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シスコ、スマホのWi-Fi位置情報から収益機会を拡大する「Cisco CMX」

 シスコシステムズ合同会社は14日、Wi-Fi位置情報を活用するソリューション「Cisco Connected Mobile Experience(Cisco CMX)」について報道関係者向けの説明会を開催した。

 Cisco CMXは、各スマートフォンが接続しているWi-Fiアクセスポイントからの情報をもとにユーザーの位置情報を収集・解析するソリューションとして、米Cisco Systemsが2012年11月に発表したもの。海外ではすでに博物館や空港などで導入例があるという。

米Cisco Systemsのブレンダン・オブライエン氏(Cisco CMX担当グローバルプロダクトマーケティングディレクター)

 今回の説明会でCisco CMXの概要や導入事例を紹介したのは、Cisco CMX担当グローバルプロダクトマーケティングディレクターのブレンダン・オブライエン氏。同氏は、Wi-Fi位置情報解析技術を手がけていたThinkSmart Technologiesの創業者兼CEOだった人物だ。Cisco Systemsが2012年9月、同社を買収した。Wi-Fiネットワークに接続するユーザーを検知し、サービスなどを提供するためのプラットフォーム「Cisco Mobility Service Engine(Cisco MSE)」と、買収したThinkSmart Technologiesの技術をベースにして提供されるのが、Cisco CMXだ。

米国の博物館やデンマークの空港で導入実績

 Cisco CMXの機能としては大きく2つ挙げられる。1つは、博物館やエンターテインメント施設など、大規模施設の来場者の現在位置に応じてスマートフォンにナビゲーションサービスやその場に合った情報/コンテンツを提供する“モバイルコンシェルジェ”の機能。もう1つは、ショッピングセンターや空港、病院などで、来場者の混雑状況や行動パターンを解析・可視化することで、施設の人員配置の最適化や、マーケティングの効率化、プロモーションなどに役立てる“ロケーション分析”の機能だ。

 モバイルコンシェルジェの機能を活用した典型的な事例が、アトランタにあるファーンバンク自然史博物館だ。入館者は、専用アプリをダウンロードして同博物館のWi-Fiエリアに接続することで、年齢に応じた見学順路のナビゲーションや、実際に見ている展示に関する音声コンテンツ、クイズ、パズルなどを楽しむことができる。このほか、ラスベガスのカジノリゾート「MGM Resorts」でのモバイルコンシェルジェのイメージ動画も紹介された。

 ロケーション分析の事例としては、デンマークのコペンハーゲン空港を紹介。搭乗者のスマートフォンの位置情報をリアルタイムに分析・可視化することで、各ゾーンの混雑状況に応じて保安要員やチェックイン担当者、税関担当者などの配置を最適化できるとした。また、免税店の場所を案内する広告を配信するといった活用も行い、店舗の売上増加効果もあったとしている。

ファーンバンク自然史博物館での活用イメージ
コペンハーゲン空港での活用イメージ

 なお、モバイルコンシェルジェなどの機能は現状、インストールされたアプリを通じて提供している。Cisco MSEのSDKも用意しており、位置情報を各種アプリに統合可能だという。来場者にいったんアプリをインストールしてもらえば、次回からはWi-Fiエリア内に入ると自動的にポップアップで通知される仕組みもある。

 もちろん、Cisco CMXが機能するには、いかにして来場者にアプリをインストールしてもらい、施設内のWi-Fiに接続してもらうかがカギになる。この点についてオブライエン氏は、例えば空港の事例では、航空券のチケットレス化やゲートへの誘導サービスなどの付加価値をアプリの機能として提供することで、インストールが促されるとした。

 また、今年第2四半期にリリース予定のCisco MSEバージョン7.5では、HTML5を使ってウェブブラウザー上に情報を通知したり、バナーやサービス内容をカスタマイズできるような仕組みが追加されるとしている。

 このほか、Qualcommとの協力により、802.11u MSAP(Mobility Services Advertisement Protocol)対応の同社の新しいチップセットを搭載した端末では、測位精度が向上するほか、専用アプリのインストール不要で、自動的に施設内の位置情報サービスを検知する仕組みに対応するとしている。

ダッシュボード画面で、来場者の行動パターン表示などが可能

 オブライエン氏は、Cisco MSEバージョン7.4の「Anvanced Location Services」の一部として統合しているロケーション分析の機能について、ショッピングモールで収集された位置情報データを使ってデモをして見せた。ウェブブラウザーからログインするダッシュボード画面で各種統計データを閲覧できるというものだ。

 この画面では、ショッピングモール内のマップ上にスマートフォンが滞在した位置がそれぞれ直径や色の異なる円で表示され、ゾーンごとの混雑状況やどのゾーンに長く滞在する傾向にあるかといった統計データを視覚的に把握できる。個々の円についてさらに詳細データも参照可能で、例えば、あるカフェ店舗では延べ3273台のデバイスが接続され、平均1時間5分滞在している――といったことも分かる。

 Cisco CMXではデバイスのMACアドレスに基づいて位置を検知しているため、同じ店舗を繰り返し訪問しているデバイスや、リピート回数およびその分布なども確認可能だ。このほか、その店舗を訪れた人(デバイス)がショッピングモール内で移動した経路も、複数フロアをまたいだ斜め視点のマップ上に表示できるため、どの店舗を訪れた人がカフェを訪問するのかといった流れも把握できる。ショッピングモールのオーナーや店舗にとっては、効果のある場所/タイミングでクーポンを配信するといった活用が考えられるわけだ。なお、これらのデータは匿名化されているという。

ダッシュボード画面
デバイスの移動経路を3D表示した状態

屋内だけでなく街中での活用事例も、日本ではテスト導入段階

 オブライエン氏は、あと3~5年もすれば、各種施設におけるWi-Fi環境は当然のように無償提供されているものとの認識になると指摘。Cisco CMXは、そのようなWi-Fi設備を活用し、来場者に付加価値サービスを提供したり、業務効率の向上を行うことで、施設のオーナーらにとって収益機会の拡大につなげられるソリューションだという。活用が想定される場も、前述の博物館や空港などのほか、ホテルチェーンでのチェックイン/ドアロック管理、病院での受付/会計、大学における出席/資料配布など、毎週のように新しいアイデアが出てきているとした。

 さらに屋内施設だけでなく、欧州の都市では、街中をカバーするかたちで観光客向けに駐車場を案内するアプリもあるという。さらに警察ともアイデア交換をしており、今後は公的なセキュリティサービスで活用される事例も出てくるのではないかとした。

 なお、日本国内ではまだ正式な導入事例はないが、現在、ショッピングモールなどでテストに入っている段階だという。

永沢 茂