富士通、ビッグデータ利活用のためのクラウド基盤を開発。年度内にPaaS提供へ
富士通株式会社 執行役員常務 コンバージェンスサービスビジネスグループ長 川妻 庸男氏 |
富士通株式会社は8月29日、ビッグデータを利活用するためのクラウド基盤「コンバージェンスサービス・プラットフォーム(仮称)」を発表。2011年度第4四半期に先行版を提供すると発表した。
「コンバージェンスサービス・プラットフォーム(以下CSPF)」は、さまざまなセンサーから収集されるデータやすでに集められているデータなどを蓄積、統合し、リアルタイムに処理したり、将来予測を行うPaaS基盤として提供する。富士通によれば、種類の異なる大量データをひとつのプラットフォーム上で安全に利活用できるPaaS基盤の提供は、世界で初めてだという。
発表会でサービスコンセプトの説明を行った富士通株式会社 執行役員常務 コンバージェンスサービスビジネスグループ長 川妻 庸男(かわつま つねお)氏は、「世界初のビッグデータ対応Paas」の特長として、(1)必要な技術がすべて統合されたトータルサービス、(2)異種情報を多様な目的で融合することができる、(3)小さく始めて必要なだけ使うことができる、の3点を挙げた。
(1)の必要な技術がすべて統合されたトータルサービスである点については、1社のシステムとして導入するのはハードルが高い、複合イベント処理、並列分散処理、圧縮および秘匿化、マッシュアップなどの機能を備えていることを説明。「お客様が一から始める場合と比べたら、8割がたは楽になる」と述べた。
また、(2)の異種情報を多様な目的で融合することができるという点については、CSPFはマルチテナントで提供しようとしているので、別の顧客企業と情報交換ができるようにしていくと説明。利用者のポータルサイトも開設して、データの利活用を進める考えだ。川妻氏は、これにより、自社のセンシングデータを他社に販売するという、これまでになかった新しいビジネススキームが生まれると説明した。
1つの企業ではなかなかこうした試みはできないが、ベンチャーなどでもCSPFを利用することで自社のみで収集することは困難な多種のセンシングデータに基づいたサービス構築・提供が可能になるとメリットを語った。
(3)については、使った分だけの料金を払うPaaSのため、初期コストが非常に安くあがると説明。川妻氏は、サービス価格はまだ未定だが、ベンチャーなどでもどんどん利用してもらえるように特別料金などの設定も考えているとして、トランザクション課金で百円の単位からプラン提供する考えを明らかにした。初期コストが安く試せるため、ベンチャーだけでなく新規事業のテストサービスなどにもご利用いただきたいと述べた。
「CSPFを自社で使う予定は」との記者の質問に、川妻氏は、「携帯電話のチームでは、からだライフという歩数計などによる情報収集と健康管理・支援のサービスを提供している。からだライフのチームとはすでに一緒にやっていて、まだ稼働してはいないが、サービスの付加価値を上げるためにCSPFに早くのせたいとプッシュされている」と述べた。
川妻氏は、富士通は他にも農業などクラウド基盤を利用したいろいろなサービスに取り組んでいるが、「現在はアプリケーション先行でやっているが、最後はCSPFにのせていくというシナリオでいきたい」とコメント。いずれ富士通のクラウド基盤上に構築したCSPFにのせていくとの考えを示した。
ヒューマンセントリック・コンピューティングにはいろいろな形態が考えられるが、オンプレミスとクラウドに大別できる。うちクラウド基盤となるのがCSPFだ | 富士通のコンバージェンスサービスとは | 世界初のビッグデータ対応PaaS |
■ビッグデータのリアルタイム処理と、統合・分析・利用に必要な技術を統合
富士通株式会社 クラウドプラットフォーム開発本部 コンバージェンスサービスプラットフォーム開発統括部長 藤田和彦氏 |
クラウドプラットフォーム開発本部 コンバージェンスサービスプラットフォーム開発統括部長 藤田和彦氏は、CSPFのコンセプトやシステムについてより詳しい説明を行った。
藤田氏は、CSPFのコンセプトを「リアルワールドを写像する情報の流れを一元的にコントロールする」と説明。そのためには、必要な技術をすべて統合し、ストリームで入ってくるセンシングデータについて広いダイナミックレンジを確保する必要があると述べた。「大量のデータがセンサから上がってくるので処理には非常な並列性が求められる。」(藤田氏)
CSPFの処理の流れは、センシングから入ってくる情報をリアルタイム処理し、コンテキストを抽出して情報分析を行い、自動制御や可視化することによる支援などの情報利用を行う。センシングにより取得されるストリームは、自社開発した自動カテゴリ格納技術によりアーカイブ化。格納庫には、ファイルのまま情報を格納し、データの内容によりあらかじめ定義したカテゴリに自動的に整理分類する。インデックスを生成し、圧縮などの技術を用いて、安定的に情報を抽出できるようにする。かなりのデータ処理が必要となるため、ここでも並列分散処理を行うという。
CSPFでは、情報分析にオープンソースをベースとした分散ファイルシステム(HDFS)「Hadoop」と、並列分散処理「MapReduce」を採用。BA(ビジネス・アナリティクス)とBI(ビジネス・インテリジェンス)の分析ツール機能を実現している。マイニング処理などの機能も標準的に備えているとした。
