは、Mobile(旧:Windows 10 for Phone)がカバーする。Windows Phone 8.1の後継は、このエディションになり、スマートフォンやファブレットを前提にしているため、動作プラットフォームはARMプロセッサが主になる。
したがって現状では、PC向けのWindows 10のようなデスクトップモードは用意されていないし、Win32などで作られた既存のWindowsアプリケーションも動作しない。
最近、Atomプロセッサを使用したAndroidスマートフォンやタブレットがリリースされているため、Mobileでもx86プロセッサに対応すると言われているが、2015年内のリリースではなく、2016年にずれ込むと予測されている。
なお、x86プロセッサ向けのMobileでも、既存のWindowsアプリケーションは動作しないといわれている。簡単に言ってしまえば、Mobileは、PC向けのWindows 10からデスクトップモードを外したOSといえるだろう。
ちなみにMobileは32ビット版での開発が進められており、64ビット版の提供に関しては未定だ。ただ、iOSやAndroidが64ビット版のリリースを行っているため、2016年以降にはMobileも64ビット化されるだろう。
また企業向けには、企業がモバイルデバイスを利用する上で必要な、さまざまなセキュリティ機能が追加されたMobile Enterpriseが提供される。Mobile Enterpriseではさらに、1つのOS内部で企業向けのアプリやデータ、個人向けのアプリやデータを分離して保存できる。これにより、BYOD(Bring You Owner Device)で利用しやすくなった。デバイスの初期化を行う場合も、企業向けのアプリやデータだけを初期化して、個人向けのアプリやデータはそのままにする、といったことが可能になっている。
ちなみにMobile Enterpriseは、ボリュームライセンス形態でのみ提供される。
このほか、組み込み機器用のIoT Coreが用意されており、現在、Raspberry Pi2(ARMプロセッサ)、MinnowBoard(Atom E38XX)、Galileo(Quark X1000)などが対応している。IoT Coreは、IoTのゲートウェイや複雑な処理を行うIoTデバイスに使われるだろう。
名称 | プラットフォーム | 主な対象 |
Windows 10 Mobile | ARM(32ビット) | コンシューマ |
Windows 10 Mobile Enterprise | ARM(32ビット) | 企業 |
Windows 10 IoT Core | x86/x64、ARM(32ビット) | 組み込み機器 |
スマホのセキュリティアップデートもMicrosoftが実施
Windows 10では、Windows 8.1/8/7のユーザーに対して、Windows 10のリリース後1年間、無償アップグレードを提供することが発表されている。ボリュームライセンスのSA(ソフトウェアアシュアランス)の特典として提供されるEnterpriseは対象外だが、SAは最新版を入手できる契約のため、有効なSA契約がある場合、追加コストは必要ない。
一方、Mobile Enterpriseの入手がどうなるのかは、まだ不明だ。スマートフォンを開発しているメーカーが、MobileとMobile Enterprise向けの機器を別に製造する可能性もあるが、Windows Phoneに積極的でなかったデバイスメーカーが複数のモデルを用意するとは思えない。このため、例えばMobileの端末を購入して、特定のコードを入れることでMobile Enterpriseにアップグレードされるなど、製造するメーカーにとってはハードルの低いモノになるだろうと予想している。
また、Microsoftが打ち出している“One Windows”というコンセプトにしたがって、Mobile/Mobile Enterpriseに関しては、デバイスメーカーやキャリアがOSのアップデートを行うのではなく、Microsoftがすべてのモバイルデバイスに向けてアップデートを行うことにしている。
これにより、Androidデバイスのように、なかなかセキュリティパッチが提供されず、大きなセキュリティホールを持ったまま使用する、といった危険性は低くなる。Microsoftが責任を持って、スマートフォンでもOSのセキュリティアップデートを行うということは、Windows 10のモバイルデバイスを企業で導入しやすくするために必要な施策といえる。
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Microsoftでは、2~3年内にWindows 10が動作するデバイスが10億台になると見積もっている。
そして、10億台のプラットフォームが存在することをテコに、多くのデベロッパーに“One Windows”で動作するUWAベースのアプリを開発してもらい、スマートフォンやタブレットで動作するUWAを増やしていこうと考えている。これが実現できないと、クライアントOSにおけるMicrosoft社の影響力が大きく低下するとまで考えている節がある。
Windows 7/8/8.1からのアップデートを1年間無償にしたり、Windows 10 IoT Coreを無償で提供することにしているのは、10億台のWindows 10デバイスを確実に実現するための施策だろう。
現在Microsoftでは、HomeやProの新規ライセンスの価格は発表していないし、無償アップデートが終わった後、Windows 7/8/8.1からのアップデートの価格がどうなるかも発表していない。
もしかするとHomeは、Windows 8.1 With Bingのように、PCメーカーには無償に近い金額で提供されるかもしれない。同じように、Windows Phoneでも無償でOSが提供されていたため、Mobileでも同じようになる可能性もある。
このように、クライアントビジネスで稼げるお金を捨てても、10億台のWindows 10デバイスを普及させることが、Microsoftの狙いなのだろう。クライアントOSで稼げなくなっても、Office 365、Microsoft Azure、OneDrive for Businessなどのクラウドを絡めて、サブスクリプションモデルで利益を得る方向に変わってきたのではないか。
MicrosoftのCEOがサティア・ナデラ氏になって初めてのクライアントOS、Windows 10は、Microsoftのビジネスモデルにおいても大きな転換点となるかもしれない。
なお原稿脱稿後に、Windows 10アップグレードの提供開始が7月29日に決まった。Windows 7/8/8.1ユーザーには、Windows Updateに無償アップデートを予約する機能が入っており、事前にアップデートを予約することができる。ちなみに、この機能では、Winodws 10のダウンロードを自動的に行うだけで、インストールに関してはユーザーの許可を再度求める。
7月29日からダウンロードできるのは、コンシューマー向けのHomeとProのみで、Enterpriseなど企業向けは今回のアップグレードには含まれていない。また、Windows 10のパッケージ販売に関しては、明確なスケジュールや価格なども発表されていない。