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「2020年に向けRHELとそれ以外を5:5の割合に」、レッドハット望月社長が事業戦略を説明

レッドハット株式会社 代表取締役社長の望月弘一氏

 レッドハット株式会社は20日、2017会計年度(2016年3月~2017年2月)の事業戦略について、報道関係およびアナリスト向けの説明会を開催した。

 2015年11月より同社 代表取締役社長を務める望月弘一氏は、「2020年に向けて事業を倍増する。2017年度はそのための基礎を築く年であり、向こう10年の基礎を築く年となる」と語った。「いまRed Hat Enterprise Linux(RHEL)のビジネスが売上の8割。これからRHELは毎年1割の伸びを目指しつつ、それ以外のビジネスをRHELを超える割合で伸ばし、2020年に向けて5:5の割合にもっていく」(望月氏)。

 RHEL以外の成長領域としては、OpenStackやRed Hat Enterprise Virtualization(RHEV)、Red Hat Storageなどの「クラウドビジネス」、Red Hat SateliteやRed Hat Insights、Ansible Towerなどの「ITマネージメントビジネス」、JBossやOpenShiftなどの「アプリケーションプラットフォームビジネス」の3つが挙げられた。

 そのうえで、2017年会計年度の最重要テーマとして「OnenStackでトップシェアを獲得する」「Ansibleビジネスの立ち上げ」「企業によるコンテナ活用を定着させる」「全てのクラウド、オンプレミスで、RHELのトップシェアを取り続ける」の4つが掲げられた。

RHELビジネスとその上の3分野のビジネス
2017年会計年度の最重要テーマ4つ

すべてのサーバー環境でRHELがシェアを狙う

 分野別の展開として、まず「RHELコアビジネス」では、オンプレミスとパブリッククラウド、プライベートクラウドのそれぞれでパートナーと協力し、「3つのすべてでRHELがシェアを取る」と望月氏は抱負を語った。

 RHEL分野の取り組みの例としては、Microsoftとの協業が紹介された。サーバーOSでは競合する両社だが、クラウドのMicrosoft AzureではCCSP(認定クラウド&サービスプロバイダープログラム)や相互サポート、ハイブリッドクラウドのシームレスな管理で協業するほか、.NET CoreのRHELでのサポートなどに取り組んでいる。「.NET Core専属サポートエンジニアも着任した」(プロダクト・ソリューション本部 ミドルウェアシニアビジネスデベロップメントマネージャー 岡下浩明氏)。

RHELコアビジネス分野の展開
RHELコアビジネスの事例:Microsoftとの協業

OpenStackが業務利用のフェーズに

 「クラウドビジネス」の分野では、パブリッククラウド、プライベートクラウド、テレコムNFVエコシステムの3つの強化が語られた。パブリッククラウドでは、すべてのパブリッククラウドでRHELが動くことを目指し、そのためにエコシステムを強化する。プライベートクラウドでは、パブリッククラウドと同じアジリティをプライベートクラウドで実現するため、OpenStackエコシステムを強化するとともに、検証環境を本社に設ける。テレコムNFVエコシステムでは、ネットワーク機器ベンダーとの協業を強化する。

 クラウドビジネス分野の事例としては、株式会社シーエー・モバイルがモバイルコンテンツ事業の本番環境にOpenStackを導入したことが紹介された。アクセス量変動に対応するためのもので、3カ月という短期間で本番稼働に至ったという。「レッドハットとしても、コンサルティングサービス部門による支援の事例となった。これを積み重ねるのが今年度のテーマ」(望月氏)。

 「OpenStackは、去年の第3四半期までは検証の案件がほとんどだったが、第4四半期になってから業務にも使おうという案件が増えた」(執行役員 サービス事業統括本部 統括本部長 水橋久人氏)。

クラウドビジネス分野の展開
クラウドビジネスの事例:シー・エー・モバイルのOpenStack導入

AnsibleやRed Hat Insightを訴求

 ITマネジメントビジネスの分野では、IT管理の自動化として構成管理ツールの「Ansible」を訴求していくことや、予見型システム診断の「Red Hat Insight」の国内販売、ハイブリッドクラウド管理の「Red Hat CloudForms」などを挙げた。

