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セールスフォース、AIを統合した新たなクラウド型BIツール「Tableau Next」を6月より日本語で提供

 株式会社セールスフォース・ジャパンは、BIツール「Tableau」において、AIを統合した新しいプラットフォーム「Tableau Next」の日本語での提供を、6月15日から開始すると発表した。なお、一部のAI関連機能の日本語対応予定は未定となっている。

 Tableau Nextは、SalesforceのHyperforce基盤上に構築され、Tableauと、SalesforceのAIエージェントプラットフォーム「Agentforce」を中核技術として設計されている。さらに、SalesforceのデータプラットフォームであるData Cloudにより、あらゆるデータを透過的に連携する。

 自然言語によるクエリ実行、異常検知、アクション提案を行うAIエージェントを標準搭載し、Salesforceのワークフローとデータビジュアライゼーションを組み合わせることで、インサイトの獲得からアクションの実行まで、シームレスかつスピーディに実現する。

 なおTableau Next自体は、米国で4月に開催されたイベント「Tableau Conference 2025」で発表された。

Tableau Nextの日本語での提供を6月15日から開始
TableauとAgentforce、Data Cloudが組み合わさる

 5月26日に開催された記者説明会における説明によると、従来のTableau CloudとTableau Nextは、製品ポートフォリオにおいて並列して提供されるという。また、Tableau Cloudの包括的なライセンスである「Tableau+」を購入すると、両者を利用できる。

 そのほか記者説明会にはKDDIも登場し、Tableau導入事例を語った。

Tableauの機能とAgentforceのエージェント、マーケットプレイスを組み合わせる

 Tableau Next登場の背景として、セールスフォース・ジャパンの福島隆文氏(常務執行役員 Tableau事業統括本部 統括本部長)は、現代ではデータは膨大かつバラバラなところに置かれて管理しきれないこと、またビジネス上の日々の意思決定に使っているかというと、「100%自信を持ってイエスと言うのは難しい」(福島氏)ことを挙げた。

 そして、データを活用するためのパーソナライズされた洞察や、高度なSQLなどの技術を覚えなくても対話的に分析できること、データの信頼性のためにデータと人をつなぐセマンティックレイヤーなどが重要になる福島氏は語った。そして、これをAIによるエージェント型により実現するのがTableau Nextだと説明した。

セールスフォース・ジャパン 福島隆文氏(常務執行役員 Tableau事業統括本部 統括本部長)
現代のデータ活用の課題

 Tableau Nextの特徴として、4つのレイヤーを福島氏は説明した。なお、これらの多くは以前からのTableauの特徴となっている。

 データレイヤーとしては、SnowflakeやDatabricks、SQL Server、BigQueryなど、外部のデータとゼロコピーで連携してTableau Nextで利用できる。

 セマンティックレイヤーは、それらのデータをもとに、ビジネスの用語で名前を付けたデータ項目を定義し、集計し、ビジネスメトリクスを管理するものだ。

 そしてビジュアライゼーションレイヤーでは、以前から定評のあるTableauのUI/UXにてデータを可視化でき、それがAIで強化されるという。

 さらに分析だけでなく、アクションレイヤーによって分析結果から行動を起こすところまで支援する。

データレイヤー
セマンティックレイヤー
ビジュアライゼーションレイヤー
アクションレイヤー

 こうしたTableauの機能をベースに強化したレイヤーの上で、Agentforceのエージェント型分析スキルが動く。

 「Data Pro」は、データの収集・整備・可視化を担う(6月一般提供開始、日本語対応は未定)。「Concierge」はコンシェルジュの名のとおり、「なぜ売上が下がったのか?」などの自然言語での質問から、データを分析して原因や取るべきアクションを提案する(6月一般提供開始、日本語対応は未定)。「Inspector」は、リアルタイムでデータを監視し、異常値やトレンドの変化を検知する(6月ベータ版提供開始、日本語対応は未定)。

 さらにダッシュボードやテンプレートなどの分析資産のマーケットプレイスとして、以前からあるパブリック型の「Tableau Public」に加え、社内で横展開するためのプライベート型の社内マーケットプレイスも用意される(6月ベータ版提供開始、日本語対応は未定)。

4つのレイヤーと、Agentforceのエージェント型分析スキル、マーケットプレイス

 Tableau Nextの日本市場での定着を支援するための取り組みも開始されている。

 Tableauのテクノロジーとその活用方法を体系化したガイドライン「Tableau Blueprint」が、エージェント型分析時代に対応したものに刷新された。

 また、Slack上で世界中のTableauユーザーがつながるグローバルなコミュニティであるTableau Community Slackワークスペースに、日本語のチャンネル(#community-japan)が設置された。これによって、すそ野を広げていくという。

Tableau Blueprintを刷新
Slack上のTableauコミュニティに日本語チャンネルが設置

Tableau Nextを使った分析シナリオをデモ

 Tableau Nextの実際の利用形態については、セールスフォース・ジャパンの杉村麟太郎氏(製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャー)の説明のもとでデモが行われた。

セールスフォース・ジャパン 杉村麟太郎氏(製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャー)

