特別企画

データセンターの空調や設備など、正しい知識を学ぶべき人のための「データセンター サーバ室技術ガイドブック」

データセンター サーバ室技術ガイドブック

 日本データセンター協会(JDCC)では、省エネルギーなどの指標を満足するためと、データセンター内に存在するサーバなどの電子機器が良好に稼働するために必要となる適切な熱対策などに関して、データセンターのサーバ室を中心とした計画・設計・構築についてのガイドライン、ベストプラクティスをまとめた「データセンター サーバ室技術ガイドブック」を、2019年6月に発刊した。

 地球温暖化抑制のため、データセンターにも温室効果ガス排出削減(省エネ化)が要請される中、JDCCでは、オープン技術を用いた省エネルギー化の取り組みを推進している東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)との共同ワーキンググループとして「サーバ室技術ガイドブックWG」を発足させた。

 ワーキンググループには、JDCCおよびGUTPの会員企業の中から、データセンター事業者、建築事業者、電気設備・空調設備・ICT設備などのメーカー・施工会社が参加。データセンターに関わるマルチステークホルダ視点での効率化に向けての取り組みを議論・整理してきた内容を、ガイドブックとしてまとめている。

ガイドブックの構成

 ガイドブックは、全章通読することを推奨しているが、ファシリティ部門やデータセンター利用者などサーバ室部門以外の読者に対しては、目的・理解に応じて必要部分を参照しても活用できるよう配慮された構成となっている。

ガイドブックの構成と主な対象読者

 第1章「データセンターの概要」は、データセンターの概要やサービス、セキュリティ、効率化、サービス管理、業務内容といった、データセンター関係者の基礎的知識となるさまざまな要素や基本的な考え方を紹介している。データセンターの省エネルギー指標「PUE」や、建物の地震リスク評価「PML」といった指標についてのコラムも掲載されており、こうした用語の正しい定義を学んでおくことも重要だ。また、第1章は以降の各章で解説される要素の目次としても活用できるようになっている。

 第2章「建物・設備」では、データセンターの建物についての概要や、受電設備や非常用発電機などの電力設備、データセンター用空調システムや空調方式などの空調設備、通信設備、消火、防火設備など、データセンターの建物と設備に関する概要と、それらの効率化について解説している。

 第3章「サーバ室設計」では、ICT機器の冷却や温湿度条件といったサーバ室の環境要件や、ICT機器の考慮事項、サーバ室でのエアーフロー、サーバ室のレイアウトや構造などの建物設備、各種空調方式や空調機の設置台数などの空調設備、サーバラック、通信設備など、サーバ室の構成要素ごとに概要と要件を解説している。

 第4章「サーバ室運用」では、サーバ室の利用規定や施工における留意事項、設備管理、空調設備の管理、電力設備の管理など、サーバ室の運用についての概要と要件を解説している。また、既に運用しているサーバ室の省エネルギー化についても、エアーフロー対策や空調運転の省エネルギー化など、どのような順序で進めていくべきかの手順を紹介している。

既存サーバ室のエアフロー改善による効果の例

 第5章「ICT機器選定」では、ICT機器の選定などに携わる関係者の基本的知識として、ICT機器の概要や選択にあたっての評価基準などについて解説している。

 第6章「ICT機器設置、運用」では、ICT機器の搬入に関して事前に確認しておく内容や搬入方法、ICT機器の重量や電力供給、サーバラックへの搭載に関する注意点、ラック内配線など、ICT機器を効率良く運用するための設置、運用について要件を紹介している。

 第7章「見える化」では、データセンター施設・設備や環境など、データセンター運用を効率化するために必要なデータセンター業務の「見える化」を実現するためのツールや、そうしたツールを導入する際の考え方について紹介している。

 第8章「事例」では、東京大学柏キャンパス総合研究棟サーバ室(空間情報科学研究センター)や、富士通社内データセンターにおけるデータセンター運用現場での取り組み例など、データセンターにおける効率化の取組事例を紹介している。

データセンターに関わるすべての人が目を通しておきたい内容

 データセンターの設備は、建物は40~50年、電力・空調インフラは15~30年、通信機器は3~7年、サーバ機器は3~5年と、耐用年数や償却期間などのライフサイクルが異なる設備や機器から構成されている。そのため、データセンターにおいては、建物と、建物に比べて更新周期の短い電力・空調のインフラを考慮した設計と運用を行う必要があり、さらに更新周期の短いIT/ICT機器を考慮した設計・運用も実現されなければならない。また、IT/ICT機器の技術進化は非常に早いため、高発熱化・電力高密度化などの課題に対しても迅速に対応可能なデータセンターの設計と構築(さらに運用)が望まれるという課題がある。

 そのため、サーバ室技術ガイドブックは、施設の設計や運用に携わる人だけでなく、データセンターの利用者やデータセンター提供者(オーナー)など、データセンターに関わる幅広い関係者を対象としている。ガイドブックでは、JDCCが公表した各種ガイドラインを参照しつつ、データセンターの各設備をライフサイクルごとに分類。データセンター利用者向けには、ICT機器の要件、導入、運用についての指針を、データセンター提供者(オーナー)向けには、サーバ室、ラックなどの要件、導入、運用についての要件と指針、建物、空調・電気・機械設備に対する要件を理解してもらうことなどを目的として、各設備の計画、設計、施工についてのガイドライン、ベストプラクティスを紹介している。

誤解を正すことがデータセンター効率改善のカギ

 こうした構成となっているのは、データセンターの効率化を実現するためには、企画や運用段階から正しい知識に基づいた判断が必要になるという考え方からだという。

 たとえばサーバ室の空調では、「ICT機器の冷却は一般的な『冷やす』意味の冷却ではなく、ICT機器での発熱を送風(吸気)により『熱を抜く』冷却」であり、室内空調機からの風量を効率的にICT機器の抜熱に利用することが省エネルギーの重要なポイントであることが示されている。

送風によるICからの抜熱イメージ

 空調だけでなく、こうしたデータセンター設備の基本を理解せずに、「他のデータセンターでも採用しているから」「流行しているから」といった理由だけで機器や設計を発注しても、効率的なデータセンターは実現できない。また、データセンターの運用担当者やデータセンター利用者にも、こうした基本を理解してもらいたいという観点から、第3章「サーバ室設計」と第4章「サーバ室運用」は、データセンターに関わるすべての人に通読してもらいたい内容になっているという。

 データセンターを新設する場合はもちろんのこと、最近ではデータセンターやサーバ室を改装しようとする動きも出ている。ディープラーニング(深層学習)向けのGPUサーバなど、高い消費電力の機器の設置にも耐えられるサーバ室を企画する人にも、正しい基礎知識を学ぶために有益なガイドブックとなるだろう。