2ケタ成長、インメモリへの注力、そして日本社会への貢献~SAPジャパン安斎新社長が就任会見


SAPジャパン 代表取締役社長の安斎富太郎氏
好調な業績を残しているという

 SAPジャパン株式会社は30日、15日付けで同社代表取締役社長に就任した安斎富太郎氏の就任記者会見を行った。2011年度上半期を好調な業績で終えた同社だが、日本法人を統括する日本人社長の誕生を機に、「日本社会のエンティティとして」(安斎氏)さらなる成長を目指す構えだ。

 安斎氏は今年1月1日付けでSAPジャパンに専務執行役員 シニアバイスプレジデント営業本部長として入社。それ以前は4年間、デルにて執行役員 営業統括本部長(法人部門の責任者)を務め、その前は25年間にわたり日本IBMでキャリアを築いてきた。「ずっと営業畑。金融以外の業種はほぼすべて担当してきた」と語る安斎氏だが、IBM時代は公共・公益・通信メディアサービス事業部長として、サービス事業にも4年ほどかかわっている。また、米IBM本社にも3年ほど赴任した経験をもつ。

 安斎氏は社長就任に寄せた抱負として、「お客さまの成功に貢献」「One SAPの強化」「社員のスキル向上」の3つを挙げる。「まずお客さまの成長があって、われわれが成長する。お客さまの期待に十二分に応えられる会社になることが重要。グローバル、アジア、ジャパンというSAPがもつバックグラウンドのリソースをすべて使ってお客さまのビジネスに貢献していきたい。社員には一芸に秀でたエキスパートであり、協調性も備えたバランスのとれた人材を目指してもらいたい」

 SAPジャパンという会社の印象については、「入社して非常に良かったと実感している」と語り、その理由について、「SAPジャパンのお客さま2,000社は、各分野で日本をリードする企業。お客さまに恵まれた会社だと思う。また社員のチャレンジ精神が非常に強い。特に若い社員の意気込みを感じる」とのこと。社長として、1,200人の従業員の「やる気を1.5倍に引き上げたい」と語る。

 2011年度上半期は、東日本大震災による影響があったにもかかわらず、グローバルと同様に2ケタの売上増を記録したという(グローバルの総売上は前年同期比24%増の2億9,300万ユーロ)。昨年が1ケタ増だったことを考えると大幅な成長と言えるが、この理由について安斎氏は「3.11ではたしかにIT投資がいったん冷え込んだが、その結果、お客さまは優先順位の高い製品を選ぶようになった。お客さまのニーズとSAPの提案が合致した結果だと思っている。また、パートナービジネスが1.5倍に拡大し、数々の協業が成功した。パートナーが伸び、われわれもともに伸びることができた」と分析する。


下半期のフォーカス

 好調な上半期の業績を受け、下半期では以下の5つにフォーカスを当てていくという。

・最低でも2ケタ成長は達成し、成長した分を研究開発に投資する
・イノベーションではインメモリ、モビリティ、クラウドの3つに注力する
・顧客満足度向上を図り、「SAPを使って良かった」と顧客に言ってもらえることを目指す
・パートナーとの関係をより強化するとともに、パートナー販売か直販かの選択は顧客の選択にゆだねる
・社員ひとりひとりが各自の分野でエキスパートとなり、顧客に期待される人材となる


SAP HANAを用いてスピードとフレキシビリティを提供

 中でも同社が今後、最も力を入れていくと見られているソリューションがインメモリデータベース「HANA」だ。安斎氏はHANAの特徴を「スピードとフレキシビリティ」とし、「例えば、これまで8時間かかっていた処理が1時間になれば、オペレーション全体のあり方が変わり、TCOの削減にもつながる。また、東日本大震災のように予測できなかったリスクが現実化した場合、取るべきアクションを変えなくてはならない。インメモリであれば、発生時点で最適な選択を行うことができる。インメモリは日本のITを変えるアーキテクチャ」と語る。さらに、「HANAはエクスクルーシブな技術ではない。仕様をオープンにしているため、どのベンダもHANAを搭載したアプライアンスを作ることができる。またデータベースがOracleやSQL ServerといったSAP以外の製品でもHANAは動作する。ハードウェアや環境に依存しないメリットは大きい」と、そのオープン性を強調する。

 会見の最後、安斎氏は「SAP“ジャパン”という名前を掲げてビジネスをしているからには、日本社会のエンティティとして、日本に貢献できる会社になりたい」と語り、具体的には現在同社がかかわっている「Smart City Project」の積極的な推進のほか、東北支援プロジェクト”TEARS”といったCSR活動を継続していきたいとしている。またCRMやSCMなど、顧客のビジネスを支援するソリューションにも力を入れていくと言う。

 飽和したと言われることも多いERP市場にあって、順調に業績を伸ばしている同社だが、「SAPはERPをコアにしたビジネスで40年続いた会社。その方針にはまったくブレがなく、筋の通った経営だといえる」と安斎氏は高く評価する。好調の要因は、コアビジネスのERPに加え、その周辺のビジネスが育ってきているところにあるという。現在、SAPの米国におけるERPとそれ以外のビジネスの比率は50:50だとされているが、安斎氏は日本の数字も60:40ほどで、かなり米国に近い状態になってきていると語る。一方で「国内ERP市場はまだ伸びる余地がある。今後は中堅企業の導入が増えると予測している」とも語っており、ERP市場の新規開拓にも意欲を見せる。

 国内市場全体が冷え込んでいる中にあって、2ケタ成長のコミットはかなりハードルの高い目標に感じられるが、「高いクオリティを求める日本のお客さまの要望にお応えできれば、グローバルでも高く評価される。また日本にはJSUGという大変ありがたいユーザーグループが存在する。SAPがもつリソースをすべてインテグレートして、日本のお客さまに届けたい」と日本市場のポテンシャルを語る安斎氏。いかにして日本法人のプレゼンスを高め、顧客満足度を高め、成長を高めていくことができるのか。その経営手腕が今後問われることになる。

関連情報