 シナリオは、架空の小売店において、新製品のマーケティングキャンペーンの効果を最大化するために、データアナリストがダッシュボードを作成するところと、それをビジネスの意思決定者が利用するところだ。

 Tableau NextのSlack統合機能により、KPIをリアルタイムにモニタリングしてSlackで共有。Slack上で、ビジネス上の意思決定者からアナリストに分析が依頼される。

 Tableau NextのWorkspace画面には、ビジュアライゼーションやセマンティックモデル、テーブル、接続先といった、アナリストが必要とする分析資産が一覧表示される。

 ここでアナリストはSnowflakeの複数のマーケティングデータをリレーションして、広告費用とパフォーマンスを測れるセマンティックモデルを作成した。ここでは、SalesforceのAIであるEinsteinによって、計算式の作成や説明文入力を支援してくれ、データ整理の工数を大きく削減できるという。

 同様に、Boxの製品レビューの非構造化データから、ポジティブなコメントの数をカウントするセマンティックモデルも作成した。

Tableau NextのSlack統合機能
Tableau NextのWorkspace画面
セマンティックモデルを作成
AIのEinsteinが計算式などを支援

 そして、作成したセマンティックモデルに接続してダッシュボードを作り、ビジュアライズする。マーケットプレイスからテンプレートを選択して空のダッシュボードを作成。そこから、使っているモデルやダッシュボードテンプレートなどから、Agentforceが配置するKPIを提案してくれ、選ぶとダッシュボードができる。そこから、表示を変更するといった編集も、以前からのTableauから受け継いだUI/UXでできる。

ダッシュボードのテンプレートを選択
空のダッシュボードができた。画面右からAgentforceが配置するKPIを提案
ダッシュボードができた
以前からのTableauのUI/UXでダッシュボードの編集もできる

 ビジネスの意思決定者は、このダッシュボードを利用する。それに加え、Conciergeスキルによって、自然言語からダッシュボードにない分析を実行できる。

 そしてTableau Nextの分析結果は、Inspectorスキルによって継続的にモニタリングし、重要な指標をSlackで通知してくれる。

ダッシュボードを利用するほか、Conciergeスキルにより自然言語で分析を実行できる
Slackで分析結果を共有

KDDI事例:Tableauを導入してユーザー主導の分析環境を提供

 Tableauの活用事例として、KDDI株式会社の鍛原誠剛氏(パーソナル事業本部 パーソナルシステム本部長)が、同社のデータ基盤戦略について語った。同氏はChief Data Architectとして、全社のデータ利活用を推進している。

KDDI株式会社の鍛原誠剛氏(パーソナル事業本部 パーソナルシステム本部長)

 KDDIのデータ戦略としては、auショップやローソンなどのチャネル、auやFTTHなどの通信回線、Pontaパスや決済系などのサービスからデータが集まってくると鍛原氏は説明。「それらを、AIを使って、いかにお客さまの役に立てていくかが重要」(鍛原氏)と語った。

 過去にはデータの統合とデータマート開発のために、重いSQLクエリを組んでデータを抽出し、Excelなどによってローカル分析を実行していたが、2015年にTableauを導入した。目指したのは、開発に負担をかけず、ユーザー(ビジネス部門)主導のデータ分析環境を提供することだという。そこでTableauによるセルフ分析環境を導入し、ユーザーがダッシュボードを構築できるようにした。

 さらに現在は、Tableau Prepを導入して、ユーザーが今欲しいデータを加工して分析に提供していくということも推進していると、鍛原氏は紹介した。

KDDIのデータ戦略
Tableauの導入までのデータ分析と、Tableauの導入

 これを支えるデータ基盤としては、さまざまな事業のデータをSnowflakeによって仮想的に統合。その一本化されたデータからユースケースごとにデータ利用環境を提供しているという。

 このデータ環境の課題としては、通信ログや顧客の利用データなどの非構造化データが増えていくことへの対応や、Tableau Cloudでニーズごとに提供している分析環境の増加への対応を鍛原氏は語った。

現状のデータ基盤
課題

 今回発表されたTableau Nextへの期待としては、「もちろんまだ導入しているわけではないので、こういうことができればいいというもの」と鍛原氏は前置きして、「これまでの業務ロールに応じた分析環境から、一気通貫した分析の環境が提供できないかと思っている」と語った。

 こうした一気通貫の分析が必要なものとして、Pontaパスのユースケースを鍛原氏は紹介した。ローソンのクーポンや映画の割引、音楽や映像のコンテンツなどを提供している会員制サービスだ。

 このサービスの運営にあたっては、会員のよく使っているサービスや使い方を理解する必要があり、会員ごとにフィットするサービスを分析して、Salesforce Marketing Cloudも活用して推薦することを計画していると鍛原氏は説明した。

 さらに将来的には、Pontaパスにエージェントなどを組み込んで、会員が自分の欲しいものにたどりつけるようなサービスも提供していきたい、と鍛原氏は語った。

Tableau Nextへの期待
Tableau Nextの想定ユースケース:Pontaパス