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「DNAに立ち返り、イノベーションを加速したい」~富士通・山本正已社長
富士通フォーラム2015基調講演
(2015/5/15 06:00)
富士通株式会社は、5月14日・15日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで「富士通フォーラム2015」を開催している。
富士通フォーラム2015は、同社主催のイベントでは最大のもので、創立80周年を迎えた今年は、「Human Centric Innovation in Action」をテーマに、約80のセミナーを用意。「ビジネスと社会のイノベーション」、「クラウド」、「ビッグデータ」、「ワークスタイル変革」、「セキュリティ」、「最先端テクノロジー」の5つのコーナーに分けられた展示会場では、富士通の最新技術を活用した製品やサービスを一堂に展示している。
富士通の山本正已社長は、「富士通の取り組みを総合的に紹介し、お客さまにご活用いただきたいという趣旨で、毎年、同じ時期に開催している。デジタルテクノロジーの普及によって、これまでSFの世界の話であったものが、次々と現実化している。これを人に役立つイノベーションへと変えていくのが富士通が目指すHuman Centric Innovationである。そして、これを、より具体的な取り組みとして進化させ、進行している姿をリアルにみせるという思いを込めて、in Actionとした」と位置づけた。
富士通が持つDNAに立ち返り、イノベーションを加速したい
開催初日となった5月14日午前9時30分からは、山本社長と、6月に社長就任予定の田中達也副社長による、「お客様と共に、世界のビジネスと社会の課題解決に挑む」と題した基調講演が行われ、環境汚染、資源やエネルギー、食料、自然災害への備えや医療、教育といった地球規模で直面しているさまざまな課題の解決に向けて、富士通が最先端のICTを活用し、今後の社会イノベーションの実現とともに、グローバルへとアプローチしていることなどを紹介した。
山本社長は、冒頭、富士通が創立80周年を迎えたことに触れ、「富士通の歴史と、日本のICTの歴史は重なるものがある。その歴史のなかで、富士通は世界をリードするテクノロジーを数多く生み出してきた」と前置き。
「だが、富士通は、過去の実績を振り返るのではなく、挑戦するマインド、つまり富士通が持つDNAに立ち返り、イノベーションを加速したいと考えている。これまで富士通は、ICTの進化に力を注いできた。これからの時代は、社会をより豊かにするために、ビジネスで新たな価値を生み出すことが大切である。ICTを使って、お客さまのビジネスの本業を支援し、社会のお役に立つことが、今後の富士通の使命である。それに責任を持って取り組む」と発言した。
また、具体的な取り組みとして、高齢化が進むなかで、いかに健康寿命を延ばすかといった点でのICT活用例をあげ、「富士通1社で解決することができない課題が多い。そのため、医療機関などのとの連携によるエコシステムで解決していく。一緒になって、より豊かな世界の実現を目指し、未来に向かって進んでいく」とした。
また、「富士通には多くのアスリートが在籍しており、彼らは富士通の挑戦する文化を体現しており、誇りである」とし、アメリカンフットボールの富士通フロンティアーズ、競歩の世界新記録をマークした鈴木雄介選手などを紹介している。
そして、東京オリンピック/パラリンピックのゴールドスポンサーとなったことに触れながら、「2020年に向けて、交通、セキュリティなどのインフラ整備が進む。そこでICTが重要な役割を果たすことになる。富士通は、積極的に新たなチャレンジに挑む。これによって、より皆さまのお役に立てる富士通になる」と語った。
人を中心におき、人を幸せにする会社にしたい
続けて登壇した田中副社長は、「この機会に、私は、富士通をどのような会社にしたいのかをお話したい」と切り出し、「ICTは、空気と水と同じく、われわれの生活になくてはならないものになってきた。仕事や生活は、ICTなしには成り立たない。そうした社会において、私は富士通を、人を中心におき、人を幸せにする会社にしたいと考えている。これが、富士通が目指すHuman Centric Innovationである。人の笑顔や生き生きとした活動の舞台裏で、富士通のテクノロジーやサービスがしっかりと支えているという将来像を描いている」と語った。
田中副社長は、「オフィス」、「ショッピング」、「生産現場」、「教育現場」、「農業」、「交通」、「医療」という観点から、具体的な取り組みについて説明した。
