富士通のストレージ事業がグローバルで戦うための「強み」と「課題」


富士通 執行役員 ストレージシステム事業本部長の五十嵐一浩氏

 富士通がストレージ事業におけるテコ入れを開始した。

 国内ストレージ市場においては、19.5%と第2位のポジションにつけるものの、グローバルで見れば、2.2%にとどまり第8位。特に市場の約4割を占めるされる、北米市場での存在感が薄く、これがグローバルでのシェア低迷につながっている。日本国内における事業拡大とともに、ストレージの開発拠点でもある富士通テクノロジーソリューションズが本拠を持つ、欧州での事業基盤の確立、そして課題となる北米市場での展開を強化することで、ストレージ事業を拡大する考えだ。

 新たなストレージソリューションコンセプトである「The Flexible DataSafe」の展開や、「ETERNUS DX series」のラインアップ強化なども、これを加速することになる。富士通 執行役員 ストレージシステム事業本部長の五十嵐一浩氏に、同社のストレージ事業への取り組みについて聞いた。

 

45年超の歴史を持つストレージ、日本国内での評判は高い

 富士通がストレージへの取り組みを開始したのは、メインフレーム向けのディスク装置として提供を開始した1964年にまでさかのぼる。そこを起点にすれば、実に45年を超える歴史を持つ。

 1998年からはオープンストレージ市場にも参入。データマネジメントが注目を集めるなかで、メインフレーム市場で長年培ってきた信頼性や制御技術などを活用して、独自の存在感を発揮してきた。

 特に、メインフレーム時代から培ってきた信頼性に対しては、ユーザーからも高い評価が集まっている。その信頼性や数々の先端技術の採用によって、日本のストレージ市場においては、第2位というシェアを獲得。富士通が全国規模で展開するSE、営業、ソフトウェア部門の基盤も、同社のストレージ事業の成長を下支えしていた。

 「ストレージにおける顧客満足度は総合ナンバーワン。ある調査では9項目中7項目で平均以上の評価を得ており、安定した稼働性についても高い評価が集まっている。中身を熟知した技術者がお客さまの近くでサポートできる体制が整っていることも、日本のユーザーに高い評価を得ている理由のひとつだろう」(富士通 執行役員 ストレージシステム事業本部長の五十嵐一浩氏)というのもうなずける。

 

欧州でのストレージ販売体制強化を図る

 だが、海外では様子がかなり違っている。

 欧州市場においては、富士通テクノロジーソリューションズ(FTS)が、2009年に完全子会社化する前の旧富士通シーメンス・コンピューターズ時代から、EMCやNetAppの製品を販売。これを富士通のETERNUSシリーズを中心とした製品展開へと移行するものの、依然として、富士通のストレージ製品と補完関係にあるユニファイドストレージなどの一部領域については、富士通とグローバルアプライアンス関係を持つNetAppの製品を取り扱っている。

 「これまでFTSでは、ストレージ事業に関してはリセラーという色彩が強く、日本のようなSE、ソフトウェアサポート体制が弱かった部分がある。欧州地域において、富士通が目指す総合ITベンダーに向けた体制強化において、ストレージの販売体制の強化が避けては通れない」と、富士通 執行役員 ストレージシステム事業本部長の五十嵐一浩氏は語る。

 五十嵐執行役員自身、ストレージシステム事業本部長に就任する昨年まではFTSを担当しており、欧州市場におけるFTSの立場を深く理解している。

 「スペインやポルトガルのストレージ市場では2けたのシェアを獲得するなど、富士通が強い市場もある。また東欧地域でも存在感を発揮している。こうした強い市場において事業を拡大する一方、FTSが本拠を置く、ドイツをはじめとする欧州の主要市場において、事業をより拡大していく必要がある」と語る。

 ソフトウェア開発部門として、欧州のFTSのなかにも100人規模のエンジニアを配置。さらには2012年を目標にドイツに検証センターを開設してプリセールス体制を強化。今後は、ストレージソリューションとしての提案を加速していく考えである。

 

ほとんど「ゼロ」の北米市場にどう取り組むか

 一方で課題となっているのが北米市場である。

 世界のストレージ市場全体の約4割を占めるといわれる同市場において、富士通のストレージ事業は「ほとんどゼロに近い状況」(五十嵐本部長)だとする。北米のストレージ市場は、EMC、IBM、Hewlett-Packard、Dellといった米国資本の主要ストレージベンダーがしのぎを削る競合が激しい市場。今後、この市場において、富士通がどんな形で市場攻略に乗り出すのかが注目されるところだ。

 「北米市場においては、大規模データセンターや大手企業のプライベートクラウドのデータセンターなどをターゲットとする一方、富士通のストレージ製品に力を入れて提案してくれる有力パートナーとの提携も重要な取り組みになるだろう」と五十嵐本部長は語る。

