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ホワイトハウスがIntelの筆頭株主になった日 産業「無償援助」を終える米国

“国有化”の功罪と米国経済モデルの岐路

 Intelは、米国内で最先端半導体製品を自社設計・製造できる唯一の企業だ。世界の半導体製造が台湾に集中している中、国家安全保障とサプライチェーンの安定化の観点から、最重要の企業となっている。CHIPS法はその再建のため、Trump政権が“無償”と呼ぶ補助金を投入してきた。

 では、政府の株主化にはどのような影響があるのだろう。まず中国との間で緊張が続く台湾リスクの軽減にはつながるだろう。株価を安定させる効果もある。8月中旬、政府がIntel株の取得で協議していることが報じられて同社の株価は7%上昇した。

 しかし政府が株主になることは「両刃の剣」だ。政治の風向きに左右されやすくなる。Wall Street Journalは「政府の介入を加速させる可能性がある」「企業経営は政府が不得意とする分野だ」とリスクを指摘する。

 その最も危惧される点は、強制的な顧客誘導による競争力低下だという。「中国向け輸出ライセンス取得の条件として、NVIDIAやAMD、Qualcommなどのチップファブレス企業にIntelへの委託製造を行うよう圧力をかける可能性」があり、それが「劣悪な製品とIntelの浪費につながる可能性がある」という。

 Financial Timesは、今回の政策が「『無意味』から『危険』の間のどこかに位置している」と評価する。そして政府が「他の株主が望まないことを企業に促すようになるリスク」を挙げている。

 例えば、Intelは最近オハイオ州の工場建設を減速し、第1工場の稼働予定を2027年から2030年に先送りした。これは経営判断だが、「政府が株主になってしまえば、こうした動きは難しくなるかもしれない」とする。

 何より、現状のIntelは、資金投入では簡単に解決できない多くの問題を抱えている。

 歴史を振り返るとIntelの危機は初めてではない。1980年代、DRAMの価格競争で深刻な経営危機に陥った。このときメモリ事業から撤退してマイクロプロセッサに賭けることを決断したのは故Andy Grove氏だ。「船を燃やして内陸に向かう」という思い切った戦略転換で、その後の繁栄の土台を作った。

 しかし、現在、Intelが直面しているのは「多方面での困難」だとコンサルタントのGeorge Bradt氏はForbesへの寄稿で指摘する。それは「製造技術の遅れ、AI分野への無関係性、官僚的硬直化、技術リーダーとしての信頼の喪失」などだという。

 Tan氏が取り組まねばならない問題は「(Grove氏の時のような)一つの賭けではなく、多方面の取り組み」で、複雑な迷路のようなものだとBradt氏は言う。

 そして、政府は「無償の支援者」から「リターンを求める投資家」に変わった。Intelは今度こそ結果を出さねばならない立場に追い込まれたようだ。