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富士通、PC事業と携帯電話事業を独立ビジネスとして分社化へ 競争力強化を目指す
2015年上半期連結決算は増収減益
(2015/10/30 06:00)
富士通株式会社は29日、新たな経営方針について説明する記者会見を開催。同社・田中達也社長は、営業利益率10%以上、フリーキャッシュフローで1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上高比率50%以上を目指す方針を掲げた。
「私の社長在任中に、必ず達成したいと考えている数値目標。ICTサービス企業として、グローバルに戦える域に達した数値」(田中社長)としたものの、「数値ありきということではなく、体質を改善するということを優先したい。大切なのは変革のスピード。旧態の体質のままでは、売り上げが伸びてもすぐにサチる(編集注:飽和する)だろう。規模を追うよりも、体質改善が必要。IoTという社会現象のなかで、どのポジションを取っていくのか、お客さまのなかにどう入っていくのかということが重要である。グローバル比率も高めていく必要がある。特に、これから2年間の取り組みが重要であると考えている」などとした。
また、PC事業および携帯電話事業を、来年春を目標に、100%子会社化することも発表した。
2015年6月にスタートした田中社長体制で、初めて打ち出した経営方針であり、田中社長は、就任前の4月30日の同社決算会見に次期社長として出席。その場で、新たな事業計画を策定することを発表していた。
“つながるサービス”としてグローバルに展開
冒頭、田中社長は、「早い時期に発表したいと考えていたが、経営課題を把握しながら、着手すべきものにはすぐに着手するという姿勢で臨んでいると、関係すべき事項が発生し、全体を整理して発表することができず、今日になった」と説明した。
2015年度から継続的なビジネスモデル変革に取り組むとともに、2020年度に向けて、持続的な利益成長を目指す姿勢を示しながら、「つなげるコアテクノロジーに、研究開発投資を集中する。これまでの開発体制は分散化していたが、事業部体制の統一や、一貫した体制での開発投資により、製品やサービスの市場投入のスピードアップを図る」などとした。
また、「持続的な成長のために、“つながるサービス”にフォーカスしたビジネスモデルへの変革に加え、ICTがもたらすデジタルイノベーションを追求すること、サービスやイノベーティブなアプローチをグローバルに実行するグローバルプレゼンスにも取り組む。これが実現したときに、当社の課題である事業収益力を拡大できる」と述べた。
これまではテクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションが垂直統合した構造であったことを指摘。「今後、IoTが進化する市場において、当社が優位性を持つテクノロジーソリューションに経営資源を集中させ、“つながるサービス”としてグローバルに展開し、競争力を高める」とした。
つながるサービスとは、「ソリューションSIやインフラサービスによって蓄積されたノウハウ」、「クラウドやミドルウェアなどの豊富なソフトウェア」、「サーバー、ストレージ、ネットワークといったコアハードウェアのソフトウェア化」を統合したもの。ワンストップでのサービス提供を目指すものと位置づけ、「すべてがつながるデジタル社会において、顧客の新たな価値創造を実現する」と語った。
さらに田中社長は、「デジタル社会やIoT市場で、より水平分業が進む。コアとなる技術は本社で醸成しつつ、ユビキタス、デバイスのようにより機動性を求められる事業はグループ会社として独立させ、単独でも競争に勝ち抜く製品開発と、ビジネス展開を目指す」と、PC事業および携帯電話事業を分社化する理由についても触れた。
「PC事業と携帯電話事業を独立ビジネスとして分社化し、強いビジネス体制を確立していくのは、広範囲なデジタル市場において、当社が目指す『つながるサービス』に対して、テクノロジーの広がりを補完し、事業競争力を高めることにある。独立した事業とすることで、責任が明確になり、甘えの構造がなくなり、持続的な利益成長に向けてのマネジメントを強化できる。コモディティ領域の分社化で、経営判断を迅速化し、子会社は独立した事業として確実な利益体質と成長を目指す」などと述べた。
また、グループ内に分散しているIoT関連テクノロジーや人材を本社に集約。「将来の成長が見込まれるIoTへの投資を強化することになる」と語った。
グローバル展開では地域縦割りの弊害を排除へ
欧州におけるEMEIAビジネスについては、現在、地域を軸とした4つのサブリージョンに分割している体制を統合。営業軸、サービス軸、プラットフォーム軸に再編することで、地域縦割りの弊害を排除。今年度中に統合作業を完了させ、提案力、サポート力の強化を図るという。
「富士通にとって、日本に次ぐ大きなマーケットである。特にフォーチュン500社に対する提案を進めていく」という。
グローバルでの開発効率化を進めるため、日本を中核にしたR&D拠点の集約を進める計画も明らかにし、ドイツのパタボーンの拠点を閉鎖。製造・物流拠点であるドイツのアウグスブルグの効率化も検討していくという。
さらに、サービス強化の原動力として、テクノロジーソリューションの中核であるSEサービスの進化が重要だとして、SEの知見や専門力を標準化して、MetaArc上で展開。「以前から、最後まで逃げない富士通と言われてきたが、これからは、はじめのはじめから、最後の最後まで完遂する富士通との評価を得たい」と宣言した。
同社では、顧客の事業や新規プロジェクトの構想段階から、パートナーとして深く参画するための専門営業をグローバルに強化。ものづくりやヘルスケア、農業分野のほか、自動運転やフィンテック、デジタルマーケティング分野にも専門営業を配置。アカウント営業と専門営業が一体になりながら、新たな領域での協業関係を構築するという。