 富士通はストレージ事業の強化に向けて、いくつかの施策に取り組みはじめている。

 1つ目には、組織構造の再編だ。FTSが他社製品を取り扱っていたように、これまではOne ETERNUSという体制にはなっていなかった。これを一本化するとともに、ストレージ事業に関しては、ストレージ事業に関するグローバル本社を日本に設置し、事業責任の明確化を計ることにする。

 2つ目には製品の整合性である。これまで富士通のストレージ製品は、ネットワークディスクアレイ製品であるETERNUS NR1000FシリーズをNetAppから調達、ファイバチャネル(FC)スイッチをブロケードから調達するなど、OEM製品を加えることで、製品ラインアップを整えてきた。

 これを「One ETERNUS」という考え方のもとに、グローバルブランドとして一本化しており、富士通独自のSANストレージ製品と、ストレージ管理ソフト「ETERNUS SF V15」をはじめとするソフトウェア製品を中核に、NAS製品およびNASゲートウェイ、CAS(コンテンツ・アウェア・ストレージ)、重複排除技術搭載のデデュープ・アプライアンス、FCスイッチ、仮想化ストレージ、テープライブラリ、仮想テープ製品などによって、幅広いニーズに応える体制を整えた。

 さらに、ソリューション型の営業体制を世界規模で整備していくにの加えて、マーケティングに関しても統一した価値観のもとで展開していく必要があるとして、こうした体制づくりにも力を注ぐことになる。

 「これまでは富士通製IAサーバーへのつなぐという市場を狙ってきたが、その領域においてもさらに拡大の余地があること、また、他社製サーバーとの連携という点でも提案を加速する必要がある」と五十嵐本部長は語る。

 例えば、日本国内における富士通のIAサーバーの市場シェアは約25%。ストレージ市場におけるシェアが約20%であることに比較すると、まだ成長の余地があるという計算も成り立つ。この数字から、富士通製のIAサーバーに、他社製ストレージがつながっているケースが多いと見ることもできるからだ。「富士通のIAサーバーへの接続、他社製IAサーバーへの接続という両方の観点から攻めていく」と、提案の広がりにも意欲をみせる。

 

中国を含めたサプライチェーンの構築に取り組む

 一方でサプライチェーンの構築にも取り組む姿勢をみせる。

 中国のEMSの活用とともに、顧客の要求仕様にあわせた地産地消型のコンフィグレーション体制を主要市場において構築。リードタイムの短縮、品質維持とともに、大規模商談への対応を図る体制を整える考えだ。

 「FTSの統合をきっかけに、グローバルサプライチェーン全体の見直しに着手。FTSが持つ営業力、リスクマネジメントへの実績と、富士通が持つ信頼性、ソフトウェア技術、サポート体制を組み合わせることで、グローバルに事業を拡大する基盤を確立できるようになった。SANストレージをハイエンドからローエンドまで、すべて自分たちで作っている点も強みになる。今後は、この基盤をベースに、世界規模での事業拡大に踏み出していきたい」と語る。

 

ストレージのシェアを2年で3~4倍へ引き上げる

 現在、富士通のストレージ事業におけるグローバルシェアは2.2%にとどまっている。

 「2013年にはこれを3~4倍に引き上げ、5~10%の水準を狙う」とする。年平均成長率は20~30%増となり、市場全体の平均成長率が7%増であることに比べると高い成長率を狙うことになる。

 北米市場における事業基盤の確立、欧州市場での事業拡大、そして中国・アジア市場での展開強化も課題だ。

 また、日本の市場においては、オープン系ハイエンド市場でのシェア拡大が重要な課題。さらにはローエンド製品に関しても、富士通ソリューションバートナーだけでなく、マルチベンダーで製品を取り扱うパートナーとの連携強化にも積極的に乗り出す考えだ。

 「日本では、ディザスタリカバリに対する要求が高まり、データセンターへのストレージ導入も拡大している。富士通が持つストレージソリューションの付加価値をしっかりと説明し、ソフトウェアの優位性、アプライアンス製品の提案などを含めて他社との差別化を図りたい」とする。

「ETERNUS DX series」のミッドレンジモデルである「ETERNUS DX440 S2」

 先ごろ投入した「ETERNUS DX series」の新製品は、ストレージソリューションコンセプト「The Flexible Data Safe」に基づき、新たなコンセプトのもと、アーキテクチャを一新。高性能CPUの採用や内部バスの高速化などのほか、拡張性や運用性に優れた機能の拡充によって、ユーザー規模や利用シーンにあわせた提案も可能になっている。これも富士通のストレージ事業拡大の重要な柱となる。

 富士通のストレージ事業は、ストレージ製品のラインアップ強化に加え、ソフトウェアによる差別化、組織の強化などによって、成長に向けた地盤がいよいよ整ったともいえそうだ。

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