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“AWSオルタナティブ”をOpenStackで日本に根付かせる~レッドハット廣川社長

代表取締役社長 廣川裕司氏

 2015年度の目標はOpenStackをクラウドの標準に押し上げること――5月14日、レッドハットは2015年度の戦略説明会を開催、代表取締役社長 廣川裕司氏がグローバルおよび日本市場における事業戦略について説明を行った。グローバルでは2003年度から12年/48四半期連続で売上増を続けるRed Hatだが、廣川社長は「日本での伸びはワールドワイドを大きく上回っており、この勢いを今期も続けていきたい。そしてAWS(Amazon Web Services)に対向できるクラウド勢力をOpenStackを中心に日本に根づかせていきたい」と語り、No.1コントリビュータとしてOpenStackにより注力していく姿勢を見せている。

 説明会の冒頭では2014年度(2013年3月~2014年2月)におけるハイライトについての説明が行われ、売上高では前年同期比15%増、サブスクリプション売上では同16%増を達成、さらに「日本市場においてはそれ以上に伸びている」(廣川社長)としており、順調に事業を拡大していることを強調する。

 さらに2014年度においては

・オープンハイブリッドクラウドの実現 … パブリッククラウドのトップベンダによるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)の採用加速、認定パブリッククラウドパートナーの拡大、RHEL、JBoss、Red Hat Storageなどクラウド製品の強化
・ビッグデータ戦略の推進 … データ仮想化/高速化、ビジネスフロー/ビジネス・ルール、メッセージングといった活用領域の拡大
・OpenStackにおけるリーダーシップ … 2013年7月にOpenStackにコミットして以来、最大の開発コントリビュータに、パートナーエコシステムの構築

といった面で大きな成長を遂げたとしており、2015年度も引き続きこの分野にフォーカスしていくと明言している。

2014年度ハイライト

 周知の通り、Red Hatの製品はLinuxを中心とするオープンソースをベースにしており、そのカバー範囲は年々拡大している。特に2014年度はソフトウェアによってインフラをコントロールしようとする“Software-Defined”なアーキテクチャ(SDx)への注目度が高まっており、この流れもまたオープンソースが支えていると廣川社長は指摘する。「SDxやDockerのように、オープンなソフトウェアを駆使して限られたハードウェア資産を最大限に活用していくプログラマブルなITへのシフトが進んでいる。Red Hatは今後もこうした技術に関する投資や買収を積極的に行っていく」(廣川社長)。

 廣川社長は現状におけるRed Hatのテクノロジービジョンとそれに伴う成果として、

・仮想化の進化 … RHEL7におけるコンテナ技術Dockerのサポート、RHEL Atomic Hostの提供、ネットワーク仮想化(NFV/SDN)推進、ブロックストレージを実現するCephをもつInkTank買収
・世界標準IaaS … クラウドOSとしてのOpenStack展開、Nova/Cinder/Neutronでプラットフォーム構築、ハイブリッドクラウドの統合管理製品CloudForms
・オープンソースPaaS … OpenShiftで実現するDevOps、xPaaS(モバイル、IoT、BPMなど)による付加価値

を掲げ、これらのテクノロジーに注力していくことで「AWSに一極集中しているクラウドの世界、いわば“シャドーIT”を“リアルIT”に取り戻す動きを促進していきたい」と語る。

テクノロジービジョン

 では2014年度の実績を踏まえ、注力する技術が定まったところで、Red Hat、特に日本法人であるレッドハットはどのような事業方針で経営をドライブし、日本企業のITを変えていこうとしているのか。廣川社長はまず「市場の倍のスピードで成長する」というスライドを掲げ、具体的な注力分野として「データセンターの刷新」「ビッグデータの蓄積と活用」「100% Cloud Ready」の3点を挙げている。

市場の倍のスピードで成長する

 廣川社長はこれらを総称して「ITモダイナイゼーション」としており、米国から5年以上は遅れているとされる日本のデータセンターを大きく変える必要があると強調する。「日本を本当に成長させたいと思うなら、メインフレームが幅をきかせているようなデータセンターは一新しなければならない。レガシーからの脱却は急務であり、またIoTなどの普及にともなってビッグデータを蓄積/活用していくためにも、ビッグデータをひとけた安くストアできるクラウド環境の整備は欠かせない。そのために欠かせないのはRHEL7、OpenStack、Ceph、GlusterFS、MQTT、OpenShiftといったオープンソースをベースとした技術。またソフトウェアを速く開発するという文化を日本企業に広めていくためにもDevOpsのコンセプトの普及に努めたい」(廣川社長)。

 この方針にのっとり、レッドハットは国内市場での営業を

・パートナー戦略 … 認定パートナーを500社まで拡大、OpenStackパートナーなどソリューションパートナー強化、OpenStack/OpenShift/コンテナなどにおけるISVパートナーとの連携強化
・エンタープライズ戦略 … 大手顧客の全社レベルでのOSS化推進、ユーザー会拡大、政府/公共系など新インダストリ対応の営業配置
・新規製品営業と地域カバレッジ戦略 … 新規製品営業およびSAの人員50%増、近畿/中部/中国/九州など地域営業カバレッジ強化

という3つの戦略に沿って展開していくとしている。

レッドハットのミッション

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 「今期の最大の目標はOpenStackをクラウドOSとして日本に根づかせること。OpenStack最大のコントリビュータとして“OpenStack Everywhere”を浸透させたい。そしてITのためのITではなく、ビジネスのためのITをオープンソースで推進していく」と、廣川社長はこう強く語る。オープンソースベースのクラウドプラットフォームとして、そしてAWSに対抗しうる可能性をもったオルタナティブとして、OpenStackへの関心はグローバルレベルで高まっているのは確かで、採用事例も確実に増えている。数多くのオープンソースポートフォリオを抱えるRed Hatだが、現在、最も注力するのは名実ともにOpenStackであることは事実のようだ。

 IBMやDell、HPなど有力ハードウェアベンダが数多く参加するOpenStackはAWSへの対抗意識が非常に強いコミュニティでもある。一方でRed HatはAWSやRackspaceといった大手パブリッククラウドベンダに対してRHELやKVMを提供しており、「AWSとのビジネスは非常に順調」(廣川社長)というように、重要なパートナー関係にあることも確かだ。これについて廣川社長は「AWSがわれわれにとって大切なビジネスパートナーであることは変わりない。だが、クラウドの世界でこのままAWS一辺倒の状況が続いていいとは思わない。黒船(AWS)に襲撃されて、すべてが黒船の世界になってしまったのが現在の日本のクラウド。この状況は打破しなくてはならないし、市場にはオルタナティブが絶対に必要」と訴える。クラウドが世界を変えるインフラになりつつある現状だからこそ、その根幹を1社だけに依存することへの危機感の表明とも取れる。

 「OpenStackをクラウドOSに」――あえてプラットフォームではなく“クラウドOS”と表現しているところにRed HatのOpenStackへのコミットの強さがうかがい知れる。技術的に未成熟な部分が少なくなく、コントリビュートするベンダの間でも微妙な意識のずれが散見されるOpenStackだが、Red Hatは自分だけは手を引くことはないという姿勢を鮮明にしている。この強いコミットメントがどこまで成果を出すことができるのか。2015年度はある意味、同社にとって過去最大のチャレンジとも言えるかもしれない。

五味 明子