オフィスでは、モバイルデバイスの広がりにより、機動的で柔軟な仕事の仕方が可能になってきた点に触れながら、「時間と場所を超えて多様な人材が活躍する場ができてきた。また、グローバルで、オープンな共創の場が生まれている。富士通でもワン・フジツウ・ジャムと呼ぶ試みをスタートさせ、社員が参加して、さまざまなアイデアを出し合う取り組みを通じて、企業のイノベーションを加速させたいと考えている。一方で、センサーを利用して、保守の現場などでの熱中症を感知し、倒れたときにはアラームを鳴らすことで安心を提供できる。すでに存在する技術でも、アイデア次第で快適な社会の実現につなげることができる」とした。
ショッピングでは、日本のコンビニエンスストアが、細かな品ぞろえと品切れを起こさない物流や在庫を実現している点に触れ、「この背景には、気候と売り上げとの関係、なにとなにが一緒に売れる傾向が高いといった分析をもとに、情報と物流が連携していることが見逃せない」と指摘。
「さらに、マーケティングは進化し、欲しいものを、欲しいタイミングで入手できるような環境が整ってきた。来店客がどんなことをソーシャルメディアで話しているのか、過去にはどんな購入履歴があるのかということから、案内やクーポンを提供し、テーラーメイド型のマーケティングが行えるようになってきた」と語ったほか、スペイン最大のATMネットワークを持つカイシャ・バンクでは、スマートATMを利用してユーザーに最適なサービスを提供する事例も紹介。「ショッピングを楽しむためには、もはやICTは欠かすことができない」と述べた。
生産現場においては、立体視ディスプレイにより、モノをつくらないモノづくりの事例を紹介。「仮想化技術によって、モノづくりを支援し、さらに、モノづくりの自由度を高めることができる。仮想環境ではあたかも実物を見ているようにして検証でき、しかも、開発メンバーが離れた場所にいても、同じ場所で議論しているような環境も実現できる。これにより、コスト削減が図られ、環境にも優しい設計が可能になる」とした。
また、3Dプリンタにより、設計や開発が大きく変化することや、自律性の高いロボットを活用することで、人との連携や、効率的によって品質の高いモノづくりができるようになるという未来についても触れている。
教育や農業などでもICTの活用が加速している
教育現場では、ICTの活用が加速していることを紹介。米国のセントジョセフズ・アカデミーでは、タブレットを使って生徒同士が連携しながらインタラクティブな授業を行ったり、チュラロンコン大学付属規範小中高等学校では、教師が一人一人の生徒に個別に対応できる教育環境を実現しているという。
農業においては、「安心して、新鮮で、おいしいものを食べたいというのは多くの人に共通したものである」と前置きし、それを実現するために、農業分野でのICT活用を進めていることを紹介した。富士通は、国内外でさまざまなプロジェクトを開始し、センサーなどを活用しながら、農業生産者をサポート。栽培の最適化に取り組んでいるほか、流通、食品メーカーと連携して、農産物の品質の見える化にも取り組んでいる事例を示した。また、同社が提供する農業クラウド「Akisai」が、すでに350社で採用されていることも明らかにした。
交通分野においては、交通情報基盤サービス「SPATIOWL」に触れながら、「安全でスムーズな移動のためにICTは不可欠である。自動車の走行データを分析し、渋滞をなくすだけでなく、事故のリスクを未然に通知して、事故を防ぐといった活用できる」と述べた。
具体的な事例として、インドネシアでは、リアルタイムな走行データを、ドライバーに提供して誘導に役立てているほか、スペインでは、地下鉄やバスなどの公共交通機関において、料金の支払いから情報サービスまでを統合したトータルシステム実現に向けた次世代プロジェクトが始動しているという。また、シンガポールでは、都市全体の交通の最適化を目指して、渋滞や混雑の緩和、安全確保、効率的な海運および港湾運営に取り組むシステムを構築。5600万人、年間9億回の移動をスムーズに行うという。「シンガポールでは、2017年度からは新システムが稼働することになる。ビッグデータを活用して課題解決に取り組む例のひとつである」とした。
医療においては、「健康で充実した人生を送りたいというのは多くの人に共通したものである」と切り出し、「富士通はこれまでにも、医療データを活用し、患者に安心で、優しい医療サービスの実現を手伝ってきた。広域医療が広がるなかで、医療クラウドサービスを活用するほか、センサーネットワークを利用することで、高齢者や慢性疾患を抱える人たちが、自立した生活を可能にするためのプロジェクトもアイルランドで開始している。センサーを活用することで、ドアの開け閉めの状態から、ひざの調子がどうなのかといったことがわかるようになる。また、お酒は体質によっては、食道ガンになるリスクが200倍になるという報告もある。個人にあったアドバイスや受けられる環境の実現が必要であり、そのベースとなる技術がゲノム解析である。ヘルスケア、医療分野は、もっともICTの恩恵を受けられる分野だと考えている」とした。
