ニュース
"コアビジネス"以外の拡大を図る、レッドハット望月社長が事業戦略を説明
MSと共同展開するRed Hat on Azureパートナープログラムなども発表
2016年12月26日 06:00
レッドハット株式会社は12月22日、記者会見を開催。代表取締役社長の望月弘一氏が今年の事業の振り返りを語った。
また、クラウド関連で3件の発表がなされた。パイオニア製カーナビのクラウド型ルート探索でのOpenShift採用と、OpenShiftとOpenStackのパートナープログラムの強化、日本マイクロソフトとの統合パートナープログラムが発表された。
4月に発表した事業戦略の成果を報告
望月氏はまず、日本時間でちょうど当日に発表された米Red Hatの2017年度第3四半期(2016年9~11月期)決算について報告した。為替変動の影響を除いて前年度比17%増で、59四半期連続で成長という。アプリケーションやクラウド、ITマネジメントの分野が拡大。地域別ではアジアが25%成長してリードしており、「日本はおおむねアジアと同じ成長スピード」と望月氏は語った。
続いて望月氏は、4月に語られた事業戦略をあらためて振り返った。現在Red Hat Enterprise Linux(RHEL)事業が売上の8割だが、その対前年度比10%成長を維持しつつ、それ以外の分野を対前年度30~40%成長させ、2020年には5:5の比率にするというものだ。
また、そのとき2017年度(2016年3月~2017年2月)のテーマとして掲げられた、OpenStack、Ansible、OpenShift、RHELの4つを再掲。成長余地の大きい3分野に対して、RHELも「まだクラウドでは伸びる余地がある」と説明した。
こうした4月に語られた事業戦略に対し、望月氏は2017年度の実績を、製品・ソリューションと営業・サービス体制に分けて報告した。
製品・ソリューションはさらに5分野に分けられる。まずOpenStackでは、ビジネス規模が3倍になったという。特に通信事業やネットビジネス企業で本番採用が進み、フリービットやドワンゴ、NHNテコラスの事例が公表されている。「NFVでも、名前を出せないが、大手キャリアでもPoCを終え最終展開のフェーズにある」と望月氏は語った。
DevOps支援とコンテナーについては、「DevOpsのサポートをしてほしいという相談を受けるようになった」とのことで、それが多数のコンテナー導入実績、さらにはその中でもエンタープライズ分野での実績につながっているという。また、OpenShift Primedパートナーの2社目として同日、富士通のInterstage Application Serverが認定されたことを発表した。
認定クラウドパートナーについては、AWSや国内クラウドプロバイダーとのビジネスが前年比2倍以上に拡大したことや、マイクロソフトとの協業が活発化したことが語られた。
デジタルトランスフォーメーションについては、2016 Red Hat Innovation Award APACにも選ばれた旭鉄工株式会社の事例が紹介された。以前からある製造設備をモニタリングする仕組みをRed Hat JBoss BRMSで作り上げた事例で、さらにそのシステムを製造業向けに外販する会社まで作ったという。デジタルトランスフォーメーション分野ではほかに、システム構築自動化ツールAnsibleのセミナーが盛況だと紹介された。
最後にコアビジネスの拡大としては、RHELやJBoss Middlewareが成長しており、確実にマーケットシェアを得られていると望月氏は語った。
営業・サービス体制の実績は3分野に分けて語られた。業種ごとの営業組織の強化としては前述の旭鉄工の事例などのように「みごとに効を奏した」と望月氏は語った。中部と西日本地区の営業強化の実績としては「地域ビジネスが3~4割のスピードで伸びている」と同氏は報告した。
コンサルティングサービス支援によるOSS推進強化については、「実績が増えている」と報告。その一環として、インテルとの協業でOpenStack検証センターを開設したことが紹介された。
新年度の重点領域はデジタルトランスフォーメーション、3Scaleの日本展開も
続いて望月氏は、来年度に向けた戦略を語った。氏は2017年を「デジタルトランスフォーメーション時代の黎明期から成長期への挑戦の年」と位置づけた。そしてそのデジタルトランスフォーメーションの重要要素として、「新しいアイデアの早期実現」「継続的なサービス改善」「俊敏性に飛んだITインフラ」の3つを挙げた。
望月氏はこれと対応づけて、2018年度(2017年3月~)の重点ビジネス領域として、「次世代のIT環境の整備」「新しいアイデアの早期実現」「継続的なサービス改善」の3つを語った。
「次世代のIT環境の整備」としては、プライベートクラウド導入とハイブリッドクラウド活用を促進するという。「プライベートクラウドはまだパブリッククラウドに比べると、効率性や俊敏性が及ばばない。Ansibleなどによる自動化を進める」と望月氏は語った。