また、マッシュアップ技術によるサービス構築については、ほとんどの機能はWebサービスとしてアプリケーションを作れるようになっていると説明。たとえば、地図情報の上に車の位置情報、それに天気の情報など異種データをどんどん重ねていくマッシュアップ技術と、さまざまな可視化手法の提供により、新しい気づきが得られるようになっているという。
藤田氏は、「データを10年間蓄積した中から新しい知恵を発見していくということもあると思う。いろいろな情報を選択的に融合して、センシングから入ってくる情報を収集・検知し、自動制御・可視化し、レコメンデーションを行うなどが可能」としたうえで、「オンプレミスで溜まっているデータと外部のデータを合わせて分析することも可能となっている」と述べた。こうしたデータ解析はバッチ処理で行うという。
CSPFのコンセプト | CSPFの全体像 | CSPFを構成する技術 |
■意味を導き出す情報処理
藤田氏は、「重要なのはそのデータが取れた場所、時間、どういう機器から採取したか、どういう人が関わっているかといったタグ付け。タグがついて初めて、意味のある情報になる」とタグ付けの重要性を強調。「タグ付けしたデータは、そのまま使うこともあるし、そこから複数の情報を組み合わせてコンテキストを抽出して、サービスにつなげることもある」と説明した。
「誰が、どういう状況にあって、何を求めているのかということを、計算機の上で意味を引き出していく。これが、人に役立ついちばん中核の技術となる。多種多様なデータを融合して新しい価値を提供しようとするときに、テナント間で安全な情報交換ができるよう、情報交換のファンクションも提供していきたいと考えている」とした。
「これは、従来はフェデレーションと呼ばれていた技術だが、フェデレーションは組織をまたいで情報をコピーしたり、サービスを利用したりといったものが多かった。それに対してCSPFでは、定義駆動型のフェデレーション技術を採用。権限管理と認証認可、情報秘匿化を行った上で仮想統合をしてフェデレーションを実現し、定義をするだけで必要なデータを抽出できるようにした」と説明。セキュリティを確保した上での情報融合を実現すると述べた。
また藤田氏は、CSPFは富士通製品とオープンソースソフトウェア、独自開発ソフトウェア群を組み合わせた統合プラットフォームであると述べ、最終的には利用者ポータルからお使いいただけるようになるとして、開発中のユーザーインターフェイスなども一部紹介。
ユーザー企業はCSPFでテナント契約を行うことで、テナント環境にアクセス可能になる。各機能ごとにアプリケーションを開発してジョブとして登録し、ジョブの流れはジョブネットワークと呼び、ドラッグ&ドロップ操作でフローを決めることができる。スケジュールされたジョブネットワークは自動的に運用され、状況確認や制御などを統合的に行うことが可能になるという。
CSPFのコンセプト | CSPFの全体像 | CSPFを構成する技術 |
ストリーム処理による現状把握と判断。赤字は富士通が独自開発した技術 | 自動カテゴリ格納技術によるストリームのアーカイブ | 並列分散処理による分析と価値の創出 |
マッシュアップ技術によるサービス構築 | 意味を導き出す情報処理 | フェデレーションによる安全な情報融合 |
■提供ロードマップ
提供ロードマップについては、2011年度第4四半期、3月を目処に先行版として、CSPF V.1の提供を開始。情報収集・検知、情報管理・統合、情報分析・並列分散処理、開発支援・運用管理の機能を提供する。
2012年度の第2四半期にはCSPF V.2の提供開始を予定。V.2では、情報利用や情報交換、情報分析・分析ツールの機能のリリースを予定している。
またサービスは、富士通のクラウドのプラットフォームの上にCSPFを構築。PaaSとして提供する。利用形態については、(1)顧客企業のアプリケーションをのせるインテグレーション型、(2)富士通が提供する「SPAIOWL(センサーや車両から取得した位置情報を利活用するプラットフォーム)」や、ヘルスケア、エネルギー、農業など開発済みのクラウドサービスをのせて、アプリケーションサービスとして提供するアプリ・サービス型、(3)データ型の3タイプを想定している。
データ型については、「いままでなかったビジネスモデルだが、富士通が持っている場合もあるし、お客様が持っている場合もある。たとえば、車のデータを車以外に使うことで価値が出るかもしれない。また、POSデータを小売り業以外で利用することで新しい価値が生まれる。こうしたデータを売ることが新しいサービスになる」(川妻氏)とした。
新しいPaaSプラットフォームを提供するにあたり、富士通ではバリューセンター(仮称)を創設。データの利活用提案やCSPF運用全体を統括するサービスマネジメントオフィスを設け、その下に、ワンストップ窓口としてのサービスデスク、運用管理チーム、監視チームを置いて、いずれも24時間365日対応を行う。
川妻氏は、「他社にも積極的に声をおかけしたい。実際、すでにお話させていただいているところもある」とコメント、アプリ・サービス型として提供するのは自社開発のアプリケーションに限らないとの考えを示した。また、「データ利活用サービスなので、どんどん利用していただきたい。すでに試験サービスで一緒にやっていただいている企業からも、いろいろなアイディアやご要望をいただいており、そうした要望を検討しながら、富士通の目指すインテリジェントソサエティの実現の基盤となるサービスを作りあげたい」と抱負を述べて会見を締めくくった。
提供ロードマップ | バリューセンター(仮)を開設、24時間365日のサポート・監視を提供 | CSPFは、富士通が目指すインテリジェントソサエティを実現する基盤となる |