Microsoft Research、クラウドマウスなど最近の活動内容を紹介

豊橋技科大とは機械翻訳の精度向上で連携


Microsoft Research Asiaの洪小文所長

 マイクロソフト株式会社は26日、米Microsoftの基礎研究機関、Microsoft Researchに関しての説明会を開催。最近の動向や日本での協業などの説明を、Microsoft Research Asiaの洪小文所長らが行った。

 Microsoftでは現在、バルマーCEOの主導のもと、「3 Screens+1 Cloud」の実現に向けてさまざまな取り組みを行っている。3 Screensとは、PC、携帯電話、テレビという3種のデバイスとその画面のこと。特に、今ではスマートフォンを含む携帯電話が注目されているが、洪氏はIntelとの調査結果を持ち出し、「多くのユーザーはPCを死んだと言っているかもしれないが、PCは伸びている。新しいクラウドの世界でもPCは不変だ」と主張。「クライアントとサーバー、クラウド+クライアントが、当社の将来にとって強力なツールになっている」とし、「3 Screens+1 Cloud」を堅持する姿勢を示した。

 最近の開発の例としては、XBOX 360向けにまず提供される予定の「Kinect」インターフェイスを紹介した。これは、ユーザーの動作をカメラが光学的に認識してトレースする技術で、洪氏は、マイクロソフトリサーチからの技術が3Dでプレイヤーの動きに追従するKinectを実現したとアピール。「今後の製品にも反映し、エンタープライズでも、自宅のアプリケーションでも、これまでになったユーザーエクスペリエンスを可能にする」とした。

 このほか、開発中の技術として、3Dのユーザーインターフェイスを用い、Web上の情報を3次元的に表現する「クラウドマウス」や、異言語とのリアルタイムな翻訳を行える技術などを紹介し、今後の製品化・サービス化を進めていくと話している。

クラウドマウス(左)とそのデモの様子(右)。奥行きのある3D空間を表現できるのが特徴という。「クラウドにはたくさんの情報が入っており、クラウドがなければ洗練されたGUIのニーズがないと思う。たくさんのあふれんばかりの情報が入っているので、体験を高めていくために3Dのマウスを検討している」(洪氏)

産学連携を推進、「マイクロソフトリサーチ日本情報学研究賞」の表彰も

 また、産学連携もマイクロソフトリサーチの非常に重要な役割なのだという。昨年11月には、「マイクロソフトリサーチ アカデミック連携プログラム」(別名:Mt. Fuji Plan)を発表し、共同研究、人材育成、学術交流、カリキュラム開発といった活動を行ってきた。

 そのうち、共同研究では3年間に70以上のプロジェクトが推進されたほか、人材育成では、フェローシップ、インターンシップ(就業体験)などによって研究者や学生を支援。また、カリキュラム開発では、大学と協業しながら次世代のカリキュラム作成を行っているという。

 人材育成ではさらに、次世代を担う研究者の育成が目的として、「マイクロソフトリサーチ日本情報学研究賞」を設けており、国立国会図書館長の長尾真氏を委員長とする審査委員会が選考を行った結果、基礎的情報学、応用的情報学、両分野から1名ずつが、第2回目の受賞者となった。

 受賞者は、基礎的情報学が東北大学 大学院情報科学研究科 住井英二郎准教授、応用的情報学が国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 宮尾祐介准教授。両氏には、賞金400万円が贈られるとともに、全世界のマイクロソフトリサーチの研究者とのネットワーキング機会が提供されるという。

 洪氏はこうした取り組みを総括し、「これからも当社では、Mt. Fuji Planを強化したいし、実際にアカデミックと連携を進めている。今では、才能が成功要素、人材が成功要素になってきており、日本でも将来に向けて人材育成の面で協力していきたい」と話している。

Mt. Fuji Planの一環である、マイクロソフトリサーチ日本情報学研究賞の表彰式も行われた

機械翻訳の精度向上のために共同翻訳フレームワークなどを提供

マイクロソフトの最高技術責任者、加治佐俊一氏

 マイクロソフト日本法人の最高技術責任者である加治佐俊一氏からは、翻訳活動に関する連携の説明が行われた。もともとMicrosoftでは、ルールベースによる機械翻訳の研究を行っていたが、これではサポート可能な言語の数が増えないことから、2005年に、統計を元にした機械翻訳に切り替え、32言語間での機械翻訳を実現するに至った。

 また、2007年にはクラウド推進の一環として、Web上に翻訳サービスが公開されたほか、2009年にはパブリックAPIの提供を開始。自社製品やサービス以外からでも、翻訳サービスの活用を行いやすい環境ができてきた。そして、2010年3月には、共同翻訳フレームワーク(CTF)を公表して、翻訳の活用をより進めるための取り組みがなされている。

 そうした中で、国立大学法人豊橋技術科学大学(豊橋技科大)との間で、CTFを利用した連携が進められるようになったという。CTFとは、「機械翻訳をした上で、ユーザーのフィードバックをWebで受け入れ、人とコンピュータが共同しながら翻訳を進めて、より読みやすいものにしていく」(加治佐氏)活動。Microsoft ResearchがCTFの仕組みを提供し、豊橋技科大の学内文書やWebサイトを多言語化していくという。

 豊橋技科大では、最初に中国語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、アラビア語の計7言語に翻訳する予定で、機械翻訳されたものを学内の学生ボランティアが修正し、翻訳内容をMicrosoft Researchへ提供する。Microsoft Researchでは、この活動を通じて、翻訳エンジンの精度をさらに向上させることが可能になるほか、多言語情報処理の研究の発展に役立てられるとのこと。

関連情報
(石井 一志)
2010/7/26 16:06