こうした各分野での事例を紹介したあとに田中副社長は、「人が幸せになるためには、社会の機能を人に優しいものに変えていかなくてはならない」とし、「社会のシステムをICTが支えるため、富士通はいままでの経験を生かしていく。また、これらのアプリケーションと運用ノウハウを、世界共通で、一体感を持って、均一なサービスとして提供していくために、グローバルデリバリー体制を充実させ、グローバルICT基盤の構築も進めている。さらに、世界中のトップレベルのパートナーとの連携と共創にも取り組んでいる」とした。
さらに、「ICTは、社会において、ますます重要なものになり、高度化、複雑化する一方で、新たな脅威にさらされている。あらゆるものがネットワークにつながる世界では、自然と攻撃対象が広がることになる。そして、ICTのトラブルは、社会のトラブルにつながる。攻撃対象が水道システムや送電線が対象となればライフラインが止まり、金融や工場設備が対象になれば経済が混乱し、病院や医療機器が対象になれば、命にも影響することになる。富士通は、セキュリティイニシアティブセンターを開設して、業界のリーダーとしてセキュリティにも真摯(しんし)に取り組んでいる」と語った。
日常は見えないが、技術とサービスに支えられていると言ってもらえる会社でありたい
まとめとして、田中副社長は、「富士通はこれからもICT技術と、インテグレーション力を磨き、運用サービスを充実させることで、あらゆるシーンで人を幸せにし、さらに人が集まる社会や企業をより高度化させていく。そして、人や社会の安心、安全に貢献する。日常は見えないが、富士通の技術とサービスに支えられていると言ってもらえる会社でありたい」と語った。
そのほか、田中副社長は、「営業時代には、富士通は総合力というが、もっと尖(とが)った個別の製品を出してくれ、とよく言われた。創造性豊かな新製品を開発して、届けることを約束する」と語り、プロ野球の試合映像のなかから、ホームランやヒット、三振を奪った瞬間などの見たい部分を検索できるサービスや、世界で初めて虹彩認証機能を取り入れたスマートフォンにより、画面を見るだけでセキュリティロックを解除できるほか、新たに開発したヒューマンセントリックエンジンにより、周囲の環境や使う人にあわせて画面の明るさや色あい、音の大きさなどを自動で最適化する「人に心地よい端末」の製品化、指にはめたリング型デバイスにより、指を動かすだけで、文字を書いたり、エクセルに入力することができる機能の実現、網膜に直接画像を照射する半透明型のディスプレイにより、周りの景色を見ながら情報を得たり、視力の弱い人をサポートするといった使い方ができる例を、実機を手に持ちながら紹介してみせた。
「富士通は、総合力においても、単独技術においても、常にお客さま視点で考え、グローバルの現場、現実を見据えて、全力をあげて取り組んでいく」と語って講演を締めくくった。
イノベーションの共創モデルは3つある
続いて、富士通 執行役員常務の阪井洋之氏が、今年の富士通フォーラムのテーマである「Human Centric Innovation in Action」と題して基調講演を行い、事例を中心に、富士通の新しい技術やサービスについて紹介。高度なセキュリティに守られたビッグデータや、柔軟で使いやすいクラウド環境、センサーやネットワーク技術の進化で実現するIoTなどの取り組みについて触れた。
阪井執行役員常務は、「イノベーションの共創モデルは3つある。ひとつは、既存のビジネスを、ICTを活用してし革新するモデル、2つめにはICTを活用して新たなビジネスをお客さまとともに作り上げるモデル。3つめには企業の枠を超えたエコシステムを構築して、社会的な課題を解決するモデルである」とし、それぞれの共創モデルにおける具体的な事例を示してみせた。
既存ビジネスの革新については、オムロンの滋賀県草津市のプリント基板製造ラインにおいて、各工程のデータをつなぎあわせて、製造ラインの流れを一気通貫で見える化する取り組みを紹介。プリンタ基板1枚ずつの状況が確認できるようになり、改善ポイントを見極める効率が6倍以上あがり、生産性は30%向上し、さらにこれが高まっているという。「現場からは、監視カメラを見ているように、生産ラインの状況がわかったという声があがった」という。
また、ビームスでは、昨年11月からRFIDを導入して、顧客サービスやマーケティングの向上を目指しており、店内にRFIDリーダーを組み込んだ「止まり木」を作り、商品を近づけると、サイズや色などの情報と在庫情報が表示されるほか、商品を手に取った際になにを購入して、何を購入しなかったのかがわかったという。「全売り上げの4分の1が止まり木によって購入している」という結果が出ている。