また、マネージド型プライベートクラウドの要望が増えているとして、今回の発表にもあるように、パートナーとともに具現化すると述べた。そのうえで、プライベートクラウドとパブリッククラウドのヘテロな運用環境をより効率化することも語られた。
「新しいアイデアの早期実現」としては、IoT、モバイル、APIの提案を強化するという。その1つとして、Red Hatが2016年に買収したAPI管理ソリューションの3Scaleのサービスを、来年度に向けて日本でも本格的ビジネス展開を始めることが明らかにされた。
また、モバイルのためのMBaaSや基幹システムとの接続などをサポートする「Red Hat Mobile」の活用を促進することも語られた。
「俊敏性に飛んだITインフラ」としては、DevOpsやコンテナの導入促進が語られた。「今年、DevOpsディスカバリーセッションを20回開催した。来年はより多く開催する」と望月氏は述べた。
パイオニア製カーナビのクラウド型ルート探索でOpenShift採用
発表の1つめは、パイオニア製カーナビの「スーパールート探索」の基盤としてコンテナープラットフォームのRed Hat OpenShift Container Platformが採用された事例だ。
スーパールート探索は、これまでカーナビのルート探索を、車載機からインターネット経由でクラウドサービスにアクセスして実行するものだ。サイバーナビの最新モデルを対象に、2017年1月から開始する予定。これによって、複雑な検索や、最新の情報を元にした探索が可能になるという。
パイオニアでは、車載機で動いていた探索プログラムをベースにサービス化するにあたり、開発環境から検証環境、本番環境までシームレスにデプロイするためにコンテナ技術を選択。安定運用のためのプラットフォームとしてRed Hat OpenShift Container Platformと、IBM Bluemix Infrastructure(旧:IBM SoftLayer)を採用した。
OpenShiftとOpenStackのパートナープログラム強化
2つめの発表は、OpenShiftパートナープログラムの新設と、OpenStackパートナープログラムの強化を1月から開始するというものだ。IaaSプラットフォームのRed Hat OpenStack Container Platformについて販売やISVのパートナーエコシステムを拡大するとともに、コンテナープラットフォームのRed Hat OpenShift Container Platformのパートナーを新規に募集する。
施策の背景として望月氏は、プライベートクラウドの課題として、オンプレミスやホステッドなど多様な形態が求められていることや、エンジニアのリソースなどを説明。今回のパートナーシステムの拡充により、パートナー企業によるOpenShiftやOpenShiftを使ったプライベートクラウドのマネージドサービス(Private Cloud as a Service)を加速させると語った。
パートナープログラムでは、技術情報など最新情報の提供や、トレーニング、インターンシップログラム、検証センターの活用などの支援が提供される。これにより、OpenStackやOpenShift、あるいはその両方の提案・構築・運用のできるパートナーを育てるという。
さらに、OpenStackはリファレンスアーキテクチャが手探りで作られている状況にあるとのことで、「パートナーがリファレンスアーキテクチャやベストプラクティスを作成していくのをお手伝いする」(レッドハット プロダクト・ソリューション本部 本部長 岡下浩明氏)という。
日本マイクロソフトと共同で展開するRed Hat on Azureパートナープログラム
3つめの発表は、レッドハットと日本マイクロソフトの共同によるパートナー企業向けプログラム「Red Hat on Azure Partner Network」だ。Microsoft Azureとその上でのレッドハット製品について、2社共同で統合パートナー育成プログラムを2017年1月より提供する。
パートナープログラムを通じて、両社でRed Hat on Azureパートナーを認定。企業のクラウド導入を促進するという。
パートナーシップは1年間限定で開始。今後6か月でMasterパートナーの認定やハイライト導入事例を公開していくことを目指すという。この期限について望月氏は「1年でやめるということではなく、まず1年やってみるということで、その結果を見て強化する」と説明した。
会見には日本マイクロソフト株式会社 パートナービジネス推進統括本部 統括本部長の浅野智氏も登場し、日本マイクロソフトにとっての協業の意義を語った。
浅野氏はまず、Azure上のLinuxについて「『MSではサポートできません』と言っていると利用企業のニーズに応えられない」として、パートナーにより一元的に解答できるようにすると述べた。さらに、そのサポートはローカル性が大事となることから、日本でパートナーを組んで顧客に届ける必要性を語った。