デジタルイノベーションにおいては、商談獲得につながる実証プロジェクトが300件以上も推進されており、インドネシアでは高速道路における渋滞緩和や事故および災害時のドライバー誘導、アイルランドやフィンランドでは医療機関における患者の見守り、マンホールに取り付けたセンサーにより、下水道氾濫の兆候を予測するプロジェクトなどに取り組んでいるという。
一方、アジア地域における営業体制の強化にも取り組む。10月1日付けで日本とアジアを統合した「One Asia」体制をスタート。営業戦略を統一するとともに、SEサービスを中心としたテクノロジーソリューション事業の連携も強化する。
昨年スタートしたグローバルマトリックス体制の目的のひとつであったグローバルデリバリーについて、さらに進化させる姿勢を示し、グローバルデリバリーセンター(GDC)の体制を拡充。現在、5000人の体制を、2017年度までに1万8000人体制に増やす。
また、コスト構造改革では、全社横断コスト削減プロジェクトでは3年累計で400億円、オフショアの徹底活用により3年間累計で300億円、640にのぼる社内全システムを、Fujitsu Cloud Service K5へと移行することで、5年累計で350億円のコスト削減を目指す。
田中社長は、現在の市場認識として、「デジタルテクノロジーの進化があらゆる産業に変革をもたらし、生活や企業を取り巻く環境が加速に変化している。いままでのやり方をブレイクスルーし、後戻りできないような画期的な優れた製品、サービスが生まれている。これは当社にとって大きなビジネスチャンスである。デジタル社会に生み出される『場』が大切であり、場をビジネスモデルととらえれば、これが革新的であるほど、社会に貢献し、ビジネスも成功する。この場に対して、ICTが果たす役割は大きい。この場に対して、検討や企画の早い段階から、ICT技術をベースにより専門性を持ってかかわっていくことが大切である。場における意思決定を、富士通はパートナーとして支えたい」などとした。
通期業績見通しを上方修正
2015年度の通期業績見通しは、売上高で500億円減の4兆8800億円へと上方修正。営業利益の1500億円、当期純利益の1000億円は据え置いた。
セグメント別では、テクノロジーソリューションの売上高を400億円上方修正し3兆4000億円、デバイスソリューションで100億円上方修正し6300億円とする一方、ユビキタスソリューションでは200億円減の1兆300億円とした。営業利益では、ユビキタスソリューションで100億円減とし、通期で100億円の赤字を見込む。デバイスソリューションでは100億円増の400億円へと修正した。テクノロジーソリューションの2350億円の黒字見込みは据え置いた。
PCの販売目標は、7月公表値に比べて50万台減の420万台(前年度実績470万台)と下方修正。携帯電話は20万台増の360万台(同330万台)に上方修正した。
「PCおよび携帯電話では250億円の減額を見込んでいるが、この内訳はPCで減額、携帯電話で増額としている」という。
上期決算は増収減益
一方、同社が発表した2015年度上期(2015年4月~9月)の連結業績は、売上高は前年同期比2.2%増の2兆2412億円、営業損益は前年同期の322億円の黒字から、マイナス124億円の赤字に転落。税引前損失も前年同期の426億円の黒字から、マイナス31億円の赤字に、当期純損失は241億円の黒字から、マイナス159億円の赤字となった。
富士通 取締役執行役員常務兼CFOの塚野英博氏は、「ネットワークとPCが減収減益の要因となる一方で、システムインテグレーションや携帯電話が増収となった。テクノロジーソリューションでは、国内のSIビジネスがけん引役となっている。ユビキタスソリューションでは為替影響がマイナスに働いている」という。また、「次世代クラウドや未来医療への先行投資があったが、この上期には、新たなビジネスプラットフォームのMetaArcや、その中核となるK5を発表することができた」などと総括した。
セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上高が前年同期比1.7%増の1兆5182億円、営業利益は同36.3%減の323億円。そのうちサービス事業は売上高が同5.0%増の1兆2910億円、営業利益が同8.3%減の443億円。
また、サービス事業のうち、ソリューションSIの第2四半期の売上高は前年同期比4.8%増の6798億円、インフラサービスの売上高は同2.0%増の4268億円となった。
「SE子会社で不採算プロジェクトが発生。国内子会社での年金制度移行に伴う費用負担、ISP事業への投資も影響している」という。
システムプラットフォームは、売上高が同13.7%減の2271億円、営業損失は前年同期の23億円の黒字から、マイナス120億円の赤字に転落した。そのうち、システムプロダクトの第2四半期売上高は同0.8%減の592億円、ネットワークプロダクトの売上高は同20.5%減の603億円となった。
ユビキタスソリューションは、売上高が前年同期比1.7%減の5050億円、営業損失は前年の96億円の黒字から、122億円の赤字に転換した。
そのうち、PCおよび携帯電話の第2四半期売上高が前年同期比2.6%増の1633億円、モバイルウェアの売上高が14.9%増の984億円となった。
「法人向けPCがリプレースの谷間にあり、販売台数は15%減になった。PCは赤字となり、前年よりも悪化。ドルに対するユーロ安の進展が調達コストの増加につながった。また、携帯電話は、らくらくシリーズを中心にスマホが伸長。昨年来の不具合にかかわる対策はすべて終了した」という。
デバイスソリューションは、売上高が前年同期比11.3%増の3120億円、営業利益は同86.2%増の185億円。そのうち、LSIの第2四半期売上高は同13.2%増の856億円、電子部品は同9.8%増の768億円となった。