さらに、デバイスやセンサーを利用した見守りサービス事業者の事例では、「子供の帰宅が遅い、遠隔地に住んでいる家族の急な持病の悪化や転倒が怖いといった場合にも、緊急時にボタンをおすと、事業者が現場に駆けつけることができるほか、ライフリズムの異常も検知し、予兆を検知することで事前対応もできる」という。
富士通では、このほど、IoTパッケージのユビキスウェアを製品化。バイタル異常検知、熱中症、転倒などの動作を検出。作業現場での安全性を確保することができるという。
新たなビジネス創出では、米サンノゼのテックショップの事例をあげた。ここで行われているのは、3Dプリンタからウォータージェットカッターなどの多様な工作機械を月125ドルで誰でも使い放題で利用できるというサービスで、「学生、シニア、ベンチャー企業経営者までが、わくわくしながら、ものづくりを行っている」という。ここから生まれた低価格のポータブル保湿機が発展途上国を中心に10万台以上も販売され、新生児の命を救ったという。また、Squareのモバイル決済リーダーもここから生まれたという。さらに、モノづくりの場を移動させるため、コンピュータや工作機械を全長7メートルのトレーラーを搭載し、小中学校を訪問巡回するプロジェクトを開始しているという。
企業の枠を超えた取り組みとしては、エアバスの例をあげた。2017年には、飛行機の製造および保守などにおいて、280万点の主要部品の管理が必要であることから、RFIDを利用した管理を開始。数十年にわたる部品のライフサイクルを視野に入れながら、メーカー、航空会社、整備会社、部品サプライヤーなど、航空産業全体を巻き込んだサプライチェーンを実現したとのこと。
「富士通のRFIDは、大容量であり、信頼性、耐久性という点でも適している。機体の引き渡しや運航前の点検保守作業の効率化、故障時の原因調査や修理のスピード向上などのほか、サプライチェーン全体で20%以上のコスト削減を期待している。航空業界では、RFIDフォーマットの標準策定が行われ、エアバスにおけるRFIDの導入は今年から本格的にスタートする」。
さらに燃料電池車の普及に向けて、富士通のSPATIWOLを活用して、水素ステーション情報管理システムを開発。自動車メーカー、ドライバー、水素ステーション運営業者を結んだサービスが実現できるという。第1号ユーザーとして、トヨタ自動車がMIRAIで採用したという。
一方、農業では、世界第2位の農産物輸出国であるオランダでは、園芸農家の95%が温度や湿度の環境制御を行い、強い農業を実現している例を引き合いに出しながら、「富士通は、2012年から、食・農クラウドのAkisaiを提供しており、350社で導入している。このほど、磐田スマートアグリカルチャー事業に参画し、約20社と共創になる事業展開を開始している。東京ドーム2個分のハウスで、パプリカ、トマトなどを効率よく栽培し、新たなビジネスモデルを共創している。これを磐田モデルとして国内の他の地域や、海外にも展開していく」という。
阪井執行役員常務は、「イノベーションの共創モデルを成功させるには、2つの要素が必要。ひとつは、ビジネスの変革には、協業・共創のアプローチが必要であること、もうひとつは、最先端のICTをビジネスに活用し、デジタル革新を起こすことである」とし、「日本は守りのIT投資が多く、米国では攻めのIT投資が中心。日本のIT投資を攻めにシフトする必要がある。そのためにデシタル革新を不可欠である」とした。
富士通では、デジタル革新を行うためのICTとして、SoEとSoRを連携させることができるプラットフォームが必要だとし、それを実現するパブリッククラウドサービスおよびプライベートクラウドサービスとして、次世代クラウドであるK5を発表したことに言及。「K5では、パブリッククラウド、プライベートクラウドを世界同時に発表する一方で、社内の640のシステムを次世代クラウドに移行させ、350億円のTCO削減を目指す。またこれらの実績で得たインフラ構築、アプリ構築、運用ノウハウをテンプレート化。サービスとして提供する」と述べた。
また、共創を実現するための人材育成にも力を入れていることに触れながら、「富士通は個性豊かな人材を生み出し、お客さまとともにチャレンジする。富士通は既存ビジネスの変革、新たなビジネスの創出、企業の枠を超えたエコシステムに取り組む。クラウドをベースとしたビジネスプラットフォームを提供し、お客さまの成長を支え、ICTの力でビジネスと社会のイノベーション実現に貢献していくのが富士通の特徴。私たちはお客さまのイノベーションパートナーであり続けたい。富士通社員16万人の力を結集し、お客さまとともに未来を作る活動に全力を集中していく」と語った。