 なお、米Red HatはAnsible社を2015年10月に買収しており、ビジネスとしてはGUIベースの管理ツール「Ansible Tower」を販売している。「国内にすでにAnsibleを使っているユーザーは多くいるが、属人的。それをきちんと管理していくためには管理が重要であり、インフラの自動化の基盤を作っていく」(岡下氏)。

 ITマネジメントビジネスの例としては、Red Hat Insightが紹介された。RHELのサーバーにインストールしたエージェントが定期的にシステム構成などの情報を自動的に収集し、Red Hatのナレッジベースと照合することで、重大な脆弱性や典型的な設定ミスなどを事前に発見するという。

ITマネジメントビジネス分野の展開
ITマネジメントビジネスの例:Red Hat Insight

日立の大規模アプリケーションフレームワークがOpenShift Enterpriseに対応

 アプリケーションプラットフォームビジネスの分野では、JBossの成長を基盤に、コンテナやモバイルの市場を開拓するという。そのJBossでは、EAP(アプリケーションサーバー)のバージョンアップや、JBoss BRMS(ビジネスルール管理システム)のシェアを活かした差別化、サポート期間を最大13年に延長したこと、CCSPのクラウドパートナーでのJBoss協業などにより、「前年度比4割増を目指す」(望月氏)。

 PaaSビジネスでは、エンタープライズでのコンテナ技術を推進する。RHEL上のコンテナアプリの認証制度や、コンテナエンジニアの育成を図る。

 新規ビジネスとしては、クラウドサービスの「Red Hat Managed Service」として、PaaSサービスの「OpenShift Dedicated」(AWS東京リージョンでも提供)や、MBaaSサービスの「Red Hat Mobile」(3月から本格的に営業を展開)のプロモーションを強化する。

 ソリューションビジネスとしては、デジタルマーケティングやIoTのリアルタイムビッグデータや、料金・電力・保険・生産管理などでのBRMSソリューションを展開する。

 アプリケーションプラットフォームビジネス分野の事例としては、同じ4月20日に発表された、日立製作所が大規模アプリケーションフレームワーク「Justware」でPaaS基盤製品「OpenShift Enterprise」に対応した例が紹介された。

アプリケーションプラットフォームビジネス分野の展開
アプリケーションプラットフォームビジネス分野の事例:日立製作所が「Justware」でOpenShift Enterpriseに対応

中部営業所を開設

 こうした各分野に対する戦略として、サービスビジネス戦略、エンタープライズ戦略、パートナー戦略の3つも説明された。

 サービスビジネスでは、評価や導入、運用などのサイクルを支援する。「SIerと競合するわけではなく、支援するイネーブルメントの位置づけ」(望月氏)。また、OpenStackやOpenShiftといった新ソリューション分野のサポートを強化するともに、教育のグローバルラーニングサービスを拡大する。

 エンタープライズ戦略では、業種別アプローチや、新プロダクトを加えたトータルソリューション提案、地域カバレッジ拡大、ビジネスエンゲージメントの強化をはかる。同じ4月20日には、名古屋に中部営業所を5月2日付で開設することを発表している。「本社、西日本支社、大阪営業所、九州・四国営業所とあわせ、これで日本のGDPの8割の地域をカバーする」(望月氏)。

 パートナー戦略では、新パートナーとしてはクラウドやIoTのパートナーを拡大する。また、既存パートナーとしては、RHELだけでなく幅広いビジネス領域に拡大していく。同じ4月20日には、株式会社インテリジェントウェイブのクレジット決済システム「OnCore」で、RHELとJBoss EAPが採用されたことが発表された。「このシステムでは、以前はコミュニティベースのCentOSとGlassfishを使っていた。しかし、信頼性を求めてRHELとJBoss EAPを採用した」(望月氏)。

サービス戦略
エンタープライズ戦略。中部営業所も開設
パートナー戦略。新パートナーを拡大するとともに、既存パートナーのビジネス領域を拡大

高橋 正和