「ネットワーク仮想化でクラウドの障壁を取り除く」~米Niciraが国内ビジネスを本格化


米Niciraのスティーブ・ムレニーCEO
Network Virtualization Platform(NVP)により、物理スイッチ上に仮想ネットワークを構築する

 「これまではネットワークの限界によってクラウドの限界が生じていたが、当社ではネットワークを仮想化し、サーバー仮想化と同じように、物理ネットワークのハードウェアから切り離すことに成功した。これによって、お客さまのビジネスを劇的に変えることができる」――。米Nicira Networks(以下、Nicira)は22日、ネットワーク仮想化ソフト「Network Virtualization Platform(NVP)」について、日本市場での販売およびサポート体制を強化すると発表した。

 Niciraは、2007年に設立され、米国パロアルトに本社を置くベンチャー企業。その中核製品である「NVP」は、すでに2011年7月から提供されており、日本でも東京エレクトロンデバイスが同年7月から、日商エレクトロニクスが同年9月から取り扱うと発表されている。

 しかし、あえて少数の有力顧客企業だけに注力するという方針を採用しており、製品の詳細なども公開されていなかった。同社では、こうした“ステルスモード”と呼ばれる、水面下での活動を行っていたのだが、米国時間の2月6日にようやく詳細の公開に踏み切り、このたび、国内でも本格的に製品を展開するに至った。

 「NVP」は、簡単にいうと、既存の物理ネットワーク(スイッチ)の上に仮想ネットワークを構築するためのソフトプラットフォームだ。Niciraの共同創設者でCTOを務めるマーティン・カサド氏が、「アプリケーションが仮想化によって物理サーバーと切り離され、サーバー管理は10年前よりもずっと簡単になったし、サーバーの利用効率も上げることができたが、一歩引いてデータセンターという観点から見ると、ネットワークが全体の仮想化を妨げ、結果としてサーバーの利用効率を100%まで高められていなかった」と指摘するように、これまでのデータセンターでは、仮想化が進むサーバーやストレージと比べて、ネットワークには柔軟性が欠如していた。

 しかし「NVP」を使うと、そこにある物理的なネットワークとはまったく関係なく、仮想的なサービスネットワークをソフト的に構成でき、各種の設定や構成の変更などを柔軟に行えるようになる。

 こうした考え方としてはハイパーバイザーを用いたサーバー仮想化に似ているため、Niciraのアプローチは「ネットワークハイパーバイザー」と表現されることもあるというが、サーバー仮想化においては、物理サーバーが単なるリソースの供給元になったのと同様、「NVP」の環境では、物理的なネットワーク機器群は単なる“土管”となり、QoSやセキュリティ制御、構成変更などはすべて仮想ネットワーク側で行われるようになる。

 しかも、「どのようなハードウェア(スイッチ)にも対応でき、既存の同様なスイッチでも使えるので、これを取り換える必要はない」(カサドCTO)というように、データセンターにどういったネットワーク機器が導入されていようと、まったく問題はないのだという。

 また、似たようなアプローチとして、“ネットワークファブリック”を提唱するスイッチベンダーもあるが、カサドCTOは、「ネットワークのプラットフォームを進化させるためにはベンダーを選ばないとならなかったため、ベンダー特有のネットワークになってしまっていた」と、その問題点を指摘。その上で、「NVP」の活用により、ネットワークが仮想化されて管理性や柔軟性が増し、サーバーの集約率向上、ネットワークコストの削減によるコストメリットを、データセンターが得られるようになると説明する。

 例えばサーバーが4万台あるような大型データセンターの場合、サーバーの統合率をさらに高めて20%のサーバーを削減できるとなると、8000台のサーバーが浮く。その分、電気代や冷却費用、スペースなども削減できるので、この効果は大きい。さらに、サーバーが減れば必要なネットワークの物理ポートが減る上、ネットワークスイッチに依存しないことから、安価なスイッチを導入すれば良くなる。こうしたことから、1500万ドル~3000万ドルのコスト削減が見込めるのだという。

 また、このような大型ネットワークでなくとも、ネットワークの仮想化により、アプリケーションの迅速な配備が可能になる点もメリットとのことで、スティーブ・ムレニーCEOは、Niciraの早期顧客である米eBayの事例を紹介。「従来は1週間かかっていたアプリケーションの導入を30秒に短縮し、新しいビジネスによって新しい顧客を獲得できるようになった」と説明した。

 なお課金は、仮想ネットワークを利用する仮想マシン数などに応じた従量課金方式のため、初期投資を必要としてない点もメリットとのこと。


顧客の事例。このほか、データセンター事業者の米Rackspace、日本のNTTなどが有力な顧客だという大型データセンターでは、大幅なコスト削減が見込めるとした
米Niciraの共同創設者でもあるマーティン・カサドCTO

 仮想ネットワークを構築するための具体的な技術としては、OpenFlowを利用。物理サーバーのハイパーバイザー上で動作する仮想スイッチのOpen vSwitchを、管理部にあたるコントロールクラスタがOpenFlowにより制御する仕組みで、一般的なスイッチに例えると、Open vSwitchがデータプレーン、コントロールクラスタがコントロールプレーンに相当すると考えればよい。ハイパーバイザーとしては、Xen、KVM、VMware、Hyper-Vなど、多くのプラットフォームに対応するため、広いサーバー仮想化環境で利用できる。

 ただし現時点では、ハイパーバイザー上の仮想スイッチ間でしか仮想ネットワークを構築できないが、今後は、物理スイッチで構成されるネットワークを接続するためのゲートウェイアプライアンスを提供するほか、Open vSwitchをサポートした物理スイッチとの連携も進め、『NVP』の活用の幅を広げていく考えだ。

 「『NVP』で利用しているOpen vSwitchはオープンソースのものを使っているが、コントロールクラスタが当社のユニークな点で、ネットワークのハードウェアをまったく変更する部分がない点が他社との差別化要因だ。また、フルのネットワーク仮想化の機能セットを提供しているのも、現在では当社が唯一である」(カサドCTO)。

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